140 / 500
第三章 学園編
第140話 強制力って怖いわね
しおりを挟む
ベジタリウス王国の話は一旦置いておいて、私はスタンピードの事を思い出した。
そういえば、合宿のちょうど真ん中になる日は、ゲームにおいてスタンピードが発生して、アンマリアかサキの覚醒が起きるという一大イベントの日なのである。ベジタリウス王国のせいで一瞬飛び掛かってしまったけれど、思い出せてよかったわ。
エスカに確認してみても、彼女もそのように記憶しているので、これはもう疑いようのない未来なのである。
ただし、これに関してはちょっとだけ不安な点がある。なにせ、8歳でクッケン湖にやって来た時にスタンピードが発生していたからである。あの時は私の魔法で一瞬で終わってしまったがために、実に拍子抜けすぎて驚いたくらいだ。
まぁそれはそれとして、ゲームで発生するイベントだからこそ、起こる算段が高い。となれば、3日目はサキに構う事にしましょう。
そんなわけで、3日目の私はライバル令嬢とエスカを集めて、ひたすら魔法の鍛錬を行った。ちなみに教官には申し出て許可を受けたわよ。
さあ、来るなら来なさい、スタンピード!
そんなわけで、合宿は運命の4日目を迎えた。
この日も朝から天気は良かった。お昼までは何事もなく過ぎていった。ところがだ。
「あら、雲行きが怪しくなってきましたわね」
最初に異変に気が付いたのはラムだった。
そもそもクッケン湖の辺りはそこそこの標高がある。山の天気は変わりやすいのだから、急に雲が広がるというのはそれなりにあり得る話なのである。
ただ、これが杞憂で終わればよかった。
(これは、魔力が渦巻いている?!)
私はひしひしと異質な魔力を感じていた。
「アンマリア。やばいわよ、この気配」
どうやらエスカも同じような事を感じていたようだ。その時だった。
カンカンカンカンッ!
けたたましいばかりの鐘の音が鳴り響く。これはバッサーシ領でスタンピードが発生した時にならされる鐘の音だった。なんて事、ゲームのイベント通りにスタンピードが発生してしまったわ。
その鐘が鳴り響く中、クッケン湖の中央ほどに、どす黒い魔力の渦が発生している。
「先生! 学生たちを早く避難させて下さい。スタンピードです!」
「な、なんだとっ?!」
びりびりと空気が振動して、湖面が波立っている。とてもじゃないけれど、8歳の時に起きたスタンピードとは比べ物にならないくらいの、強い魔力の圧力を感じている。どうやら、ケルピーどころの話ではなさそうだった。
明らかに不穏な魔力の気配に、学生たちは怯えながら教官たちの指示に従って避難を始める。そして、ちょうどそこへバッサーシ辺境伯の私兵と国境警備隊たちが駆けつけた。だが、その間も湖面上の黒い渦は広がり続けている。一体どんな魔物が出てくるというのかしらね。
クッケン湖を望む湖畔には、私とリブロ王子を除く攻略対象とアーサリーという男性陣、ライバル令嬢とエスカの女性陣が身構えている。なんでみんな残っているのかしらね。これもゲームの強制力なのかしら……。
私が首を傾げていると、クッケン湖の上に発生した魔力の渦が、いよいよ中から押し出される魔力の圧力に耐えきれなくなっているようだった。小刻みに震えたかと思うと、ついにはひびが入り、そして砕け散った。
「ギャアアアアッ!!」
けたたましい雄たけびと共に、大量の魔物があふれ出てくる。
(この戦い、ヒロインであれば戦闘シーンに切り替わって、連戦をこなすのよね。サキだったらスチル1枚で片付けられちゃうんだけど……)
考え事をしてしまうほどの余裕のある私だけれども、さすがにみんなの表情は険しかった。これがヒロインとそれ以外のキャラの差というものなのだろうか。
「みなさん、迎え撃ちますよ!」
「ああ、分かった!」
サクラの号令で、みんなが一斉に構える。さすが辺境伯令嬢、かっこいいわ。
とりあえず、ゲームと現実は違うのだから、私はみんながけがをしないようにバフとデバフをそれぞれ展開しておく。緊張感で誰も気が付いてないけれど、さすがにエスカは転生者らしく勘付いていた模様。
とはいえども、黙っておくと勘違いしそうなので、
「みなさん、この戦いがこちらの有利になるようにバフとデバフを展開しておきました。それでも、相手は数多くの魔物たちです。決して油断なさいませんように」
「アンマリア、助かる!」
フィレン王子がお礼を言ってくれた。うん、さすが王子、絵になるわね。
みんなが戦っている後ろで、私は討ち漏らしなどを決して逃さなかった。ちょいとした魔法で倒せているあたり、8歳の時に使った魔法を使えば、これはあの時同様に一瞬で一掃できてしまいそうだった。それではさすがにみんなの訓練にはならないから、今回は封印だけれどもね。今回はあくまでも、サキの覚醒のルートを選んでいるの。私が倒してしまっては意味がないのよ。
「アンマリア、わざと手を抜いてますわね?」
「ええ、今回はあくまでライバル令嬢たちに頑張ってもらうわ。私はやばいのが出てきた時ために温存よ」
「はあ、そうご都合な事があるかしら?」
王子たちの連携がうまくいき、いよいよ魔物の数も少なくなってきた時だった。
ズゥゥン……。
重い衝撃が辺り一帯に走ったのだった。
「う、嘘でしょ?」
「何なんだよ、あれは!」
思わず目を向けたクッケン湖の湖面上に、新たなどす黒い魔力の渦が発生したのだった。
そういえば、合宿のちょうど真ん中になる日は、ゲームにおいてスタンピードが発生して、アンマリアかサキの覚醒が起きるという一大イベントの日なのである。ベジタリウス王国のせいで一瞬飛び掛かってしまったけれど、思い出せてよかったわ。
エスカに確認してみても、彼女もそのように記憶しているので、これはもう疑いようのない未来なのである。
ただし、これに関してはちょっとだけ不安な点がある。なにせ、8歳でクッケン湖にやって来た時にスタンピードが発生していたからである。あの時は私の魔法で一瞬で終わってしまったがために、実に拍子抜けすぎて驚いたくらいだ。
まぁそれはそれとして、ゲームで発生するイベントだからこそ、起こる算段が高い。となれば、3日目はサキに構う事にしましょう。
そんなわけで、3日目の私はライバル令嬢とエスカを集めて、ひたすら魔法の鍛錬を行った。ちなみに教官には申し出て許可を受けたわよ。
さあ、来るなら来なさい、スタンピード!
そんなわけで、合宿は運命の4日目を迎えた。
この日も朝から天気は良かった。お昼までは何事もなく過ぎていった。ところがだ。
「あら、雲行きが怪しくなってきましたわね」
最初に異変に気が付いたのはラムだった。
そもそもクッケン湖の辺りはそこそこの標高がある。山の天気は変わりやすいのだから、急に雲が広がるというのはそれなりにあり得る話なのである。
ただ、これが杞憂で終わればよかった。
(これは、魔力が渦巻いている?!)
私はひしひしと異質な魔力を感じていた。
「アンマリア。やばいわよ、この気配」
どうやらエスカも同じような事を感じていたようだ。その時だった。
カンカンカンカンッ!
けたたましいばかりの鐘の音が鳴り響く。これはバッサーシ領でスタンピードが発生した時にならされる鐘の音だった。なんて事、ゲームのイベント通りにスタンピードが発生してしまったわ。
その鐘が鳴り響く中、クッケン湖の中央ほどに、どす黒い魔力の渦が発生している。
「先生! 学生たちを早く避難させて下さい。スタンピードです!」
「な、なんだとっ?!」
びりびりと空気が振動して、湖面が波立っている。とてもじゃないけれど、8歳の時に起きたスタンピードとは比べ物にならないくらいの、強い魔力の圧力を感じている。どうやら、ケルピーどころの話ではなさそうだった。
明らかに不穏な魔力の気配に、学生たちは怯えながら教官たちの指示に従って避難を始める。そして、ちょうどそこへバッサーシ辺境伯の私兵と国境警備隊たちが駆けつけた。だが、その間も湖面上の黒い渦は広がり続けている。一体どんな魔物が出てくるというのかしらね。
クッケン湖を望む湖畔には、私とリブロ王子を除く攻略対象とアーサリーという男性陣、ライバル令嬢とエスカの女性陣が身構えている。なんでみんな残っているのかしらね。これもゲームの強制力なのかしら……。
私が首を傾げていると、クッケン湖の上に発生した魔力の渦が、いよいよ中から押し出される魔力の圧力に耐えきれなくなっているようだった。小刻みに震えたかと思うと、ついにはひびが入り、そして砕け散った。
「ギャアアアアッ!!」
けたたましい雄たけびと共に、大量の魔物があふれ出てくる。
(この戦い、ヒロインであれば戦闘シーンに切り替わって、連戦をこなすのよね。サキだったらスチル1枚で片付けられちゃうんだけど……)
考え事をしてしまうほどの余裕のある私だけれども、さすがにみんなの表情は険しかった。これがヒロインとそれ以外のキャラの差というものなのだろうか。
「みなさん、迎え撃ちますよ!」
「ああ、分かった!」
サクラの号令で、みんなが一斉に構える。さすが辺境伯令嬢、かっこいいわ。
とりあえず、ゲームと現実は違うのだから、私はみんながけがをしないようにバフとデバフをそれぞれ展開しておく。緊張感で誰も気が付いてないけれど、さすがにエスカは転生者らしく勘付いていた模様。
とはいえども、黙っておくと勘違いしそうなので、
「みなさん、この戦いがこちらの有利になるようにバフとデバフを展開しておきました。それでも、相手は数多くの魔物たちです。決して油断なさいませんように」
「アンマリア、助かる!」
フィレン王子がお礼を言ってくれた。うん、さすが王子、絵になるわね。
みんなが戦っている後ろで、私は討ち漏らしなどを決して逃さなかった。ちょいとした魔法で倒せているあたり、8歳の時に使った魔法を使えば、これはあの時同様に一瞬で一掃できてしまいそうだった。それではさすがにみんなの訓練にはならないから、今回は封印だけれどもね。今回はあくまでも、サキの覚醒のルートを選んでいるの。私が倒してしまっては意味がないのよ。
「アンマリア、わざと手を抜いてますわね?」
「ええ、今回はあくまでライバル令嬢たちに頑張ってもらうわ。私はやばいのが出てきた時ために温存よ」
「はあ、そうご都合な事があるかしら?」
王子たちの連携がうまくいき、いよいよ魔物の数も少なくなってきた時だった。
ズゥゥン……。
重い衝撃が辺り一帯に走ったのだった。
「う、嘘でしょ?」
「何なんだよ、あれは!」
思わず目を向けたクッケン湖の湖面上に、新たなどす黒い魔力の渦が発生したのだった。
7
あなたにおすすめの小説
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜
naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。
しかし、誰も予想していなかった事があった。
「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」
すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。
「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」
──と、思っていた時期がありましたわ。
orz
これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。
おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる