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憂鬱な転生【カノンの場合】
28.お茶会の行方は.2
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「あれ? どうしたのー? 二人とも、なんかあったー?」
「玲央先輩、あ、あの、普通にお話してたんですけど? あの、彩音さん?」
どうしよう、なんて説明していいかわからない。この状況はどう見ても、カノンが二人になった隙に、学年一の美少女を泣かしているようにしか見えない。しかもこんな短時間で。とんでもない虐めでもしない限り、泣かすことなんてできないのは明らかだ。
え、どうしよう。
「どうしたの、姉さん」
歩み寄った奏が心配そうに、それでも少し強引に彩音の肩をひき、顔を覗き込んだ。張り詰める空気に、カノンの方が今にも泣き出しそうだ。
「……よかったぁ……」
「へ?」
「良かったよー! 奏くん!!」
「! うわっ!」
奏が覗き込むのとほぼ同時に、ガバッと音がしそうな勢いで顔を上げた彩音が、その勢いのままに奏に抱き着いた。ガタッと大きな音を立てて、椅子と共に二人は倒れ込む。
当然周囲の耳目を一身に集めることになり、一瞬で奏の顔は真っ赤に染まった。
「ちょっと! バッ……! 姉ちゃんやめろって! 人前!!」
「だってぇ、嬉しいよー!」
「くっつくなって!! 離れてよっ」
何故か歓喜する彩音と、今まで聞いたこともないような気やすい様子でやり取りを始めた奏。
取り残された二人は、それを呆然と見つめる。
カノンはどうしていいかわからず、すぐ傍に立ったままだった玲央を見上げた。
「あの……、これは……?」
「うーん? わかんないけど、まぁ落ち着くの待ってよっかー」
そう言うと玲央は、店員を呼び「この自家製ジンジャーエールと、アイスティー2つずつ追加で」とメニューを指差した。
◇◇◇◇◇
「……お騒がせしました」
「すみません、姉さんが……」
「全然だよー。奏と彩音ちゃんは本当仲良し姉弟なんだねー」
「お恥ずかしい限りです……」
彩音と奏が落ち着きを取り戻すまで、カノンは玲央とほのぼのと音楽の話をしながらお茶をしていた。落ち着いた二人が今度は恥ずかしそうに所在無さげに座っている。
「でも姉さんは、前からカノン先輩のことを気にしていて。打ち解けられたなら良かったです」
「もう! 奏くんってば言いすぎ!」
「本当のことじゃん」
「だめだってばぁ!」
赤い顔をした彩音がポカポカと奏を叩いた。それを余裕の笑みで交わす奏は、これまでカノンに見せていたのよりもずっとリラックスしていて、どこかいたずらっ子のようだ。
(うっ、なんていう可愛い姉弟だ。後光がさして見える……!)
そしてカノンは安堵と、気にしていたという発言に嬉しくて頬が緩む。
彩音のことを気にしていたのは、カノンも同じだ。彩音がカノンの何を気にしていたのかまではわからないが、とりあえず好意的に捉えてよさそうだし、嬉しい。
「あっ」
驚いたような彩音の声に顔を向けると、何故かカノンをじっと見つめていた。正確にはカノンの胸元を。
「あ、急にごめんなさい。あの、いつも舞宮さんがつけてたブローチは?」
「え、あぁ。あの、壊れちゃって……」
「え!? 今は?」
「いまはひとが預かってくれているんだけど……」
――私がいつもつけているブローチのこと知ってたんだ。本当に気にしてくれてたんだな。
そう、カノンになってからというもの、私服の時もいつもブローチを付けていた。改めて左胸の空白を思うと、心細さが襲ってくる。あの日の、絶望がまだチリチリと胸を焼くのを感じる。
そして彩音はそんなカノンの言葉を聞いた途端、何か考え込むように口元に手を当てて、考え込みはじめた。
「? 彩音さん?」
「あ、カノンちゃん今日用事あるって言ってなかったっけ? 時間大丈夫? 俺送るよー?」
「……! あ、こんな時間! すみません、彩音さん奏くん、今日は失礼しますね」
そのまま思案している彩音の表情が気になりながらも、カノンは玲央と連れ立ってテラス席を離れた。
――仲良く、なれたらいいなぁ……。
二人に手を振りながら、そんなことを考える。
お友達、になってくれたらいいなぁ。
◇◇◇◇◇
「ねぇ、奏くん」
「ん? なに姉ちゃん。あ、僕この季節のフルーツタルトも頼んでいい?」
「んもぅ! 私のこと今日わざと呼んだんでしょ!」
「バレた? でもカノン先輩のことずっと気にしてたでしょ。どう? 誤解はとけた?」
「う、うん……。それは有難いんだけど……」
彩音の様子を気にすることもなく、奏は店員に向かってケーキの追加をオーダーした。テーブルにやってきた店員は奏の甘い微笑みに顔を赤らめて、慌てて立ち去って行く。
彩音は手にしたグラスのストローをぐるぐるとかきまぜた。グラスの底に沈んだ黄金色のシロップが、ふわりと巻き上がるようにして炭酸の泡と共に溶けていく。
「ブローチが壊れるっていうことは……。カノンちゃん、同じクラスの『リンリン』……うーんと、日高凛子さんと、あまり仲良くないのかしら?」
「んー? どうだろ。あんまり友達といるところは見ないようだけど。姉ちゃんの方が同じ学年だし見るんじゃないの? あー……ほら、あの時雨先輩とよくいるけどね。あの人図体でかくて怖いんだよな」
「ふーん……」
目つきも悪いしさー、本当カノン先輩に近づく奴全員にけん制してくんだよなー。そんなことを言いながら、奏はテーブルに置かれた新しいケーキの苺にフォークを突き刺して口に入れた。
そして同じように、タルトの上のマスカットをフォークに刺すと、彩音の口に運ぶ。思考に耽って上の空の彩音は、マスカットの粒をあーんして口に入れた。
「ん、美味しい。……うーん、このままじゃグッドエンドは厳しいわね……」
「うん? なんか言った?」
「奏くんはカノンちゃんのブローチ、誰が持っているか知ってる? さっき預けてるって言ってたでしょ? 持ってるの奏くんじゃないわよね?」
「なんで僕が持ってるのさ。あぁ……、うーんと多分城野院先輩かな? コンサートの日に僕は玲央先輩といたんだけど、廊下ですれ違ったんだよね。なんか親から呼び出されたとか言ってたけど、そういえば持ってたかも」
「城野院先輩……!」
彩音はそう叫ぶと、赤らめた頬を大げさに両手で抑えた。彩音の様子が変なのはいつものことなので、奏は特に気にする様子もなく、ケーキの最後の一欠けらを口に放り込む。
「うーん、そっかぁなるほど……。これは私が一肌脱いだ方がいいかもしれないわね……」
「……姉ちゃん? 何考えてるのか知らないけど、余計なことはすんなよ?」
「余計? いいえ、私はただの名もなきモブだもの。何かしたところで大した影響はないはずだわ」
そう言って彩音はにっこりとほほ笑んだ。
その美しい笑みがもたらす嫌な予感に、奏はげんなりしてため息をこぼすのだった。
「玲央先輩、あ、あの、普通にお話してたんですけど? あの、彩音さん?」
どうしよう、なんて説明していいかわからない。この状況はどう見ても、カノンが二人になった隙に、学年一の美少女を泣かしているようにしか見えない。しかもこんな短時間で。とんでもない虐めでもしない限り、泣かすことなんてできないのは明らかだ。
え、どうしよう。
「どうしたの、姉さん」
歩み寄った奏が心配そうに、それでも少し強引に彩音の肩をひき、顔を覗き込んだ。張り詰める空気に、カノンの方が今にも泣き出しそうだ。
「……よかったぁ……」
「へ?」
「良かったよー! 奏くん!!」
「! うわっ!」
奏が覗き込むのとほぼ同時に、ガバッと音がしそうな勢いで顔を上げた彩音が、その勢いのままに奏に抱き着いた。ガタッと大きな音を立てて、椅子と共に二人は倒れ込む。
当然周囲の耳目を一身に集めることになり、一瞬で奏の顔は真っ赤に染まった。
「ちょっと! バッ……! 姉ちゃんやめろって! 人前!!」
「だってぇ、嬉しいよー!」
「くっつくなって!! 離れてよっ」
何故か歓喜する彩音と、今まで聞いたこともないような気やすい様子でやり取りを始めた奏。
取り残された二人は、それを呆然と見つめる。
カノンはどうしていいかわからず、すぐ傍に立ったままだった玲央を見上げた。
「あの……、これは……?」
「うーん? わかんないけど、まぁ落ち着くの待ってよっかー」
そう言うと玲央は、店員を呼び「この自家製ジンジャーエールと、アイスティー2つずつ追加で」とメニューを指差した。
◇◇◇◇◇
「……お騒がせしました」
「すみません、姉さんが……」
「全然だよー。奏と彩音ちゃんは本当仲良し姉弟なんだねー」
「お恥ずかしい限りです……」
彩音と奏が落ち着きを取り戻すまで、カノンは玲央とほのぼのと音楽の話をしながらお茶をしていた。落ち着いた二人が今度は恥ずかしそうに所在無さげに座っている。
「でも姉さんは、前からカノン先輩のことを気にしていて。打ち解けられたなら良かったです」
「もう! 奏くんってば言いすぎ!」
「本当のことじゃん」
「だめだってばぁ!」
赤い顔をした彩音がポカポカと奏を叩いた。それを余裕の笑みで交わす奏は、これまでカノンに見せていたのよりもずっとリラックスしていて、どこかいたずらっ子のようだ。
(うっ、なんていう可愛い姉弟だ。後光がさして見える……!)
そしてカノンは安堵と、気にしていたという発言に嬉しくて頬が緩む。
彩音のことを気にしていたのは、カノンも同じだ。彩音がカノンの何を気にしていたのかまではわからないが、とりあえず好意的に捉えてよさそうだし、嬉しい。
「あっ」
驚いたような彩音の声に顔を向けると、何故かカノンをじっと見つめていた。正確にはカノンの胸元を。
「あ、急にごめんなさい。あの、いつも舞宮さんがつけてたブローチは?」
「え、あぁ。あの、壊れちゃって……」
「え!? 今は?」
「いまはひとが預かってくれているんだけど……」
――私がいつもつけているブローチのこと知ってたんだ。本当に気にしてくれてたんだな。
そう、カノンになってからというもの、私服の時もいつもブローチを付けていた。改めて左胸の空白を思うと、心細さが襲ってくる。あの日の、絶望がまだチリチリと胸を焼くのを感じる。
そして彩音はそんなカノンの言葉を聞いた途端、何か考え込むように口元に手を当てて、考え込みはじめた。
「? 彩音さん?」
「あ、カノンちゃん今日用事あるって言ってなかったっけ? 時間大丈夫? 俺送るよー?」
「……! あ、こんな時間! すみません、彩音さん奏くん、今日は失礼しますね」
そのまま思案している彩音の表情が気になりながらも、カノンは玲央と連れ立ってテラス席を離れた。
――仲良く、なれたらいいなぁ……。
二人に手を振りながら、そんなことを考える。
お友達、になってくれたらいいなぁ。
◇◇◇◇◇
「ねぇ、奏くん」
「ん? なに姉ちゃん。あ、僕この季節のフルーツタルトも頼んでいい?」
「んもぅ! 私のこと今日わざと呼んだんでしょ!」
「バレた? でもカノン先輩のことずっと気にしてたでしょ。どう? 誤解はとけた?」
「う、うん……。それは有難いんだけど……」
彩音の様子を気にすることもなく、奏は店員に向かってケーキの追加をオーダーした。テーブルにやってきた店員は奏の甘い微笑みに顔を赤らめて、慌てて立ち去って行く。
彩音は手にしたグラスのストローをぐるぐるとかきまぜた。グラスの底に沈んだ黄金色のシロップが、ふわりと巻き上がるようにして炭酸の泡と共に溶けていく。
「ブローチが壊れるっていうことは……。カノンちゃん、同じクラスの『リンリン』……うーんと、日高凛子さんと、あまり仲良くないのかしら?」
「んー? どうだろ。あんまり友達といるところは見ないようだけど。姉ちゃんの方が同じ学年だし見るんじゃないの? あー……ほら、あの時雨先輩とよくいるけどね。あの人図体でかくて怖いんだよな」
「ふーん……」
目つきも悪いしさー、本当カノン先輩に近づく奴全員にけん制してくんだよなー。そんなことを言いながら、奏はテーブルに置かれた新しいケーキの苺にフォークを突き刺して口に入れた。
そして同じように、タルトの上のマスカットをフォークに刺すと、彩音の口に運ぶ。思考に耽って上の空の彩音は、マスカットの粒をあーんして口に入れた。
「ん、美味しい。……うーん、このままじゃグッドエンドは厳しいわね……」
「うん? なんか言った?」
「奏くんはカノンちゃんのブローチ、誰が持っているか知ってる? さっき預けてるって言ってたでしょ? 持ってるの奏くんじゃないわよね?」
「なんで僕が持ってるのさ。あぁ……、うーんと多分城野院先輩かな? コンサートの日に僕は玲央先輩といたんだけど、廊下ですれ違ったんだよね。なんか親から呼び出されたとか言ってたけど、そういえば持ってたかも」
「城野院先輩……!」
彩音はそう叫ぶと、赤らめた頬を大げさに両手で抑えた。彩音の様子が変なのはいつものことなので、奏は特に気にする様子もなく、ケーキの最後の一欠けらを口に放り込む。
「うーん、そっかぁなるほど……。これは私が一肌脱いだ方がいいかもしれないわね……」
「……姉ちゃん? 何考えてるのか知らないけど、余計なことはすんなよ?」
「余計? いいえ、私はただの名もなきモブだもの。何かしたところで大した影響はないはずだわ」
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