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道場破り
第31話 限りなく適切な言葉
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その後、マーチが入れたジュースを飲んで道場に戻った。ジュースはとても美味しくて、材料じゃなくてルスルスとメルの方の問題であることが判明した。
道場に戻って、軽く筋力トレーニング。そして、最後に少し実践的なトレーニングをおこなった。すでに疲れ切っている状態での実践的なトレーニングは想像以上に大変だった。自分が疲れているのだということに、否が応でも気付かされた。
「終わり」最後の柔軟体操を終えて、メルが言った。「……最後までやりきれるとは、思ってなかった」
「そうですか?」たしかに疲れてヘトヘトだけれど、体力的にはまだ余裕がある。「もうちょっとできますけど……」
「……でも、今日は終わり。明日にはもう少し用具を揃えておくから。もしよかったら、明日も来て」
「はい」
当然明日も来るつもりだ。せっかくできた師匠。そう簡単に逃がすつもりはない。
空はすっかり夕暮れだった。オレンジ色の日差しと、少し冷たくなってきた風がエトワールの汗だくの体を冷やしてくれた。
そして、修行を終えたメルが、ジュンに言う。
「おまたせ」
「いえ、こちらは無理を言って手合わせしてもらう身。少しくらいの待ち時間、問題ありません」
「そう……じゃあ、1つ聞く」メルはジュンにもいつもの質問をした。「あなたにとって、強さって何?」
「強さ……ですか?」
「そう。聞かせてほしい……差し支えがあるなら答えなくてもいいけど」
「いえ……ですが、少し考えさせてください」しばらく、ジュンは考え込んだ。真面目な人らしい。「……私にとって強さとは、勝つことです」
「……」
「勝利こそ強さの証明。誰が相手でも、どんな状況でも勝利する。それが私にとっての強さです。勝利して、私は私の強さを証明する。それが、私が道場破りをしている理由の1つかもしれません」
「なるほど……わかった」言って、メルは軽く構える。「どうぞ」
「はい。では、全力で」
ジュンも構える。腰を落として、エトワールからすれば少し動きづらそうな構えに見えた。大きく右手を引いて、力を溜める。なんだか大砲みたいな迫力がある構えだった。
「正拳突き」エトワールの隣で、マーチが言った。「あの一撃で、数々の実力者を沈めてるらしいね」
正拳突き……なるほど。あの構えは威力重視の構えらしい。すべては右の拳を当てるためだけ。右の拳の威力を上げるためだけの構え。そのために彼女が行き着いた構えなのかもしれない。
ジュンが1つ息を吐く。そして次の瞬間、激しい音が聞こえた。それは地面を蹴る音。強烈な踏み込みによって生み出されたスピードで、ジュンは一瞬にしてメルとの距離を詰めた。
そして、右の拳を迷いなく放つ。その拳は乾いた音をたてた。空気を殴って破裂させたみたいな音だった。その後、エトワールの場所まで風が届く。砂埃が舞って、圧倒的威力の正拳突きが繰り出された。
その拳は、メルの顔の横スレスレを通過していた。
その拳を見て、メルが言った。
「良い技」
「ありあがとうございます」ジュンは一度距離をおいてから、「メルさんは剣士、ですよね」
「……一応そうなるのかな」
「でしたら、その刀を抜いていただきたい。本気のあなたと戦いたいのです」
「……どうだろう……抜いてもいいけど……」
「何を迷っているのです?」
「……殺しちゃう可能性が……」
「ならば問題ございません」ジュンは挑発的に手招きをする。「まだ私は本気ではございませんので」
「なるほど……じゃあ、いいかな」
そう言ってメルは刀を抜いた。本日2度目。メルが実力を認めた相手にしか見せないその刀剣。妖しく美しい、妖刀みたいな刀。
その刀を見て、ジュンが言う。
「……良い刀ですね。なんという刀ですか?」
「……名前はない。先生は、そう言ってた」
「先生?」
「私を育ててくれた人」
「なるほど……」それ以上刀のことで会話は広がらず、「では、続けましょう」
「うん。死なないでね」
その後、メルとジュンは手合わせを続けていた。メルのほうが格上であることは確かなようだが、ジュンも相当な実力者のようだ。少なくとも、メルが刀を抜いても問題ないと判断した相手だ。マグノリアほどではないにしても、最強クラスの使い手なのだろう。ディビジョンAでも上位に入るのではないだろうか。
そしてしばらく打ち合ったあと、不意にジュンが動きを止めた。そして、深々と頭を下げて、
「ありがとうございました」
「……? もういいの?」
「はい。現時点で私があなたにかなわないことはわかりましたので」
「……」
「今日のところはここまでにしますが……また修行してまいります。今度こそあなたに勝てると思ったら、あなたの前に現れます。その時は、また手合わせ願います」
「……修行の最中じゃなければ、いつでもいいよ」
「承知しました。寛大なお言葉、感謝いたします」
そう言って、ジュンは去っていった。突然現れて、突然消えていった。よくわからん人が現れたと思ったら、よくわからんまま帰っていった。
「……なにあれ……?」マーチが言う。「……なんか……変な人だったね……メル師匠の周りって、変な人しかいないの?」
「……かもしれません……」
マーチといい、ジュンといい、エトワールといい変な人ばっかりだ。この中ならまだマーチがまともなのではないか。そして、当然メルも変な人だ。
変人の集まり。現状のメル周辺の人々を表現するなら、限りなく適切な言葉だろう。
道場に戻って、軽く筋力トレーニング。そして、最後に少し実践的なトレーニングをおこなった。すでに疲れ切っている状態での実践的なトレーニングは想像以上に大変だった。自分が疲れているのだということに、否が応でも気付かされた。
「終わり」最後の柔軟体操を終えて、メルが言った。「……最後までやりきれるとは、思ってなかった」
「そうですか?」たしかに疲れてヘトヘトだけれど、体力的にはまだ余裕がある。「もうちょっとできますけど……」
「……でも、今日は終わり。明日にはもう少し用具を揃えておくから。もしよかったら、明日も来て」
「はい」
当然明日も来るつもりだ。せっかくできた師匠。そう簡単に逃がすつもりはない。
空はすっかり夕暮れだった。オレンジ色の日差しと、少し冷たくなってきた風がエトワールの汗だくの体を冷やしてくれた。
そして、修行を終えたメルが、ジュンに言う。
「おまたせ」
「いえ、こちらは無理を言って手合わせしてもらう身。少しくらいの待ち時間、問題ありません」
「そう……じゃあ、1つ聞く」メルはジュンにもいつもの質問をした。「あなたにとって、強さって何?」
「強さ……ですか?」
「そう。聞かせてほしい……差し支えがあるなら答えなくてもいいけど」
「いえ……ですが、少し考えさせてください」しばらく、ジュンは考え込んだ。真面目な人らしい。「……私にとって強さとは、勝つことです」
「……」
「勝利こそ強さの証明。誰が相手でも、どんな状況でも勝利する。それが私にとっての強さです。勝利して、私は私の強さを証明する。それが、私が道場破りをしている理由の1つかもしれません」
「なるほど……わかった」言って、メルは軽く構える。「どうぞ」
「はい。では、全力で」
ジュンも構える。腰を落として、エトワールからすれば少し動きづらそうな構えに見えた。大きく右手を引いて、力を溜める。なんだか大砲みたいな迫力がある構えだった。
「正拳突き」エトワールの隣で、マーチが言った。「あの一撃で、数々の実力者を沈めてるらしいね」
正拳突き……なるほど。あの構えは威力重視の構えらしい。すべては右の拳を当てるためだけ。右の拳の威力を上げるためだけの構え。そのために彼女が行き着いた構えなのかもしれない。
ジュンが1つ息を吐く。そして次の瞬間、激しい音が聞こえた。それは地面を蹴る音。強烈な踏み込みによって生み出されたスピードで、ジュンは一瞬にしてメルとの距離を詰めた。
そして、右の拳を迷いなく放つ。その拳は乾いた音をたてた。空気を殴って破裂させたみたいな音だった。その後、エトワールの場所まで風が届く。砂埃が舞って、圧倒的威力の正拳突きが繰り出された。
その拳は、メルの顔の横スレスレを通過していた。
その拳を見て、メルが言った。
「良い技」
「ありあがとうございます」ジュンは一度距離をおいてから、「メルさんは剣士、ですよね」
「……一応そうなるのかな」
「でしたら、その刀を抜いていただきたい。本気のあなたと戦いたいのです」
「……どうだろう……抜いてもいいけど……」
「何を迷っているのです?」
「……殺しちゃう可能性が……」
「ならば問題ございません」ジュンは挑発的に手招きをする。「まだ私は本気ではございませんので」
「なるほど……じゃあ、いいかな」
そう言ってメルは刀を抜いた。本日2度目。メルが実力を認めた相手にしか見せないその刀剣。妖しく美しい、妖刀みたいな刀。
その刀を見て、ジュンが言う。
「……良い刀ですね。なんという刀ですか?」
「……名前はない。先生は、そう言ってた」
「先生?」
「私を育ててくれた人」
「なるほど……」それ以上刀のことで会話は広がらず、「では、続けましょう」
「うん。死なないでね」
その後、メルとジュンは手合わせを続けていた。メルのほうが格上であることは確かなようだが、ジュンも相当な実力者のようだ。少なくとも、メルが刀を抜いても問題ないと判断した相手だ。マグノリアほどではないにしても、最強クラスの使い手なのだろう。ディビジョンAでも上位に入るのではないだろうか。
そしてしばらく打ち合ったあと、不意にジュンが動きを止めた。そして、深々と頭を下げて、
「ありがとうございました」
「……? もういいの?」
「はい。現時点で私があなたにかなわないことはわかりましたので」
「……」
「今日のところはここまでにしますが……また修行してまいります。今度こそあなたに勝てると思ったら、あなたの前に現れます。その時は、また手合わせ願います」
「……修行の最中じゃなければ、いつでもいいよ」
「承知しました。寛大なお言葉、感謝いたします」
そう言って、ジュンは去っていった。突然現れて、突然消えていった。よくわからん人が現れたと思ったら、よくわからんまま帰っていった。
「……なにあれ……?」マーチが言う。「……なんか……変な人だったね……メル師匠の周りって、変な人しかいないの?」
「……かもしれません……」
マーチといい、ジュンといい、エトワールといい変な人ばっかりだ。この中ならまだマーチがまともなのではないか。そして、当然メルも変な人だ。
変人の集まり。現状のメル周辺の人々を表現するなら、限りなく適切な言葉だろう。
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