神守の少女、二度目の人生は好きに生きます〜因縁相手は勝手に自滅〜

雪水砂糖

文字の大きさ
53 / 96

52 私の主人(佳乃視点)

しおりを挟む
 私が瑞葉様にお仕えし始めたのは、瑞葉様がまだ三歳で、私が中等部に入学した年のことだ。
 ただし、その頃は学業を最優先とする「お試し期間」のようなもので、本格的に侍女として仕えるようになったのは、高等部を卒業してからである。

 瑞葉様は、私が仕え始めた頃からすでに頑張っておられた。ご両親から十分な愛情を感じられず、「もっと頑張ればきっと見てもらえるはず」と信じて。
 その姿を、私はずっと間近で見守ってきたのだ。
 その一方で、二歳下の弟君・光矢様をとても可愛がっておられた。まるで、自分がご両親にしてもらいたかったことを光矢様に注いでいるように見えた。

 私は、透子様から瑞葉様の好きな色や好みをよく尋ねられ、集まりで着る衣装や装飾品を選ぶ姿を知っていたから、やきもきしていた。
 透子様は確かにお子さまたちを愛していらっしゃる。けれど、最上位の神守出身であるがゆえに、自分が親から愛情を受けて育たなかったため、どう子に接していいかわからないのだと。
 なんとももどかしかった。私が慰めの言葉をかけても、きっと本当の救いにはならないだろうから。

 だが、八歳になった瑞葉様ご自身が動いて、状況は一変した。
 なんと、蒼一様と透子様の誤解を、ご自分の力で解いてしまわれたのだ。
 その日から、ご両親は反省し、こどもたちへの愛情を隠さずに注がれるようになった。

 そして瑞葉様は透子様に願い出て、戦闘訓練を受け始められた。
 結界術や治癒術は天賦の才を開花させ、驚くほど優秀であったのに、禍憑への攻撃だけはどうしてもできなかった。
 ご両親との溝から生じた自己肯定感の低さもあって、どれほど結界が優れていても、どれほど見事な治癒術をお持ちでも、瑞葉様は「討伐ができない」という一点をずっと気にされていた。
 けれど、ご両親との仲が和らぎ、さらに神父様からのありがたい御言葉に励まされたことで、御自身のできることを力いっぱい頑張ろうと前向きになられた――そのとき、私はようやく胸をなで下ろしたのだった。

 そんな折、以前から親しくしていた“アオくん”こと清瀧碧人様が、一緒に討伐に行かないかと仰った。
 瑞葉様は前向きにそのお誘いを受け、二人で出かけられた。本来なら侍女として、いかなるときもお傍に仕えるべきなのだろう。だが碧人様ならば信頼できるし、実力も十分。無謀に深手を負わせるような真似をする方ではない。
 私は位置を把握できる神具を持っているので、何かあれば押すようにとお伝えして、お見送りした。

 すると、残った碧人様の従者に「ついていかなくていいの?」と声をかけられた。
「誰も“ついていかない”とは言っていません。少し離れたところから見守ります」
 そう答える。ここで待っている、などとは一言も言っていないのだから。

「まあ、そうだよね。俺もだよ」
 と彼も笑い、二人でこっそり尾行することにした。あの清瀧家のことだ。きっとこの従者だけでなく、他にも見守っている影は潜んでいるだろう。

 しばらく様子を窺っていると、瑞葉様は碧人様に、薄いが濃密な結界を纏わせた。あれなら邪魔にはならず、しかし十分に安全を守れる。下手な者がやれば攻撃の妨げにしかならないのに。
 そして、碧人様が穢牙兎を難なく片づけたかと思うと、今度は猪八怪の群れが現れた。碧人様は素早く立ち回り討ち取っていくが、その数は多い。

 そのとき、瑞葉様は悔しそうな表情で言葉を発し、攻撃を試みられた。けれど、できない。
 代わりに――なんと、結界の中へ素早い猪八怪を閉じ込めてしまわれたのだ。なんという精密な技術だろう。
 おそらく、せめて足止めにと考えられたのだろう。だが結界に囚われた猪八怪は次第に弱り、やがて黒い煙となって消滅した。

 私は、本当に嬉しかった。ずっと間近で苦悩する姿を見てきたからだ。

 二人はその光景に呆然とされていたが、やがて瑞葉様は碧人様に向かって満面の笑みを浮かべ、言葉をかけられた。
 その笑顔を見たら……碧人様はさすがに、ご自分の想いをはっきりと自覚されたに違いない。

 隣で碧人様の従者が、
「うわぁ。完全に落ちたな」
 と、家臣らしからぬ言葉でつぶやいた。

 碧人様は、岩毛熊との戦いや皇女様誘拐未遂の折にも、ご自分の危険を顧みず、真っ先に瑞葉様のもとへ駆けつけ戦ってくださった。
 きっとご本人は自覚されていないだけで、瑞葉様のことをすでに深く想っておられたのだろう。
 三歳のころから瑞葉様をお見守りしてきた私にとっても、碧人様ほど相応しいお相手はほかにいない。

 先ほどから、この従者は頻繁に話しかけてきて、正直鬱陶しくもある。だが、これから長い付き合いになるかもしれない。ならば、程よく応じておこう。

 どうかこれからも、瑞葉様が幸せに日々を過ごされますように――私は、願わくば生涯にわたり、そのお傍でお支えしていきたい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

復讐は、冷やして食すのが一番美味い

Yuito_Maru
ファンタジー
3度目の人生を生きるピオニー・レノドン。 1度目の人生は、愛した幼馴染と家族に裏切られ、無垢で無力のまま命を落とした。 2度目は、剣を磨き、王太子の婚約者となるも、1度目より惨めに死んでいった。 3度目は、微笑の裏で傭兵団を率い、冷たく復讐の刃を研ぐ。 狙うは、レノドン伯爵家、そして王家や腐った貴族たち。 「復讐とは、怒りを凍らせて成就する歪んだ喜びだ」――ピオニーは今、その意味を体現する。 ----- 外部サイトでも掲載を行っております

私と母のサバイバル

だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。 しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。 希望を諦めず森を進もう。 そう決意するシェリーに異変が起きた。 「私、別世界の前世があるみたい」 前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?

無能だと捨てられた第七王女、前世の『カウンセラー』知識で人の心を読み解き、言葉だけで最強の騎士団を作り上げる

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
エルミート王国の第七王女リリアーナは、王族でありながら魔力を持たない『無能』として生まれ、北の塔に長年幽閉されていた。 ある日、高熱で生死の境をさまよった彼女は、前世で臨床心理士(カウンセラー)だった記憶を取り戻す。 時を同じくして、リリアーナは厄介払いのように、魔物の跋扈する極寒の地を治める『氷の辺境伯』アシュトン・グレイウォールに嫁がされることが決定する。 死地へ送られるも同然の状況だったが、リリアーナは絶望しなかった。 彼女には、前世で培った心理学の知識と言葉の力があったからだ。 心を閉ざした辺境伯、戦争のトラウマに苦しむ騎士たち、貧困にあえぐ領民。 リリアーナは彼らの声に耳を傾け、その知識を駆使して一人ひとりの心を丁寧に癒していく。 やがて彼女の言葉は、ならず者集団と揶揄された騎士団を鉄の結束を誇る最強の部隊へと変え、痩せた辺境の地を着実に豊かな場所へと改革していくのだった。

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

私の風呂敷は青いあいつのよりもちょっとだけいい

しろこねこ
ファンタジー
前世を思い出した15歳のリリィが風呂敷を発見する。その風呂敷は前世の記憶にある青いロボットのもつホニャララ風呂敷のようで、それよりもちょっとだけ高性能なやつだった。風呂敷を手にしたリリィが自由を手にする。

異世界召喚のおばあちゃん

あまつ冴
ファンタジー
異世界から召喚された中におばあちゃんがいた

追放された聖女は旅をする

織人文
ファンタジー
聖女によって国の豊かさが守られる西方世界。 その中の一国、エーリカの聖女が「役立たず」として追放された。 国を出た聖女は、出身地である東方世界の国イーリスに向けて旅を始める――。

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

yukataka
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

処理中です...