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憂鬱な転生【カノンの場合】
27.お茶会の行方は
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「突然すみませんでした。あの、本当に私までご一緒して良かったんですか?」
「え、えぇ。あの、」
「もちろん! 今日は彩音ちゃん一人だったんだね? 瑠依は? これから待ち合わせとか?」
カノンが返事をするよりも早く、隣に座った玲央が元気よく返事をした。なんだか普段よりも一層ニコニコとして満面の笑みだ。きっと玲央に尻尾が生えていたら、今頃ちぎれんばかりに振られていることだろう。
「彼は今日ご実家に帰っているので。……私は一人でお散歩中だったんです」
そう言うと彩音はカノンのぎこちない視線に気が付いたのか、ちらりとこちらを窺い見た。
それに気が付いて、カノンは一生懸命、好感を示す笑顔を作って応えた。
そうだ、偶然で突然にしても、こうしてお話できる機会に恵まれるだなんて、願ったり叶ったりなのだ。この機会に打ち解けて是非ともお友達に……!
カノンは改めて彩音の方へ向き直ると、意を決して話しかけた。
「あの……私、ずっと彩音さんとお話したいと思っていたので。ご一緒できて嬉しいです」
「……」
――ん? なんだろう? 彩音さんの顔が強張ったような? 同い年なのについ敬語になっちゃったし、なんかよそよそしかったかな?
カノンは香りが抜けた、ぬるいティーカップを傾けた。喉が渇いて仕方ない。同い年という設定とはいえ、密かに憧れの目で見ていたひとと話すのは緊張する。
奏や玲央が振ってくれる話題に相槌を返しながら眺めていると、並んで座る奏と彩音は本当によく似ている。
奏の容姿にはようやく最近慣れてきたところだが、二人揃った美貌の姉弟を目の前にすると全然慣れる気がしない。
――あぁ、本当に綺麗なひと。あんなにピアノの腕前だって素晴らしいし。しかもルイ先輩っていうあんなに素敵なひととお付き合いしているなんて。
瑠依はゲームの中でも一番人気の、言わばゲームの主要攻略キャラだったのだ。
そんな学園の人気者を射止めるのだから、本当にすごいことだと思う。
だがそれも、公園の緑をバックにして木漏れ日を背に佇む、まさに女神のような彩音を見ていると納得するしかない。ラフにかきあげた髪の後れ毛が汗に滲んだ頬にかかって、どこか扇情的な雰囲気すらある。
カノンは思わずほぉっとため息をついた。
すると、その瞬間ビクッと彩音が肩を震わせた。見つめていたカノンにだけわかるくらいの、ほんの微かに。不審に思いながらも、そんな彩音に話しかけるか迷っていたところで、奏が「あ」と声を上げた。
「僕さっきの公園に忘れ物してる」
「え、マジでー? 奏、大丈夫?」
「うーんと、今見に行ってみますね。あの、先輩一緒に行ってくれませんか?」
「へ? 俺? まぁいいけど。ちょっと行ってくんねー、二人とも」
そう言って奏と玲央が席を立った。さっきの公園とは、今いるテラス席からも見えるくらいに目と鼻の先程の場所だ。
そうして何故かそこには、カノンと彩音だけが取り残された。
(こ、これは話しかけるチャンスなのでは……!?)
だが、向かい合って座っている彩音とはなんとなく視線がかみ合こともなく、気まずい沈黙が訪れる。
カノンはただ彼女が優雅にミルフィーユを口に運ぶのを見つめながら、あぁでもない、こうでもないと話しかける切っ掛けを探して、口を開きあぐねていた。そうして、いつの間にかテーブルの上で両手の拳をぎゅっと固く握りしめていることに気がついた。
(う、わたし空回りしてるなぁ……)
少し、落ち着こう。そう思い、彩音の顔を改めて見上げると、気が付けばその握りしめた拳を、彩音が強張った表情で凝視していた。
「あ、あの」
「あの」
その瞬間、カノンと彩音の言葉が被った。
バツが悪くなってお互いに目を見合わせて、どうぞどうぞとジェスチャーをし合う。
一瞬の逡巡の後、一つ息を吐いて彩音が口を開いた。そのどこか鬼気迫る様子にカノンは息を詰めて、彼女の言葉を待った。
「あの、私! 私、いま……、大河内瑠依さんとお付き合いしています」
「え」
「お付き合いしているんです」
何かを宣言するかのようにハッキリとそう発した彼女に、カノンは呆気にとられた。
心なしか、その長いまつ毛にふちどられた意思の強そうな赤紫の瞳が揺れている。突然の告白に呆然としながらも、なんて返したものかとカノンは視線をうろつかせた。
彩音は依然として、そんなカノンを固い表情で見つめている。
「――えっと、あの……、はい。知ってます」
「……」
「先日のチャリティーコンサートの時に二人でいるところを見て、すごくお似合いで、素敵だなって思ってました」
その言葉に、彼女の強い眼差しが揺れて、困惑の色を灯した。
「……本当に?」
「? はい。二人が一緒にいるのを見た時、勝手な話なんだけど、私まで嬉しい気持ちになったんです……って、つい敬語で話しちゃいますね、同い年なのに」
そう言って、できるだけ力を抜いて笑いかけた。そして、あ、そういえば とカノンは続けた。
「以前、雨の日にびしょ濡れになってた時に偶々居合わせた大河内先輩から借りた傘があって……。処分していいって言われたんだけど、そうも出来なくて。良かったら彩音さんに渡してもいい、かな?」
「―――ッ」
カノンが言い終えるかどうかというところで、突然彩音は感極まった様子で顔を両手で覆ってしまった。すすり泣く声こそ聞こえないものの、いきなり彩音のその姿に、狼狽えることしかできない。
「え、あの? ど、どうしたの? 彩音さん? 大丈夫? え、え?」
(え? 私なにかまずいこと言った? 傘の話ってそんなに不快だった? それともルイ先輩を攻略対象として見てたって気が付かれちゃった? いや、でも)
そうして突っ伏す彩音、慌てふためいているカノンという最悪のタイミングで、そこへ奏と玲央が用事を終えて戻ってくるのが見えて、カノンはますます狼狽えた。
「え、えぇ。あの、」
「もちろん! 今日は彩音ちゃん一人だったんだね? 瑠依は? これから待ち合わせとか?」
カノンが返事をするよりも早く、隣に座った玲央が元気よく返事をした。なんだか普段よりも一層ニコニコとして満面の笑みだ。きっと玲央に尻尾が生えていたら、今頃ちぎれんばかりに振られていることだろう。
「彼は今日ご実家に帰っているので。……私は一人でお散歩中だったんです」
そう言うと彩音はカノンのぎこちない視線に気が付いたのか、ちらりとこちらを窺い見た。
それに気が付いて、カノンは一生懸命、好感を示す笑顔を作って応えた。
そうだ、偶然で突然にしても、こうしてお話できる機会に恵まれるだなんて、願ったり叶ったりなのだ。この機会に打ち解けて是非ともお友達に……!
カノンは改めて彩音の方へ向き直ると、意を決して話しかけた。
「あの……私、ずっと彩音さんとお話したいと思っていたので。ご一緒できて嬉しいです」
「……」
――ん? なんだろう? 彩音さんの顔が強張ったような? 同い年なのについ敬語になっちゃったし、なんかよそよそしかったかな?
カノンは香りが抜けた、ぬるいティーカップを傾けた。喉が渇いて仕方ない。同い年という設定とはいえ、密かに憧れの目で見ていたひとと話すのは緊張する。
奏や玲央が振ってくれる話題に相槌を返しながら眺めていると、並んで座る奏と彩音は本当によく似ている。
奏の容姿にはようやく最近慣れてきたところだが、二人揃った美貌の姉弟を目の前にすると全然慣れる気がしない。
――あぁ、本当に綺麗なひと。あんなにピアノの腕前だって素晴らしいし。しかもルイ先輩っていうあんなに素敵なひととお付き合いしているなんて。
瑠依はゲームの中でも一番人気の、言わばゲームの主要攻略キャラだったのだ。
そんな学園の人気者を射止めるのだから、本当にすごいことだと思う。
だがそれも、公園の緑をバックにして木漏れ日を背に佇む、まさに女神のような彩音を見ていると納得するしかない。ラフにかきあげた髪の後れ毛が汗に滲んだ頬にかかって、どこか扇情的な雰囲気すらある。
カノンは思わずほぉっとため息をついた。
すると、その瞬間ビクッと彩音が肩を震わせた。見つめていたカノンにだけわかるくらいの、ほんの微かに。不審に思いながらも、そんな彩音に話しかけるか迷っていたところで、奏が「あ」と声を上げた。
「僕さっきの公園に忘れ物してる」
「え、マジでー? 奏、大丈夫?」
「うーんと、今見に行ってみますね。あの、先輩一緒に行ってくれませんか?」
「へ? 俺? まぁいいけど。ちょっと行ってくんねー、二人とも」
そう言って奏と玲央が席を立った。さっきの公園とは、今いるテラス席からも見えるくらいに目と鼻の先程の場所だ。
そうして何故かそこには、カノンと彩音だけが取り残された。
(こ、これは話しかけるチャンスなのでは……!?)
だが、向かい合って座っている彩音とはなんとなく視線がかみ合こともなく、気まずい沈黙が訪れる。
カノンはただ彼女が優雅にミルフィーユを口に運ぶのを見つめながら、あぁでもない、こうでもないと話しかける切っ掛けを探して、口を開きあぐねていた。そうして、いつの間にかテーブルの上で両手の拳をぎゅっと固く握りしめていることに気がついた。
(う、わたし空回りしてるなぁ……)
少し、落ち着こう。そう思い、彩音の顔を改めて見上げると、気が付けばその握りしめた拳を、彩音が強張った表情で凝視していた。
「あ、あの」
「あの」
その瞬間、カノンと彩音の言葉が被った。
バツが悪くなってお互いに目を見合わせて、どうぞどうぞとジェスチャーをし合う。
一瞬の逡巡の後、一つ息を吐いて彩音が口を開いた。そのどこか鬼気迫る様子にカノンは息を詰めて、彼女の言葉を待った。
「あの、私! 私、いま……、大河内瑠依さんとお付き合いしています」
「え」
「お付き合いしているんです」
何かを宣言するかのようにハッキリとそう発した彼女に、カノンは呆気にとられた。
心なしか、その長いまつ毛にふちどられた意思の強そうな赤紫の瞳が揺れている。突然の告白に呆然としながらも、なんて返したものかとカノンは視線をうろつかせた。
彩音は依然として、そんなカノンを固い表情で見つめている。
「――えっと、あの……、はい。知ってます」
「……」
「先日のチャリティーコンサートの時に二人でいるところを見て、すごくお似合いで、素敵だなって思ってました」
その言葉に、彼女の強い眼差しが揺れて、困惑の色を灯した。
「……本当に?」
「? はい。二人が一緒にいるのを見た時、勝手な話なんだけど、私まで嬉しい気持ちになったんです……って、つい敬語で話しちゃいますね、同い年なのに」
そう言って、できるだけ力を抜いて笑いかけた。そして、あ、そういえば とカノンは続けた。
「以前、雨の日にびしょ濡れになってた時に偶々居合わせた大河内先輩から借りた傘があって……。処分していいって言われたんだけど、そうも出来なくて。良かったら彩音さんに渡してもいい、かな?」
「―――ッ」
カノンが言い終えるかどうかというところで、突然彩音は感極まった様子で顔を両手で覆ってしまった。すすり泣く声こそ聞こえないものの、いきなり彩音のその姿に、狼狽えることしかできない。
「え、あの? ど、どうしたの? 彩音さん? 大丈夫? え、え?」
(え? 私なにかまずいこと言った? 傘の話ってそんなに不快だった? それともルイ先輩を攻略対象として見てたって気が付かれちゃった? いや、でも)
そうして突っ伏す彩音、慌てふためいているカノンという最悪のタイミングで、そこへ奏と玲央が用事を終えて戻ってくるのが見えて、カノンはますます狼狽えた。
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