31 / 32
道場破り
第31話 限りなく適切な言葉
しおりを挟む
その後、マーチが入れたジュースを飲んで道場に戻った。ジュースはとても美味しくて、材料じゃなくてルスルスとメルの方の問題であることが判明した。
道場に戻って、軽く筋力トレーニング。そして、最後に少し実践的なトレーニングをおこなった。すでに疲れ切っている状態での実践的なトレーニングは想像以上に大変だった。自分が疲れているのだということに、否が応でも気付かされた。
「終わり」最後の柔軟体操を終えて、メルが言った。「……最後までやりきれるとは、思ってなかった」
「そうですか?」たしかに疲れてヘトヘトだけれど、体力的にはまだ余裕がある。「もうちょっとできますけど……」
「……でも、今日は終わり。明日にはもう少し用具を揃えておくから。もしよかったら、明日も来て」
「はい」
当然明日も来るつもりだ。せっかくできた師匠。そう簡単に逃がすつもりはない。
空はすっかり夕暮れだった。オレンジ色の日差しと、少し冷たくなってきた風がエトワールの汗だくの体を冷やしてくれた。
そして、修行を終えたメルが、ジュンに言う。
「おまたせ」
「いえ、こちらは無理を言って手合わせしてもらう身。少しくらいの待ち時間、問題ありません」
「そう……じゃあ、1つ聞く」メルはジュンにもいつもの質問をした。「あなたにとって、強さって何?」
「強さ……ですか?」
「そう。聞かせてほしい……差し支えがあるなら答えなくてもいいけど」
「いえ……ですが、少し考えさせてください」しばらく、ジュンは考え込んだ。真面目な人らしい。「……私にとって強さとは、勝つことです」
「……」
「勝利こそ強さの証明。誰が相手でも、どんな状況でも勝利する。それが私にとっての強さです。勝利して、私は私の強さを証明する。それが、私が道場破りをしている理由の1つかもしれません」
「なるほど……わかった」言って、メルは軽く構える。「どうぞ」
「はい。では、全力で」
ジュンも構える。腰を落として、エトワールからすれば少し動きづらそうな構えに見えた。大きく右手を引いて、力を溜める。なんだか大砲みたいな迫力がある構えだった。
「正拳突き」エトワールの隣で、マーチが言った。「あの一撃で、数々の実力者を沈めてるらしいね」
正拳突き……なるほど。あの構えは威力重視の構えらしい。すべては右の拳を当てるためだけ。右の拳の威力を上げるためだけの構え。そのために彼女が行き着いた構えなのかもしれない。
ジュンが1つ息を吐く。そして次の瞬間、激しい音が聞こえた。それは地面を蹴る音。強烈な踏み込みによって生み出されたスピードで、ジュンは一瞬にしてメルとの距離を詰めた。
そして、右の拳を迷いなく放つ。その拳は乾いた音をたてた。空気を殴って破裂させたみたいな音だった。その後、エトワールの場所まで風が届く。砂埃が舞って、圧倒的威力の正拳突きが繰り出された。
その拳は、メルの顔の横スレスレを通過していた。
その拳を見て、メルが言った。
「良い技」
「ありあがとうございます」ジュンは一度距離をおいてから、「メルさんは剣士、ですよね」
「……一応そうなるのかな」
「でしたら、その刀を抜いていただきたい。本気のあなたと戦いたいのです」
「……どうだろう……抜いてもいいけど……」
「何を迷っているのです?」
「……殺しちゃう可能性が……」
「ならば問題ございません」ジュンは挑発的に手招きをする。「まだ私は本気ではございませんので」
「なるほど……じゃあ、いいかな」
そう言ってメルは刀を抜いた。本日2度目。メルが実力を認めた相手にしか見せないその刀剣。妖しく美しい、妖刀みたいな刀。
その刀を見て、ジュンが言う。
「……良い刀ですね。なんという刀ですか?」
「……名前はない。先生は、そう言ってた」
「先生?」
「私を育ててくれた人」
「なるほど……」それ以上刀のことで会話は広がらず、「では、続けましょう」
「うん。死なないでね」
その後、メルとジュンは手合わせを続けていた。メルのほうが格上であることは確かなようだが、ジュンも相当な実力者のようだ。少なくとも、メルが刀を抜いても問題ないと判断した相手だ。マグノリアほどではないにしても、最強クラスの使い手なのだろう。ディビジョンAでも上位に入るのではないだろうか。
そしてしばらく打ち合ったあと、不意にジュンが動きを止めた。そして、深々と頭を下げて、
「ありがとうございました」
「……? もういいの?」
「はい。現時点で私があなたにかなわないことはわかりましたので」
「……」
「今日のところはここまでにしますが……また修行してまいります。今度こそあなたに勝てると思ったら、あなたの前に現れます。その時は、また手合わせ願います」
「……修行の最中じゃなければ、いつでもいいよ」
「承知しました。寛大なお言葉、感謝いたします」
そう言って、ジュンは去っていった。突然現れて、突然消えていった。よくわからん人が現れたと思ったら、よくわからんまま帰っていった。
「……なにあれ……?」マーチが言う。「……なんか……変な人だったね……メル師匠の周りって、変な人しかいないの?」
「……かもしれません……」
マーチといい、ジュンといい、エトワールといい変な人ばっかりだ。この中ならまだマーチがまともなのではないか。そして、当然メルも変な人だ。
変人の集まり。現状のメル周辺の人々を表現するなら、限りなく適切な言葉だろう。
道場に戻って、軽く筋力トレーニング。そして、最後に少し実践的なトレーニングをおこなった。すでに疲れ切っている状態での実践的なトレーニングは想像以上に大変だった。自分が疲れているのだということに、否が応でも気付かされた。
「終わり」最後の柔軟体操を終えて、メルが言った。「……最後までやりきれるとは、思ってなかった」
「そうですか?」たしかに疲れてヘトヘトだけれど、体力的にはまだ余裕がある。「もうちょっとできますけど……」
「……でも、今日は終わり。明日にはもう少し用具を揃えておくから。もしよかったら、明日も来て」
「はい」
当然明日も来るつもりだ。せっかくできた師匠。そう簡単に逃がすつもりはない。
空はすっかり夕暮れだった。オレンジ色の日差しと、少し冷たくなってきた風がエトワールの汗だくの体を冷やしてくれた。
そして、修行を終えたメルが、ジュンに言う。
「おまたせ」
「いえ、こちらは無理を言って手合わせしてもらう身。少しくらいの待ち時間、問題ありません」
「そう……じゃあ、1つ聞く」メルはジュンにもいつもの質問をした。「あなたにとって、強さって何?」
「強さ……ですか?」
「そう。聞かせてほしい……差し支えがあるなら答えなくてもいいけど」
「いえ……ですが、少し考えさせてください」しばらく、ジュンは考え込んだ。真面目な人らしい。「……私にとって強さとは、勝つことです」
「……」
「勝利こそ強さの証明。誰が相手でも、どんな状況でも勝利する。それが私にとっての強さです。勝利して、私は私の強さを証明する。それが、私が道場破りをしている理由の1つかもしれません」
「なるほど……わかった」言って、メルは軽く構える。「どうぞ」
「はい。では、全力で」
ジュンも構える。腰を落として、エトワールからすれば少し動きづらそうな構えに見えた。大きく右手を引いて、力を溜める。なんだか大砲みたいな迫力がある構えだった。
「正拳突き」エトワールの隣で、マーチが言った。「あの一撃で、数々の実力者を沈めてるらしいね」
正拳突き……なるほど。あの構えは威力重視の構えらしい。すべては右の拳を当てるためだけ。右の拳の威力を上げるためだけの構え。そのために彼女が行き着いた構えなのかもしれない。
ジュンが1つ息を吐く。そして次の瞬間、激しい音が聞こえた。それは地面を蹴る音。強烈な踏み込みによって生み出されたスピードで、ジュンは一瞬にしてメルとの距離を詰めた。
そして、右の拳を迷いなく放つ。その拳は乾いた音をたてた。空気を殴って破裂させたみたいな音だった。その後、エトワールの場所まで風が届く。砂埃が舞って、圧倒的威力の正拳突きが繰り出された。
その拳は、メルの顔の横スレスレを通過していた。
その拳を見て、メルが言った。
「良い技」
「ありあがとうございます」ジュンは一度距離をおいてから、「メルさんは剣士、ですよね」
「……一応そうなるのかな」
「でしたら、その刀を抜いていただきたい。本気のあなたと戦いたいのです」
「……どうだろう……抜いてもいいけど……」
「何を迷っているのです?」
「……殺しちゃう可能性が……」
「ならば問題ございません」ジュンは挑発的に手招きをする。「まだ私は本気ではございませんので」
「なるほど……じゃあ、いいかな」
そう言ってメルは刀を抜いた。本日2度目。メルが実力を認めた相手にしか見せないその刀剣。妖しく美しい、妖刀みたいな刀。
その刀を見て、ジュンが言う。
「……良い刀ですね。なんという刀ですか?」
「……名前はない。先生は、そう言ってた」
「先生?」
「私を育ててくれた人」
「なるほど……」それ以上刀のことで会話は広がらず、「では、続けましょう」
「うん。死なないでね」
その後、メルとジュンは手合わせを続けていた。メルのほうが格上であることは確かなようだが、ジュンも相当な実力者のようだ。少なくとも、メルが刀を抜いても問題ないと判断した相手だ。マグノリアほどではないにしても、最強クラスの使い手なのだろう。ディビジョンAでも上位に入るのではないだろうか。
そしてしばらく打ち合ったあと、不意にジュンが動きを止めた。そして、深々と頭を下げて、
「ありがとうございました」
「……? もういいの?」
「はい。現時点で私があなたにかなわないことはわかりましたので」
「……」
「今日のところはここまでにしますが……また修行してまいります。今度こそあなたに勝てると思ったら、あなたの前に現れます。その時は、また手合わせ願います」
「……修行の最中じゃなければ、いつでもいいよ」
「承知しました。寛大なお言葉、感謝いたします」
そう言って、ジュンは去っていった。突然現れて、突然消えていった。よくわからん人が現れたと思ったら、よくわからんまま帰っていった。
「……なにあれ……?」マーチが言う。「……なんか……変な人だったね……メル師匠の周りって、変な人しかいないの?」
「……かもしれません……」
マーチといい、ジュンといい、エトワールといい変な人ばっかりだ。この中ならまだマーチがまともなのではないか。そして、当然メルも変な人だ。
変人の集まり。現状のメル周辺の人々を表現するなら、限りなく適切な言葉だろう。
0
あなたにおすすめの小説
スキル【収納】が実は無限チートだった件 ~追放されたけど、俺だけのダンジョンで伝説のアイテムを作りまくります~
みぃた
ファンタジー
地味なスキル**【収納】**しか持たないと馬鹿にされ、勇者パーティーを追放された主人公。しかし、その【収納】スキルは、ただのアイテム保管庫ではなかった!
無限にアイテムを保管できるだけでなく、内部の時間操作、さらには指定した素材から自動でアイテムを生成する機能まで備わった、規格外の無限チートスキルだったのだ。
追放された主人公は、このチートスキルを駆使し、収納空間の中に自分だけの理想のダンジョンを創造。そこで伝説級のアイテムを量産し、いずれ世界を驚かせる存在となる。そして、かつて自分を蔑み、追放した者たちへの爽快なざまぁが始まる。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
スキル【幸運】無双~そのシーフ、ユニークスキルを信じて微妙ステータス幸運に一点張りする~
榊与一
ファンタジー
幼い頃の鑑定によって、覚醒とユニークスキルが約束された少年——王道光(おうどうひかる)。
彼はその日から探索者――シーカーを目指した。
そして遂に訪れた覚醒の日。
「ユニークスキル【幸運】?聞いた事のないスキルだな?どんな効果だ?」
スキル効果を確認すると、それは幸運ステータスの効果を強化する物だと判明する。
「幸運の強化って……」
幸運ステータスは、シーカーにとって最も微妙と呼ばれているステータスである。
そのため、進んで幸運にステータスポイントを割く者はいなかった。
そんな効果を強化したからと、王道光はあからさまにがっかりする。
だが彼は知らない。
ユニークスキル【幸運】の効果が想像以上である事を。
しかもスキルレベルを上げる事で、更に効果が追加されることを。
これはハズレと思われたユニークスキル【幸運】で、王道光がシーカー界の頂点へと駆け上がる物語。
そして俺は〇〇になりました。
ふとん☆まくら〜れん(F.M.)
ファンタジー
そして…俺はこの夢が早く覚めてほしいと願っている。
良く聞く話である。
ふと気を失い、気づくと違う世界に居た…本当に良く聞く話だが、本当にあっては堪らない話だ。
もちろん悪い夢に違いないのだが…一向に覚める気配も無く、ダラダラと流されて行く。
目が醒めたところでつまらない日常、その時まで楽しめば良いのだ。
…その時まで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる