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道場破り
第30話 ……14……
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人生とは理不尽なもので、好きなことをしている時間は短く感じられる。なのに、苦手なことをしている時間は長く感じられる。
そんなわけで、非常に長い45分が終了した。エトワールはぐったりと机に崩れ落ちて、
「つ……疲れた……」
「お疲れ」メルは用意してくれた水を机においた。「本当はジュースとかもあるんだけど……私がそれを使うのはルスルスに止められてる。他の人ならいいって」
「なんでですか?」
「……メルちゃんが作るとマズくなるから、って言ってた」
ルスルスよりも? あのヘドロ以下の味がしたオレンジジュースよりも? それは材料が腐ってるんじゃないか?
「飲みたい人は、自分で作って。水なら私でも用意できる」
「お……」マーチが目を輝かせて、「じゃあ私、りんごジュース作って来る。ついでなら、ほかも作ってくるよ」
「ではホットコーヒーを」とジュン。
「あ……できればオレンジジュースをお願いします」とエトワール。
「……私はいい」
とメル。その言葉に、対してマーチが言う。
「お酒が好きだって聞いたけど?」
「……修行中は飲まないことにしてる」
「真面目だねぇ……まぁ、そういうことならいいや」
そう言って、マーチは上の階に移動した。どうやら喫茶店部分で飲み物は調達するらしい。いよいよ都合の良いアジトだった。ここに住みたい。すでに住んでいた。次からこの地下室も使おう。ルスルスに許可をもらってからだけれど。
「メルさん」ジュンが言う。「あなたは、どのようにして今の強さを手に入れたのでしょう」
「……今の……なら、10年くらい修行した」
「なるほど……では、20歳くらいからの修行開始ですか」
「……14……」
「え、あ……申し訳ありません」
「……大丈夫……」
どうしても30歳前後だと思われているメルだった。本当は24だというのに。
「差支えがあればお答えいただかなくて良いのですが……その腕と足は、いつ失くされたのでしょう」
「……戦争が終わって……すぐ」
「つまり、それも10年前……」ジュンは少し考えて、「五体満足のときは、今より強かったのでしょうか」
「……そう思ってる」
今のメルよりも、14歳当時のほうが強かったのか……いよいよモンスタークラスの実力者だったのだろう。そしてその後は腕と足を失い、それからさらに修行して現在の強さを手に入れている。
もしもメルが身体を失わなかったら、どれほど強かったのだろう。考えたところで無意味だけれど、どうしても想像してしまう。五体満足のまま成長したメルの姿を想像してしまう。
「1つ疑問があります。どうして私はメルさんのことを知らなかったのでしょう」
「……?」
「私は戦争で名をあげた人物を標的に、道場破りをしていました。現在の実力者は、戦争に参加している人が多いですから」
今現在かなりの実力者なら、戦争で活躍して有名になっている可能性が高いのだ。
「私は戦争のことを調べました。戦争当時は私も幼かったので、記憶が曖昧ですからね。ですが、私の調べの中に、メル・キュールという名前は存在しなかった。あなたほどの実力者でありながら、です。戦争に参加していたというのに」
ジュンの疑問はエトワールと同様のものだった。メルほどの実力者が無名というのも珍しい。しかも戦争中はもっと強かったというのにだ。
「1つ、私に仮説があります」ジュンは言う。「あなたは……もしや――」
「はーい、そこまで」飲み物調達から戻ってきたマーチが、後ろからジュンの口を塞いだ。「過去の詮索は野暮だよー。そういうのは、本人から言い出すのを待てばいいじゃないかな」
「……」ジュンはマーチの手を口から外して、メルに向き直った。「……そうかもしれませんね……無礼な詮索でした。申し訳ありません」
「……大丈夫……いつ明かされても、覚悟はしてる」
メルの過去……これほどの実力者が戦争に参加して名をあげていない理由。
……一瞬だけ仮説が頭の中にできた気もする。だけれど、その仮説はすぐに崩れ去った。今はメルの過去について考えているほどの余裕はない。
今のエトワールの頭にあるのは、強くなることだけ。それ以外は、重要ではないはずだ。
そんなわけで、非常に長い45分が終了した。エトワールはぐったりと机に崩れ落ちて、
「つ……疲れた……」
「お疲れ」メルは用意してくれた水を机においた。「本当はジュースとかもあるんだけど……私がそれを使うのはルスルスに止められてる。他の人ならいいって」
「なんでですか?」
「……メルちゃんが作るとマズくなるから、って言ってた」
ルスルスよりも? あのヘドロ以下の味がしたオレンジジュースよりも? それは材料が腐ってるんじゃないか?
「飲みたい人は、自分で作って。水なら私でも用意できる」
「お……」マーチが目を輝かせて、「じゃあ私、りんごジュース作って来る。ついでなら、ほかも作ってくるよ」
「ではホットコーヒーを」とジュン。
「あ……できればオレンジジュースをお願いします」とエトワール。
「……私はいい」
とメル。その言葉に、対してマーチが言う。
「お酒が好きだって聞いたけど?」
「……修行中は飲まないことにしてる」
「真面目だねぇ……まぁ、そういうことならいいや」
そう言って、マーチは上の階に移動した。どうやら喫茶店部分で飲み物は調達するらしい。いよいよ都合の良いアジトだった。ここに住みたい。すでに住んでいた。次からこの地下室も使おう。ルスルスに許可をもらってからだけれど。
「メルさん」ジュンが言う。「あなたは、どのようにして今の強さを手に入れたのでしょう」
「……今の……なら、10年くらい修行した」
「なるほど……では、20歳くらいからの修行開始ですか」
「……14……」
「え、あ……申し訳ありません」
「……大丈夫……」
どうしても30歳前後だと思われているメルだった。本当は24だというのに。
「差支えがあればお答えいただかなくて良いのですが……その腕と足は、いつ失くされたのでしょう」
「……戦争が終わって……すぐ」
「つまり、それも10年前……」ジュンは少し考えて、「五体満足のときは、今より強かったのでしょうか」
「……そう思ってる」
今のメルよりも、14歳当時のほうが強かったのか……いよいよモンスタークラスの実力者だったのだろう。そしてその後は腕と足を失い、それからさらに修行して現在の強さを手に入れている。
もしもメルが身体を失わなかったら、どれほど強かったのだろう。考えたところで無意味だけれど、どうしても想像してしまう。五体満足のまま成長したメルの姿を想像してしまう。
「1つ疑問があります。どうして私はメルさんのことを知らなかったのでしょう」
「……?」
「私は戦争で名をあげた人物を標的に、道場破りをしていました。現在の実力者は、戦争に参加している人が多いですから」
今現在かなりの実力者なら、戦争で活躍して有名になっている可能性が高いのだ。
「私は戦争のことを調べました。戦争当時は私も幼かったので、記憶が曖昧ですからね。ですが、私の調べの中に、メル・キュールという名前は存在しなかった。あなたほどの実力者でありながら、です。戦争に参加していたというのに」
ジュンの疑問はエトワールと同様のものだった。メルほどの実力者が無名というのも珍しい。しかも戦争中はもっと強かったというのにだ。
「1つ、私に仮説があります」ジュンは言う。「あなたは……もしや――」
「はーい、そこまで」飲み物調達から戻ってきたマーチが、後ろからジュンの口を塞いだ。「過去の詮索は野暮だよー。そういうのは、本人から言い出すのを待てばいいじゃないかな」
「……」ジュンはマーチの手を口から外して、メルに向き直った。「……そうかもしれませんね……無礼な詮索でした。申し訳ありません」
「……大丈夫……いつ明かされても、覚悟はしてる」
メルの過去……これほどの実力者が戦争に参加して名をあげていない理由。
……一瞬だけ仮説が頭の中にできた気もする。だけれど、その仮説はすぐに崩れ去った。今はメルの過去について考えているほどの余裕はない。
今のエトワールの頭にあるのは、強くなることだけ。それ以外は、重要ではないはずだ。
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