神守の少女、二度目の人生は好きに生きます〜因縁相手は勝手に自滅〜

雪水砂糖

文字の大きさ
66 / 97

65 鉱山1

しおりを挟む
 翌日、私たちは朝早く鉱山へと出発した。道すがら神殿に立ち寄り、上月先生をお迎えして馬車に乗り込む。

 上月先生がふいに口を開いた。
「いやあ、今回こうしてご一緒できて、本当に幸運です。興味深い結界の検証に立ち会える上に、初めて見る神具の実地使用まで見られるのですからね。研究者冥利に尽きます」

 先生は目を細めて微笑み、まるで子どもが遠足を前にして胸を躍らせているような顔をしていた。
「ただ、私もそれなりの立場がありますので、兄に頼まれたからといって、好き勝手に同行できるわけではないのですよ。もちろん、無理を通そうと思えば通せなくはないのですが……。ですが今回は幸い、水無瀬家から多大なご寄付を賜っていました。そのおかげで“失礼のないように、私が同行すべきだ”という空気になりましてね。いやはや、助かりました」
 悪戯っぽく口角を上げながらも、どこか安堵の色がにじむ。

「それはよかったです。こちらとしても、上月先生のように神気研究に理解のある方がついてくださって、本当に心強い」
 叔父様は笑みを浮かべ、上機嫌な様子だ。

 道中は、先生の著書をめぐる議論や質問で盛り上がった。先生は熱を込めて答え、叔父様は的確に補足や説明を加える。互いに探究心をぶつけ合う姿は、まるで昔からの友人のようだった。
「こんなに神気について語れるなんて、うれしいなあ」
 少年のように目を輝かせる先生に、叔父様もまた、楽しげに頷きながら目を細めていた。

 そうして談笑しながら過ごしているうちに、あっという間に鉱山へ到着した。

「ここが、鉱山……」

 私は思わず息を呑む。目の前には岩肌むき出しの山が広がり、大勢の作業員たちがせわしなく行き交っていた。その活気に圧倒される。

 ちなみに、今回から私は“魅力を半減する眼鏡”を改良した、“絶対的モブ眼鏡”というものを装着している。叔父様の説明によれば、前回のものは身に着ける者自身の魅力を半減させる効果だったが、今回は相対的ではなく絶対的に魅力を消し去り、さらに印象に残らないようにする効果を持つらしい。もちろん、話しかければきちんと気づいてもらえるし、無視されるようなこともない。

 奇妙な名前の由来は光矢だという。「“モブ”ってどういう意味?」と尋ねたところ、「猛烈に無難」の略だと答えていた。
 私には到底思いつかない発想だ。凡人には理解できない感性だけれど、その独特さがやっぱりすごいと思った。

 叔父様と光矢も、“別人に見えるブローチ”や“記憶に残りにくいカフスボタン”を装着していた。たとえ知っている人が見ても判別できないほどの効果らしい。
 ただし私は、姿かたちは別人に見えても、叔父様と光矢だと自然にわかる。不思議なことに、家族や深い絆のある者にはそう感じ取れるのだという。叔父様は「形式だけの家族なら気づけなかったはずだ」と説明してくれた。

 もちろん、みんな佳乃の確認は通っている。最初は私もすべての装具を身に着けていたのだが、佳乃が渋い顔をした。そこで叔父様と光矢が検討した結果、私の場合は「絶対的モブ眼鏡」さえあれば効果を一手に引き受けられると気づき、この一本に絞ることになったのだ。ちなみに、この眼鏡をかけてもあまり変化のない人もいるらしいが、私の場合は見事に別人に見えるとのことだった。
 その変化を目の当たりにした上月先生は大興奮し、外見がみるみる変わっていく様子に子どものように目を輝かせた。
「発売になった暁には、ぜひ私にも譲っていただきたい!」
 熱のこもったお願いに、叔父様はにこやかに答えた。
「今回お世話になった御礼に差し上げますよ。何がよろしいですか?」
 先生はしばし迷ったのち、真剣な面持ちで言った。
「では……“別人に見えるブローチ”をいただければ」
 叔父様は快く頷き、その場で約束を交わしたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

復讐は、冷やして食すのが一番美味い

Yuito_Maru
ファンタジー
3度目の人生を生きるピオニー・レノドン。 1度目の人生は、愛した幼馴染と家族に裏切られ、無垢で無力のまま命を落とした。 2度目は、剣を磨き、王太子の婚約者となるも、1度目より惨めに死んでいった。 3度目は、微笑の裏で傭兵団を率い、冷たく復讐の刃を研ぐ。 狙うは、レノドン伯爵家、そして王家や腐った貴族たち。 「復讐とは、怒りを凍らせて成就する歪んだ喜びだ」――ピオニーは今、その意味を体現する。 ----- 外部サイトでも掲載を行っております

【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません

ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。 文化が違う? 慣れてます。 命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。 NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。 いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。 スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。 今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。 「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」 ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。 そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

yukataka
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
商人であった父が、お金で貴族の身分を手に入れた。私というコマを、貴族と結婚させることによって。 でもそれは酷い結婚生活の始まりでしかなかった。悪態をつく姑。私を妻と扱わない夫。夫には離れに囲った愛人がおり、その愛人を溺愛していたため、私たちは白い結婚だった。 結婚して三年。私は流行り病である『バラ病』にかかってしまう。治療費は金貨たった一枚。しかし夫も父も私のためにお金を出すことはなかった。その価値すら、もう私にはないというように。分かっていたはずの現実が、雨と共に冷たく突き刺さる。すべてを悲観した私は橋から身を投げたが、気づくと結婚する前に戻っていた。 健康な体。そして同じ病で死んでしまった仲間もいる。一度死んだ私は、すべてを彼らから取り戻すために動き出すことを決めた。もう二度と、私の人生を他の人間になど奪われないために。 父の元を離れ計画を実行するために再び仮初の結婚を行うと、なぜか彼の愛人に接近されたり、前の人生で関わってこなかった人たちが私の周りに集まり出す。 白い結婚も毒でしかない父も、全て切り捨てた先にあるものは――

「宮廷魔術師の娘の癖に無能すぎる」と婚約破棄され親には出来損ないと言われたが、厄介払いと嫁に出された家はいいところだった

今川幸乃
ファンタジー
魔術の名門オールストン公爵家に生まれたレイラは、武門の名門と呼ばれたオーガスト公爵家の跡取りブランドと婚約させられた。 しかしレイラは魔法をうまく使うことも出来ず、ブランドに一方的に婚約破棄されてしまう。 それを聞いた宮廷魔術師の父はブランドではなくレイラに「出来損ないめ」と激怒し、まるで厄介払いのようにレイノルズ侯爵家という微妙な家に嫁に出されてしまう。夫のロルスは魔術には何の興味もなく、最初は仲も微妙だった。 一方ブランドはベラという魔法がうまい令嬢と婚約し、やはり婚約破棄して良かったと思うのだった。 しかしレイラが魔法を全然使えないのはオールストン家で毎日飲まされていた魔力増加薬が体質に合わず、魔力が暴走してしまうせいだった。 加えて毎日毎晩ずっと勉強や訓練をさせられて常に体調が悪かったことも原因だった。 レイノルズ家でのんびり過ごしていたレイラはやがて自分の真の力に気づいていく。

死に戻りの悪役令嬢は、今世は復讐を完遂する。

乞食
恋愛
メディチ家の公爵令嬢プリシラは、かつて誰からも愛される少女だった。しかし、数年前のある事件をきっかけに周囲の人間に虐げられるようになってしまった。 唯一の心の支えは、プリシラを慕う義妹であるロザリーだけ。 だがある日、プリシラは異母妹を苛めていた罪で断罪されてしまう。 プリシラは処刑の日の前日、牢屋を訪れたロザリーに無実の証言を願い出るが、彼女は高らかに笑いながらこう言った。 「ぜーんぶ私が仕組んだことよ!!」 唯一信頼していた義妹に裏切られていたことを知り、プリシラは深い悲しみのまま処刑された。 ──はずだった。 目が覚めるとプリシラは、三年前のロザリーがメディチ家に引き取られる前日に、なぜか時間が巻き戻っていて──。 逆行した世界で、プリシラは義妹と、自分を虐げていた人々に復讐することを誓う。

(完)聖女様は頑張らない

青空一夏
ファンタジー
私は大聖女様だった。歴史上最強の聖女だった私はそのあまりに強すぎる力から、悪魔? 魔女?と疑われ追放された。 それも命を救ってやったカール王太子の命令により追放されたのだ。あの恩知らずめ! 侯爵令嬢の色香に負けやがって。本物の聖女より偽物美女の侯爵令嬢を選びやがった。 私は逃亡中に足をすべらせ死んだ? と思ったら聖女認定の最初の日に巻き戻っていた!! もう全力でこの国の為になんか働くもんか! 異世界ゆるふわ設定ご都合主義ファンタジー。よくあるパターンの聖女もの。ラブコメ要素ありです。楽しく笑えるお話です。(多分😅)

処理中です...