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第三章 学園編
第109話 どちらかが欠けてもね
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その後、授業が終わって学園から家に戻ってくると、私はエスカににっこりと微笑みかける。すると、その笑顔を見ただけでエスカが震え上がった。
「ぴっ!」
なんとも可愛らしい鳥の鳴き声のような声を上げるエスカだけれども、私はその反応にキレそうになった。
「モモ、先に家に入っててちょうだい。私はエスカ王女殿下と少し特訓をしてきますので」
「承知致しましたわ、お姉様」
「スーラも先に行ってて。お父様たちに軽く説明をお願い」
「畏まりました、アンマリアお嬢様」
というわけで、モモとネス、それと自分の侍女であるスーラを先に家の中へと入らせた私は、エスカを連れて庭園へとやって来た。
「さて、それじゃ魔法のお勉強を始めましょうか」
「ひっ!」
ちょっと、私が少し斜に構えて開始の宣言をしただけなのに、そんなに怖がる事ないじゃないの!
正直びびりっぱなしのエスカの状態に、私はイライラを募らせている。まあ、どっかのモンスターが使ったような火炎魔法を使えば、怖がられるのは仕方ないのかも知れない。
でも、それとこれとは別の話よ。スマホもどきを作れるくらいなんだから、エスカの魔力量は相当に多いはず。そうなると、今はまだいいけれど、いずれ暴走を起こさないとは限らない。だからこそ、早いうちに魔力の制御を身に付けておかないと大変な事になってしまうわ。だって、私だって制御に自信がないんだもの。私の場合は他の人より元々魔力が多い上に、洗礼式で判明した通り、恩恵によって魔力を無限に供給される状態になっているんだからね。
そんなわけで、他人に魔力制御を教えるというのは、自分のためにもなってくれるのだ。自分の中の魔力に向き合う事ができるのだから。
庭園の中でもひときわ広い場所で早速始める。
「まずは体内の魔力の流れを確認するところからね。これができない状態で魔法を使おうとすると、最悪魔力循環不全に陥る危険性があるからね」
「魔力循環不全?」
聞き慣れない単語なのか、エスカが首を傾げていた。
「そのままの意味よ。体内の魔力の循環が何らかの形で妨げられたり狂ったりして、体の調子を崩す病気よ。最悪魔力が固まる事によって死ぬ事だってあり得る怖い病気なのよ」
「ひぃぃっ!」
またその声を出すの?
怖い話だから非常に気持ちは分かるんだけど、さっきからびびりすぎなのよね。転生者あるあるの『調子に乗りました』なのかしらねぇ……。
「まったく、そんな事も知らないで魔法を使っていたの? ……呆れるわね」
「ううう、ごめんなさい」
エスカは縮こまりながら謝っている。本当に私の事を怖がっているようにしか見えなかった。
「うーん、そんなに怖がられるのは心外だわね。という事で、遠慮なく鍛えてあげますから、覚悟なさい」
私が背景に炎が見えそうな勢いで宣言すると、エスカは涙目になっていた。どうして……。
「はあ、そんな顔されては困ります。とにかく始めますので、両手を出して下さい」
「は、はい」
私がため息を吐きながら言うと、縮こまった状態のまま、エスカは両手を恐る恐る私の前に突き出してきた。だから、どうしてそこまで怖がり続けるのよ。
「魔法をうまく使いこなすコツは、体内の魔力の流れを感じてスムーズにする事。それと魔法を具現化するための想像力なのです。エスカは転生者だから想像力は十分でしょうけれど、それを引き出そうにも魔力がうまく扱えなければ意味はありません。分かりますか?」
私が聞くと、エスカはなんとなくという表情をしながら頷いていた。だけども、なんとなくでもいいから分かっていればヨシという事で、私は早速魔力の流れを感じ取る手伝いをする。漠然としている状態で魔力の流れを感じ取れる人間はそう多くない。大体はこうやって他人の手によって感じ取れるようになるのだ。学園のような場所ではなかなかそういう事をする余裕がない。なので、できれば入学までに済ませておくのが理想的だろう。ただ、この方法を知っている人物は少ないので、かなり多くの人物が本来の才能を発揮できずに苦しんでいるのかも知れない。エスカの相手をしながら、私はふとそんな事を思ったのだった。
「あ、アンマリア? くすぐったすぎるんですけれど?!」
「あ、これはごめんなさい」
いけないいけない。余計な事を考えて止めるのを忘れてたわ。
「……これが魔力なのね。確かに体の中で血液のように脈打っているような感覚があるわ」
「それが分かれば十分ですよ。一度試しに魔法を使ってみますか?」
私は、使うという前提で防御魔法を展開する。センマイと私とでしっかり手入れした庭なんだもの。吹き飛ばされちゃったら泣きたくても泣けないわ。
「水よ渦巻け! スプレッド!」
エスカは頷くよりも前に魔法をぶっ放していた。私は呆れて物が言えないわ……。
バッシャーンと撒き散らかる水に、私は鬼のお説教モードに入ったのだった。
その後のエスカはずっと涙目だったのだけれども、正直言って調子に乗ったエスカが悪い。私は結局、その日はエスカとまったく口を利かなかったのだった。
「ぴっ!」
なんとも可愛らしい鳥の鳴き声のような声を上げるエスカだけれども、私はその反応にキレそうになった。
「モモ、先に家に入っててちょうだい。私はエスカ王女殿下と少し特訓をしてきますので」
「承知致しましたわ、お姉様」
「スーラも先に行ってて。お父様たちに軽く説明をお願い」
「畏まりました、アンマリアお嬢様」
というわけで、モモとネス、それと自分の侍女であるスーラを先に家の中へと入らせた私は、エスカを連れて庭園へとやって来た。
「さて、それじゃ魔法のお勉強を始めましょうか」
「ひっ!」
ちょっと、私が少し斜に構えて開始の宣言をしただけなのに、そんなに怖がる事ないじゃないの!
正直びびりっぱなしのエスカの状態に、私はイライラを募らせている。まあ、どっかのモンスターが使ったような火炎魔法を使えば、怖がられるのは仕方ないのかも知れない。
でも、それとこれとは別の話よ。スマホもどきを作れるくらいなんだから、エスカの魔力量は相当に多いはず。そうなると、今はまだいいけれど、いずれ暴走を起こさないとは限らない。だからこそ、早いうちに魔力の制御を身に付けておかないと大変な事になってしまうわ。だって、私だって制御に自信がないんだもの。私の場合は他の人より元々魔力が多い上に、洗礼式で判明した通り、恩恵によって魔力を無限に供給される状態になっているんだからね。
そんなわけで、他人に魔力制御を教えるというのは、自分のためにもなってくれるのだ。自分の中の魔力に向き合う事ができるのだから。
庭園の中でもひときわ広い場所で早速始める。
「まずは体内の魔力の流れを確認するところからね。これができない状態で魔法を使おうとすると、最悪魔力循環不全に陥る危険性があるからね」
「魔力循環不全?」
聞き慣れない単語なのか、エスカが首を傾げていた。
「そのままの意味よ。体内の魔力の循環が何らかの形で妨げられたり狂ったりして、体の調子を崩す病気よ。最悪魔力が固まる事によって死ぬ事だってあり得る怖い病気なのよ」
「ひぃぃっ!」
またその声を出すの?
怖い話だから非常に気持ちは分かるんだけど、さっきからびびりすぎなのよね。転生者あるあるの『調子に乗りました』なのかしらねぇ……。
「まったく、そんな事も知らないで魔法を使っていたの? ……呆れるわね」
「ううう、ごめんなさい」
エスカは縮こまりながら謝っている。本当に私の事を怖がっているようにしか見えなかった。
「うーん、そんなに怖がられるのは心外だわね。という事で、遠慮なく鍛えてあげますから、覚悟なさい」
私が背景に炎が見えそうな勢いで宣言すると、エスカは涙目になっていた。どうして……。
「はあ、そんな顔されては困ります。とにかく始めますので、両手を出して下さい」
「は、はい」
私がため息を吐きながら言うと、縮こまった状態のまま、エスカは両手を恐る恐る私の前に突き出してきた。だから、どうしてそこまで怖がり続けるのよ。
「魔法をうまく使いこなすコツは、体内の魔力の流れを感じてスムーズにする事。それと魔法を具現化するための想像力なのです。エスカは転生者だから想像力は十分でしょうけれど、それを引き出そうにも魔力がうまく扱えなければ意味はありません。分かりますか?」
私が聞くと、エスカはなんとなくという表情をしながら頷いていた。だけども、なんとなくでもいいから分かっていればヨシという事で、私は早速魔力の流れを感じ取る手伝いをする。漠然としている状態で魔力の流れを感じ取れる人間はそう多くない。大体はこうやって他人の手によって感じ取れるようになるのだ。学園のような場所ではなかなかそういう事をする余裕がない。なので、できれば入学までに済ませておくのが理想的だろう。ただ、この方法を知っている人物は少ないので、かなり多くの人物が本来の才能を発揮できずに苦しんでいるのかも知れない。エスカの相手をしながら、私はふとそんな事を思ったのだった。
「あ、アンマリア? くすぐったすぎるんですけれど?!」
「あ、これはごめんなさい」
いけないいけない。余計な事を考えて止めるのを忘れてたわ。
「……これが魔力なのね。確かに体の中で血液のように脈打っているような感覚があるわ」
「それが分かれば十分ですよ。一度試しに魔法を使ってみますか?」
私は、使うという前提で防御魔法を展開する。センマイと私とでしっかり手入れした庭なんだもの。吹き飛ばされちゃったら泣きたくても泣けないわ。
「水よ渦巻け! スプレッド!」
エスカは頷くよりも前に魔法をぶっ放していた。私は呆れて物が言えないわ……。
バッシャーンと撒き散らかる水に、私は鬼のお説教モードに入ったのだった。
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