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怪盗
第32話 信用せなアカンやろ
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メルの修行が始まり、遊び人マーチと出会い、元ディビジョンSマグノリアと出会い、謎の少女ジュンと出会う。そのすべてがたった1日の出来事とは信じがたい。エトワールの人生の中でもここまでイベントが重なる日も珍しいことだった。
そんな激動の1日から、1週間が経過した。その間メルの修業を受け続けて、なんとなくこの町での生活も慣れてきたところだった。
一週間で、少しだけ修行の内容も変化していった。メルが修行の道具を仕入れてきて、たまに新しいメニューが追加されていくのだ。たとえば前後左右に投げられるボールをひたすら掴んだり、いろいろな形状のものを指定された場所に指定された強さげ投げたり……まぁいろいろな修行が考案された。
果たして自分が強くなっているのか、その疑問はあるけれど、今はメルを信じようと思う。他に信じる人もいないし、一週間やそこらで強くなれるのなら苦労はない。なんにせよ、とりあえず指示にしたがってみなければ、その指示が正しいのかもわからないのだ。
「……ふぁ……」
朝の日差しがカーテンの隙間から入ってきて、エトワールは目を覚ます。スズメが鳴いていて、今が朝だということを知らせてくれる。
前日に降った雨のせいで、少しばかりジメジメした空気だった。とはいえ現在は太陽が見え始めているので、すぐに心地の良い天気になるだろう。
エトワールが寝泊まりしているのは、ルスルスの喫茶店である。ルスルスの喫茶店は割と広く、接客スペースの他に2つほど小さな部屋があった。その1つでエトワールは寝泊まりしていた。
布団をしまって、立ち上がる。軽くあくびをしてから、エトワールは扉を開ける。
「おはようエトワールちゃん」そうエトワールに声をかけたのは、喫茶店の主兼情報屋のルスルスという女性だった。「久しぶり。元気やった?」
「あ……まぁ、元気です」
「そう。そらよかった」
ルスルスは相変わらず明るく笑う。この気さくそうな人柄で、裏では情報屋というのは信じられない。ただの明るい喫茶店の店主に見えてしまう。
「ルスルスさんは……1週間何をしていたんですか?」
ルスルスはこの1週間喫茶店にもアジトにも顔を出していない。まぁ留守にしていることが多いからルスルスという通り名なのだから、留守にしているのは当然だけれど。
「ああ……せやね。ナンパしとってん」
「ナンパ?」
「そうそう。かっこいい男見つけて声かけたんやけど……そしたらその人、怖い人達と繋がっとってなぁ……ああ、怖かったわぁ……」
どうやら1週間の動向を教えてくれる気はないようだった。完全に嘘だとわかる仕草で、適当にはぐらかされた。まぁいいけれど。
「ああ……そういえば、ルスルスさん」
「何?」
「このお店の地下室って、使ってもいいんですか?」
「ええよ」即答だった。「なんとなく気づいとると思うけど、重要なもんをここに保管してるなら、エトワールちゃんに貸し出してないよ。どうでもええ場所やから、キミに貸しとる」
なんとなく想像していた通りだった。もしも間違えてエトワールが重要な情報を見つけてしまうことはないようだ。そんなヘマをする人ではないのだろう。
「そんで、メルちゃんの修行はどう?」
「……まぁ、順調、なんですかね……?」
「煮え切らない答えやねぇ……ま、そらそうか。1週間やそこらで急激に強くなったりはせんわな」
「そうですね」メルの修行が正しいのかどうか……それはおそらく次の実戦で明らかになるのだろう。実践形式ではなく実戦で明らかになるのだろう。「そういえば……道場破りが来たりしました」
「ああ……ジュンちゃん? あの子も相当な実力者やろけど、メルちゃんにはかなわへんやろ」
「……信用してるんですね」
「実力は信用しとる。あの力は、信用せなアカンやろ」それから、ルスルスは肩をすくめる。「ま、実力以外は信用してへんけど。あの子アホやし、甘ちゃんやし、半端モンやし」
どうしてもメルのことをアホだと思っているルスルスだった。そして甘くて、半端者だと思っているらしい。
……甘い……そうだろうか。わからない。半端者かどうかも、エトワールにはわからない。そこまでメルと親しくなったわけではない。
「まぁメルちゃんの話は別にええねん。ちょっと仕事の話してもええ?」
「仕事……?」
「うん。私、キミのこと雇ったやろ? 報酬はかなりの額あげるから、ちょっと協力してや」
「はぁ……まぁ僕にできる範囲なら」
お金がもらえるのなら、バイトと同じだ。金欠状態のエトワールにはありがたい申し出だった。
唯一の問題は、ルスルスの仕事なんて嫌な予感しかしないことである。
そんな激動の1日から、1週間が経過した。その間メルの修業を受け続けて、なんとなくこの町での生活も慣れてきたところだった。
一週間で、少しだけ修行の内容も変化していった。メルが修行の道具を仕入れてきて、たまに新しいメニューが追加されていくのだ。たとえば前後左右に投げられるボールをひたすら掴んだり、いろいろな形状のものを指定された場所に指定された強さげ投げたり……まぁいろいろな修行が考案された。
果たして自分が強くなっているのか、その疑問はあるけれど、今はメルを信じようと思う。他に信じる人もいないし、一週間やそこらで強くなれるのなら苦労はない。なんにせよ、とりあえず指示にしたがってみなければ、その指示が正しいのかもわからないのだ。
「……ふぁ……」
朝の日差しがカーテンの隙間から入ってきて、エトワールは目を覚ます。スズメが鳴いていて、今が朝だということを知らせてくれる。
前日に降った雨のせいで、少しばかりジメジメした空気だった。とはいえ現在は太陽が見え始めているので、すぐに心地の良い天気になるだろう。
エトワールが寝泊まりしているのは、ルスルスの喫茶店である。ルスルスの喫茶店は割と広く、接客スペースの他に2つほど小さな部屋があった。その1つでエトワールは寝泊まりしていた。
布団をしまって、立ち上がる。軽くあくびをしてから、エトワールは扉を開ける。
「おはようエトワールちゃん」そうエトワールに声をかけたのは、喫茶店の主兼情報屋のルスルスという女性だった。「久しぶり。元気やった?」
「あ……まぁ、元気です」
「そう。そらよかった」
ルスルスは相変わらず明るく笑う。この気さくそうな人柄で、裏では情報屋というのは信じられない。ただの明るい喫茶店の店主に見えてしまう。
「ルスルスさんは……1週間何をしていたんですか?」
ルスルスはこの1週間喫茶店にもアジトにも顔を出していない。まぁ留守にしていることが多いからルスルスという通り名なのだから、留守にしているのは当然だけれど。
「ああ……せやね。ナンパしとってん」
「ナンパ?」
「そうそう。かっこいい男見つけて声かけたんやけど……そしたらその人、怖い人達と繋がっとってなぁ……ああ、怖かったわぁ……」
どうやら1週間の動向を教えてくれる気はないようだった。完全に嘘だとわかる仕草で、適当にはぐらかされた。まぁいいけれど。
「ああ……そういえば、ルスルスさん」
「何?」
「このお店の地下室って、使ってもいいんですか?」
「ええよ」即答だった。「なんとなく気づいとると思うけど、重要なもんをここに保管してるなら、エトワールちゃんに貸し出してないよ。どうでもええ場所やから、キミに貸しとる」
なんとなく想像していた通りだった。もしも間違えてエトワールが重要な情報を見つけてしまうことはないようだ。そんなヘマをする人ではないのだろう。
「そんで、メルちゃんの修行はどう?」
「……まぁ、順調、なんですかね……?」
「煮え切らない答えやねぇ……ま、そらそうか。1週間やそこらで急激に強くなったりはせんわな」
「そうですね」メルの修行が正しいのかどうか……それはおそらく次の実戦で明らかになるのだろう。実践形式ではなく実戦で明らかになるのだろう。「そういえば……道場破りが来たりしました」
「ああ……ジュンちゃん? あの子も相当な実力者やろけど、メルちゃんにはかなわへんやろ」
「……信用してるんですね」
「実力は信用しとる。あの力は、信用せなアカンやろ」それから、ルスルスは肩をすくめる。「ま、実力以外は信用してへんけど。あの子アホやし、甘ちゃんやし、半端モンやし」
どうしてもメルのことをアホだと思っているルスルスだった。そして甘くて、半端者だと思っているらしい。
……甘い……そうだろうか。わからない。半端者かどうかも、エトワールにはわからない。そこまでメルと親しくなったわけではない。
「まぁメルちゃんの話は別にええねん。ちょっと仕事の話してもええ?」
「仕事……?」
「うん。私、キミのこと雇ったやろ? 報酬はかなりの額あげるから、ちょっと協力してや」
「はぁ……まぁ僕にできる範囲なら」
お金がもらえるのなら、バイトと同じだ。金欠状態のエトワールにはありがたい申し出だった。
唯一の問題は、ルスルスの仕事なんて嫌な予感しかしないことである。
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