240 / 500
第五章 2年目前半
第240話 闇の中の接触
しおりを挟む
王都の貴族街。平民たちの居住区に近い低級貴族たちの屋敷群の中にロートント男爵の屋敷はあった。
誕生日パーティーを終えて戻ってきたロートント男爵は、自室に戻ると机を思い切り殴っていた。
「くそっ! どういう事なんだ?」
声を荒げているロートント男爵。一体どうしたというのだろうか。
「なぜだ。なぜあいつらは無事だというのだ。強力な毒ではなかったのか?」
椅子に座ると、もう一度机に拳を叩きつけるロートント男爵。ずいぶんと荒れているようだ。
「いかがなさいましたか、ロートント男爵」
突然、部屋に見知らぬ人物が入ってきた。一体どこから現れたというのだろうか。
「今頃になって何の用だ、イスンセ!」
声が聞こえるなり振り向いて怒鳴り出すロートント男爵。だが、イスンセと呼ばれた人物は、その状況にも静かだった。
「大声はおやめ下さい。周りに聞かれてしまいますよ」
「ぐぬぬぬ……」
イスンセの言葉に、ロートント男爵はぐぐっと怒鳴るのを抑え込んでいた。
「ところで、お前は何をしていたんだ? パーティーの混乱に乗じて会場に乗り込む算段ではなかったのか?」
どうにか堪えたロートント男爵は、イスンセに対して問い質していた。
「入ろうとは思いましたよ。でも、何やら変な結界のようなものが張り巡らされていて、入ろうとしても入れなかったですよ。おまけにすぐさま兵士たちがやって来るものですから、本当に困ったものですよ。どうにか撒いてきましたがね」
イスンセもどうやらよく分からない状況だったようである。
「ぐぬぬぬ……。お前からもらった毒もまったく役に立たなかった。一体どうなっているんだ?」
「おやおや、毒が効かなかったですか。まったく、それは面倒な話ですね」
唇を噛みしめるロートント男爵だが、イスンセはまったく落ち着いているようだった。この事実に驚くかと思われたのだが、これは意外な反応である。
「私が城に侵入できなかったのですから、毒が無毒化されるような事だって十分考えられますね。この国には聖女なる存在が居るのでしょう?」
「聖女か……。確か、テトリバー男爵家の娘か……」
ロートント男爵はギリッと爪を噛んでいた。
「王族どもを殺して混乱に乗じてこの国の貴族を殲滅する作戦だったというのに、忌々しい聖女め……」
そして、ぶつぶつと物騒な事を呟き始めた。
「で、どうするんですかね? このまま諦めますか?」
イスンセは淡々と話している。だが、この振りに対して、ロートント男爵は体を震わせていた。
「誰が諦めるものか! この国に貢献してきた我がロートント家だというのに、いまだに男爵止まりの貧乏貴族だ。この扱いが許されると思っているのか!」
感情が高まったのか、ロートント男爵は大声で喚き始めた。その喚き声に、イスンセは耳を塞ぎながらもなるほどなと唸っていた。
ロートント男爵のサーロイン王国への恨みは、自分たちへの扱いへの不満が高まったがゆえというわけか、と。
なんとなく接触を図ってみたのだが、なるほど、こういう背景があるのならば非常に納得するというものである。まったく、ベジタリウス王国の諜報部の情報収集能力というものは凄まじい限りだと実感していた。その組織の一員であるというのに、イスンセにも分からない事が多い組織だった。
(くっくっくっ、面白いですね。今回、この男の計略が失敗したのは好都合。徹底的にこの国の事を調べ上げてやりましょう)
つい心の中の笑みが顔にも出てしまうイスンセ。
「おい、何がおかしい!」
「いえ、この国に本格的に興味を持ちましたので、これからが楽しみになってしまっただけですよ。ちゃんと任務は遂行しますので、ご安心下さい」
怒鳴ってくるロートント男爵を軽くあしらうイスンセである。その自信たっぷりのイスンセの態度に、ロートント男爵は納得させられてしまうのだった。
「そこまで言うのならいいだろう。今回の事でどうせ俺はしばらく動けん。お前は聖女周りの事を調べてこい」
「畏まりました。それでは、私はこれにて失礼致します」
イスンセはそう言うと、ロートント男爵の部屋から姿を消したのだった。
誰も居なくなった部屋で、ロートント男爵は両肘をついてぶつぶつと呟いている。その形相はすさまじいまでに険しく、何人たりとも近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
「イスンセの奴、しくじりおったくせにでかい態度を取りおって……。今度やらかしてみろ、この手で叩き斬ってくれる」
歯ぎしりの絶えないロートント男爵。
だが、突如として机に思い切り手を叩きつけて立ち上がる。
「俺様を認めぬこの国など要らぬ。すべて滅ぼして、この俺が新たな支配者となるのだ。くははははははっ!!」
薄暗いロートント男爵の部屋に汚い男爵の笑い声が響き渡る。この男は本気のようである。
しばらくは目立った行動が取れない状況になったとはいえ、ロートントは次の作戦を必死に考えるのだった。
サーロイン王国の中でひっそりと渦巻く陰謀。はたしてアンマリアたちはその陰謀のすべてを阻止する事ができるのだろうか。
誕生日パーティーを終えて戻ってきたロートント男爵は、自室に戻ると机を思い切り殴っていた。
「くそっ! どういう事なんだ?」
声を荒げているロートント男爵。一体どうしたというのだろうか。
「なぜだ。なぜあいつらは無事だというのだ。強力な毒ではなかったのか?」
椅子に座ると、もう一度机に拳を叩きつけるロートント男爵。ずいぶんと荒れているようだ。
「いかがなさいましたか、ロートント男爵」
突然、部屋に見知らぬ人物が入ってきた。一体どこから現れたというのだろうか。
「今頃になって何の用だ、イスンセ!」
声が聞こえるなり振り向いて怒鳴り出すロートント男爵。だが、イスンセと呼ばれた人物は、その状況にも静かだった。
「大声はおやめ下さい。周りに聞かれてしまいますよ」
「ぐぬぬぬ……」
イスンセの言葉に、ロートント男爵はぐぐっと怒鳴るのを抑え込んでいた。
「ところで、お前は何をしていたんだ? パーティーの混乱に乗じて会場に乗り込む算段ではなかったのか?」
どうにか堪えたロートント男爵は、イスンセに対して問い質していた。
「入ろうとは思いましたよ。でも、何やら変な結界のようなものが張り巡らされていて、入ろうとしても入れなかったですよ。おまけにすぐさま兵士たちがやって来るものですから、本当に困ったものですよ。どうにか撒いてきましたがね」
イスンセもどうやらよく分からない状況だったようである。
「ぐぬぬぬ……。お前からもらった毒もまったく役に立たなかった。一体どうなっているんだ?」
「おやおや、毒が効かなかったですか。まったく、それは面倒な話ですね」
唇を噛みしめるロートント男爵だが、イスンセはまったく落ち着いているようだった。この事実に驚くかと思われたのだが、これは意外な反応である。
「私が城に侵入できなかったのですから、毒が無毒化されるような事だって十分考えられますね。この国には聖女なる存在が居るのでしょう?」
「聖女か……。確か、テトリバー男爵家の娘か……」
ロートント男爵はギリッと爪を噛んでいた。
「王族どもを殺して混乱に乗じてこの国の貴族を殲滅する作戦だったというのに、忌々しい聖女め……」
そして、ぶつぶつと物騒な事を呟き始めた。
「で、どうするんですかね? このまま諦めますか?」
イスンセは淡々と話している。だが、この振りに対して、ロートント男爵は体を震わせていた。
「誰が諦めるものか! この国に貢献してきた我がロートント家だというのに、いまだに男爵止まりの貧乏貴族だ。この扱いが許されると思っているのか!」
感情が高まったのか、ロートント男爵は大声で喚き始めた。その喚き声に、イスンセは耳を塞ぎながらもなるほどなと唸っていた。
ロートント男爵のサーロイン王国への恨みは、自分たちへの扱いへの不満が高まったがゆえというわけか、と。
なんとなく接触を図ってみたのだが、なるほど、こういう背景があるのならば非常に納得するというものである。まったく、ベジタリウス王国の諜報部の情報収集能力というものは凄まじい限りだと実感していた。その組織の一員であるというのに、イスンセにも分からない事が多い組織だった。
(くっくっくっ、面白いですね。今回、この男の計略が失敗したのは好都合。徹底的にこの国の事を調べ上げてやりましょう)
つい心の中の笑みが顔にも出てしまうイスンセ。
「おい、何がおかしい!」
「いえ、この国に本格的に興味を持ちましたので、これからが楽しみになってしまっただけですよ。ちゃんと任務は遂行しますので、ご安心下さい」
怒鳴ってくるロートント男爵を軽くあしらうイスンセである。その自信たっぷりのイスンセの態度に、ロートント男爵は納得させられてしまうのだった。
「そこまで言うのならいいだろう。今回の事でどうせ俺はしばらく動けん。お前は聖女周りの事を調べてこい」
「畏まりました。それでは、私はこれにて失礼致します」
イスンセはそう言うと、ロートント男爵の部屋から姿を消したのだった。
誰も居なくなった部屋で、ロートント男爵は両肘をついてぶつぶつと呟いている。その形相はすさまじいまでに険しく、何人たりとも近寄りがたい雰囲気を醸し出していた。
「イスンセの奴、しくじりおったくせにでかい態度を取りおって……。今度やらかしてみろ、この手で叩き斬ってくれる」
歯ぎしりの絶えないロートント男爵。
だが、突如として机に思い切り手を叩きつけて立ち上がる。
「俺様を認めぬこの国など要らぬ。すべて滅ぼして、この俺が新たな支配者となるのだ。くははははははっ!!」
薄暗いロートント男爵の部屋に汚い男爵の笑い声が響き渡る。この男は本気のようである。
しばらくは目立った行動が取れない状況になったとはいえ、ロートントは次の作戦を必死に考えるのだった。
サーロイン王国の中でひっそりと渦巻く陰謀。はたしてアンマリアたちはその陰謀のすべてを阻止する事ができるのだろうか。
7
あなたにおすすめの小説
異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜
青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ
孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。
そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。
これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。
小説家になろう様からの転載です!
男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる
暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。
授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。
【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜
naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。
しかし、誰も予想していなかった事があった。
「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」
すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。
「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」
──と、思っていた時期がありましたわ。
orz
これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。
おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!
転生調理令嬢は諦めることを知らない!
eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。
それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。
子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。
最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。
八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。
それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。
また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。
オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。
同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。
それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。
弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
神の加護を受けて異世界に
モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。
その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。
そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる