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第三章 学園編
第139話 謎に包まれた隣国
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部屋で椅子やベッドに座り、しばらく流れる沈黙。そして、ぽつぽつとサクラが語り出した。
「ベジタリウス王国は、お父様たちからするとあまり語りたくない国のようなんですよね」
あの筋肉至上主義のバッサーシ辺境伯が語りたがらない。その言葉に私やエスカはとても興味を持った。モモも空気を読んで黙って聞いている。
「南のミール王国もそうですが、今でこそ平和ですが、過去には何度となく侵略めいた事がありました。その時に真っ先にその矢面に立って応戦したのが、バッサーシの祖先なのです」
サクラの語り出した言葉に、私たちは小さく息を飲んだ。
私は思い出していた。北西、北東、そして南部の三か所にどうして辺境伯という存在が居るのかという事を。
辺境伯というのは国境警備の要なのだ。つまり、その国からしたら死守したい場所であるという事なのである。サーロイン王国の北西にはバッサーシ辺境伯が陣取っており、そこを越えた先にあるベジタリウス王国というものがそりゃまともな国なわけがないのである。
サーロイン王国のある土地一帯というのは、比較的温暖で肥沃な土地が広がっている。海からも微妙に遠いその土地は、いろいろと恵まれていたのだ。だからこそ、山向こうにある古い国であるベジタリウス王国は、サーロインの土地を狙って侵攻を繰り返してきたのだ。その中で大規模な侵攻があった時に、勢いに乗るベジタリウス帝国を山向こうまで押し返したのがバッサーシ辺境伯のご先祖なのだという。そして、その功績と実力を称えられ、今のバッサーシ領があるのだそうだ。
「正直、来年から同じ学園に通うと聞いて、父ヒーゴと母シーナは気が気がないのです。再びサーロインへ攻め入るためのスパイ工作ではないかとか、いろいろ疑っているのですよ」
サクラはそのように語って話を締めた。いや、同じように辺境伯に睨みを利かされているミール王国の王女が居る前で、そう言い切っちゃいますか?!
「国境沿いというのは大変なのですね」
よく分かっていないのか、エスカは特に気にしていないようだった。これには私はちょっと意外だと思いながらも安心した。
「ええ、大変なのですよ。もう年末に向けて今から支度している真っ最中なのです。レッタス王子とミズーナ王女の我が国への留学の際には、途中バッサーシ領で一泊なされますから」
年が近い事もあってか、どうやらサクラも巻き込まれているらしい。なにせその際にはミズーナ王女を自室に招き入れなければならないからだ。一国の王子や王女を受け入れるのは、名誉ではあるが気を遣う事なのである。ましてや、過去に因縁のある相手ならばなおさらである。サクラがこれだけ滅入ってしまっているのは本当に珍しい話である。
「我がミール王国との関係とは大違いですわね。それほどまでにベジタリウス王国というのは厄介な国なのですわね」
エスカが顎に手を当てて唸るような仕草を見せている。ちなみにモモはずっと後ろに控えて心配そうに見守っているだけだった。
「ミール王国に関しては、3年前に訪れてある程度関係と状況が改善したからでございます。アンマリア様たちの努力あってこそですよ」
エスカの反応に対して、サクラはそう話していた。やっぱり10歳の時に海見たさにミール王国に突撃した事は影響しているようである。これでこそ強行したかいがあるというものね。私は太い腕を組んで少し誇らしげに笑った。
「私の方としても、そう言って頂けて嬉しい限りですわ。お兄様の様子を見る限り、とても信用されるような状態ではないと思いますのでね」
サクラの感想に対して、エスカの方は額に指先を当てて首を左右に振っていた。ちょうど自分がやってきた時のアーサリーの振る舞いの事を思い出していたからである。本当に、自分が留学している国の王子の婚約者に対してのあの態度、エスカとしては頭が痛いのだ。それにしても言葉と態度が違い過ぎる。
サクラがさらに言うには、ベジタリウス王国との間ではあまり交流がなかったらしい。私たちが知らなかったのはこういうところにも理由がありそうだ。これでもバッサーシ辺境伯領は、サーロイン王国内ではベジタリウス王国とは交流がある方なのだ。なにせ、同国との間で行き来する商人がたくさん通るからだ。サクラたちの持つ情報も、大体そういった商人たちからもたらされる情報であり、サーロイン王国内では実質謎の国といった状態のようである。
「さすがにそんな国からいきなり王子王女を留学させるなんて、それはうさん臭くもなりますね」
「ええ、まったくですよ。お父様あたりはもっとよくご存じかとは思いますけれど、先ほども言いました通り、あまり語りたがりませんのでね……。私が持つ情報も商人や兵士たちからのもので、あまり詳しくは分からないのです」
私に対してあんなに風に叱ったサクラも、その実はあまり詳しくなったという現実。それでも、国の存在を知っているだけ幾分マシという感じである。
「これは、私の方でも調べておく必要がありますわね。サーロインから直接探りを入れるより、もしかしたら情報は得られるかも知れませんから」
エスカはやる気のようである。自分も来年から学園に通うのだから、少しは不安材料を減らしておきたいのである。
「そうですね。では、分かりましたら、お互いに情報を共有致しましょう」
サクラがそう言って話を締めると、私たちははお互いに頷き合う。すると、
「そ、それでしたら、私も!」
モモは慌てて声を出してそこに加わった。
謎に包まれた隣国ベジタリウス王国。一体どんな国で、どんな人物がやって来るのだろうか。私たちはあまりの不気味さに不安を募らせた。
「ベジタリウス王国は、お父様たちからするとあまり語りたくない国のようなんですよね」
あの筋肉至上主義のバッサーシ辺境伯が語りたがらない。その言葉に私やエスカはとても興味を持った。モモも空気を読んで黙って聞いている。
「南のミール王国もそうですが、今でこそ平和ですが、過去には何度となく侵略めいた事がありました。その時に真っ先にその矢面に立って応戦したのが、バッサーシの祖先なのです」
サクラの語り出した言葉に、私たちは小さく息を飲んだ。
私は思い出していた。北西、北東、そして南部の三か所にどうして辺境伯という存在が居るのかという事を。
辺境伯というのは国境警備の要なのだ。つまり、その国からしたら死守したい場所であるという事なのである。サーロイン王国の北西にはバッサーシ辺境伯が陣取っており、そこを越えた先にあるベジタリウス王国というものがそりゃまともな国なわけがないのである。
サーロイン王国のある土地一帯というのは、比較的温暖で肥沃な土地が広がっている。海からも微妙に遠いその土地は、いろいろと恵まれていたのだ。だからこそ、山向こうにある古い国であるベジタリウス王国は、サーロインの土地を狙って侵攻を繰り返してきたのだ。その中で大規模な侵攻があった時に、勢いに乗るベジタリウス帝国を山向こうまで押し返したのがバッサーシ辺境伯のご先祖なのだという。そして、その功績と実力を称えられ、今のバッサーシ領があるのだそうだ。
「正直、来年から同じ学園に通うと聞いて、父ヒーゴと母シーナは気が気がないのです。再びサーロインへ攻め入るためのスパイ工作ではないかとか、いろいろ疑っているのですよ」
サクラはそのように語って話を締めた。いや、同じように辺境伯に睨みを利かされているミール王国の王女が居る前で、そう言い切っちゃいますか?!
「国境沿いというのは大変なのですね」
よく分かっていないのか、エスカは特に気にしていないようだった。これには私はちょっと意外だと思いながらも安心した。
「ええ、大変なのですよ。もう年末に向けて今から支度している真っ最中なのです。レッタス王子とミズーナ王女の我が国への留学の際には、途中バッサーシ領で一泊なされますから」
年が近い事もあってか、どうやらサクラも巻き込まれているらしい。なにせその際にはミズーナ王女を自室に招き入れなければならないからだ。一国の王子や王女を受け入れるのは、名誉ではあるが気を遣う事なのである。ましてや、過去に因縁のある相手ならばなおさらである。サクラがこれだけ滅入ってしまっているのは本当に珍しい話である。
「我がミール王国との関係とは大違いですわね。それほどまでにベジタリウス王国というのは厄介な国なのですわね」
エスカが顎に手を当てて唸るような仕草を見せている。ちなみにモモはずっと後ろに控えて心配そうに見守っているだけだった。
「ミール王国に関しては、3年前に訪れてある程度関係と状況が改善したからでございます。アンマリア様たちの努力あってこそですよ」
エスカの反応に対して、サクラはそう話していた。やっぱり10歳の時に海見たさにミール王国に突撃した事は影響しているようである。これでこそ強行したかいがあるというものね。私は太い腕を組んで少し誇らしげに笑った。
「私の方としても、そう言って頂けて嬉しい限りですわ。お兄様の様子を見る限り、とても信用されるような状態ではないと思いますのでね」
サクラの感想に対して、エスカの方は額に指先を当てて首を左右に振っていた。ちょうど自分がやってきた時のアーサリーの振る舞いの事を思い出していたからである。本当に、自分が留学している国の王子の婚約者に対してのあの態度、エスカとしては頭が痛いのだ。それにしても言葉と態度が違い過ぎる。
サクラがさらに言うには、ベジタリウス王国との間ではあまり交流がなかったらしい。私たちが知らなかったのはこういうところにも理由がありそうだ。これでもバッサーシ辺境伯領は、サーロイン王国内ではベジタリウス王国とは交流がある方なのだ。なにせ、同国との間で行き来する商人がたくさん通るからだ。サクラたちの持つ情報も、大体そういった商人たちからもたらされる情報であり、サーロイン王国内では実質謎の国といった状態のようである。
「さすがにそんな国からいきなり王子王女を留学させるなんて、それはうさん臭くもなりますね」
「ええ、まったくですよ。お父様あたりはもっとよくご存じかとは思いますけれど、先ほども言いました通り、あまり語りたがりませんのでね……。私が持つ情報も商人や兵士たちからのもので、あまり詳しくは分からないのです」
私に対してあんなに風に叱ったサクラも、その実はあまり詳しくなったという現実。それでも、国の存在を知っているだけ幾分マシという感じである。
「これは、私の方でも調べておく必要がありますわね。サーロインから直接探りを入れるより、もしかしたら情報は得られるかも知れませんから」
エスカはやる気のようである。自分も来年から学園に通うのだから、少しは不安材料を減らしておきたいのである。
「そうですね。では、分かりましたら、お互いに情報を共有致しましょう」
サクラがそう言って話を締めると、私たちははお互いに頷き合う。すると、
「そ、それでしたら、私も!」
モモは慌てて声を出してそこに加わった。
謎に包まれた隣国ベジタリウス王国。一体どんな国で、どんな人物がやって来るのだろうか。私たちはあまりの不気味さに不安を募らせた。
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