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第三章 学園編
第154話 夏が終わる
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リブロ王子、サキ、アーサリー、エスカの四人を相手に、私による特訓が始まった。
最初に忘れてはいけないのは、被害が周囲に及ばないように防護の結界を張る事よ。ただでさえここは王宮の庭園。何かあったら王妃が悲しむわ。
「さて、誰に合わせて訓練を始めようかしらね。うん、やっぱりサキに合わせようかしら」
そんなわけで、私はサキの訓練の続きという体で特訓を始める事にしたのだった。
「それじゃ、基本的な誰でも使える魔法で、体内の魔力循環を感じ取るところから始めましょうか」
私は人差し指を立てて、指先に魔力を集中させていく。そうしてしばらくすると、指先が明るく光ったのである。
「属性を問わずに使える、明かり取りの魔法です。これを体内の魔力をコントロールする事で、詠唱なしで灯してみて下さい」
私がこう言うと、驚いたのはアーサリーただ一人で、他の三人はすぐさま集中をし始めた。本当にこういう時には性格の差が出るわね。
すると、以前に私の特訓を受けた事のあるサキ、それと異世界転生してきたエスカはあっさりと指先に明かりを灯していた。火属性ではない、ちゃんとした光属性の明かりである。この明かり取りの魔法というのは生活魔法なので、元の属性に関わらず、魔法適性があればほとんどの人が使える魔法だものね。さっき説明した通りでしょ?
「むむむ……、結構難しいですね」
リブロ王子はものすごく苦戦しているようだ。その横では渋々アーサリーも同じように特訓をやり始めていた。
「ライト」
アーサリーはぼそりと聞こえないくらいに詠唱をする。詠唱をすれば簡単に明かりが灯るので、見た目にはアーサリーが無詠唱に成功したように見えるのだ。
「はい、ズルはダメですよ。最初からやり直し!」
「ええ、なんでだよ!」
私が厳しく言うと、アーサリーは口答えをしてきた。
「詠唱をすると魔力の揺れが違いますからね。私くらいの魔法使いになると分かるんですよ。ばれたくないのならもっとうまくやるべきですね」
顔中に血管マークが浮かんでいるような形相で私が説明すると、アーサリーは黙り込んでしまった。まったくずるはよくないわよ、ずるは。
ちなみにアーサリーだけど、簡単にばれちゃったのが悔しいのか、その場でしばらく絶叫してたわね。隣のサキとエスカがびっくりしてたんだけど、やめてよね?
そうこうしているうちに、
「やった、できた!」
リブロ王子も無詠唱で明かり取りの魔法を発動できるようになっていた。初歩魔法とはいっても、無詠唱だとこんなに難易度が上がるものなのよ。
それにしても、これができるって事は、だいぶ魔力循環が回復してきてるって事だから、そのうち車椅子生活を終われそうじゃない?
淡い期待を抱きつつ、私は一人苦戦するアーサリーを放っておいて次へ進む事にした。
「おい、俺を置いていくな!」
アーサリーは文句を言うが、
「だったら、早くそれをクリアして下さい。あなたは人に教えてもらうような態度を取っておりませんし、私の目標はもっと高い位置にありますから」
私はまったく意に介さなかった。そんな低いところでとどまっているつもりはまったくないものね。
こんな調子で、私の一週間にも及ぶ魔法の特訓は続いた。
私のこの特訓での目的は、サキをゲーム通りに聖女へと覚醒させる事と、リブロ王子をその足で歩けるように回復させる事だったんだから。つまり、アーサリーとエスカははっきり言っておまけなのである。おまけなんだから構っていられるわけがなかったのだ。
それにしても今回の特訓で一番驚いたのは、やっぱりエスカだろう。私と同じ異世界からの転生者というのもあるのか、物を頭で思い描く能力が半端ではなかったのだ。
魔法のコツは呪文を正確に言える事ではなくて、効果をイメージして魔力をよどみなく魔法へと変換させる能力の方なのよ。呪文はあくまでもイメージをするための補助的なものでしかないんだからね。
しかし、特訓を終えて私はふと思った。
「エスカ、一体いつまでこっちに居るのよ」
「ほえっ?」
あっ、声に出てた。
そう、明日からは1年目の後半が始まってしまう。さすがにそろそろエスカにはミール王国に戻ってもらわないと、あらぬ疑いが掛けられてしまいそうだ。なんといっても、従者や護衛たちはみんな帰らせちゃってるんだからね。
「そうですね。これ以上こちらに一人残られては、エスカ王女を人質に取ったと言われてしまう可能性があります。護衛をお付けしますので、そろそろ帰られてはいかがでしょうか」
ほーら、リブロ王子にまで心配されちゃってるじゃないのよ。
「あー、そっか。私王女だものね」
エスカはそう言うと、突然姿を消した。
「えっ?!」
「どこに行ったんだ、エスカ」
「これは瞬間移動魔法よ。もう身に付けちゃったの?」
慌てるサキたちだったが、私はすぐに瞬間移動魔法だと気が付いた。
「ふふっ、すっかり覚えちゃったわよ」
小悪魔のように笑いながら、エスカが姿を現す。
「全部で3週間、お世話になりっぱなしだったですわね」
エスカはちょこんと私とリブロ王子に向かってお辞儀をする。
「年明けすぐくらいにまたこちらにお世話になりに来ますので、それまでは愚兄の事をよろしくお願い致します」
「誰が愚兄か!」
スカートの裾をつまんで優雅にお辞儀をしているエスカに、すっかりバカにされてご立腹のアーサリーが怒鳴っていた。
この兄妹のやり取りに、私たちはすっかり腹の底から笑わされたのだった。
そして、夕食を食べると、エスカは瞬間移動魔法でミール王国へと戻っていったのであった。
ドタバタとした夏休みが終わり、いよいよ明日からは1年目の後半に突入するのである。
最初に忘れてはいけないのは、被害が周囲に及ばないように防護の結界を張る事よ。ただでさえここは王宮の庭園。何かあったら王妃が悲しむわ。
「さて、誰に合わせて訓練を始めようかしらね。うん、やっぱりサキに合わせようかしら」
そんなわけで、私はサキの訓練の続きという体で特訓を始める事にしたのだった。
「それじゃ、基本的な誰でも使える魔法で、体内の魔力循環を感じ取るところから始めましょうか」
私は人差し指を立てて、指先に魔力を集中させていく。そうしてしばらくすると、指先が明るく光ったのである。
「属性を問わずに使える、明かり取りの魔法です。これを体内の魔力をコントロールする事で、詠唱なしで灯してみて下さい」
私がこう言うと、驚いたのはアーサリーただ一人で、他の三人はすぐさま集中をし始めた。本当にこういう時には性格の差が出るわね。
すると、以前に私の特訓を受けた事のあるサキ、それと異世界転生してきたエスカはあっさりと指先に明かりを灯していた。火属性ではない、ちゃんとした光属性の明かりである。この明かり取りの魔法というのは生活魔法なので、元の属性に関わらず、魔法適性があればほとんどの人が使える魔法だものね。さっき説明した通りでしょ?
「むむむ……、結構難しいですね」
リブロ王子はものすごく苦戦しているようだ。その横では渋々アーサリーも同じように特訓をやり始めていた。
「ライト」
アーサリーはぼそりと聞こえないくらいに詠唱をする。詠唱をすれば簡単に明かりが灯るので、見た目にはアーサリーが無詠唱に成功したように見えるのだ。
「はい、ズルはダメですよ。最初からやり直し!」
「ええ、なんでだよ!」
私が厳しく言うと、アーサリーは口答えをしてきた。
「詠唱をすると魔力の揺れが違いますからね。私くらいの魔法使いになると分かるんですよ。ばれたくないのならもっとうまくやるべきですね」
顔中に血管マークが浮かんでいるような形相で私が説明すると、アーサリーは黙り込んでしまった。まったくずるはよくないわよ、ずるは。
ちなみにアーサリーだけど、簡単にばれちゃったのが悔しいのか、その場でしばらく絶叫してたわね。隣のサキとエスカがびっくりしてたんだけど、やめてよね?
そうこうしているうちに、
「やった、できた!」
リブロ王子も無詠唱で明かり取りの魔法を発動できるようになっていた。初歩魔法とはいっても、無詠唱だとこんなに難易度が上がるものなのよ。
それにしても、これができるって事は、だいぶ魔力循環が回復してきてるって事だから、そのうち車椅子生活を終われそうじゃない?
淡い期待を抱きつつ、私は一人苦戦するアーサリーを放っておいて次へ進む事にした。
「おい、俺を置いていくな!」
アーサリーは文句を言うが、
「だったら、早くそれをクリアして下さい。あなたは人に教えてもらうような態度を取っておりませんし、私の目標はもっと高い位置にありますから」
私はまったく意に介さなかった。そんな低いところでとどまっているつもりはまったくないものね。
こんな調子で、私の一週間にも及ぶ魔法の特訓は続いた。
私のこの特訓での目的は、サキをゲーム通りに聖女へと覚醒させる事と、リブロ王子をその足で歩けるように回復させる事だったんだから。つまり、アーサリーとエスカははっきり言っておまけなのである。おまけなんだから構っていられるわけがなかったのだ。
それにしても今回の特訓で一番驚いたのは、やっぱりエスカだろう。私と同じ異世界からの転生者というのもあるのか、物を頭で思い描く能力が半端ではなかったのだ。
魔法のコツは呪文を正確に言える事ではなくて、効果をイメージして魔力をよどみなく魔法へと変換させる能力の方なのよ。呪文はあくまでもイメージをするための補助的なものでしかないんだからね。
しかし、特訓を終えて私はふと思った。
「エスカ、一体いつまでこっちに居るのよ」
「ほえっ?」
あっ、声に出てた。
そう、明日からは1年目の後半が始まってしまう。さすがにそろそろエスカにはミール王国に戻ってもらわないと、あらぬ疑いが掛けられてしまいそうだ。なんといっても、従者や護衛たちはみんな帰らせちゃってるんだからね。
「そうですね。これ以上こちらに一人残られては、エスカ王女を人質に取ったと言われてしまう可能性があります。護衛をお付けしますので、そろそろ帰られてはいかがでしょうか」
ほーら、リブロ王子にまで心配されちゃってるじゃないのよ。
「あー、そっか。私王女だものね」
エスカはそう言うと、突然姿を消した。
「えっ?!」
「どこに行ったんだ、エスカ」
「これは瞬間移動魔法よ。もう身に付けちゃったの?」
慌てるサキたちだったが、私はすぐに瞬間移動魔法だと気が付いた。
「ふふっ、すっかり覚えちゃったわよ」
小悪魔のように笑いながら、エスカが姿を現す。
「全部で3週間、お世話になりっぱなしだったですわね」
エスカはちょこんと私とリブロ王子に向かってお辞儀をする。
「年明けすぐくらいにまたこちらにお世話になりに来ますので、それまでは愚兄の事をよろしくお願い致します」
「誰が愚兄か!」
スカートの裾をつまんで優雅にお辞儀をしているエスカに、すっかりバカにされてご立腹のアーサリーが怒鳴っていた。
この兄妹のやり取りに、私たちはすっかり腹の底から笑わされたのだった。
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