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49 執務室では
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碧人が出ていった後、執務室では夫妻が機嫌よく語らっていた。
「ああ、これは気分がいいな」
「今日は秘蔵のワインでも開けましょうか」
「いいな。そうしよう」
「碧人が学院に入る前に、大事な存在ができて本当によかったわ」
「そうだな。学院に入れば、どうしても御三家の跡取りという立場でしか見られない。もちろん親の贔屓目を除いても碧人は優秀だが、その地位目当てに、男女問わず人は群がってくるものだ。その中から伴侶を選ぶのは酷なことだろう」
「そのために、今は身分や容姿を隠して、いろいろな人と関わらせているのですものね」
「そういえば、瑞葉殿には”裕福な商家のご子息”だと思われていたんだったな」
「ふふっ。しかもあの野暮ったい見た目で。瑞葉さんは、地位も見た目も関係なく仲良くしてくれていたのよ」
「……ほんとうに、得難い人に出会ったな」
「あなたも学院に入った時は、見事に群がられていたわね」
「ああ。だが君という存在に出会えたことは、本当に幸運だった」
「私はね、あのご令嬢方の競争には巻き込まれたくなかったの。だから最初は近づきたくなかったくらいよ」
「そうだな。面倒に巻き込むとわかっていても、君以外は考えられなかった。それに──君は腹をくくったら、見事に蹴散らしていたじゃないか」
「それは分をわきまえない方々は簡単だったけれど……あなたを慕っていたご令嬢の中には、私の家の格よりも上の方もいたのよ。その方とは穏便に収めたくて、透子様に相談したの。そうしたら、その方にぴったりな方を紹介してくださって……今ではおしどり夫婦でしょう?」
「ああ、そうだったな。辺境の岩城家の御子息だったか」
「ええ。もう、好みど真ん中だったらしいわ。それに、あなたが素敵だったのは間違いないけれど、やはり“親から言われて”という事情もあったみたいなの」
「なるほどな。男女問わず、上位の神守と近づくよう親から発破をかけられている者も多いのだろう」
「碧人は入学前に婚約が決まるといいわね」
夫妻は顔を見合わせ、自然と笑みをこぼした。
「碧人にはああ言ったが……少し手を貸してやろう」
「まあ、あなた。何をするつもりなの?」
「水無瀬家に、『碧人が瑞葉殿にきちんと思いを伝えるまで、もし他家からの申し込みがあっても婚約を結ぶのは待っていただきたい』と伝える」
「そうね……。あの家が断れない相手なんていないでしょうけれど、世の中、何があるかわからないものね」
窓の外には夕暮れが差し込み、執務室を柔らかく照らしていた。
夫妻は、その光の中で、息子の未来を静かに思いやりながら、さっそく水無瀬家へ送る手紙の作成に取りかかった。
「ああ、これは気分がいいな」
「今日は秘蔵のワインでも開けましょうか」
「いいな。そうしよう」
「碧人が学院に入る前に、大事な存在ができて本当によかったわ」
「そうだな。学院に入れば、どうしても御三家の跡取りという立場でしか見られない。もちろん親の贔屓目を除いても碧人は優秀だが、その地位目当てに、男女問わず人は群がってくるものだ。その中から伴侶を選ぶのは酷なことだろう」
「そのために、今は身分や容姿を隠して、いろいろな人と関わらせているのですものね」
「そういえば、瑞葉殿には”裕福な商家のご子息”だと思われていたんだったな」
「ふふっ。しかもあの野暮ったい見た目で。瑞葉さんは、地位も見た目も関係なく仲良くしてくれていたのよ」
「……ほんとうに、得難い人に出会ったな」
「あなたも学院に入った時は、見事に群がられていたわね」
「ああ。だが君という存在に出会えたことは、本当に幸運だった」
「私はね、あのご令嬢方の競争には巻き込まれたくなかったの。だから最初は近づきたくなかったくらいよ」
「そうだな。面倒に巻き込むとわかっていても、君以外は考えられなかった。それに──君は腹をくくったら、見事に蹴散らしていたじゃないか」
「それは分をわきまえない方々は簡単だったけれど……あなたを慕っていたご令嬢の中には、私の家の格よりも上の方もいたのよ。その方とは穏便に収めたくて、透子様に相談したの。そうしたら、その方にぴったりな方を紹介してくださって……今ではおしどり夫婦でしょう?」
「ああ、そうだったな。辺境の岩城家の御子息だったか」
「ええ。もう、好みど真ん中だったらしいわ。それに、あなたが素敵だったのは間違いないけれど、やはり“親から言われて”という事情もあったみたいなの」
「なるほどな。男女問わず、上位の神守と近づくよう親から発破をかけられている者も多いのだろう」
「碧人は入学前に婚約が決まるといいわね」
夫妻は顔を見合わせ、自然と笑みをこぼした。
「碧人にはああ言ったが……少し手を貸してやろう」
「まあ、あなた。何をするつもりなの?」
「水無瀬家に、『碧人が瑞葉殿にきちんと思いを伝えるまで、もし他家からの申し込みがあっても婚約を結ぶのは待っていただきたい』と伝える」
「そうね……。あの家が断れない相手なんていないでしょうけれど、世の中、何があるかわからないものね」
窓の外には夕暮れが差し込み、執務室を柔らかく照らしていた。
夫妻は、その光の中で、息子の未来を静かに思いやりながら、さっそく水無瀬家へ送る手紙の作成に取りかかった。
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