伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

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第二章 ゲーム開始前

第64話 失敗? いえ、成功でした

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 私は厨房にお邪魔していた。料理人たちは昼食を前に仕込みの真っただ中だった。
「これはアンマリアお嬢様。一体どうされたのですか?」
 料理人の一人が声を掛けてくる。この声で気が付いたのか、アラブミも私の方を振り向いた。
「これはアンマリアお嬢様。何か新しいお料理でも思いつかれましたか?」
 アラブミが何やら新作の料理に興味を示している。悪いんだけど、今の私にはそんな余裕はなかった。
「そんな事よりも、ちょっとこれを見てもらいたいの。昼食の準備は邪魔しないから心配しないで」
 アラブミの質問には答えずに、私は作り上げた魔石の板を取り出した。
 目の前に差し出されたものが何なのか分からないアラブミたちは、きょとんとしている。まあ、分かるわけがないわよね。というわけで、私による説明会が始まった。
 私は踏み台に上がって調理台の上にその魔石の板を置く。ただ、この魔石の板はまだ試作段階。今回が初めての稼働になるのだ。木のテーブルの上では何が起こるか分からないので、とりあえず陶器の器を持ってこさせて、その上に魔石の板を置き直した。
「見てて下さいね」
 私はそう言って、魔石の板に魔力を流す。
 しばらくすると、魔石の板がどんどんと赤くなっていく。
(ううん? 結構赤くなってるわね。部屋ではこんな事なかったのに……)
 とにかく赤くなった板を見て、私は手を近付けてみる。すると結構熱かった。理由は分からないけれど、かなり板が熱を持ってしまっていた。部屋で使っていた時は手を近付けても熱く感じる事はなかったし、ここまで真っ赤になる事もなかったというのに……。不思議なものである。
「ごめんなさい、ちょっと想定外の挙動をしているわ。部屋で使っていた時は熱を持つ事なんてなかったのに、困ったわね」
「アンマリアお嬢様、これは一体……」
 私が釈明していると、アラブミが尋ねてきた。
「火を使わずに調理できる道具よ。本当なら、魔力波だけを鍋に伝えて、魔石自体は熱くならないように設定していたのだけれど、今回は魔石が熱くなってしまったわ。これは失敗ね」
「魔石に魔力を流すだけでこれだけの熱を持つというのは、寒い時の暖房に使えませんかね。暖炉に使う薪は量がかなり多いですから、こういう熱源があれば、薪の節約になります」
 私が失敗だと思っていた魔石の板を見て、アラブミはそんな進言をしてきた。そっか、暖房か。それは盲点だったわね。魔力と効果を調整してやれば、そういう事はできそうね。私は顎に手を当てて唸り始めた。
 だけど、それをするとなれば、魔石に発生する熱量を抑えなければならない。あまり熱くなると、魔石が砕け散る可能性だってあるからだ。こうなってくると更に可能性は広がる。屋外なら魔物除けの効果も付与しておけば、安全な野宿だってできるようになるはずだ。思わぬアイディアをもらった私はすごく悪い顔をした。太っているせいでよりあくどい顔に見えたのか、アラブミたちが思わず後退っていた。
 結局、今回の失敗は魔法が不完全だった事によるものだという事が後に判明した。やっぱりイメージって重要だわ。
 そういうわけで、アラブミの進言によって、発熱素材へと方針を転換。その方がイメージをしやすかったからだ。なので、コンロとする場合には、魔石からの発熱方向を魔石の円盤の片面にだけに限定させる事によって実現できた。
 これには思わぬ副産物も伴った。赤く光ったという事で、同様の原理で光を放つ魔石ができないかというものだった。
 こっちの方はさらに簡単だった。今までも照明器具というのはあったのだが、明かり取りというには心もとない明るさのものしかなかった。実はこれ、魔石から放たれる魔力そのものを灯りとしたものだったのだけれども、そこらの魔物の魔力ではその魔力は大したものではなかったためである。
 ところがどっこい、その魔力を魔法を発動させる原動力に使えば、その明るさの違いは歴然だった。それでいて、今までと同じだけの時間光り続けるのだから、これは革命というしかなかった。ただ、その光魔法を込められる魔法使いがどれだけ居るのかという話にはなってくる。コンロともども、当面は私しか行えない作業という事になってしまうのだった。
「そうなのよね。このイメージとこれだけのものを作れる魔力が必要なのよね。自分で自分の首を締めにいったわ……」
 まさに後悔先に立たずである。重いだけで暴走した結果がこれだ。
「お姉様、どうされたのですか?」
 そこへやって来たのはモモだった。
「ああ、モモ。いい所へ来たわ。これを作る事はできるかしら?」
「これ?」
 私が質問すればきょとんとするモモ。そこで、発熱する魔石をモモに見せた。
 これには理由があった。突然思い出したのだけれども、あの時の洗礼式の結果の通りなら、モモは火の魔法が使えるはずである。あの時最後まで洗礼式を見ていった事を、自分で褒めてあげたい気分だった。
「発熱する魔石ですか。しかも、手では持てないくらいで、普通に薪を燃やしたくらいの感じの熱さ……」
 モモは考え込んだ。そして、悩み切ったところで試しに魔石の1個に火の魔法を注ぎ込んでみた。
 そうしてできた魔石に、私が魔力を通す。すると、私が作った物とそん色ないレベルの火の魔法を放つ魔石ができ上がったのである。
「モモ、やったわ。これで新たな魔石を使った商品を売りに出せるわよ」
 私が叫ぶと、モモは驚いて目をぱちぱちとさせていた。よく分かっていないようである。
 だが、私の中ではだんだんと次の野望が膨らんでいっていた。これを父親とボンジール商会に示せば、ファッティ家の力と重要度はますます増すだろう。私は拳を握りしめていた。
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