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遊び人
第13話 見ての通り
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「宿もないんやろ? キミがええなら、ここに寝泊まりしてもええよ」
「この喫茶店に、ですか?」
「そうそう。奥にもう少しスペースがあるから。どうせ私は留守にしてることが多いからね。勝手に入って使ったらええよ」
「……ありがとうございます」
タダの宿が手に入るなら、それはありがたいことである。なんともラッキーなことが続きすぎて、なんだか逆に不気味である。道場を失ったメルに申し訳ないくらい、エトワールはラッキーが続いている。
ということなので、本日はありがたくルスルスの喫茶店に宿泊させてもらった。ルスルスという異名の通り、すぐにルスルスはいなくなって、エトワール1人での宿泊だった。
そんなこんなで翌日。メルの稽古が始まる日になった。エトワールはルスルスにもらった服に着替えて、メルの道場に向かった。
はっきり言って、エトワールはかなり浮かれていた。自分の夢である最強という地位。その夢への第一歩が始まると考えると、どうしても頬が緩んでしまう。
とはいえ、ずっと浮かれている場合ではない。稽古そのものは全力で真剣におこなうつもりだった。
いったいどんな稽古が待っているのだろう。どんなにつらい稽古だったとしても、耐えられるつもりだ。体力には自信があるし、気力も十分だ。
メルの素性も気になるけれど、今は自分の実力向上が最優先。もしもメルと仲良くなれたら、聞いてみよう。出会ったばかりの今、聞くべきことではない。
走ってメルの道場まで行く。稽古前のウォーミングアップにもちょうどいい。少しでも体力は温存しておくべきかもしれないが、浮かれているエトワールに歩いていくという選択肢は見当たらなかった。
そして道場……いや、道場跡にたどり着く。相変わらず道場はまっ黒焦げの焼け野原だが、稽古がつけてもらえるのなら問題ない。
門……門だった場所をくぐって、道場に立ち入る。もう塀も壊れているので門を通る必要はないのだが、なんとなく門を通った。
「おはよう」黒焦げの道場にいたのは、当然メル・キュールだった。相変わらず無表情で、浮かれた様子は見えない。「稽古前に……ちょっと話がある」
「なんでしょうか」
「見ての通り、道場は燃えた」本当に見ての通りだった。今も日光がエトワールたちに直接降り注いでいる。「そして……道場に私のお金はほとんど使った」
悲しい事実が判明してくる。ほぼ全財産をつぎ込んでの道場だったらしい。本当にかける言葉がない。
「結果として、財政難。だから……エトワールくんに稽古をつけることと、出資者を探すこと……それと新たな門下生を見つけることを同時にやらないといけない」
「や、やることが多いですね」
「……うん……とはいえ、エトワールくんの稽古の時間を減らす訳にはいかないから……お願いがある」
「なんでしょう?」
「もしも……出資者になってくれそうな人とか、門下生になってくれそうな人がいたら、勧誘してみて。私もやってるけど……避けられてるみたいだから」
「は、はい……」出資者といえば、思い出した。「そういえば……ルスルスさんが僕を雇ってくれるって言うんですけど……」
「ルスルスが?」……メルは一瞬だけ思考して、「……キミの職業選択を狭める権限は、私にはない」
「なら……ルスルスさんのところで雇われることにします」さらに、エトワールは続ける。「ルスルスさん関連の話なんですけど……ルスルスさんに出資してもらうわけにはいかないんですか?」
「……私は信用されてないから」
「そうみたいですけど……」ルスルスが言うには、メル個人の実力は信用しているが、師範としての実力は信用していないということ。だから、道場に関しては出資しない。「もう少しお願いすれば……」
「お願いしたことはある。でも……まったく手応えがない」
なるほど。ルスルスは気さくそうな人物に見えたが、情報屋らしく非情な一面も持ち合わせているようだ。ならば、これ以上の出資のお願いは無意味なのだろう。
「それから……今から稽古を始めるんだけど……どれくらいやる?」
「どれくらい、とは?」
「いきなり無理をする必要はないから、最初は軽めに――」
「一番キツくお願いします!」
エトワールは元気よく言った。体力には自信があったし、相当な鍛錬にも耐えられると思っているからだ。
「……それはいいけれど……辛くなったら途中で言ってね。地味だし」
「大丈夫です。たぶん」
地味でも平気なつもりだ。今までずっと1人で修行していたのだから、派手な修行なんて求めていない。地味であろうが実力が身につくなら問題ない。
ということで、エトワールの初稽古がはじまるのであった。
「この喫茶店に、ですか?」
「そうそう。奥にもう少しスペースがあるから。どうせ私は留守にしてることが多いからね。勝手に入って使ったらええよ」
「……ありがとうございます」
タダの宿が手に入るなら、それはありがたいことである。なんともラッキーなことが続きすぎて、なんだか逆に不気味である。道場を失ったメルに申し訳ないくらい、エトワールはラッキーが続いている。
ということなので、本日はありがたくルスルスの喫茶店に宿泊させてもらった。ルスルスという異名の通り、すぐにルスルスはいなくなって、エトワール1人での宿泊だった。
そんなこんなで翌日。メルの稽古が始まる日になった。エトワールはルスルスにもらった服に着替えて、メルの道場に向かった。
はっきり言って、エトワールはかなり浮かれていた。自分の夢である最強という地位。その夢への第一歩が始まると考えると、どうしても頬が緩んでしまう。
とはいえ、ずっと浮かれている場合ではない。稽古そのものは全力で真剣におこなうつもりだった。
いったいどんな稽古が待っているのだろう。どんなにつらい稽古だったとしても、耐えられるつもりだ。体力には自信があるし、気力も十分だ。
メルの素性も気になるけれど、今は自分の実力向上が最優先。もしもメルと仲良くなれたら、聞いてみよう。出会ったばかりの今、聞くべきことではない。
走ってメルの道場まで行く。稽古前のウォーミングアップにもちょうどいい。少しでも体力は温存しておくべきかもしれないが、浮かれているエトワールに歩いていくという選択肢は見当たらなかった。
そして道場……いや、道場跡にたどり着く。相変わらず道場はまっ黒焦げの焼け野原だが、稽古がつけてもらえるのなら問題ない。
門……門だった場所をくぐって、道場に立ち入る。もう塀も壊れているので門を通る必要はないのだが、なんとなく門を通った。
「おはよう」黒焦げの道場にいたのは、当然メル・キュールだった。相変わらず無表情で、浮かれた様子は見えない。「稽古前に……ちょっと話がある」
「なんでしょうか」
「見ての通り、道場は燃えた」本当に見ての通りだった。今も日光がエトワールたちに直接降り注いでいる。「そして……道場に私のお金はほとんど使った」
悲しい事実が判明してくる。ほぼ全財産をつぎ込んでの道場だったらしい。本当にかける言葉がない。
「結果として、財政難。だから……エトワールくんに稽古をつけることと、出資者を探すこと……それと新たな門下生を見つけることを同時にやらないといけない」
「や、やることが多いですね」
「……うん……とはいえ、エトワールくんの稽古の時間を減らす訳にはいかないから……お願いがある」
「なんでしょう?」
「もしも……出資者になってくれそうな人とか、門下生になってくれそうな人がいたら、勧誘してみて。私もやってるけど……避けられてるみたいだから」
「は、はい……」出資者といえば、思い出した。「そういえば……ルスルスさんが僕を雇ってくれるって言うんですけど……」
「ルスルスが?」……メルは一瞬だけ思考して、「……キミの職業選択を狭める権限は、私にはない」
「なら……ルスルスさんのところで雇われることにします」さらに、エトワールは続ける。「ルスルスさん関連の話なんですけど……ルスルスさんに出資してもらうわけにはいかないんですか?」
「……私は信用されてないから」
「そうみたいですけど……」ルスルスが言うには、メル個人の実力は信用しているが、師範としての実力は信用していないということ。だから、道場に関しては出資しない。「もう少しお願いすれば……」
「お願いしたことはある。でも……まったく手応えがない」
なるほど。ルスルスは気さくそうな人物に見えたが、情報屋らしく非情な一面も持ち合わせているようだ。ならば、これ以上の出資のお願いは無意味なのだろう。
「それから……今から稽古を始めるんだけど……どれくらいやる?」
「どれくらい、とは?」
「いきなり無理をする必要はないから、最初は軽めに――」
「一番キツくお願いします!」
エトワールは元気よく言った。体力には自信があったし、相当な鍛錬にも耐えられると思っているからだ。
「……それはいいけれど……辛くなったら途中で言ってね。地味だし」
「大丈夫です。たぶん」
地味でも平気なつもりだ。今までずっと1人で修行していたのだから、派手な修行なんて求めていない。地味であろうが実力が身につくなら問題ない。
ということで、エトワールの初稽古がはじまるのであった。
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