73 / 96
72 岩城家1
しおりを挟む
翌朝、瑞葉は庭先で剣の素振りをする遥の姿を見かけた。
振り下ろすたびに風を切る音が響き、力強い所作に思わず見惚れる。
「やってみますか?」
遥が気づき、笑みを浮かべて木刀を一本差し出してきた。
瑞葉は戸惑いつつも受け取り、構えてみる。ぎこちない動きに、遥はすぐに瑞葉の腕をとり、姿勢を矯正してくれた。
「力任せじゃなく、軽く腕を伸ばすように振り下ろして腰の位置で止めるんです」
その言葉に瑞葉は小さく頷く。二人はしばらく稽古を続け、軽く汗をかいたところで一旦切り上げ、それぞれ身支度を整えるため部屋に戻った。
その日の午後、遥の師が訪れるという知らせが届いた。昨日の夜の会話がすぐに実現するとは、と瑞葉は胸を躍らせる。佳乃も同行することになっていた。
やがて姿を現したのは、岩城家の当主夫人――遥の母であった。
「……えっ、まさか、お母様が教えてくださるのではないですよね?」
遥が驚きの声を上げる。
「ええ、あなたの師のひとりでしょう?」
夫人はしてやったりとばかりに楽しげに笑みを浮かべた。
瑞葉はついおかしくなって笑い、場が一層和やかなものになった。
さっそく訓練が始まる。まずは体術。瑞葉もこれまで鍛えてきた動きで、遥と組んで技を試す。だが、さすがは辺境で幼少のころから鍛え抜かれてきた遥だ。力も体格も一歩抜きん出ており、一つ年上というだけでなく、細身だがその血筋ゆえの逞しさがあった。
それでも瑞葉は必死に食らいつき、汗だくになりながらも何度も立ち向かう。
その様子を見守っていた当主夫人は、佳乃の方を振り返り、静かに尋ねた。
「瑞葉様は、なぜあんなに戦いの訓練をなさるのかしら?中央では、鍛えていない女性の方が多いのでしょうに」
佳乃はうなずきながら答える。
「瑞葉様は、お母様の透子様とご一緒に討伐に出て、神守の一員として水無瀬家のお役に立ちたいと、いつも仰っているのです」
「まあ……素敵!」
夫人の瞳が輝いた。
「さすが透子様のお子様ね。それに、禍憑の討伐だけでなく、対人の訓練も欠かさないなんて。努力を重ねて、自分なりの方法でどちらにも対処できるようにしている……透子様のお子様ということ抜きにしても、立派だわ。私も微力ながらお手伝いするわね」
そう言うと夫人はすぐさま二人のもとに歩み寄り、瑞葉に指導を始めた。母娘ならではの息の合ったやり取りが瑞葉を巻き込み、庭先には張り詰めつつも温かな空気が満ちていく。
一方で佳乃は、その様子をじっと見守りながらも、周囲の気配に意識を配っていた。ふと、庭の外から不穏なざわめきを感じ取り、目を凝らす。そこには、明らかに悪意を孕んだ一団がこちらに向かって近づいてきていた。
佳乃は迷わず駆け出し、三人のもとへ報告に向かった――。
振り下ろすたびに風を切る音が響き、力強い所作に思わず見惚れる。
「やってみますか?」
遥が気づき、笑みを浮かべて木刀を一本差し出してきた。
瑞葉は戸惑いつつも受け取り、構えてみる。ぎこちない動きに、遥はすぐに瑞葉の腕をとり、姿勢を矯正してくれた。
「力任せじゃなく、軽く腕を伸ばすように振り下ろして腰の位置で止めるんです」
その言葉に瑞葉は小さく頷く。二人はしばらく稽古を続け、軽く汗をかいたところで一旦切り上げ、それぞれ身支度を整えるため部屋に戻った。
その日の午後、遥の師が訪れるという知らせが届いた。昨日の夜の会話がすぐに実現するとは、と瑞葉は胸を躍らせる。佳乃も同行することになっていた。
やがて姿を現したのは、岩城家の当主夫人――遥の母であった。
「……えっ、まさか、お母様が教えてくださるのではないですよね?」
遥が驚きの声を上げる。
「ええ、あなたの師のひとりでしょう?」
夫人はしてやったりとばかりに楽しげに笑みを浮かべた。
瑞葉はついおかしくなって笑い、場が一層和やかなものになった。
さっそく訓練が始まる。まずは体術。瑞葉もこれまで鍛えてきた動きで、遥と組んで技を試す。だが、さすがは辺境で幼少のころから鍛え抜かれてきた遥だ。力も体格も一歩抜きん出ており、一つ年上というだけでなく、細身だがその血筋ゆえの逞しさがあった。
それでも瑞葉は必死に食らいつき、汗だくになりながらも何度も立ち向かう。
その様子を見守っていた当主夫人は、佳乃の方を振り返り、静かに尋ねた。
「瑞葉様は、なぜあんなに戦いの訓練をなさるのかしら?中央では、鍛えていない女性の方が多いのでしょうに」
佳乃はうなずきながら答える。
「瑞葉様は、お母様の透子様とご一緒に討伐に出て、神守の一員として水無瀬家のお役に立ちたいと、いつも仰っているのです」
「まあ……素敵!」
夫人の瞳が輝いた。
「さすが透子様のお子様ね。それに、禍憑の討伐だけでなく、対人の訓練も欠かさないなんて。努力を重ねて、自分なりの方法でどちらにも対処できるようにしている……透子様のお子様ということ抜きにしても、立派だわ。私も微力ながらお手伝いするわね」
そう言うと夫人はすぐさま二人のもとに歩み寄り、瑞葉に指導を始めた。母娘ならではの息の合ったやり取りが瑞葉を巻き込み、庭先には張り詰めつつも温かな空気が満ちていく。
一方で佳乃は、その様子をじっと見守りながらも、周囲の気配に意識を配っていた。ふと、庭の外から不穏なざわめきを感じ取り、目を凝らす。そこには、明らかに悪意を孕んだ一団がこちらに向かって近づいてきていた。
佳乃は迷わず駆け出し、三人のもとへ報告に向かった――。
0
あなたにおすすめの小説
復讐は、冷やして食すのが一番美味い
Yuito_Maru
ファンタジー
3度目の人生を生きるピオニー・レノドン。
1度目の人生は、愛した幼馴染と家族に裏切られ、無垢で無力のまま命を落とした。
2度目は、剣を磨き、王太子の婚約者となるも、1度目より惨めに死んでいった。
3度目は、微笑の裏で傭兵団を率い、冷たく復讐の刃を研ぐ。
狙うは、レノドン伯爵家、そして王家や腐った貴族たち。
「復讐とは、怒りを凍らせて成就する歪んだ喜びだ」――ピオニーは今、その意味を体現する。
-----
外部サイトでも掲載を行っております
私の風呂敷は青いあいつのよりもちょっとだけいい
しろこねこ
ファンタジー
前世を思い出した15歳のリリィが風呂敷を発見する。その風呂敷は前世の記憶にある青いロボットのもつホニャララ風呂敷のようで、それよりもちょっとだけ高性能なやつだった。風呂敷を手にしたリリィが自由を手にする。
私と母のサバイバル
だましだまし
ファンタジー
侯爵家の庶子だが唯一の直系の子として育てられた令嬢シェリー。
しかしある日、母と共に魔物が出る森に捨てられてしまった。
希望を諦めず森を進もう。
そう決意するシェリーに異変が起きた。
「私、別世界の前世があるみたい」
前世の知識を駆使し、二人は無事森を抜けられるのだろうか…?
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
無能だと捨てられた第七王女、前世の『カウンセラー』知識で人の心を読み解き、言葉だけで最強の騎士団を作り上げる
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
エルミート王国の第七王女リリアーナは、王族でありながら魔力を持たない『無能』として生まれ、北の塔に長年幽閉されていた。
ある日、高熱で生死の境をさまよった彼女は、前世で臨床心理士(カウンセラー)だった記憶を取り戻す。
時を同じくして、リリアーナは厄介払いのように、魔物の跋扈する極寒の地を治める『氷の辺境伯』アシュトン・グレイウォールに嫁がされることが決定する。
死地へ送られるも同然の状況だったが、リリアーナは絶望しなかった。
彼女には、前世で培った心理学の知識と言葉の力があったからだ。
心を閉ざした辺境伯、戦争のトラウマに苦しむ騎士たち、貧困にあえぐ領民。
リリアーナは彼らの声に耳を傾け、その知識を駆使して一人ひとりの心を丁寧に癒していく。
やがて彼女の言葉は、ならず者集団と揶揄された騎士団を鉄の結束を誇る最強の部隊へと変え、痩せた辺境の地を着実に豊かな場所へと改革していくのだった。
ここは少女マンガの世界みたいだけど、そんなこと知ったこっちゃない
ゆーぞー
ファンタジー
気がつけば昔読んだ少女マンガの世界だった。マンガの通りなら決して幸せにはなれない。そんなわけにはいかない。自分が幸せになるためにやれることをやっていこう。
【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません
ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。
文化が違う? 慣れてます。
命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。
NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。
いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。
スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。
今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。
「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」
ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。
そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる