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第五章 2年目前半
第257話 的を撃ち落せ
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迎えた前期末試験の実技の日。
魔法型の試験は、とにかく魔法の精度と威力を確認するというものだった。
私たちの居る2年生は、どういうわけか私がそのための舞台を用意するという事になっていた。最初っから魔法型の試験免除だものね。その代わりというわけか、こうやって試験の手伝いをさせられているのよ。まったく、いやになるわ。
とはいえども、手伝わないと単位落とされそうなので手伝うしかないんだけど。はあ、私は仮にも王子たちの婚約者なんですけどね。
「アンマリア・ファッティ。ついでだから、1年生と3年生の魔法試験の舞台も用意してもらって構わんかな?」
「ちょっと、いきなり何を言われるのですか。いい加減にして下さいませんか?」
急な無茶振りを言われて、私はついカチンときてしまう。私は学生であって便利屋さんじゃないんですけれど?
むっすーとした不機嫌顔を向けられた教師は、さすがに慌てていたようである。そりゃ、未来の王妃か公爵夫人の機嫌を損ねたら、どういう風に跳ね返ってくるか分からないものね。だったら、最初からそう言う物言いしないでほしいものだわ。
「でもまあ、やるにはやりますよ。その分、成績が悪くなるかも知れませんけれどね」
私はため息を吐きながら、今年の魔法試験の舞台を作り上げていった。
私が用意した舞台とあって、最初に会場入りしたのは2年生の面々だった。つまり、ラムにモモやサキたちである。サクラは武術型だからこっちには顔を出さないのよ。
会場へやって来た学生たちは、魔法型の試験の会場を見て言葉を失っていた。
それもそうだろう。私が全力とまではいかなくてもそれなりに力を注いで作り上げた舞台なのだから。
もちろん、学生たちの技術にはある程度考慮をした構造にはしてある。魔法の強さと精度をきちんと頭に入れて作り上げた舞台なのよ。さあて、みんなはちゃんとクリアできるかしらね。
「今回の試験は、この舞台の中にある的を正確に撃ち落してもらうというものになる。制限時間内にいくつ落とせたかで成績が変わるからな。しっかり狙うんだぞ。あと、当てただけじゃだめだからな」
教師が学生たちに説明している。
説明を聞いた学生たちがやる気満々となったようで、この様子には教師も私も満足である。
さて、一体誰から行くのかな?
「それじゃ、私から行きます!」
そう言って手を上げたのは、なんとモモだった。これは予想外ね。
でも、座学がいまいちだったらしくて、この実技の試験には並々ならぬ覚悟をもって臨んでいるものね。ふふっ、実に楽しみだわ。
モモが魔力制御用の杖を構えて、試験の舞台に向かう。
そして、準備ができたところで私は舞台に魔法を使い、的を動かし始めた。
「えっ?!」
それを見たモモが思わず声を上げてしまう。
止まっている的を狙うと思っていた? 残念、動く的を狙うのよ。
面食らってしまったモモだったが、すぐさま構え直す。少しの隙も試験では命取りになりかねないのだ。
こうして、前期末試験の魔法実技試験が始まった。
結果として、モモは制限時間中に的20個に対して14個落とす事ができた。落とせなかったものも含めると、命中自体は全部の的にできている。それでも落とせなかったのは、単純に魔力が枯渇してきたからなのよね。的を落とすのに集中していたから、それに必要な魔力量の感覚が掴めていなかったようだった。だから、最初のうちに魔力を使い果たして、後半は威力が落ちて、的を落とすに至らなかったってわけ。惜しかったわね、モモ。
「うわーん、悔しい!」
モモは本気で悔しがっていた。当たるだけなら全部できてたものね。
でも、終わっちゃった以上下がってもらわないとね。
「モモ、よくやったわ。私は褒めてあげるから、とりあえず今は下がってちょうだい」
「はい、お姉様」
私が声を掛けると、モモはおとなしく後ろに下がっていった。
そして、モモが下がったところで私が魔法を使うと、すべての的が復活した。それを見て魔法型の学生たちはみんなが察した。この試験、私が準備したんだという事を。
それが分かると、次が続かない。みんなが牽制し合ってしまう。
だが、それを尻目に前に出てくる人物が居た。
「普段アンマリア様にはお世話になっていますものね。それに応えなければ、公爵家として、友人として、その名が廃るというものですわ」
ドドンと姿を現したのはラムだった。その姿はまるで自信ありといった感じに堂々としている。さすがは公爵令嬢といった感じだった。
「さあ、参りますわよ。わたくしの魔法とアンマリア様の魔法、どちらが上か試させて頂きますわ」
そう言って、試験となる舞台に杖を向けるラムである。
だが、その自信は確かなもので、20個ある的のうち19個を見事に撃ち落していた。残り1個はタイミング悪く物陰に隠れてしまい、外してしまったのである。その悔しがる様子といったら、普段の気高さからはとても想像できないものだった。
しかし、19個も撃ち落した腕は大したものだと思う。全部落とせないようにいろいろ調整したのに、それでもしっかり当てているんだからすごいものよ。
そんなこんなで始まった魔法型の試験。見事に全部の的を落とせる猛者は現れるのかしらね。
魔法型の試験は、とにかく魔法の精度と威力を確認するというものだった。
私たちの居る2年生は、どういうわけか私がそのための舞台を用意するという事になっていた。最初っから魔法型の試験免除だものね。その代わりというわけか、こうやって試験の手伝いをさせられているのよ。まったく、いやになるわ。
とはいえども、手伝わないと単位落とされそうなので手伝うしかないんだけど。はあ、私は仮にも王子たちの婚約者なんですけどね。
「アンマリア・ファッティ。ついでだから、1年生と3年生の魔法試験の舞台も用意してもらって構わんかな?」
「ちょっと、いきなり何を言われるのですか。いい加減にして下さいませんか?」
急な無茶振りを言われて、私はついカチンときてしまう。私は学生であって便利屋さんじゃないんですけれど?
むっすーとした不機嫌顔を向けられた教師は、さすがに慌てていたようである。そりゃ、未来の王妃か公爵夫人の機嫌を損ねたら、どういう風に跳ね返ってくるか分からないものね。だったら、最初からそう言う物言いしないでほしいものだわ。
「でもまあ、やるにはやりますよ。その分、成績が悪くなるかも知れませんけれどね」
私はため息を吐きながら、今年の魔法試験の舞台を作り上げていった。
私が用意した舞台とあって、最初に会場入りしたのは2年生の面々だった。つまり、ラムにモモやサキたちである。サクラは武術型だからこっちには顔を出さないのよ。
会場へやって来た学生たちは、魔法型の試験の会場を見て言葉を失っていた。
それもそうだろう。私が全力とまではいかなくてもそれなりに力を注いで作り上げた舞台なのだから。
もちろん、学生たちの技術にはある程度考慮をした構造にはしてある。魔法の強さと精度をきちんと頭に入れて作り上げた舞台なのよ。さあて、みんなはちゃんとクリアできるかしらね。
「今回の試験は、この舞台の中にある的を正確に撃ち落してもらうというものになる。制限時間内にいくつ落とせたかで成績が変わるからな。しっかり狙うんだぞ。あと、当てただけじゃだめだからな」
教師が学生たちに説明している。
説明を聞いた学生たちがやる気満々となったようで、この様子には教師も私も満足である。
さて、一体誰から行くのかな?
「それじゃ、私から行きます!」
そう言って手を上げたのは、なんとモモだった。これは予想外ね。
でも、座学がいまいちだったらしくて、この実技の試験には並々ならぬ覚悟をもって臨んでいるものね。ふふっ、実に楽しみだわ。
モモが魔力制御用の杖を構えて、試験の舞台に向かう。
そして、準備ができたところで私は舞台に魔法を使い、的を動かし始めた。
「えっ?!」
それを見たモモが思わず声を上げてしまう。
止まっている的を狙うと思っていた? 残念、動く的を狙うのよ。
面食らってしまったモモだったが、すぐさま構え直す。少しの隙も試験では命取りになりかねないのだ。
こうして、前期末試験の魔法実技試験が始まった。
結果として、モモは制限時間中に的20個に対して14個落とす事ができた。落とせなかったものも含めると、命中自体は全部の的にできている。それでも落とせなかったのは、単純に魔力が枯渇してきたからなのよね。的を落とすのに集中していたから、それに必要な魔力量の感覚が掴めていなかったようだった。だから、最初のうちに魔力を使い果たして、後半は威力が落ちて、的を落とすに至らなかったってわけ。惜しかったわね、モモ。
「うわーん、悔しい!」
モモは本気で悔しがっていた。当たるだけなら全部できてたものね。
でも、終わっちゃった以上下がってもらわないとね。
「モモ、よくやったわ。私は褒めてあげるから、とりあえず今は下がってちょうだい」
「はい、お姉様」
私が声を掛けると、モモはおとなしく後ろに下がっていった。
そして、モモが下がったところで私が魔法を使うと、すべての的が復活した。それを見て魔法型の学生たちはみんなが察した。この試験、私が準備したんだという事を。
それが分かると、次が続かない。みんなが牽制し合ってしまう。
だが、それを尻目に前に出てくる人物が居た。
「普段アンマリア様にはお世話になっていますものね。それに応えなければ、公爵家として、友人として、その名が廃るというものですわ」
ドドンと姿を現したのはラムだった。その姿はまるで自信ありといった感じに堂々としている。さすがは公爵令嬢といった感じだった。
「さあ、参りますわよ。わたくしの魔法とアンマリア様の魔法、どちらが上か試させて頂きますわ」
そう言って、試験となる舞台に杖を向けるラムである。
だが、その自信は確かなもので、20個ある的のうち19個を見事に撃ち落していた。残り1個はタイミング悪く物陰に隠れてしまい、外してしまったのである。その悔しがる様子といったら、普段の気高さからはとても想像できないものだった。
しかし、19個も撃ち落した腕は大したものだと思う。全部落とせないようにいろいろ調整したのに、それでもしっかり当てているんだからすごいものよ。
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