謎の最強師匠に弟子入りしたけれど、本当にこの師匠は何者なのだろう~最強を目指す少年が、謎の強すぎる師匠に弟子入りする話~

星上みかん(嬉野K)

文字の大きさ
29 / 32
道場破り

第29話 私も苦手だった

しおりを挟む
 午後の修行、それは柔軟体操から始まった。午前と同じように、しっかりと体をほぐしてからの修行開始だった。やはり身体の柔らかさはかなり重視されているらしい。

 そして次に始まったのが、まただった。午前も同じことをやった。メルが線を引いて、その場所に向かって飛ぶ。あるいはその場所に腕を動かす。ズレは1ミリも許されない。そんな地味な修行。

 そんな修行をしばらく続けていると、マーチが言った。

「うへぇ……地味……」
「そうでしょうか?」なぜかマーチと一緒に修行を見学しているジュンが言う。「仮に地味だとしても、それが強さにつながるのなら良いのでは?」
「そうだけどさぁ……私には無理」
「ふっ……」
「何? 今、鼻で笑った?」
「いえ、小馬鹿にしました」
「あーん?」

 今にもケンカを始めそうな会話だった。だけれど、お互いにやり合うつもりはないらしい。あくまでも口喧嘩の領域だった。

 そうこうしている時、メルがエトワールに聞いた。

「……楽しさがあったほうがいい?」
「え?」
「……同じことを繰り返すより、変化があったほうが、いい?」

 どうやらメルも自分の指導方針には悩みがあるらしい。しかし、

「大丈夫です」忍耐力には自信がある。「最終的に強くなれる方法で、お願いします」
「……わかった」

 いくら地味でも、耐えるつもりだ。強くなるという目的を果たすまでは、諦めない。指導方針に疑問がないわけじゃないけれど、ほかに師匠のアテもない。

 ともあれ、エトワールは修業を続ける。指定された場所に、正確に体を動かすだけという、地味かつ難しい修行。
 午前よりも、ズレが大きくなっている。疲れが溜まっているのかと思ったが、どうやら違う。エトワールの集中力を乱す要因が、ここにはあるのだ。

「……」

 それは視線だった。それも美少女2人の視線。異性の耐性が少ないエトワールにとって、同じくらいの年代の少女2人の視線はなかなか重い。それにメルだって年上のお姉さんなのだ。意識すればするほど、自分の体は思うように動かなくなっていく。

 そんなエトワールにメルが一言。

「……強くなったら、注目をあつめることになる。だから、慣れるしかない」
「……はい……」

 そうだ。最強になるということは、世界でも有数の影響力を持つことになる。そうなれば当然知名度も上がり、注目されることも多くなる。たった3人に見られているだけで緊張していてどうする。

 そんなこんなで、線を引いてそこに動く修行が終了する。……線を引いてそこに動く修行って言うと長いな……他に良い呼び方がないだろうか?

 そんなことを休憩時間に少し考えて、次の修行に移る。

「……ちょっと移動する」メルはマーチとジュンに言う。「あなたたちは、どうする?」
「ついていくよ」マーチがまず答える。「ヒマだし」
「私も同行します」次にジュンが言う。「ヒマであることを否定はできませんので」
「素直だねぇ……ヒマじゃないって言うかと思ってたよ」
「ヒマでなければ、道場破りなんてやっていません」
「……そうかもね」

 よくわからない。ヒマだから道場破りをしようという思考がよくわからない。それはただの暴漢と同じである気もする。実際同じである気もする。

 ともあれ、メルたちは移動する。どこに移動するのかと思っていると、なんだかエトワールには見慣れた建物が見えてきた。

「……ルスルスさんの……」
 
 そこは情報屋ルスルスの喫茶店だった。そして、今はエトワールがその家に宿泊させてもらっている。この町の中では見慣れたほうの建物だろう。本来なら道場を見慣れるはずだったのだが、今は消し炭状態だ。

「使用許可はもらってる」

 メルは喫茶店に入る。ルスルスは名前の通り留守なようで、店内には誰もいなかった。このお店を喫茶店として利用している人間がいるのか不安だった。

 メルはカウンターの中に入って、例の隠し通路を開く。どうやら開き方さえ知っていれば、誰でも入れるらしい。

 開いた床。そして現れた階段を見て、マーチが、

「おわ……なにこれ」

 答えるのはジュン。

「情報屋ルスルスの隠し通路……実在したんですね」
「隠し通路ねぇ……本当に隠してるのかな?」
「私も同様の疑問をいだいておりました」

 なんの疑問も抱いていないエトワールが、首を傾げて聞く。

「どういうことですか?」
「隠すにしちゃハデすぎるってことさ。それに、本当に隠したいものがあるなら、開き方は誰にも教えない」
「つまり……」
「この大仰な隠し階段はフェイク。ルスルスさんにとって本当に大切なものは、別にあるんだろうね。本当はどうでもいい場所だから、こうやって貸し出すことも可能なわけだ」

 なるほど。たしかに本当に大切なものが隠されているのなら、最近になって現れたメルやエトワールにその場所を伝えるわけがない。大げさに隠しておいて、そこはフェイクということか。ルスルスの本当のアジトは別にあるらしい。別に本当のアジトには興味ないけれど。

 そんなこんなで、地下に向かう。相変わらず薄暗くて、まさに隠れ家といった佇まいだった。

「じゃあ、始める。座って」

 メルに促されるまま、エトワールは席に座る。マーチは室内を興味深げに鑑賞して回って、ジュンは立ったままエトワールを見ていた。座ればいいのに。

 メルが壁にある本棚に近づいていく。そして、数冊の本を見繕って、それをエトワールに手渡す。

「読んでみて」
「この本を、ですか?」

 いったいどんな修行なのだろう。武術本か何かだろうか。
 本を開いてみるが、それは歴史書のようだった。この国や世界各国の歴史が記された本であった。

「これを……どうするんですか?」
「読む」
「……それだけ、ですか?」
「うん」
「それって……」まさか……「勉強、ですか?」
「一言で言えば、そう」苦手分野が突然登場して唖然とするエトワールに、「強くなるっていうのは、肉体を鍛えることだけじゃない。しっかりと頭も鍛えないといけない。バカは強くなれない」

 それから、メルは顔をそらして、

「私も苦手だった。泣きながら、やってた」
「メル先生の、先生とですか?」
「うん。あの人は一切の妥協を許さない人だったから……」一瞬メルは身震いした。よほどの恐怖が蘇ったらしい。「……怖かったけど……役に立った。いろいろな考え方を得ることができた。強く、なれたと思う」

 強く……勉強をすることで強く。
 そうかもしれない。学問から学ぶことは多い。歴史からは戦術を学べるかもしれない。文学からは駆け引きや人の心を学べるかもしれない。人体について学べば、さらに自分の体を自由に動かせれるかもしれない。

 なんにせよ……やるしかないのだろう。それが強さに繋がる可能性があるのなら、乗り越えるつもりだ。

 ……でも、嫌だぁ……勉強は苦手だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~

みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった! 無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。 追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~

榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。 彼はその日から探索者――シーカーを目指した。 そして遂に訪れた覚醒の日。 「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」 スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。 「幸運の強化って……」 幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。 そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。 そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。 だが彼は知らない。 ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。 しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。 これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。

そして俺は〇〇になりました。

ふとん☆まくら〜れん(F.M.)
ファンタジー
そして…俺はこの夢が早く覚めてほしいと願っている。 良く聞く話である。 ふと気を失い、気づくと違う世界に居た…本当に良く聞く話だが、本当にあっては堪らない話だ。 もちろん悪い夢に違いないのだが…一向に覚める気配も無く、ダラダラと流されて行く。 目が醒めたところでつまらない日常、その時まで楽しめば良いのだ。 …その時まで。

処理中です...