一度でいいから、抱いてください!

瑞月

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嬉しい転生【彩音の場合】

16.花火

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 今日はお祭りがあるから、外はすごい人出だった。いつもは感じない熱気と騒がしさが、暗くなり始めた夜風にもまじりあっているようだ。
 自然と人ごみにはぐれないように、ルイ先輩と手を繋いでいた。並んで歩いたことはあったけれど、手を繋いで歩くのは初めてだった。
 この世界で意識を持って、夢だと思ってルイ先輩の所に行って、先輩のピアノを聞いて…。
 あの日、街路樹沿いに学園前の通りを並んで歩いたことを思い出した。あの日は街路樹の葉陰から漏れ出る光に彩られたいつもの道が、どうしようもなく綺麗で輝いて見えた。あの日からそんなに経ってないのに…。
 今はお祭りの喧騒の中、手を繋げて嬉しい気持ちと、戸惑いと、これから何を話すのか分からない不安がぐるぐると渦巻いている。
 でもやっぱり、暖かいルイ先輩の手に触れていられることが、どうしようもなく嬉しくて…。
 このお祭りの装飾で彩られた道で漂うように、このまま手を繋いでいたい。
 ――このまま先輩の家に、着かなくていい。

(ルイ先輩は…、いま何を考えているのかな?)

 チラリとのぞき見ても、人ごみを縫うように、私を庇うように歩くルイ先輩の眼差しは真剣に前を見つめていて、視線が交わることはなかった。
 そのもどかしさが、でもそれが私たちの距離だったんだ…と、妙に納得してしまった。自嘲気味の息を吐きだすと、私はまたルイ先輩の手のひらの温度に集中して歩みを進めた。


 ◇◇◇◇◇


 ピッ

 以前と同じようにセキュリティキーを解除して、エレベーターに乗り込む。
 やっと喧騒から離れて、耳が落ち着いた。エレベーターの中でもまだ手はつないだままだった。その静けさと体温に、今度はドキドキと動悸がうるさくなってきた。
 無言のまま促されるように歩みを進める。ルイ先輩が部屋の扉の鍵を開けた途端、

「ッ!!ん…!」

 玄関で電気もつけずにいきなり唇を奪われた…!
 奪われるという表現がぴったりな、噛みつくような激しいキス。
 キス自体も前にこの部屋に来て以来、なのに。
 ルイ先輩の手で壁に両手首を縫いとめられるように押さえつけられ、押し付けられるように身体を寄せられた。

「ルイ、せ…ん、んんっ…、まっ、て…!」
「彩音、ちゃん…」
「んんっ!」

(こんな…別れるのに、流されるなんて嫌…!)

「せんぱ…っ」
 必死にルイ先輩の手を振りほどこうとした。 ――その時、暗い部屋の中急に閃光が走り、間近のルイ先輩の顔が赤く照らされた。

 ドォーーン…

「あ…!」

 思わず視線を窓の方に向ける。

「ん、あ…花火、…だね…」

 カーテンが開け放たれたままの窓から、今日の夏祭りの花火が大きく浮かび上がった。このマンションはちょうど周囲のビルの狭間になり、6階のこの部屋からは、遮るもののない大きな花火が見えた。

「え…すごい…!私こんなにハッキリと見たのなんて初めて…!」

 ルイ先輩の手から力が抜け、私は自分の手でにやける口元を抑えた。「わ!すごい…!」わー!花火大好きー!いきなり始まった夜空を彩る光と音に、私は一気に先ほどまでの緊張感を忘れ見入ってしまった。

「あ、ねぇルイ先輩! 今のすごい! 私あんなの初めて見た!」
「うん」
「すごい! この部屋って毎年こんなに見えるんですか!? 特等席みたいですね! …って、あ…」
「うん」

 ルイ先輩に視線を移すと、花火の灯りに照らされて、すごく愛おしそうな優しい目で私を見つめる先輩と目があった。
 瞬間、さっきまでのことを思い出して、顔がカッと熱くなる。

「あ…の、すみません…私ったら、はしゃいじゃった…」
「うん」

 ルイ先輩は私の頬をゆっくり優しく撫でてくれた。

「――俺の方こそ、ごめん。話をしようって言ってたのに、我慢が出来なくて…本当恥ずかしい…。
 花火、見よ?…それから話、いいかな?」

 そう言うとルイ先輩は、ベランダに続く大きな掃出し窓を開けると、窓の前にクッションを寄せて、あぐらをかいた。そしてちょいちょいと手招きしてくる。

「えぇ…?」
「ほら、ここどうぞ?」

 私は促されるままルイ先輩の脚の間にすっぽりと腰をかけた。
(えぇこれってどういうこと!?)
 混乱するも、窓を開けたことで感じる外の熱気を含んだ風と、遠くの喧騒と花火の音の非日常な雰囲気に、いいのかな…?と思ってしまう。

「綺麗なドレスが、皺になっちゃうかな?」
「ううん、平気です。…それより私重いでしょ…? 足がしびれたらすぐ言ってくださいね?」
「ははっ、彩音ちゃんが重いはずないよ。そんなにそろっと座らないで、もっと体重かけてもいいよ?」
「はいぃ…」

 また花火を見上げる。ゲームの中では親密度が高いと、コンサートの後、打ち上げしようと言っているクラスの皆の所から抜け出して、海辺の公園で一緒に花火を見ることが出来る。
 ルイ先輩のルートの時も海辺の公園だったはずなのに…。ゲームにはない特別な演出に困惑しながらも胸が高鳴る。

「――綺麗だね」
「はいっ、すっごく!」

 最後の花火が上がるまで、私はルイ先輩の膝の上で過ごした。
 花火の音と、背中に感じるルイ先輩の鼓動が熱くて。それは夢の中を漂っているかのような、現実感のないひと時だった。
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