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66 鉱山2
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まずは鉱山の見学からすることになった。初めて目にする光景に胸が高鳴る。
案内を務めてくださるのは、この鉱山の責任者――そして、不正の疑いを相談してきた張本人。
出迎えに現れたのは、がっしりとした体格に、精悍な顔つきの中年男性だった。
「ようこそお越しくださいました。鉱山責任者の入山と申します。本日はお忙しい中、このような辺境までお運びいただき、心より感謝申し上げます」
深々と頭を下げる姿から、誠実な人柄がにじみ出ている。
私たちが挨拶を返すと、入山さんは人のいい笑顔を浮かべ、先導するように歩き出した。
「それでは、まずは鉱山の全体を見ていただきたいと思います。こちらは採掘場です。ご覧のとおり、常に数十名の作業員が交代で働いております。……危険も多い現場ですが、皆、この地で生活を支えている誇りを持って働いております」
歩みを進めるたび、入山さんは現場の様子を丁寧に説明してくれた。労働環境や鉱石の品質、そして日々の管理体制について。
その語り口は真摯で、責任者として鉱山を守り抜こうとする強い意志が伝わってきた。
光矢は作業員一人ひとりの顔や動きを、さりげなく観察しながら説明に耳を傾けている。
やがて一行は、鉱山の入り口脇にある簡素な管理事務所へと移った。木造の小さな建物で、机と椅子が置かれているだけの質素な造りだ。
中へ入ると、叔父様が懐から小さな神具を取り出し、机の上にそっと置く。淡い光が広がり、外へ音が漏れぬよう結界が張られた。
「さて……」
空気を改めるように叔父様が口を開く。
「不正の疑いがある、とのことでしたが──どういう経緯でお気づきになったのですか?」
入山さんの表情に、苦渋がにじむ。
「……ええ。実は数か月前から、鉱石の収支が合わないことが増えてきました。記録上は確かに掘り出したはずなのに、倉庫に納められる量が少ない。最初は単なる計算違いかと思ったのですが、どうやらそれだけでは済まないようなのです」
声を潜めるように続けた。
「作業員の中に、鉱石の横流しに関わっている者がいるのではないか――そう考えるようになりまして」
「あの、素人考えで申し訳ないんですが……」
光矢が遠慮がちに口を開いた。
「はい、かまいませんよ」
「鉱石を盗むというのは、自分で採掘したものを服の中などに隠して持ち帰る、というのを想像していたのですが……犯人は採ったものはきちんと申告しているんですね」
「ええ。その不正を防止するために、作業を終えて鉱山から出る際は、徹底的に神具を使って身体検査を行うのです。こちらがその神具です」
入山さんが机の上に、細長い神具を置いた。
「ああ、これは身体に当て、鉱石を隠していれば音が鳴るという神具ですね」
「これも叔父様が開発されたのですか?」
「いや、もともとあったのだが精度が悪く現場では使い物にならないと不評でね。それで改良したんだ」
「いやあ、改良してくださった方だったとは。感激です。どんなに小さな鉱石でも検知してくれますから。中には飲み込んで持ち出そうとした者もいたのですが、それすら検知しましたよ」
「……つまり、隠して持ち帰ることは不可能、というわけですね」
「はい。ですので、盗まれているのは保管の段階ではないかと思っています」
「心当たりは?発覚前後で変わったことはありませんか?」
「それが、発覚する少し前から聖励修道院の奉仕者が増えているのです。偶然かもしれませんが」
そう言って入山さんは引き出しから帳面を取り出した。
「聖励修道院からは通年で人を出していただいています。……こちらが発覚する少し前から現在の奉仕者の一覧です」
叔父様は帳面をざっと目を通し、ほんの一瞬、眉をひそめた。
「なるほど……」
その変化を敏感に察した私は、思わず叔父様の横顔を見つめる。
少し間を置いてから、叔父様が口を開いた。
「今回、瑞葉の結界の効果を探る名目と、不正の調査を並行して行います。なるべく聖励修道院の方々はまとめて検証の場に連れてきてもらえませんか?」
「かしこまりました」
その後、具体的な場所や連れてくる順番などを話し合い、入山さんは仕事へ戻っていった。
私はふと思い出して、叔父様に尋ねる。
「叔父様、そういえば、なぜ黒岩家の治める土地の鉱山を、わが家が所有しているのですか?ずいぶんと離れていますよね?」
「ああ、それはね、もともとこの山は黒岩家のものだったんだ。今から三代前の水無瀬家当主が、困窮して爵位を手放そうとしていた黒岩家を助けるために、当時は何の価値もないと思われていたこの鉱山を買い取ったのだよ。それで黒岩家は持ち直した」
「そうだったんですね」
「ところが水無瀬家が調査を進めた結果、質のいい鉱石が採れることがわかり、資金を投じて本格的な鉱山開発を始めることになったんだ」
「黒岩家は悔しかったでしょうね。価値がないと思っていた山が、金を生む宝の山だったなんて」
光矢は、鋭く指摘する。
「まあ、たとえ分かっていたとしても、調査費用や鉱山設備にかかる資金は、当時の黒岩家には出せなかったと思うがね」
案内を務めてくださるのは、この鉱山の責任者――そして、不正の疑いを相談してきた張本人。
出迎えに現れたのは、がっしりとした体格に、精悍な顔つきの中年男性だった。
「ようこそお越しくださいました。鉱山責任者の入山と申します。本日はお忙しい中、このような辺境までお運びいただき、心より感謝申し上げます」
深々と頭を下げる姿から、誠実な人柄がにじみ出ている。
私たちが挨拶を返すと、入山さんは人のいい笑顔を浮かべ、先導するように歩き出した。
「それでは、まずは鉱山の全体を見ていただきたいと思います。こちらは採掘場です。ご覧のとおり、常に数十名の作業員が交代で働いております。……危険も多い現場ですが、皆、この地で生活を支えている誇りを持って働いております」
歩みを進めるたび、入山さんは現場の様子を丁寧に説明してくれた。労働環境や鉱石の品質、そして日々の管理体制について。
その語り口は真摯で、責任者として鉱山を守り抜こうとする強い意志が伝わってきた。
光矢は作業員一人ひとりの顔や動きを、さりげなく観察しながら説明に耳を傾けている。
やがて一行は、鉱山の入り口脇にある簡素な管理事務所へと移った。木造の小さな建物で、机と椅子が置かれているだけの質素な造りだ。
中へ入ると、叔父様が懐から小さな神具を取り出し、机の上にそっと置く。淡い光が広がり、外へ音が漏れぬよう結界が張られた。
「さて……」
空気を改めるように叔父様が口を開く。
「不正の疑いがある、とのことでしたが──どういう経緯でお気づきになったのですか?」
入山さんの表情に、苦渋がにじむ。
「……ええ。実は数か月前から、鉱石の収支が合わないことが増えてきました。記録上は確かに掘り出したはずなのに、倉庫に納められる量が少ない。最初は単なる計算違いかと思ったのですが、どうやらそれだけでは済まないようなのです」
声を潜めるように続けた。
「作業員の中に、鉱石の横流しに関わっている者がいるのではないか――そう考えるようになりまして」
「あの、素人考えで申し訳ないんですが……」
光矢が遠慮がちに口を開いた。
「はい、かまいませんよ」
「鉱石を盗むというのは、自分で採掘したものを服の中などに隠して持ち帰る、というのを想像していたのですが……犯人は採ったものはきちんと申告しているんですね」
「ええ。その不正を防止するために、作業を終えて鉱山から出る際は、徹底的に神具を使って身体検査を行うのです。こちらがその神具です」
入山さんが机の上に、細長い神具を置いた。
「ああ、これは身体に当て、鉱石を隠していれば音が鳴るという神具ですね」
「これも叔父様が開発されたのですか?」
「いや、もともとあったのだが精度が悪く現場では使い物にならないと不評でね。それで改良したんだ」
「いやあ、改良してくださった方だったとは。感激です。どんなに小さな鉱石でも検知してくれますから。中には飲み込んで持ち出そうとした者もいたのですが、それすら検知しましたよ」
「……つまり、隠して持ち帰ることは不可能、というわけですね」
「はい。ですので、盗まれているのは保管の段階ではないかと思っています」
「心当たりは?発覚前後で変わったことはありませんか?」
「それが、発覚する少し前から聖励修道院の奉仕者が増えているのです。偶然かもしれませんが」
そう言って入山さんは引き出しから帳面を取り出した。
「聖励修道院からは通年で人を出していただいています。……こちらが発覚する少し前から現在の奉仕者の一覧です」
叔父様は帳面をざっと目を通し、ほんの一瞬、眉をひそめた。
「なるほど……」
その変化を敏感に察した私は、思わず叔父様の横顔を見つめる。
少し間を置いてから、叔父様が口を開いた。
「今回、瑞葉の結界の効果を探る名目と、不正の調査を並行して行います。なるべく聖励修道院の方々はまとめて検証の場に連れてきてもらえませんか?」
「かしこまりました」
その後、具体的な場所や連れてくる順番などを話し合い、入山さんは仕事へ戻っていった。
私はふと思い出して、叔父様に尋ねる。
「叔父様、そういえば、なぜ黒岩家の治める土地の鉱山を、わが家が所有しているのですか?ずいぶんと離れていますよね?」
「ああ、それはね、もともとこの山は黒岩家のものだったんだ。今から三代前の水無瀬家当主が、困窮して爵位を手放そうとしていた黒岩家を助けるために、当時は何の価値もないと思われていたこの鉱山を買い取ったのだよ。それで黒岩家は持ち直した」
「そうだったんですね」
「ところが水無瀬家が調査を進めた結果、質のいい鉱石が採れることがわかり、資金を投じて本格的な鉱山開発を始めることになったんだ」
「黒岩家は悔しかったでしょうね。価値がないと思っていた山が、金を生む宝の山だったなんて」
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