伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
65 / 500
第二章 ゲーム開始前

第65話 なんで私だけなのよ

しおりを挟む
 私の目下の悩みは、とにかく他人からバカにされない事である。いくら二人の殿下の婚約者であるとはいえ、実際に結婚できるかどうかは分からないし、私の太った体型を指して悪口を言うのは少なからず居るのだ。
 そういった連中を黙らせるだけの実績を、今からながらに積んでおきたいというわけである。まあ、ミール王国のエスカ王女と親交を持ったという点は大きいだろうけれど、功績は多ければ多いほどいいものね。だからこそ、魔道具の開発だって力を入れているといわけである。誰もが使える唯一無二の発明、それが今私が力を入れている事業なのだ。将来的にどう転ぼうとも、生き延びるための手立ては取っておくものなのよ。ヒロインだからって油断はできないもの。
 淑女教育はもちろんの事、魔道具の開発にダイエット貯金、やる事がとにかく多い。だけど、その忙しい日々を、私はとても充実した気持ちで送っていた。
 そんな折、私の手元に手紙が届いた。一通は王家からの呼び出し、もう一通は……。
「あら、エスカ王女からお手紙が来てるわ」
 そう、同じ転生者であるエスカからの手紙だったのだ。私は早速それを開封する。そして、中に書いてあった事を見て、顔をもの凄く歪ませた。
「えっ……、あのわがまま王子もこっちに留学するつもりなの?」
 そう、アーサリー王子もサーロイン王国の学園に通うとか言うのだ。正気かよと思った。だけども、手紙を読み進めていくうちに、これはやむを得ない事だという事を思い知らされた。
「なんて事、ミール王国にはそういう学術を学ぶ施設ってなかったのね」
 なんとまあ、ミール王国内には学校というものが存在しなかったのだ。子どもの教育は各家庭で行うのが普通なのであった。
「それにしても、王家の子どもを二人とも隣国の学園に送り込むとか、これはこれで信じられないんだけど」
 かつては激しく対立していた二国間の歴史というものがある。それゆえに王家の子どもをその相手国に預けるという事が、正直貴族的な考えから理解できなかった。エスカは私という存在がある事と、乙女ゲームの舞台に興味があるからだというのは分かるのだけれど、アーサリー王子が留学する理由というのが、まったくもって理解できなかったのだった。
 それでも、エスカ王女の留学は私はとても楽しみに思えた。学年が1個ずれるだけにあまり交流はできないかも知れないけれど、どんな淑女になっているのか、今からわくわくが止まらなかった。
 それはそれとして、王家からの呼び出しの方ははっきり言って憂鬱である。とはいえど、王家からの呼び出しを正当な理由もなく断れないので、私は仕方なく呼び出しに応じる事にした。魔道具をいくつか持参する形で。

「よくぞ参ったな、アンマリア。相変わらず愛い姿よな」
 城に到着して案内されたのは謁見の間。ちなみに私の後ろには城で仕事をしていた父親と私の侍女であるスーラが控えていた。スーラには魔道具を持って来てもらっているので、今回は入室が許可されたのである。
 目の前に座っているのは、国王と王妃の両方である。その隣にはフィレン王子や宰相まで立っているので、相当に重苦しい雰囲気を醸し出している。国王の最初の言葉は和ませるための冗談か何かかしらね。
「ご機嫌麗しゅうございます、国王陛下、王妃殿下」
 私は精一杯のカーテシーを取る。太った体ゆえにぶるぶると足が震えている。緊張のせいもあって、チート級の魔法でもっても支えきれないのだ。きつい。
 とにかく国王からの事実確認の連発が飛んできた。ミール王国でのやり取りはフィレン王子や父親から聞いているにもかかわらずだ。私からも聞いておこうという事だろう。
 だけども、ここには納得のいかない点がある。モモとサキの二人は呼ばれていない事だ。あの二人もほとんど関わっているのだから、どうして呼ばなかったのかが分からない。納得いかないわ。納得はいかないけれど、私はとにかく聞かれた事には全部答えたし話しもした。特に隠しておく事でもないんですもの。
「そうか、エスカ・ミール王女が留学の意思があるのか……」
 国王がそう言って考え込む。
「いえ、それだけではございませんわ。エスカ王女殿下より、お手紙を受け取りまして、そこには衝撃的な事が書かれていましたわ」
 発言の許可は与えられていなかったとはいえ、流れ的には発言せざるを得なかった。
「なんだね、それは」
「アーサリー・ミール王子殿下も、留学の意思があるとの事です。これがその手紙でございます」
 手紙には、必要なら国王や王子に見せてもいいとも書かれていたので、私はそれに従った。転生に関する事が書かれた紙とは別の紙に留学の事は書かれていたもの。さすがは王女として生きてるだけあって、そういう配慮はできるのね。見習いませんと。
 私から衛兵を介して、エスカ王女の手紙が国王の手元に届く。それを読んだ国王の顔が険しくなった。まあ無理もない。敵対関係にある国からの王族の留学という事態なのだから、考え込まない方がおかしいでしょう。それを読んだ国王から手紙が返却されると、
「分かった。この留学の件は内々に準備を始める。事実確認は終わったので、これでお開きとする。わざわざすまなかったな、ゼニーク、アンマリア」
 こう言って国王たちは立ち上がってさっさと退場してしまった。あまりの退場の速さに、私はぽかーんとその様子を見送っていた。
 あ、魔道具を披露する機会を失っちゃったわ。
 我に返った私は、父親に付き添われて、仕方なく城を去ったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

転生調理令嬢は諦めることを知らない!

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

処理中です...