伯爵令嬢アンマリアのダイエット大作戦

未羊

文字の大きさ
190 / 500
第四章 学園編・1年後半

第190話 再始動する聖女育成プロジェクト

しおりを挟む
 その日、家に戻った私はある事を思いついた。
「そうだわ。ミスミ教官の講義で筋肉痛になったら、サキに回復魔法の練習を兼ねて治させたらいいんだわ」
 なんとも一石二鳥な話であった。私は痩せるために運動がしっかりできるし、サキには聖女たる回復魔法の練習をさせてあげられる。これは実にいいアイディアだと、私は自画自賛していた。
「そうと決まれば次回から早速実戦だわ!」
 というわけで、私によるサキの育成が再び始まったのだった。

 ミスミ教官による交流授業は週に1回。つまり、今度は思いついた日からまるっと一週間後である。なので、その前に私はサキに話を持ち掛ける事にした。
「サキ様、ちょっとお話よろしいでしょうか」
「なんでしょうか、アンマリア様」
 講義室で私に声を掛けられたサキが反応する。
「これから毎週、ミスミ教官の講義を受けた私に治癒魔法を施して頂きたいと思います」
 こう言われたサキは、ものすごく驚いた顔をしていた。
「それというのも、サキ様の聖女としての経験のためでございます。回復魔法の類となると、あまり使う機会がありません。ですので、ミスミ教官の講義で筋肉痛になられた方を治療すれば、いい経験になると思った次第でございます」
 私が続けて言った言葉に、サキはなんとなく納得したような顔をしている。確かに、怪我などの治療というのは、そうそう機会のあるものではない。
「確かに……、筋肉痛を引きずっていては後の講義にも支障は出ますしね。アンマリア様、それ、やってみたいと思います」
 サキはものすごく強い口調で乗ってきてくれた。これなら後はミスミ教官の許可を取ればいいだけだ。
 そんなわけで、私はサキを連れて武術型の講義棟にあるミスミ教官の部屋を訪れた。
「うん? 誰だ?」
 部屋の扉を叩くと、中からそんな声が聞こえてくる。ミスミ教官は間違いなく居た。
「アンマリア・ファッティとサキ・テトリバーです。今よろしいでしょうか、ミスミ教官」
 私が答えると、
「ああ、構わない。しかし、ここは武術型の講義棟だぞ。魔法型のお前たちが来るのは実に珍しいな」
 ミスミ教官からはこんな言葉が返ってきた。とりあえず許可は出たので、私たちは部屋へと入る。
「失礼致します」
「よく来たな。そういえば二人は、殿下たちの婚約者か。何の用なんだ?」
 ぶっきらぼうに対応してくるミスミ教官。だけども、私はこの態度に怒ったりはしない。
「実はですね、こちらのサキ様を交流授業に同席させたいと思いましてお伺いに参りました」
「ほう、その理由を聞こうじゃないか」
 ミスミ教官は眉をぴくりと動かしている。どうやら関心はあるようだ。
「理由は、サキ様に回復魔法の経験を積ませたいと思ったからです。これだけ平和ですと、回復系の魔法を使う機会なんてあまりありませんから」
「ふむ、それもそうだな。あれだけの鍛錬の中だ。慣れない学生の中にはけがをする事もあるだろう」
 私の言い分に、ミスミ教官は興味深く耳を傾けていた。どうやら悪い反応ではなさそうである。
 しばらくミスミ教官は考え込んだものの、自分の講義が厳しいという自覚があるらしく、
「よし、同席を認めよう。回復魔法の使い手は貴重だからな。しっかり鍛錬を積んでくれ」
 こう言いながらも交流授業へのサキの同席を認めたのだった。
「場合によっては回復魔法の使える癒し手というのは、戦いの際に前線に赴く事もある。それこそ血みどろな現場だ。私の講義ではそうならないようには気を付けるが、しっかりと経験を積んでくれたまえ」
「はいっ!」
 さすがに血みどろな現場という単語に一瞬血の気を引きかけたサキだが、ミスミ教官の言葉に力強く返事をしていた。
 何にしてもこれでサキが交流授業に参加する事が決まった。理由としては。この時間の間、サキは何も講義を取っていなかったのは大きい。うまく乗ってくれてよかったと思う。
 私がこんな事を持ち掛けた理由といえば、やはりサキが聖女として未覚醒な事が一番の理由である。先日の夏合宿でのスタンピードによって、サキは聖女としての力を覚醒させるはずだったのだ。それが予想外の事態で覚醒できなかったのである。それゆえに、私の中ではちょっとした心残りになっていたのだ。
 だって、ゲームをやり込んだ私にとってはサキは聖女だし、8歳の時の洗礼式でも聖女判定を受けているんだもの。だったら、ちゃんとそれらしい力を身に付けさせてあげたいって思うじゃない。じゃないと、このままじゃ将来的にサキを叩く人が出てきかねないわ。私の気持ちをすっきりさせたいってのもあるけど、これはサキのためなのよ。聖女となったサキは、万一断罪ルートに向かった際には最大の障害になるけれど、やっぱり私としては放っておけないわ。
 複雑な思いはあるものの、とにかく予定通りにミスミ教官の担当する交流授業にサキを引き込む事に成功した私なのである。
 鼻息荒く意気込む私に対して、サキからどういった目を向けられているのか、この時の私はまったく知る由もなかったのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜

naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。 しかし、誰も予想していなかった事があった。 「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」 すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。 「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」 ──と、思っていた時期がありましたわ。 orz これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。 おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!

妖精族を統べる者

暇野無学
ファンタジー
目覚めた時は死の寸前であり、二人の意識が混ざり合う。母親の死後村を捨てて森に入るが、そこで出会ったのが小さな友人達。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

処理中です...