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第三章 学園編
第107話 危険であるなら抱え込む
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教室に入ったエスカに対して、あれは誰だという視線が向く。それもそうだろう。見た事のない令嬢が教室に入ってきたら、誰だって驚くというものだ。だが、そういった学生は騒ぐだけでまったく寄り付かないのだ。そんなわけで、私は悠々と自分の席へと移動していく。体型の事もあって、私の席は一人席だ。横が開いているので、エスカはそこへ座らせた。
「これはアンマリア様、おはようございますわ」
「おはようございます、ラム様」
私に声を掛けてきたのは、ラム・マートン公爵令嬢だった。
私の挨拶の返しを聞いて、エスカは目を丸くしていた。それは無理もない話で、あのゲームを知っていれば、ラムが痩せているなんていうのは想像できない話なのである。なにせラムは90kgはある太った令嬢だったのだから。
そのラムだけれども、一応ファンアートには痩せていたらというお題のイラストがごくわずかながらにあった。さすがは歴戦の絵師のイラストとあって、そこで描かれていた姿は、まるで今のラムのような姿だったのだ。オタクの妄想力やばすぎよね。
ただ、エスカの反応を見る限りは、そういうイラストは見た事がない様子だった。私の場合は、ラムが痩せていく過程は見ていたから、驚くというよりは感動したものよ。
「アンマリア様、こちらのお方はどちら様でしょうか。私服のようですが、外部の方かしら?」
ラムはエスカを見ながら、頬に人差し指を添わせるように当てている。
「ええ、そうですわ。この方はエスカ・ミール王女殿下。来年からこちらに留学されるミール王国の王女で、アーサリー殿下の妹君でございます」
「まあ、ミール王国の王女様なのですね。これは失礼致しました。わたくし、ラム・マートン公爵令嬢と申します。どうかお見知りおきを」
私がエスカを紹介すると、ラムは驚いてカーテシーをして挨拶をしていた。まあ、驚くわよね。どこか芋っぽいんですもの、このお姫様。転生者っていう事もあるんでしょうけれど、ものすごく頼りないのよね。
それにしても、私がラムにエスカの事を紹介したら、周りからぞろぞろと人が集まってくる。その状況にエスカは驚いて固まってしまっていて、どうにか私がフォローしなければいけない状況になってしまった。まったく、一気に寄って来すぎなのよ。
「エスカ王女殿下は、アーサリー殿下が留学されている関係で、こっちの事が気になっていたようでして、それで今回、体験入学という形でこうして私がご一緒させて頂く事になりましたの」
野次馬たちに説明をする私。フィレン王子の誕生日パーティーに招待された事は今のところは伏せておく。どうせ当日になれば分かる事だし、あえてここで言う必要はないわね。
「エスカ・ミールと申します。来年よりこちらの学園に留学予定となっております。1週間ほどですが、授業にお邪魔させて頂きます。どうぞよろしくですわ」
エスカは席から立ち上がって軽く挨拶をした。見た目だけなら美少女には違いないので、男子どもがまあうるさかったわね。反応していない男子は、婚約者の居る人ばかりの模様。強者の余裕ってところかしら。
そうは言っても、男女双方から視線をがっつり集めたエスカは、どうにか頑張っていたものの、恐怖に体が震え始めていた。お姫様だから、こういう視線には慣れていないのだろう。3年前のあの余裕は、おそらく顔を知られていない事による「どうせ分からないでしょ」とかいう意味不明な自信から来たものだったのかも知れない。やっぱり頭弱そうだわ、この子。
「まあまあ、みなさま。あまりそんなに見られては、エスカ王女殿下も緊張してしまいます。それに、先生ももういらしてますので、席に座りましょう?」
「はっ、いつの間に!」
私の言葉に、学生たちは一気に教壇の方を見る。そしたらば実際に教師がそこに立っていたものだから、慌ててバタバタと席についていた。教師の顔は笑っていたけれど、あれはどう見ても怒っている顔だった。一応、私たちのやり取りは知っているだろうけれど、余計な問題を増やしやがってというような雰囲気も醸し出している。私は心の中で謝り倒しておく。何をするか分からない王女を放置しておくよりも、目の届くところに置いておく方が安全ですもの。エスカは当然だけれども、周りだってそうだと思うわ。
私の心配をよそに、授業中のエスカは試験に授業に打ち込んでいた。午前中は座学ばかりだったのはある意味幸いだった。危険が発生する要素がないんだもの。
むしろ転生者が危険となるのは実技よ。すっかりWEB小説とかに慣れていると、そのチート能力で厄介を起こしてしまうのだから。私はその辺は庭いじりと共に散々練習してきたからいいものの、エスカのここまでのやらかしとか見ている限り、まあ怖いとしか言いようがない。エスカの魔法の能力についてはどのくらいか把握していないし、私の魔法でどこまで抑え込めるか未知数なのよね。
そういった懸念があったわけだけに、午後の実技の授業が本日の鬼門だわ。無事に放課後になれば、家で私が稽古つけられるものね。
とにかく今の私は、面倒事が起きない事をひたすら祈るばかりだった。
「これはアンマリア様、おはようございますわ」
「おはようございます、ラム様」
私に声を掛けてきたのは、ラム・マートン公爵令嬢だった。
私の挨拶の返しを聞いて、エスカは目を丸くしていた。それは無理もない話で、あのゲームを知っていれば、ラムが痩せているなんていうのは想像できない話なのである。なにせラムは90kgはある太った令嬢だったのだから。
そのラムだけれども、一応ファンアートには痩せていたらというお題のイラストがごくわずかながらにあった。さすがは歴戦の絵師のイラストとあって、そこで描かれていた姿は、まるで今のラムのような姿だったのだ。オタクの妄想力やばすぎよね。
ただ、エスカの反応を見る限りは、そういうイラストは見た事がない様子だった。私の場合は、ラムが痩せていく過程は見ていたから、驚くというよりは感動したものよ。
「アンマリア様、こちらのお方はどちら様でしょうか。私服のようですが、外部の方かしら?」
ラムはエスカを見ながら、頬に人差し指を添わせるように当てている。
「ええ、そうですわ。この方はエスカ・ミール王女殿下。来年からこちらに留学されるミール王国の王女で、アーサリー殿下の妹君でございます」
「まあ、ミール王国の王女様なのですね。これは失礼致しました。わたくし、ラム・マートン公爵令嬢と申します。どうかお見知りおきを」
私がエスカを紹介すると、ラムは驚いてカーテシーをして挨拶をしていた。まあ、驚くわよね。どこか芋っぽいんですもの、このお姫様。転生者っていう事もあるんでしょうけれど、ものすごく頼りないのよね。
それにしても、私がラムにエスカの事を紹介したら、周りからぞろぞろと人が集まってくる。その状況にエスカは驚いて固まってしまっていて、どうにか私がフォローしなければいけない状況になってしまった。まったく、一気に寄って来すぎなのよ。
「エスカ王女殿下は、アーサリー殿下が留学されている関係で、こっちの事が気になっていたようでして、それで今回、体験入学という形でこうして私がご一緒させて頂く事になりましたの」
野次馬たちに説明をする私。フィレン王子の誕生日パーティーに招待された事は今のところは伏せておく。どうせ当日になれば分かる事だし、あえてここで言う必要はないわね。
「エスカ・ミールと申します。来年よりこちらの学園に留学予定となっております。1週間ほどですが、授業にお邪魔させて頂きます。どうぞよろしくですわ」
エスカは席から立ち上がって軽く挨拶をした。見た目だけなら美少女には違いないので、男子どもがまあうるさかったわね。反応していない男子は、婚約者の居る人ばかりの模様。強者の余裕ってところかしら。
そうは言っても、男女双方から視線をがっつり集めたエスカは、どうにか頑張っていたものの、恐怖に体が震え始めていた。お姫様だから、こういう視線には慣れていないのだろう。3年前のあの余裕は、おそらく顔を知られていない事による「どうせ分からないでしょ」とかいう意味不明な自信から来たものだったのかも知れない。やっぱり頭弱そうだわ、この子。
「まあまあ、みなさま。あまりそんなに見られては、エスカ王女殿下も緊張してしまいます。それに、先生ももういらしてますので、席に座りましょう?」
「はっ、いつの間に!」
私の言葉に、学生たちは一気に教壇の方を見る。そしたらば実際に教師がそこに立っていたものだから、慌ててバタバタと席についていた。教師の顔は笑っていたけれど、あれはどう見ても怒っている顔だった。一応、私たちのやり取りは知っているだろうけれど、余計な問題を増やしやがってというような雰囲気も醸し出している。私は心の中で謝り倒しておく。何をするか分からない王女を放置しておくよりも、目の届くところに置いておく方が安全ですもの。エスカは当然だけれども、周りだってそうだと思うわ。
私の心配をよそに、授業中のエスカは試験に授業に打ち込んでいた。午前中は座学ばかりだったのはある意味幸いだった。危険が発生する要素がないんだもの。
むしろ転生者が危険となるのは実技よ。すっかりWEB小説とかに慣れていると、そのチート能力で厄介を起こしてしまうのだから。私はその辺は庭いじりと共に散々練習してきたからいいものの、エスカのここまでのやらかしとか見ている限り、まあ怖いとしか言いようがない。エスカの魔法の能力についてはどのくらいか把握していないし、私の魔法でどこまで抑え込めるか未知数なのよね。
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とにかく今の私は、面倒事が起きない事をひたすら祈るばかりだった。
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