16 / 64
嬉しい転生【彩音の場合】
16.花火
しおりを挟む
今日はお祭りがあるから、外はすごい人出だった。いつもは感じない熱気と騒がしさが、暗くなり始めた夜風にもまじりあっているようだ。
自然と人ごみにはぐれないように、ルイ先輩と手を繋いでいた。並んで歩いたことはあったけれど、手を繋いで歩くのは初めてだった。
この世界で意識を持って、夢だと思ってルイ先輩の所に行って、先輩のピアノを聞いて…。
あの日、街路樹沿いに学園前の通りを並んで歩いたことを思い出した。あの日は街路樹の葉陰から漏れ出る光に彩られたいつもの道が、どうしようもなく綺麗で輝いて見えた。あの日からそんなに経ってないのに…。
今はお祭りの喧騒の中、手を繋げて嬉しい気持ちと、戸惑いと、これから何を話すのか分からない不安がぐるぐると渦巻いている。
でもやっぱり、暖かいルイ先輩の手に触れていられることが、どうしようもなく嬉しくて…。
このお祭りの装飾で彩られた道で漂うように、このまま手を繋いでいたい。
――このまま先輩の家に、着かなくていい。
(ルイ先輩は…、いま何を考えているのかな?)
チラリとのぞき見ても、人ごみを縫うように、私を庇うように歩くルイ先輩の眼差しは真剣に前を見つめていて、視線が交わることはなかった。
そのもどかしさが、でもそれが私たちの距離だったんだ…と、妙に納得してしまった。自嘲気味の息を吐きだすと、私はまたルイ先輩の手のひらの温度に集中して歩みを進めた。
◇◇◇◇◇
ピッ
以前と同じようにセキュリティキーを解除して、エレベーターに乗り込む。
やっと喧騒から離れて、耳が落ち着いた。エレベーターの中でもまだ手はつないだままだった。その静けさと体温に、今度はドキドキと動悸がうるさくなってきた。
無言のまま促されるように歩みを進める。ルイ先輩が部屋の扉の鍵を開けた途端、
「ッ!!ん…!」
玄関で電気もつけずにいきなり唇を奪われた…!
奪われるという表現がぴったりな、噛みつくような激しいキス。
キス自体も前にこの部屋に来て以来、なのに。
ルイ先輩の手で壁に両手首を縫いとめられるように押さえつけられ、押し付けられるように身体を寄せられた。
「ルイ、せ…ん、んんっ…、まっ、て…!」
「彩音、ちゃん…」
「んんっ!」
(こんな…別れるのに、流されるなんて嫌…!)
「せんぱ…っ」
必死にルイ先輩の手を振りほどこうとした。 ――その時、暗い部屋の中急に閃光が走り、間近のルイ先輩の顔が赤く照らされた。
ドォーーン…
「あ…!」
思わず視線を窓の方に向ける。
「ん、あ…花火、…だね…」
カーテンが開け放たれたままの窓から、今日の夏祭りの花火が大きく浮かび上がった。このマンションはちょうど周囲のビルの狭間になり、6階のこの部屋からは、遮るもののない大きな花火が見えた。
「え…すごい…!私こんなにハッキリと見たのなんて初めて…!」
ルイ先輩の手から力が抜け、私は自分の手でにやける口元を抑えた。「わ!すごい…!」わー!花火大好きー!いきなり始まった夜空を彩る光と音に、私は一気に先ほどまでの緊張感を忘れ見入ってしまった。
「あ、ねぇルイ先輩! 今のすごい! 私あんなの初めて見た!」
「うん」
「すごい! この部屋って毎年こんなに見えるんですか!? 特等席みたいですね! …って、あ…」
「うん」
ルイ先輩に視線を移すと、花火の灯りに照らされて、すごく愛おしそうな優しい目で私を見つめる先輩と目があった。
瞬間、さっきまでのことを思い出して、顔がカッと熱くなる。
「あ…の、すみません…私ったら、はしゃいじゃった…」
「うん」
ルイ先輩は私の頬をゆっくり優しく撫でてくれた。
「――俺の方こそ、ごめん。話をしようって言ってたのに、我慢が出来なくて…本当恥ずかしい…。
花火、見よ?…それから話、いいかな?」
そう言うとルイ先輩は、ベランダに続く大きな掃出し窓を開けると、窓の前にクッションを寄せて、あぐらをかいた。そしてちょいちょいと手招きしてくる。
「えぇ…?」
「ほら、ここどうぞ?」
私は促されるままルイ先輩の脚の間にすっぽりと腰をかけた。
(えぇこれってどういうこと!?)
混乱するも、窓を開けたことで感じる外の熱気を含んだ風と、遠くの喧騒と花火の音の非日常な雰囲気に、いいのかな…?と思ってしまう。
「綺麗なドレスが、皺になっちゃうかな?」
「ううん、平気です。…それより私重いでしょ…? 足がしびれたらすぐ言ってくださいね?」
「ははっ、彩音ちゃんが重いはずないよ。そんなにそろっと座らないで、もっと体重かけてもいいよ?」
「はいぃ…」
また花火を見上げる。ゲームの中では親密度が高いと、コンサートの後、打ち上げしようと言っているクラスの皆の所から抜け出して、海辺の公園で一緒に花火を見ることが出来る。
ルイ先輩のルートの時も海辺の公園だったはずなのに…。ゲームにはない特別な演出に困惑しながらも胸が高鳴る。
「――綺麗だね」
「はいっ、すっごく!」
最後の花火が上がるまで、私はルイ先輩の膝の上で過ごした。
花火の音と、背中に感じるルイ先輩の鼓動が熱くて。それは夢の中を漂っているかのような、現実感のないひと時だった。
自然と人ごみにはぐれないように、ルイ先輩と手を繋いでいた。並んで歩いたことはあったけれど、手を繋いで歩くのは初めてだった。
この世界で意識を持って、夢だと思ってルイ先輩の所に行って、先輩のピアノを聞いて…。
あの日、街路樹沿いに学園前の通りを並んで歩いたことを思い出した。あの日は街路樹の葉陰から漏れ出る光に彩られたいつもの道が、どうしようもなく綺麗で輝いて見えた。あの日からそんなに経ってないのに…。
今はお祭りの喧騒の中、手を繋げて嬉しい気持ちと、戸惑いと、これから何を話すのか分からない不安がぐるぐると渦巻いている。
でもやっぱり、暖かいルイ先輩の手に触れていられることが、どうしようもなく嬉しくて…。
このお祭りの装飾で彩られた道で漂うように、このまま手を繋いでいたい。
――このまま先輩の家に、着かなくていい。
(ルイ先輩は…、いま何を考えているのかな?)
チラリとのぞき見ても、人ごみを縫うように、私を庇うように歩くルイ先輩の眼差しは真剣に前を見つめていて、視線が交わることはなかった。
そのもどかしさが、でもそれが私たちの距離だったんだ…と、妙に納得してしまった。自嘲気味の息を吐きだすと、私はまたルイ先輩の手のひらの温度に集中して歩みを進めた。
◇◇◇◇◇
ピッ
以前と同じようにセキュリティキーを解除して、エレベーターに乗り込む。
やっと喧騒から離れて、耳が落ち着いた。エレベーターの中でもまだ手はつないだままだった。その静けさと体温に、今度はドキドキと動悸がうるさくなってきた。
無言のまま促されるように歩みを進める。ルイ先輩が部屋の扉の鍵を開けた途端、
「ッ!!ん…!」
玄関で電気もつけずにいきなり唇を奪われた…!
奪われるという表現がぴったりな、噛みつくような激しいキス。
キス自体も前にこの部屋に来て以来、なのに。
ルイ先輩の手で壁に両手首を縫いとめられるように押さえつけられ、押し付けられるように身体を寄せられた。
「ルイ、せ…ん、んんっ…、まっ、て…!」
「彩音、ちゃん…」
「んんっ!」
(こんな…別れるのに、流されるなんて嫌…!)
「せんぱ…っ」
必死にルイ先輩の手を振りほどこうとした。 ――その時、暗い部屋の中急に閃光が走り、間近のルイ先輩の顔が赤く照らされた。
ドォーーン…
「あ…!」
思わず視線を窓の方に向ける。
「ん、あ…花火、…だね…」
カーテンが開け放たれたままの窓から、今日の夏祭りの花火が大きく浮かび上がった。このマンションはちょうど周囲のビルの狭間になり、6階のこの部屋からは、遮るもののない大きな花火が見えた。
「え…すごい…!私こんなにハッキリと見たのなんて初めて…!」
ルイ先輩の手から力が抜け、私は自分の手でにやける口元を抑えた。「わ!すごい…!」わー!花火大好きー!いきなり始まった夜空を彩る光と音に、私は一気に先ほどまでの緊張感を忘れ見入ってしまった。
「あ、ねぇルイ先輩! 今のすごい! 私あんなの初めて見た!」
「うん」
「すごい! この部屋って毎年こんなに見えるんですか!? 特等席みたいですね! …って、あ…」
「うん」
ルイ先輩に視線を移すと、花火の灯りに照らされて、すごく愛おしそうな優しい目で私を見つめる先輩と目があった。
瞬間、さっきまでのことを思い出して、顔がカッと熱くなる。
「あ…の、すみません…私ったら、はしゃいじゃった…」
「うん」
ルイ先輩は私の頬をゆっくり優しく撫でてくれた。
「――俺の方こそ、ごめん。話をしようって言ってたのに、我慢が出来なくて…本当恥ずかしい…。
花火、見よ?…それから話、いいかな?」
そう言うとルイ先輩は、ベランダに続く大きな掃出し窓を開けると、窓の前にクッションを寄せて、あぐらをかいた。そしてちょいちょいと手招きしてくる。
「えぇ…?」
「ほら、ここどうぞ?」
私は促されるままルイ先輩の脚の間にすっぽりと腰をかけた。
(えぇこれってどういうこと!?)
混乱するも、窓を開けたことで感じる外の熱気を含んだ風と、遠くの喧騒と花火の音の非日常な雰囲気に、いいのかな…?と思ってしまう。
「綺麗なドレスが、皺になっちゃうかな?」
「ううん、平気です。…それより私重いでしょ…? 足がしびれたらすぐ言ってくださいね?」
「ははっ、彩音ちゃんが重いはずないよ。そんなにそろっと座らないで、もっと体重かけてもいいよ?」
「はいぃ…」
また花火を見上げる。ゲームの中では親密度が高いと、コンサートの後、打ち上げしようと言っているクラスの皆の所から抜け出して、海辺の公園で一緒に花火を見ることが出来る。
ルイ先輩のルートの時も海辺の公園だったはずなのに…。ゲームにはない特別な演出に困惑しながらも胸が高鳴る。
「――綺麗だね」
「はいっ、すっごく!」
最後の花火が上がるまで、私はルイ先輩の膝の上で過ごした。
花火の音と、背中に感じるルイ先輩の鼓動が熱くて。それは夢の中を漂っているかのような、現実感のないひと時だった。
0
あなたにおすすめの小説
思い出さなければ良かったのに
田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。
大事なことを忘れたまま。
*本編完結済。不定期で番外編を更新中です。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
最強魔術師の歪んだ初恋
黒瀬るい
恋愛
伯爵家の養子であるアリスは親戚のおじさまが大好きだ。
けれどアリスに妹が産まれ、アリスは虐げれるようになる。そのまま成長したアリスは、男爵家のおじさんの元に嫁ぐことになるが、初夜で破瓜の血が流れず……?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる