45 / 96
44 神官様の言葉
しおりを挟む
久しぶりの神殿だ。今日は佳乃も一緒に行動する。
いつものように掃除を終えたころ、神官様が声をかけてくださった。
「神官様、先日はありがとうございました」
「いえ、こちらこそ感謝しております。そこで、その功績を評価に加え、階級を引き上げることになりましたよ」
「えっ?私は銅級で、この先は禍憑を倒さないと上がらないはずでは?」
「この前の岩毛熊の討伐を、審査に加えさせていただきました」
「……私は結界で守っていただけです」
「瑞葉殿。討伐隊は攻撃役だけで構成されるものではありませんよ」
「えっ!?」
「大規模な討伐隊になれば、攻撃役、盾役、後衛、結界師、治癒師、荷物持ち――ざっと挙げてもこれだけいます。そして、あなたの結界と治癒の実力は素晴らしい。正直、実力が知られれば、こぞって誘いが来るでしょう」
私は何とも言えぬ気持ちになりながら、曖昧に微笑んだ。
「瑞葉様は、ご自分の凄さを分かっていらっしゃらないのです。ですが他の討伐隊に入るつもりはありません。奥様と私たちで組みますから」
「討伐隊のことはそれでよいでしょう。ですが、これだけは覚えておいてください。禍憑を攻撃して倒さなくとも、補助を務めることは立派な役割です。神殿では、その役割に対してもきちんと査定を行います。例えば荷物持ちの者が、危険の中で必死に重い荷を担いで同行しても、階級が上がる資格はないとお考えですか?」
「いいえ、そんなこと……! わかりました。自分を卑下することは、他の方を貶める可能性があるということですね」
「その通りです。そして、助けられた私たちがどれほど感謝を伝えても『大したことはない』と受け取ってもらえなければ、深く悲しいことでもあります」
「!!!」
心臓を強く掴まれたように、胸が痛んだ。
私は、ほんとうに駄目な人間だ。
神官様の言葉で、またしても気づかされる。
――私は、攻撃ができない。
――私は、結界で守るしかない。
――私は、治癒しかできない。
私はこれしかできない。そう決めつけて、ずっと私ばかりを見ていた。
けれど――。
私の結界で守られたことで、助かったと泣いてくれた方がいた。
治癒を施されたことで、もう一度立ち上がれると笑ってくれた方がいた。
それなのに私は、その気持ちを真正面から受け止めず、
「大したことではない」と打ち消してきた。
それは、自分を卑下することではなく――
感謝を伝えてくれる人の心を、踏みにじることだったのだ。
私は……いつまで「悲劇の主人公」でいるつもりだったのだろう。
できないことを数えては俯き、できることの価値を見ようとしなかった。
そんな自分に――もう、終止符を打たなければ。
バシンッ!!
気づけば、両手で自分の頬を叩いていた。
「瑞葉殿!!!」
「瑞葉様!!!」
神官様と佳乃が心配そうに見つめている。
私はにっこり微笑んで言った。
「お見苦しいものをお見せしました。これはけじめです。今日のお話を機に――私は変わろうと思います」
「瑞葉様。あなたはまだ八歳なのです。そんな急に何もかもできなくてもいいのですよ」
佳乃が涙目でぎゅっと抱きしめてくれた。
神官様は朗らかに笑う。
「ははは!さすが透子様の娘さんだ。勇ましい。そしてあなたは優しい人だ、人の痛みが分かる人だ。それは本当に素晴らしい性質です。……いろいろ言いましたが、無理はせず、あなたの思うように進みなさい。きっと神のご加護がありますよ」
「神官様、ありがとうございます」
私は深く頭を下げて礼を述べ、別れを告げた。
「さあ、佳乃。孤児院に行きましょう」
「はい……瑞葉様!」
私は前を見据え、歩みを進めた。
これからは、支えてくれる人と共に、胸を張って歩いていこう。
いつものように掃除を終えたころ、神官様が声をかけてくださった。
「神官様、先日はありがとうございました」
「いえ、こちらこそ感謝しております。そこで、その功績を評価に加え、階級を引き上げることになりましたよ」
「えっ?私は銅級で、この先は禍憑を倒さないと上がらないはずでは?」
「この前の岩毛熊の討伐を、審査に加えさせていただきました」
「……私は結界で守っていただけです」
「瑞葉殿。討伐隊は攻撃役だけで構成されるものではありませんよ」
「えっ!?」
「大規模な討伐隊になれば、攻撃役、盾役、後衛、結界師、治癒師、荷物持ち――ざっと挙げてもこれだけいます。そして、あなたの結界と治癒の実力は素晴らしい。正直、実力が知られれば、こぞって誘いが来るでしょう」
私は何とも言えぬ気持ちになりながら、曖昧に微笑んだ。
「瑞葉様は、ご自分の凄さを分かっていらっしゃらないのです。ですが他の討伐隊に入るつもりはありません。奥様と私たちで組みますから」
「討伐隊のことはそれでよいでしょう。ですが、これだけは覚えておいてください。禍憑を攻撃して倒さなくとも、補助を務めることは立派な役割です。神殿では、その役割に対してもきちんと査定を行います。例えば荷物持ちの者が、危険の中で必死に重い荷を担いで同行しても、階級が上がる資格はないとお考えですか?」
「いいえ、そんなこと……! わかりました。自分を卑下することは、他の方を貶める可能性があるということですね」
「その通りです。そして、助けられた私たちがどれほど感謝を伝えても『大したことはない』と受け取ってもらえなければ、深く悲しいことでもあります」
「!!!」
心臓を強く掴まれたように、胸が痛んだ。
私は、ほんとうに駄目な人間だ。
神官様の言葉で、またしても気づかされる。
――私は、攻撃ができない。
――私は、結界で守るしかない。
――私は、治癒しかできない。
私はこれしかできない。そう決めつけて、ずっと私ばかりを見ていた。
けれど――。
私の結界で守られたことで、助かったと泣いてくれた方がいた。
治癒を施されたことで、もう一度立ち上がれると笑ってくれた方がいた。
それなのに私は、その気持ちを真正面から受け止めず、
「大したことではない」と打ち消してきた。
それは、自分を卑下することではなく――
感謝を伝えてくれる人の心を、踏みにじることだったのだ。
私は……いつまで「悲劇の主人公」でいるつもりだったのだろう。
できないことを数えては俯き、できることの価値を見ようとしなかった。
そんな自分に――もう、終止符を打たなければ。
バシンッ!!
気づけば、両手で自分の頬を叩いていた。
「瑞葉殿!!!」
「瑞葉様!!!」
神官様と佳乃が心配そうに見つめている。
私はにっこり微笑んで言った。
「お見苦しいものをお見せしました。これはけじめです。今日のお話を機に――私は変わろうと思います」
「瑞葉様。あなたはまだ八歳なのです。そんな急に何もかもできなくてもいいのですよ」
佳乃が涙目でぎゅっと抱きしめてくれた。
神官様は朗らかに笑う。
「ははは!さすが透子様の娘さんだ。勇ましい。そしてあなたは優しい人だ、人の痛みが分かる人だ。それは本当に素晴らしい性質です。……いろいろ言いましたが、無理はせず、あなたの思うように進みなさい。きっと神のご加護がありますよ」
「神官様、ありがとうございます」
私は深く頭を下げて礼を述べ、別れを告げた。
「さあ、佳乃。孤児院に行きましょう」
「はい……瑞葉様!」
私は前を見据え、歩みを進めた。
これからは、支えてくれる人と共に、胸を張って歩いていこう。
0
あなたにおすすめの小説
復讐は、冷やして食すのが一番美味い
Yuito_Maru
ファンタジー
3度目の人生を生きるピオニー・レノドン。
1度目の人生は、愛した幼馴染と家族に裏切られ、無垢で無力のまま命を落とした。
2度目は、剣を磨き、王太子の婚約者となるも、1度目より惨めに死んでいった。
3度目は、微笑の裏で傭兵団を率い、冷たく復讐の刃を研ぐ。
狙うは、レノドン伯爵家、そして王家や腐った貴族たち。
「復讐とは、怒りを凍らせて成就する歪んだ喜びだ」――ピオニーは今、その意味を体現する。
-----
外部サイトでも掲載を行っております
私の風呂敷は青いあいつのよりもちょっとだけいい
しろこねこ
ファンタジー
前世を思い出した15歳のリリィが風呂敷を発見する。その風呂敷は前世の記憶にある青いロボットのもつホニャララ風呂敷のようで、それよりもちょっとだけ高性能なやつだった。風呂敷を手にしたリリィが自由を手にする。
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
無能だと捨てられた第七王女、前世の『カウンセラー』知識で人の心を読み解き、言葉だけで最強の騎士団を作り上げる
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
エルミート王国の第七王女リリアーナは、王族でありながら魔力を持たない『無能』として生まれ、北の塔に長年幽閉されていた。
ある日、高熱で生死の境をさまよった彼女は、前世で臨床心理士(カウンセラー)だった記憶を取り戻す。
時を同じくして、リリアーナは厄介払いのように、魔物の跋扈する極寒の地を治める『氷の辺境伯』アシュトン・グレイウォールに嫁がされることが決定する。
死地へ送られるも同然の状況だったが、リリアーナは絶望しなかった。
彼女には、前世で培った心理学の知識と言葉の力があったからだ。
心を閉ざした辺境伯、戦争のトラウマに苦しむ騎士たち、貧困にあえぐ領民。
リリアーナは彼らの声に耳を傾け、その知識を駆使して一人ひとりの心を丁寧に癒していく。
やがて彼女の言葉は、ならず者集団と揶揄された騎士団を鉄の結束を誇る最強の部隊へと変え、痩せた辺境の地を着実に豊かな場所へと改革していくのだった。
ここは少女マンガの世界みたいだけど、そんなこと知ったこっちゃない
ゆーぞー
ファンタジー
気がつけば昔読んだ少女マンガの世界だった。マンガの通りなら決して幸せにはなれない。そんなわけにはいかない。自分が幸せになるためにやれることをやっていこう。
【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません
ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。
文化が違う? 慣れてます。
命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。
NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。
いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。
スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。
今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。
「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」
ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。
そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。
【第2部開始】ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜
月森かれん
ファンタジー
中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。
戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。
暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。
疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。
なんと、ぬいぐるみが喋っていた。
しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。
天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。
※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる