伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
155 / 500
第四章 学園編・1年後半

第155話 まさしく心機一転

しおりを挟む
 エスカも無事にミール王国に戻り、翌日から学園1年目の後半が始まる。
 初日は学園長の長ったらしい挨拶が繰り広げられて、あちこちから休みボケのあくびをする姿が見られた。こういう光景は、前世も今世も変わらない光景のようだった。
 さて、今日は後期に取る講義を決めないとね。必須は強制的に取らされるけれど、選択科目はどれを取ってもいいようになっている。後期には武術型と魔法型の垣根を取っ払った講義もあるので、私はとても楽しみにしている。
 ちなみに今の私の体重はちょうど100kg。半年で20kgは頑張ったわね。まあ、単純に魔力太りだったので、魔力を使えば使うほど落ちていくわけだけど、問題はここからだったわ。
 実は言うと、本当に体に脂肪がくっ付いてしまっている事が判明したのよ。長年の恩恵を受けたせいで、魔力が脂肪も吸着して、実際に体に定着してしまったらしい。まったく迷惑この上ないわね。多分、このまま魔法を使いまくってても、80kgまでしか落とせないでしょうね。ムカツク。
 あまりの驚愕の事実に私のため息は止まらない。だからと言って歩みを止めるわけにもいかない私は、とにかく今までやって来たトレーニングを続ける事を決意したのだった。
「お姉様」
 初日の授業も終わり、モモが私に駆け寄ってきた。相変わらず可愛い妹である。
「どうかしたのかしら、モモ」
「お姉様はどの講義を取られるのですか?」
 どうやらモモは、私がどの講義を受けるつもりなのかが気になっているようである。ふふっ、可愛いものね。
「そうね。私は武術型の講義も受けるつもりでいます。なんといってもこの体型ですもの。たくさん動いてさっさと痩せたいわ」
 私はぶんぶんと剣を振る動きをする。するとそれを見たモモが呆気に取られた顔をしたかと思えば、くすくすと笑い始めた。
「お姉様って、今のままでも十分魅力的ですよ」
「そうは言われてもね。太ったのは私のせいじゃないから、痩せなきゃいけないのよ。着替えとかでスーラたちに負担掛けるのはもう嫌なのよ」
 モモの言い分に私は必死に反論している。
 そう、私が太ったのは別に怠惰だったからじゃない。私に授けられた恩恵のせいなんだからね。むしろなんであんだけ運動してたのにこんなに太ってるのよ、おかしいじゃないの。理不尽だわ。そんなわけだから、私は武術型の講義を受けようと思っているのである。
 モモと話をしていると、ちょうど向こうから見た事のある人物が歩いてくる。授業が終われば、校門の方に歩いてくるから鉢合わせる可能性は当然ながらあるのである。
「サクラ様」
「これはアンマリア様、モモ様。学園でお会いするとは珍しいですね」
 サクラが挨拶をしてくる。サクラがこう言うのも無理はない。学園は武術型と魔法型で授業が完全に分かれていたのだ。特に1年生の前期はそれが顕著で、それぞれの型について徹底的に叩き込まれるのだ。なので、武術型と魔法型が顔を合わせる可能性は、昼休みの食堂と、下校時の校門くらいしかないのである。だからこそ、こういう言い方をしてくるのである。
「そうですわね。サクラ様も今から帰りですか?」
「まあそうですね」
 私が質問をすると、サクラは簡単にそうとだけ答えた。
「私、後期は武術型の授業にも顔を出す予定です。ですので、同じ授業になった時にはよろしくお願い致しますわ」
 私はにっこりとサクラに笑顔を向ける。
「そうなのですね。魔法を使うにも体力は必要ですからね。ふふっ、アンマリア様のご参加、歓迎致しますよ。一緒に筋肉を鍛えましょう」
 笑顔で答えるサクラだが、相変わらず制服がぴちぴちである。鍛えられた上腕筋が眩しい限りだ。
「そういえば、魔石剣ってすごいですね。ギガンテスを斬ったというのに刃こぼれ一つしていませんでしたよ。お父様たちも驚かれていましたし、アンマリア様、素晴らしい剣をありがとうございました」
 サクラはぺこりと頭を下げてきた。相変わらずきれいな姿勢である。体幹が凄いから軸がぶれないのだ。その素晴らしさはモモも息を飲んで感心するレベルなのである。
 そう、これよ。これが私の目指す先なのよ。筋肉はいいとしても、このぶれない体幹。それが私のこの世界で目指すアンマリアの理想の姿なのよ。
「素晴らしく美しい姿勢ですわ。私も鍛えてその美しさに到達できるように努力致しますわ」
「うふふ、お待ちしておりますよ、アンマリア様」
 鼻息荒く意気込む私に、サクラは満面の笑みを浮かべていた。
「それでは、私は家に戻って鍛錬がございますので、これで失礼致しますね。ごきげんよう」
 サクラは軽くお辞儀をすると、そのまますたすたと校門まで歩いていった。本当にモデルのようなきれいな歩き方に、私はただただ憧れの視線を向けたのだった。
 その私の姿を見ていたモモは、
「むう、お姉様ったら……」
 ちょっとむくれていたようである。
 その姿に気が付いた私は、モモの頭を撫でてあげる。
「さあ、私たちも帰りましょうか」
「はい、お姉様」
 頭を撫でた事で落ち着いたのか、私たちは仲良くファッティ家の馬車に乗り込んで帰宅したのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

転生調理令嬢は諦めることを知らない!

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

処理中です...