伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
180 / 500
第四章 学園編・1年後半

第180話 コネが大事です

しおりを挟む
 かなり早く学園にやって来たのだが、すでに学園内では忙しく動く人影がまばらではあるが見受けられた。どうやら同じように今日と明日に力を入れている者たちが居るようだった。負けてられないわね。
 馬車を学園の厩舎へと預けた私たちは、ボンジール商会が出店している場所まで急ぐ。するとそこには、すでにギーモたちがやって来ていた。
「これはこれはアンマリアお嬢様、モモお嬢様。実にお早いお越しですな」
 私たちに気が付いたギーモが挨拶してきた。
「これはギーモ商会長。あなたもずいぶんとお早いですね」
 私もちょっと皮肉を込めて言い返してあげた。なんか腹が立つのよね、この人。どうしてかしらね。だけど、お得意様だから付き合わなきゃいけない。実にもどかしいものね。
「とりあえず、売りに出している魔道具などを見せて頂いてもよろしいかしら」
「はい、どうぞどうぞ」
 私がその様に問い掛けると、ギーモは気前よく取り出してくれた。
 魔道具は魔石ペン、魔石コンロ、魔石ストーブ、魔石懐炉と、見事に魔石を使ったものばかり。まあ、そうでないと魔道具とは言わないみたいだしね。魔力で動くものを魔道具と称するので、その動力となる魔石は必須なのだから。
 それ以外にはテトリバー男爵領で採れた小麦粉とかそういうところのようである。どういう組み合わせなのだろうか。小麦粉はそのままここに持って来ても仕方がないと思うけれど、まあ、商会の扱う物品の代表という事で目に触れさせるのが目的だと、私はそう解釈した。
 しかしだ。小麦を売り込むというのなら、その良さを知ってもらわなければ意味がない。私はどうしても居ても立っても居られなくなってしまう。
「ギーモ商会長!」
「な、何でしょうかアンマリアお嬢様」
「小麦、一袋買わせて頂きますわ」
「はい?!」
 私の唐突な申し出に、ギーモは目を白黒させていた。唐突過ぎて理解が追い付かないようである。だが、私はそれに構っていられない。
「すぐさま塩と水を用意して下さいな。だしは……」
 私はそう言って、収納魔法の中身を確認する。その中には3年前にミール王国で買ったあるものが入っていたのである。
「うん、うどんが作れそうだわ」
「うどん? 何でしょうか、それは」
 私の独り言に、ギーモが反応するけどとりあえず今はそれを無視。ついでに魔石コンロを2つ購入。大きな鍋を2つ用意してもらっている間に、私は塩と水と小麦粉を使ってうどんを作り始めた。
 うどん作りは力が要るけれど、今の体格に加えて今まで鍛えてきた腕力と脚力がある。できるはずよ!
 私は屋外スペースに魔法の膜を作って、そこでうどんをこね始める。小麦粉に塩と水を混ぜてこね合わせ、叩いては捏ね叩いては捏ねを繰り返していく。ギーモもモモも、私が何をしているのか分からないようだ。まあ、分かった方が怖いわよね。だって、うどんってサーロイン王国では見ないんだもの。
 あっ、そうそう。うどんを作るための台と麺棒は、トレント木材を使って強引に作ったわよ。もう知られてる事だから隠す気もないわ。
 うどんを作り終えると、これまた包丁を取り出してざくざくと細長く切っていく。これでうどんは完成ね。あとは出しと茹でだわ。そう思った私だけど、うどんを入れる器がなかった。これは大変だわね。
 しかし、実に困った状況になっていた。既に学園祭の3日目が始まってしまっていたのだ。うどんを捏ねている間にそんなに時間が経ってしまっていたようである。
「やあ、アンマリア。こんなところで何をしているんだい?」
「これは、フィレン殿下。それとリブロ殿下もおいでとは……。兄弟おそろいで学園祭巡りでございますでしょうか」
 器の準備で困っていたところに、王子が揃って登場したのである。
「そうですわ、殿下。汁物が入れられる器50とフォークを50ほど御用頂けますでしょうか」
「それはいいけど、何をするつもりなんだい?」
「見てのお楽しみです」
 そう言いながら私は、だしを取り始めた。ミール王国で仕入れた魚の乾物である。鰹節のようなものだ。これを風魔法で削って布でくるんで、沸騰させておいたお湯の中に浸しておく。でき上がったところで持ち歩いている小皿で味を見る。十分な風味が出ている。
「味見をされますか?」
「そうだね、頂こう」
 小皿にすくっただしを注いで、フィレン王子に手渡す。それをくっと飲み干すフィレン王子。
「ふむ、なんだかあっさりした感じだね。これは?」
「乾燥させた魚肉を削って取っただしです。ミール王国で手に入るものなんですよ」
「へえ、そうなんだね。よく知っているね」
「まあ、向こうの王女でいらっしゃるエスカ王女殿下に気に入られてますから、いろいろ教えて頂けるんですよ」
 知識の出所をエスカに押し付ける私。あながち間違ってはいないので問題はないはずよ。
 そして、だしを味見して興味を持ったフィレン王子は、すぐさま器とフォークの用意に侍従を走らせた。いやはや、頼んだのは私だけど、一体どこから持ってくるのだろうか。
 まあ、それはともかくとして、後ろでモモたちが一生懸命魔道具を売り捌く中、私は一人黙々と二人の王子が見つめる中、うどんを茹で始めた。
 ……まったく、学園祭の最中になんて姿をさらしているのかしらね。そんな恥ずかしい気持ちをどうにか堪えながら、テトリバー男爵領産の小麦を使ったうどんを作る私だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...