75 / 96
74 岩城家3(岩城家当主夫人)
しおりを挟む
訓練を見守っていた佳乃が、すっとこちらに近づいてきた。
「一時の方向から、侵入者が近づいてきています」
それとなく視線を向けると、一見なにも見えない。だが神気を込めて凝らすと、隠蔽の術で姿を消した四人の影が、じりじりとこちらに迫っているのがわかった。
口元を手で隠し、二人にだけ聞こえるほどの小声で告げる。
「二人とも、見えた?」
組手を止めぬまま、すぐに返事が返ってきた。
「「はい!」」
――いい判断だ。刺客には、こちらが気づいていることを悟られてはいけない。
「遥、合図をしたら浅井殿と光矢君を呼んできなさい。二人とも今は樹と執務室にいるはずよ」
「はい」
夫は今朝早くから、決まっていた禍憑討伐に討伐隊を率いて出ている。それでも昨日、浅井殿の助言を受けて晴れやかな顔で出発したのを思い出す。浅井殿と光矢君は、今日も執務室で樹と共に書類整理をしてくれていた。
「瑞葉さん、射程に入ったら結界で囲める?」
「はい。……もうすぐ射程内に入ります」
「遥は結界を張ったらすぐに呼びに走って」
思わず口元がほころぶ。
「ちょうどいいわね。昨日、浅井殿が話していたことをさっそく試してみましょう。岩城家にここまで入れるなんて、そうとうな手練に違いないわ」
「お母様、悪い顔をしてますよ」
「ふふ、あなたも楽しそうじゃない?」
「射程に入りました。結界を張ります」
二人は組手を止め、それぞれの役割へ移った。
瑞葉さんは、一見なにもない空間を半球状の結界で包み込む。キラキラと輝く、濁りひとつない美しい結界だった。
遥は身体強化を施し、風を裂く勢いで屋敷へ駆け出す。
結界が顕現した瞬間、黒ずくめの大人が四人、姿を現した。
「なにっ……気づかれていたのか!?」
隠蔽の術が解けたことに狼狽し、結界を破ろうと一斉に攻撃を仕掛ける。神気を纏った刀が振るわれ、神気の弾が叩き込まれる。だが、どれほどの攻撃を受けても結界は揺るがなかった。
瑞葉さんは涼しい顔で結界を維持している。
「浄化は待ってちょうだいね。浅井殿と光矢君が来てからにしましょう。検証が必要だもの」
「はい。……先にやってしまうと、光矢がうるさいのが目に見えてますから」
瑞葉さんは苦笑しつつも、弟を思う眼差しはやわらかかった。
さて、昨夜の件からすると、やはり別荘を襲ったのはあの組織と見てよさそうね。標的は瑞葉さんと光矢君――鉱山の不正を暴かれた腹いせに違いないわ。
我が岩城家の客人、しかも透子様のお子さまたちに手を出すなど、ただじゃ済まさないわ。
絞れるだけ絞り尽くしましょう。
「一時の方向から、侵入者が近づいてきています」
それとなく視線を向けると、一見なにも見えない。だが神気を込めて凝らすと、隠蔽の術で姿を消した四人の影が、じりじりとこちらに迫っているのがわかった。
口元を手で隠し、二人にだけ聞こえるほどの小声で告げる。
「二人とも、見えた?」
組手を止めぬまま、すぐに返事が返ってきた。
「「はい!」」
――いい判断だ。刺客には、こちらが気づいていることを悟られてはいけない。
「遥、合図をしたら浅井殿と光矢君を呼んできなさい。二人とも今は樹と執務室にいるはずよ」
「はい」
夫は今朝早くから、決まっていた禍憑討伐に討伐隊を率いて出ている。それでも昨日、浅井殿の助言を受けて晴れやかな顔で出発したのを思い出す。浅井殿と光矢君は、今日も執務室で樹と共に書類整理をしてくれていた。
「瑞葉さん、射程に入ったら結界で囲める?」
「はい。……もうすぐ射程内に入ります」
「遥は結界を張ったらすぐに呼びに走って」
思わず口元がほころぶ。
「ちょうどいいわね。昨日、浅井殿が話していたことをさっそく試してみましょう。岩城家にここまで入れるなんて、そうとうな手練に違いないわ」
「お母様、悪い顔をしてますよ」
「ふふ、あなたも楽しそうじゃない?」
「射程に入りました。結界を張ります」
二人は組手を止め、それぞれの役割へ移った。
瑞葉さんは、一見なにもない空間を半球状の結界で包み込む。キラキラと輝く、濁りひとつない美しい結界だった。
遥は身体強化を施し、風を裂く勢いで屋敷へ駆け出す。
結界が顕現した瞬間、黒ずくめの大人が四人、姿を現した。
「なにっ……気づかれていたのか!?」
隠蔽の術が解けたことに狼狽し、結界を破ろうと一斉に攻撃を仕掛ける。神気を纏った刀が振るわれ、神気の弾が叩き込まれる。だが、どれほどの攻撃を受けても結界は揺るがなかった。
瑞葉さんは涼しい顔で結界を維持している。
「浄化は待ってちょうだいね。浅井殿と光矢君が来てからにしましょう。検証が必要だもの」
「はい。……先にやってしまうと、光矢がうるさいのが目に見えてますから」
瑞葉さんは苦笑しつつも、弟を思う眼差しはやわらかかった。
さて、昨夜の件からすると、やはり別荘を襲ったのはあの組織と見てよさそうね。標的は瑞葉さんと光矢君――鉱山の不正を暴かれた腹いせに違いないわ。
我が岩城家の客人、しかも透子様のお子さまたちに手を出すなど、ただじゃ済まさないわ。
絞れるだけ絞り尽くしましょう。
0
あなたにおすすめの小説
復讐は、冷やして食すのが一番美味い
Yuito_Maru
ファンタジー
3度目の人生を生きるピオニー・レノドン。
1度目の人生は、愛した幼馴染と家族に裏切られ、無垢で無力のまま命を落とした。
2度目は、剣を磨き、王太子の婚約者となるも、1度目より惨めに死んでいった。
3度目は、微笑の裏で傭兵団を率い、冷たく復讐の刃を研ぐ。
狙うは、レノドン伯爵家、そして王家や腐った貴族たち。
「復讐とは、怒りを凍らせて成就する歪んだ喜びだ」――ピオニーは今、その意味を体現する。
-----
外部サイトでも掲載を行っております
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
白い結婚にさよならを。死に戻った私はすべてを手に入れる。
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
商人であった父が、お金で貴族の身分を手に入れた。私というコマを、貴族と結婚させることによって。
でもそれは酷い結婚生活の始まりでしかなかった。悪態をつく姑。私を妻と扱わない夫。夫には離れに囲った愛人がおり、その愛人を溺愛していたため、私たちは白い結婚だった。
結婚して三年。私は流行り病である『バラ病』にかかってしまう。治療費は金貨たった一枚。しかし夫も父も私のためにお金を出すことはなかった。その価値すら、もう私にはないというように。分かっていたはずの現実が、雨と共に冷たく突き刺さる。すべてを悲観した私は橋から身を投げたが、気づくと結婚する前に戻っていた。
健康な体。そして同じ病で死んでしまった仲間もいる。一度死んだ私は、すべてを彼らから取り戻すために動き出すことを決めた。もう二度と、私の人生を他の人間になど奪われないために。
父の元を離れ計画を実行するために再び仮初の結婚を行うと、なぜか彼の愛人に接近されたり、前の人生で関わってこなかった人たちが私の周りに集まり出す。
白い結婚も毒でしかない父も、全て切り捨てた先にあるものは――
【完結】海外在住だったので、異世界転移なんてなんともありません
ソニエッタ
ファンタジー
言葉が通じない? それ、日常でした。
文化が違う? 慣れてます。
命の危機? まあ、それはちょっと驚きましたけど。
NGO調整員として、砂漠の難民キャンプから、宗教対立がくすぶる交渉の現場まで――。
いろんな修羅場をくぐってきた私が、今度は魔族の村に“神託の者”として召喚されました。
スーツケース一つで、どこにでも行ける体質なんです。
今回の目的地が、たまたま魔王のいる世界だっただけ。
「聖剣? 魔法? それよりまず、水と食糧と、宗教的禁忌の確認ですね」
ちょっとズレてて、でもやたらと現場慣れしてる。
そんな“救世主”、エミリの異世界ロジカル生活、はじまります。
【第2部開始】ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜
月森かれん
ファンタジー
中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。
戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。
暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。
疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。
なんと、ぬいぐるみが喋っていた。
しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。
天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。
※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。
私の風呂敷は青いあいつのよりもちょっとだけいい
しろこねこ
ファンタジー
前世を思い出した15歳のリリィが風呂敷を発見する。その風呂敷は前世の記憶にある青いロボットのもつホニャララ風呂敷のようで、それよりもちょっとだけ高性能なやつだった。風呂敷を手にしたリリィが自由を手にする。
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる