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第五章 2年目前半
第241話 変形ってロマンですか
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誕生日パーティーを無事に切り抜けた私たちだったけれど、いろいろ懸念はやっぱり払拭されなかった。
パーティーの後には私とサキは王族たちと話をする機会が設けられたので、そこでちょっと詳しく話を聞く事ができた。婚約者特権ってやつかしらね。
一応今回のパーティーには私たちがいろいろと裏で動いていた事は、サーロイン国王と王妃には伝えられていた。それに関連して、レッタス王子とミズーナ王女からも話を聞く事ができた。
その場ではレッタス王子からいろいろと情報が飛び出てきて、みんなはとても驚かされていた。
それによれば、ベジタリウス王国からはサーロイン王国内に密偵が入り込んでおり、いろいろと情報を嗅ぎまわっているという事だった。機密事項の漏洩といえばそうなのだが、これを話したのはレッタス王子にも不安があったからだった。
ベジタリウス王国内ではサーロイン王国の土地を狙っている貴族が居るのはもちろんだが、今回王子と王女の留学を決めた王家に対しても不満を持つ貴族が居るという事だ。レッタス王子は、サーロイン王国に入り込んだ密偵から、自分たちも命を狙われる危険性というものを考えているのである。
これを聞いた私たちは、ベジタリウス王国内の情勢がかなり不安定になっているという事実を知る事になった。なにせ山向こうの国の話なので、サーロイン王国からは見えにくいからだ。唯一頻繁に接触をしているバッサーシ領からもそのような報告がないのだから余計に驚きである。
「今回、何もなかったのは私としても意外でした。このような場はそういった過激派からは絶好の機会でしたでしょうから」
レッタス王子はこのように話していた。
だが、実際はその通りの事が起きそうだったのである。
騎士や兵士たちからは、城の周りで不審な動きをする人物たちの目撃証言が出ているし、私の父親からもロートント男爵の不審な動きが伝えられていたのだ。
「ロートント男爵が?」
「はい、あの家は万年男爵家な事に不満を持っているようでしたから、今回何かを起こしかけていたかもしれません」
「ふむ……、ならばロートント男爵家には、何かしら監視を付けておいた方がいいな」
大臣たる父親の言葉に、国王はそのように返していた。
「さて、本日は我が息子フィレンの誕生日を祝ってくれてありがたく思う。これで今日はお開きとしよう」
ひと通り話が終わった事で、国王は散会の宣言をする。
「ところで、エスカはいい加減に城で寝泊まりしてくれぬか?」
散会を宣言した次の瞬間、国王はエスカに対して話を振ってきた。ところが、当のエスカはというと……。
「国王陛下、丁重にお断りさせて頂きますわ」
案の定即刻断りを入れていた。本当にエスカはぶれないのである。どんだけ私の事を気に入っているんだか、この王女……。
私が呆れ顔をしていると、エスカはこっちを見てにっこりと微笑んでいた。
「あっ、そうだ。陛下、ちょうど王族が集まっていますので、こちらをお渡ししたいと存じます」
エスカの顔のせいでか知らないけれど、私はちょうど誕生日プレゼントの事を思い出した。
「なんだね、アンマリア」
「以前、頼まれていたものをお持ちしているのを忘れておりました」
「おお、あれができたというのかね」
私の言葉に、国王は表情を明るくした。その反応に、私はこくりと頷いた。
「こちらでございます」
部屋の中にあるテーブルへと歩いて行き、収納魔法からごろごろと物を取り出す私。腕輪だったり杖だったりと形は様々だけど、これは全部トレント木材をエスカの技術で加工したものなのよね。
「ほう、これが形を変えられる魔道具か……」
「はい、基本的には装飾品の形を取らせて頂きました。普段身に着けていても違和感のないものをという事ですね」
「私が頑張ったんだからね……」
説明する私の横で、エスカが恨めしそうな表情を向けてくる。確かにその通りなんだけど、その表情はやめなさいって。
「ちょっと使ってみても構わんかね」
「大丈夫ですけれど、周りには十分気を付けて下さいませ。変形させた後の大きさによっては大惨事となりますから」
「あい分かった」
国王は一人だけ大きく離れて指輪型の魔道具を装着する。
「変形させたい姿を思い浮かべて魔力を通すだけで大丈夫です。少ない魔力でも変形できるように調整されてますから」
私がこう声を掛けた次の瞬間、国王の指輪は剣へと姿を変えていた。指輪と剣とでは大きさと質量の差が激しいが、そこは魔力が補完してくれるので問題はない。
ただ、問題は国王は右利きであり、指輪は左手に着けていたという事くらいだろう。剣は左手に握られているのである。
「うむ、利き手とは逆だが十分使いこなせるぞ」
それでも構わずぶんぶんと振り回す国王である。
「うふふふ。陛下は剣ならばどちらでも扱えますのよ。何の問題はありませんわ」
その様子を見て、王妃は笑っていた。
はえー、さすが国王だわ。
その様子を見ていた王子王女の面々も、その魔道具に手を伸ばす。あっという間に、全員がその魔道具のとりことなったのだった。
「ふははは、エスカ、感謝するぞ。なかなかにかっこいいではないか!」
「ええ、お喜び頂けてなによりですわ、お兄様」
満足げなアーサリーに表情を引きつらせるエスカ。もうそれだけで、「お前のために作ったんじゃねえよ」と言っているのがよく分かる。
それはともかくとして、全員がある程度使い方を覚えたところで、ようやく本当に散会となったのだった。
はあ、疲れたわ。
パーティーの後には私とサキは王族たちと話をする機会が設けられたので、そこでちょっと詳しく話を聞く事ができた。婚約者特権ってやつかしらね。
一応今回のパーティーには私たちがいろいろと裏で動いていた事は、サーロイン国王と王妃には伝えられていた。それに関連して、レッタス王子とミズーナ王女からも話を聞く事ができた。
その場ではレッタス王子からいろいろと情報が飛び出てきて、みんなはとても驚かされていた。
それによれば、ベジタリウス王国からはサーロイン王国内に密偵が入り込んでおり、いろいろと情報を嗅ぎまわっているという事だった。機密事項の漏洩といえばそうなのだが、これを話したのはレッタス王子にも不安があったからだった。
ベジタリウス王国内ではサーロイン王国の土地を狙っている貴族が居るのはもちろんだが、今回王子と王女の留学を決めた王家に対しても不満を持つ貴族が居るという事だ。レッタス王子は、サーロイン王国に入り込んだ密偵から、自分たちも命を狙われる危険性というものを考えているのである。
これを聞いた私たちは、ベジタリウス王国内の情勢がかなり不安定になっているという事実を知る事になった。なにせ山向こうの国の話なので、サーロイン王国からは見えにくいからだ。唯一頻繁に接触をしているバッサーシ領からもそのような報告がないのだから余計に驚きである。
「今回、何もなかったのは私としても意外でした。このような場はそういった過激派からは絶好の機会でしたでしょうから」
レッタス王子はこのように話していた。
だが、実際はその通りの事が起きそうだったのである。
騎士や兵士たちからは、城の周りで不審な動きをする人物たちの目撃証言が出ているし、私の父親からもロートント男爵の不審な動きが伝えられていたのだ。
「ロートント男爵が?」
「はい、あの家は万年男爵家な事に不満を持っているようでしたから、今回何かを起こしかけていたかもしれません」
「ふむ……、ならばロートント男爵家には、何かしら監視を付けておいた方がいいな」
大臣たる父親の言葉に、国王はそのように返していた。
「さて、本日は我が息子フィレンの誕生日を祝ってくれてありがたく思う。これで今日はお開きとしよう」
ひと通り話が終わった事で、国王は散会の宣言をする。
「ところで、エスカはいい加減に城で寝泊まりしてくれぬか?」
散会を宣言した次の瞬間、国王はエスカに対して話を振ってきた。ところが、当のエスカはというと……。
「国王陛下、丁重にお断りさせて頂きますわ」
案の定即刻断りを入れていた。本当にエスカはぶれないのである。どんだけ私の事を気に入っているんだか、この王女……。
私が呆れ顔をしていると、エスカはこっちを見てにっこりと微笑んでいた。
「あっ、そうだ。陛下、ちょうど王族が集まっていますので、こちらをお渡ししたいと存じます」
エスカの顔のせいでか知らないけれど、私はちょうど誕生日プレゼントの事を思い出した。
「なんだね、アンマリア」
「以前、頼まれていたものをお持ちしているのを忘れておりました」
「おお、あれができたというのかね」
私の言葉に、国王は表情を明るくした。その反応に、私はこくりと頷いた。
「こちらでございます」
部屋の中にあるテーブルへと歩いて行き、収納魔法からごろごろと物を取り出す私。腕輪だったり杖だったりと形は様々だけど、これは全部トレント木材をエスカの技術で加工したものなのよね。
「ほう、これが形を変えられる魔道具か……」
「はい、基本的には装飾品の形を取らせて頂きました。普段身に着けていても違和感のないものをという事ですね」
「私が頑張ったんだからね……」
説明する私の横で、エスカが恨めしそうな表情を向けてくる。確かにその通りなんだけど、その表情はやめなさいって。
「ちょっと使ってみても構わんかね」
「大丈夫ですけれど、周りには十分気を付けて下さいませ。変形させた後の大きさによっては大惨事となりますから」
「あい分かった」
国王は一人だけ大きく離れて指輪型の魔道具を装着する。
「変形させたい姿を思い浮かべて魔力を通すだけで大丈夫です。少ない魔力でも変形できるように調整されてますから」
私がこう声を掛けた次の瞬間、国王の指輪は剣へと姿を変えていた。指輪と剣とでは大きさと質量の差が激しいが、そこは魔力が補完してくれるので問題はない。
ただ、問題は国王は右利きであり、指輪は左手に着けていたという事くらいだろう。剣は左手に握られているのである。
「うむ、利き手とは逆だが十分使いこなせるぞ」
それでも構わずぶんぶんと振り回す国王である。
「うふふふ。陛下は剣ならばどちらでも扱えますのよ。何の問題はありませんわ」
その様子を見て、王妃は笑っていた。
はえー、さすが国王だわ。
その様子を見ていた王子王女の面々も、その魔道具に手を伸ばす。あっという間に、全員がその魔道具のとりことなったのだった。
「ふははは、エスカ、感謝するぞ。なかなかにかっこいいではないか!」
「ええ、お喜び頂けてなによりですわ、お兄様」
満足げなアーサリーに表情を引きつらせるエスカ。もうそれだけで、「お前のために作ったんじゃねえよ」と言っているのがよく分かる。
それはともかくとして、全員がある程度使い方を覚えたところで、ようやく本当に散会となったのだった。
はあ、疲れたわ。
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