神守の少女、二度目の人生は好きに生きます〜因縁相手は勝手に自滅〜

雪水砂糖

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51 迷惑な分家

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 神殿に行き、掃除をしようとすると、神官様に「掃除はもう結構ですよ」と声をかけられた。討伐に加わるようになったのだから、鉄級の人のために掃除の依頼は残しておいてほしい、とのことだった。なるほど、それならこれからは討伐を主に頑張ろう。孤児院への訪問は好きでしていることなので、それは今後もちょくちょく続けよう。

 今日は言いつけ通り、佳乃と一緒に来た。光矢は叔父様の家へ行き、私のことを早速伝えるという。

 まだ到着していない碧人を待ちながら、神殿の掲示板に並ぶ依頼書を眺めていた。
 そのときだった。

「おい!」

 乱暴な声が背後から飛んできた。

 振り向いた先に立っていたのは、十二歳くらいの少年。
 彼の視線は瑞葉に注がれていた。質素な服に魅力を抑える眼鏡をかけていても、隠しきれない可憐さに、あからさまに目を輝かせる。

「お前、なかなかいいな。俺の討伐に、同行させてやってもいいぞ」

 驚きつつも、丁寧に頭を下げた。
「申し訳ありません。人と待ち合わせをしております。その方と行きますので」

「……は?俺の誘いを断るだと?」

 少年の表情が一気に歪み、吐き捨てるように言い放つ。
「俺は神守だぞ。平民は俺の言うことを聞くんだ!」

 そう叫ぶと同時に、手首を強く掴まれた。

「きゃ……!」

 不意を突かれ、驚き固まってしまう。今まで乱暴に扱われた経験など、一度もなかったからだ。

「瑞葉様!」

 佳乃が烈火のごとく怒り、飛び出しかけたその瞬間――。

「お前……この娘に、何をしていた?」

 鋭い声とともに、腕が割って入った。碧人だ。
 ものすごい勢いで男の腕を掴み引き離す。

 その剣幕に圧倒され、少年はたじろぐ。だが、碧人の質素な装いを見て、勝ち誇ったように鼻で笑った。

「なんだ、平民仲間か。威勢だけはいいな。こいつはこれからは俺が連れて行く。お前は消えろ」

「……名前は?」碧人の声は低く冷たい。「神守だというが、見覚えはないな」

「当然だろう。平民のお前に縁があるはずがない」
 得意げに胸を張る。
「俺は、御三家・清瀧家の分家、下田家の人間だ。まあ、平民のお前にはわからんだろうがな」

「……清瀧家の分家…だと?」

 ピキリ、と音が聞こえるかのように碧人の怒気が膨れ上がる。自らの分家に、これほど下劣な行いをする者がいたことに、内心は怒り狂っているのだろう。

 人は少なかったが、まったく人目がなかったわけではない。瑞葉が絡まれる場面を見かけた人が、すでに神官を呼びに走っていた。

 ほどなくして神官が駆けつける。碧人は無理やり怒りを押さえ込み、冷静に告げた。
「この下田家と名乗る神守が、こちらの少女に乱暴を働いていた。神殿として、公平に処罰をお願いします」

 神官は瑞葉を見やり、問いかける。
「事実ですか?」

 瑞葉は深く息を吸い、きちんと答えた。
「はい。依頼を見ていると、討伐に同行させてやると声をかけられました。丁寧に断ったのですが、『俺は神守だから平民は言うことを聞け』と手首を強く掴まれ、引っ張られました」

 袖をまくって見せると、そこには赤くくっきりと指の痕が残っていた。

 神官は表情を引き締める。碧人と瑞葉の正体は知っていても、ここではあくまで平民として扱う。しかし、これは平民相手であっても明確に禁じられた行為。言い逃れできぬ証拠を突きつけられ、神官は即座に判断を下した。

 実はこの少年については、すでに苦情が寄せられていたのだ。ただ証拠がなく、注意だけで済まされてきた。しかし今回は違う。

「来なさい」

 身体強化を施した神官が有無を言わせず腕を掴むと、少年は抵抗もできず、おろおろしている護衛とともに連れて行かれた。

 ようやく場が落ち着いたところで、碧人が瑞葉に向き直る。
「……済まなかった。まさか、うちの分家にあんな恥知らずがいるとは。すぐに父に報告して厳罰に処す。そして余罪がないかも徹底的に調べる。少し待っていてくれるか?」

「わかりました。身分を隠している以上、私の家から抗議はできません。他の被害にあった方のためにもよろしくお願いいたします」

「疲れただろう。今日はもう帰るか?」

「いえ。初めての経験だったので驚いて固まってしまいましたが……次からは、もっと上手く対処します。せっかくですから、結界の研究をしたいです。あんな野蛮な人のせいで楽しみを潰されたくありません」

「……そうか。わかった。祥太朗、父に報告しておいてくれ」

「すでに影のものが報告に向かっていますよ」
と碧人に耳打ちする。

「それと、お父様から“結界の研究をするなら必ず佳乃を同行させるように”と命じられました。これからは一緒に行動しますので、お願いします」

「……うぅ。そうか」
(瑞葉のお父上には警戒されているな。まあ、当然か)

 そのとき、今まで後ろに控えていた祥太朗が、ひょいと前に出てきた。
「それなら俺も同行しますよ。人数が多いほうが、お父上も安心されるでしょう?」

 にやりと笑って碧人にウインクする。碧人はげんなりとした顔をしながらも、渋々うなずいた。
「……こいつも一緒でいいか? 実力は父のお墨付きだ。まあ、確かに四人いれば、強い禍憑で結界を試すにも都合がいい」

「もちろんです。付き合わせてしまって申し訳ありませんが、よろしくお願いします」

 瑞葉は胸を高鳴らせた。これは、ずっと憧れていた討伐隊ではないか――。
 ワクワクする気持ちを、もはや隠しきれなかった。

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