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43 皇女殿下
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扉が開き、皇女殿下が侍女に手を引かれて入室された。
小さな足でよちよちと歩きながら、広間を見渡すと、少し緊張したように立ち止まる。
「みなせけのみなさま、ごきげんよう。あの……たすけてくれて、ありがとう」
ぺこりと頭を下げる姿に、広間が自然と和らいだ。
妃殿下が微笑み、優しく補う。
「この子なりに、水無瀬家の皆さまに感謝を申し上げたかったようです」
皇女殿下は小さな手を胸の前で組み、少し顔を赤らめながら続ける。
「わたし……さいしょは、すごくこわかったの。でも、みずはおねえさまがきてくれてからは、ぜんぜんこわくなかったわ。こうやさまも、たすけにきてくれて……ありがとう。……もうひとりいたおじさまにも、またあえたらおれいをいうの」
瑞葉や光矢が優しく微笑みかけると、皇女殿下はほっとした表情を浮かべた。
広間には温かい笑いが広がり、自然と談笑が始まる。
やがて侍従が控えめに声をかける。
「そろそろ、次のお務めのお時間にございます」
「それでは、我々はこのあたりで」
皇太子殿下が名残惜しげに笑う。
「今日は呼び立ててすまなかったな。だが、おかげで楽しいひとときを過ごせた」
そのとき、皇女殿下が大きな瞳で瑞葉と光矢を見上げた。
「あの……みずはおねえさま、こうやさま、またきてくれる?」
瑞葉は柔らかく微笑み、光矢も姿勢を正して答える。
「お呼びいただければ、喜んで」
「やくそくね。ぜったいよ」
「紗那、水無瀬姉弟をそんなに気に入ったのか?珍しいな」
殿下が目を細めると、妃殿下もうなずかれる。
「ほんとうに。ここまで心を許すのは、家族以外では初めてですもの」
皇太子殿下が笑ってからかう。
「まさか光矢殿に惚れたのか?」
皇女殿下は顔を真っ赤にし、慌てて言う。
「で、でもね!みずはおねえさまもだいすきなのよ!」
殿下は一瞬、この世の終わりのような顔をした。
妃殿下が楽しげに口を挟む。
「あら、紗那。少し前までは碧人殿がかっこいいって言っていたじゃない?」
「アオもかっこいいのよ。でもね……アオよりおとうさまのほうが、かっこいいの」
それを聞いた殿下の顔がぱっと明るくなり、得意げに胸を張る。
ところが――
「でも、こうやさまは……おとうさまより、もっとかっこいいわ」
「な、なにぃっ!」
殿下はがっくりと肩を落とし、広間は笑いに包まれた。
妃殿下は楽しそうに肩を揺らしながら、水無瀬家へ視線を向けられる。
「ふふ、光矢殿、重く受け止めないでね。幼子の言う事だと思って気楽に聞いてね」
「はい。それでも、とても光栄にございます。これからも精進いたします」
と光矢は浮かれた様子も照れた様子もなく、臣下の見本のように頭を下げた。
「光矢殿は本当に六歳なのか?まるで、落ち着いた三十路過ぎの男のようだ」
皇太子殿下は力なくボソボソと言った。
「……この子がこんなに心を許すなんて、本当に珍しいのです。もしよければ、また顔を見せていただけませんか?」
父は恭しく頭を下げて答える。
「喜んでお伺いいたします」
そのとき、侍従が魂の抜けたような皇太子殿下を気遣うように促し、殿下は次の公務へと向かわれた。
妃殿下は皇女殿下と手を取り合い、やわらかな笑みを残して退出される。
私たちも侍従に案内され、御所を後にした。
小さな足でよちよちと歩きながら、広間を見渡すと、少し緊張したように立ち止まる。
「みなせけのみなさま、ごきげんよう。あの……たすけてくれて、ありがとう」
ぺこりと頭を下げる姿に、広間が自然と和らいだ。
妃殿下が微笑み、優しく補う。
「この子なりに、水無瀬家の皆さまに感謝を申し上げたかったようです」
皇女殿下は小さな手を胸の前で組み、少し顔を赤らめながら続ける。
「わたし……さいしょは、すごくこわかったの。でも、みずはおねえさまがきてくれてからは、ぜんぜんこわくなかったわ。こうやさまも、たすけにきてくれて……ありがとう。……もうひとりいたおじさまにも、またあえたらおれいをいうの」
瑞葉や光矢が優しく微笑みかけると、皇女殿下はほっとした表情を浮かべた。
広間には温かい笑いが広がり、自然と談笑が始まる。
やがて侍従が控えめに声をかける。
「そろそろ、次のお務めのお時間にございます」
「それでは、我々はこのあたりで」
皇太子殿下が名残惜しげに笑う。
「今日は呼び立ててすまなかったな。だが、おかげで楽しいひとときを過ごせた」
そのとき、皇女殿下が大きな瞳で瑞葉と光矢を見上げた。
「あの……みずはおねえさま、こうやさま、またきてくれる?」
瑞葉は柔らかく微笑み、光矢も姿勢を正して答える。
「お呼びいただければ、喜んで」
「やくそくね。ぜったいよ」
「紗那、水無瀬姉弟をそんなに気に入ったのか?珍しいな」
殿下が目を細めると、妃殿下もうなずかれる。
「ほんとうに。ここまで心を許すのは、家族以外では初めてですもの」
皇太子殿下が笑ってからかう。
「まさか光矢殿に惚れたのか?」
皇女殿下は顔を真っ赤にし、慌てて言う。
「で、でもね!みずはおねえさまもだいすきなのよ!」
殿下は一瞬、この世の終わりのような顔をした。
妃殿下が楽しげに口を挟む。
「あら、紗那。少し前までは碧人殿がかっこいいって言っていたじゃない?」
「アオもかっこいいのよ。でもね……アオよりおとうさまのほうが、かっこいいの」
それを聞いた殿下の顔がぱっと明るくなり、得意げに胸を張る。
ところが――
「でも、こうやさまは……おとうさまより、もっとかっこいいわ」
「な、なにぃっ!」
殿下はがっくりと肩を落とし、広間は笑いに包まれた。
妃殿下は楽しそうに肩を揺らしながら、水無瀬家へ視線を向けられる。
「ふふ、光矢殿、重く受け止めないでね。幼子の言う事だと思って気楽に聞いてね」
「はい。それでも、とても光栄にございます。これからも精進いたします」
と光矢は浮かれた様子も照れた様子もなく、臣下の見本のように頭を下げた。
「光矢殿は本当に六歳なのか?まるで、落ち着いた三十路過ぎの男のようだ」
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「……この子がこんなに心を許すなんて、本当に珍しいのです。もしよければ、また顔を見せていただけませんか?」
父は恭しく頭を下げて答える。
「喜んでお伺いいたします」
そのとき、侍従が魂の抜けたような皇太子殿下を気遣うように促し、殿下は次の公務へと向かわれた。
妃殿下は皇女殿下と手を取り合い、やわらかな笑みを残して退出される。
私たちも侍従に案内され、御所を後にした。
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