神守の少女、二度目の人生は好きに生きます〜因縁相手は勝手に自滅〜

雪水砂糖

文字の大きさ
43 / 96

42 御所

しおりを挟む
 お仕事から帰ってこられたお父様から
「明日、家族全員で御所へ行くことになった」

 事前に聞いていたとおり、皇女誘拐未遂事件の件で、関わった人々に皇太子ご夫妻直々の聞き取りが行われているそうだ。

「公式な場ではないから、緊張する必要はない。とくに瑞葉と光矢は、皇太子ご夫妻にとって恩人だ」

 翌日。朝から身支度に余念がなかった。家族みな御所へ参内さんだいするにふさわしい装いを整えられる。

 やがて御所の門前に着く。幾重にも巡らされた高い塀と、荘厳な瓦屋根が朝日に照らされ、まるで別世界のような静けさを湛えている。門を守る近衛兵が姿勢を正し、私たちの名を確かめると、低く頭を垂れた。

 香木の香り漂う長い回廊を進むと、広間に通された。

 その奥に、皇太子ご夫妻が並んで座しておられた。皇太子殿下は凛とした眼差しに威厳を宿し、妃殿下は柔らかい微笑みを浮かべられている。

「よく来てくれた。先日の件では、まず水無瀬殿夫妻に礼を申す。禍憑が現れた際、当主殿は率先して前線へ行き、数多くの禍憑を討伐し、夫人は結界を張り、混乱を抑えてくれたと聞いている。あの場に居合わせた者たちが無事に退避できたのは、そなたらのおかげだ」

 父と母は恭しく頭を下げた。
「もったいないお言葉にございます。神守として当然の務めを果たしたまで」

 殿下は深くうなずき、今度は私と光矢を見やられた。
「そして瑞葉殿、光矢殿。あらためて礼を申さねばならぬ。そなたたちの働きにより、我らが娘は救われた。あの誘拐未遂は、未然に防がれなければ、いかなる禍根を残したか計り知れぬ」

 妃殿下は私たちに向けて、より一層やわらかな微笑みを浮かべられた。
「瑞葉殿、光矢殿。あの時の勇気は決して忘れません。幼い娘も、あなた方を恩人と慕っております」

 光矢が少し照れながらも真っ直ぐに頭を下げる。
「身に余るお言葉、ありがたく存じます」

 私は緊張で声が震えぬよう、胸の前で手を重ねて言葉を選んだ。
「皇女殿下がお無事で何よりでした。わたくしどもはただ、その場に居合わせた者として、当然のことをいたしたまでです」

 ご夫妻は微笑まれ、しばしの沈黙ののち、殿下が穏やかに続けられる。
「本日は事の詳細を伺うための場である。気負わず、知っていることを話してくれればよい」

 厳粛でありながら、どこか温かさを感じるその声に、張り詰めていた空気が少し緩んだ。

 家族で事前に打ち合わせしていた通りのことをお話しした。決して嘘はついていないが、すべてを話すわけではない。

 あの日、みんなが禍憑の対応をする中、ふと皇女殿下が避難されている様子が目に止まり、胸騒ぎがしたこと。もしかしたら、護衛の者に違和感を覚えたからかもしれないが、はっきりとは覚えていないこと。
 こっそり後をつけると、護衛がいきなり別の護衛を斬りつけたこと。
 皇女殿下を抱き上げていた侍女が驚くことなく、他の護衛と共に立ち去ろうとしたため、侍女も仲間と判断し、皇女殿下と侍女を引き離すよう結界を展開したこと。
 弟から渡されていた神具で場所を知らせ、叔父と弟が駆けつけるのを、ひたすら結界の中で耐えていたこと。
 そして弟と叔父、さらには清瀧家の碧人様が駆けつけてくださったこと。

「うむ。その辺りからは碧人から聞いたな」

「その位置を知らせる神具というのは、どういうものですか?」
 と、妃殿下が尋ねられた。

「はい。こちらなのですが、これは叔父と弟が共同で開発している、まだ世には出ていない試作品です。こちらの突起を強く押し込むと、受け手に通知が行き、位置を知らせられるようになっております」

「まあ。光矢殿はまだ六歳なのに、凄いのね。殿下、こちらわたくしたちにも必要ではないかしら」

「そうだな。水無瀬殿、これは発売したら天璽家にも売ってほしい」

「もちろん、献上いたします」

「よろしく頼むよ」

「今回の件は、やはり全人教の仕業ですか?」

「まだ確実とはいえないが、十中八九そうだろうな。そなたの弟君が開発した高精度の結界を作る神具を四つ配置していたのだが、全て壊されていた。この度の出席者の中に紛れ込んでいたのだろう」

「なかなか尻尾を見せませんね」

「あぁ、やつらは実行犯である下っ端を使い捨てるから、情報が何も引き出せないんだ」

 そこへ侍従が殿下の傍らに寄り、耳打ちをした。
 殿下は苦渋の面持ちを和らげ、ふっと微笑まれる。

「間に合ったか。水無瀬家の皆、皇女が直に礼を申し上げたいと言っておる。この場に呼んでもいいだろうか」

 父は恭しく頭を下げて答えた。
「ありがたき幸せにございます」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

復讐は、冷やして食すのが一番美味い

Yuito_Maru
ファンタジー
3度目の人生を生きるピオニー・レノドン。 1度目の人生は、愛した幼馴染と家族に裏切られ、無垢で無力のまま命を落とした。 2度目は、剣を磨き、王太子の婚約者となるも、1度目より惨めに死んでいった。 3度目は、微笑の裏で傭兵団を率い、冷たく復讐の刃を研ぐ。 狙うは、レノドン伯爵家、そして王家や腐った貴族たち。 「復讐とは、怒りを凍らせて成就する歪んだ喜びだ」――ピオニーは今、その意味を体現する。 ----- 外部サイトでも掲載を行っております

私の風呂敷は青いあいつのよりもちょっとだけいい

しろこねこ
ファンタジー
前世を思い出した15歳のリリィが風呂敷を発見する。その風呂敷は前世の記憶にある青いロボットのもつホニャララ風呂敷のようで、それよりもちょっとだけ高性能なやつだった。風呂敷を手にしたリリィが自由を手にする。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
商人であった父が、お金で貴族の身分を手に入れた。私というコマを、貴族と結婚させることによって。 でもそれは酷い結婚生活の始まりでしかなかった。悪態をつく姑。私を妻と扱わない夫。夫には離れに囲った愛人がおり、その愛人を溺愛していたため、私たちは白い結婚だった。 結婚して三年。私は流行り病である『バラ病』にかかってしまう。治療費は金貨たった一枚。しかし夫も父も私のためにお金を出すことはなかった。その価値すら、もう私にはないというように。分かっていたはずの現実が、雨と共に冷たく突き刺さる。すべてを悲観した私は橋から身を投げたが、気づくと結婚する前に戻っていた。 健康な体。そして同じ病で死んでしまった仲間もいる。一度死んだ私は、すべてを彼らから取り戻すために動き出すことを決めた。もう二度と、私の人生を他の人間になど奪われないために。 父の元を離れ計画を実行するために再び仮初の結婚を行うと、なぜか彼の愛人に接近されたり、前の人生で関わってこなかった人たちが私の周りに集まり出す。 白い結婚も毒でしかない父も、全て切り捨てた先にあるものは――

ここは少女マンガの世界みたいだけど、そんなこと知ったこっちゃない

ゆーぞー
ファンタジー
気がつけば昔読んだ少女マンガの世界だった。マンガの通りなら決して幸せにはなれない。そんなわけにはいかない。自分が幸せになるためにやれることをやっていこう。

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

断罪後のモブ令息、誰にも気づかれずに出奔する

まる
ファンタジー
断罪後のモブ令息が誰にも気づかれないよう出奔して幸せを探す話

【第2部開始】ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

月森かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

処理中です...