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第五章 2年目前半
第256話 王女二人の場合
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アンマリアがモモたちの事で奮闘している頃、一学年下のエスカたちも苦戦中だった。
「だあっ! よその国の事なんか、分かるか!」
エスカが荒れていた。その暴走っぷりに、周りの学生たちがドン引きである。
「エスカ、少しはおとなしくしなさい。他国を理解するのは外交上、有効な事なんですからね」
エスカを窘めるのはミズーナ王女である。
さすが前世では教育ママゴンの下で育てられてきたせいか、勉強に対するスタンスはものすごく真摯である。両親への反発は、前世の大学卒業後に爆発したので、今ではむしろすっかり落ち着いているのだ。まるで一周してきたかのように、今のミズーナ王女は勉強熱心なのである。
この二人にはそれなりに友人は居るのだが、この時ばかりはエスカの荒れ具合のせいで誰も近付いて来なかった。とてもじゃないけれど、近寄れる雰囲気になかったのである。アンマリアにあれだけ勉強を見てもらっていたくせに、どうやらあまり頭に入っていないようだった。
「はあ、このままでは赤点確定ですね。ご存じです? 赤点を取ると長期休暇中は補習を受けなければならないんですよ? 夏休みが無くなりますからね」
「……それは困る。くぅ、筆記がめちゃくちゃだったから、残る実技で盛り返すしかないってわけか」
現実を思い知らされたエスカは、今さら状況を知ったようである。もう遅いような気もするが、爪を噛むような仕草をしながら、何かをぶつぶつと言っている。その様子を見ながら、ミズーナ王女はやれやれといった感じで首を振っていた。
エスカとミズーナ王女は魔法型のクラスに所属しているので、実技の試験は魔法の実演である。つまり、アンマリアたちと同じなのである。
それにしても、ミズーナ王女は徐々に痩せてきていた。去年のアンマリアほどではないものの、じわじわと体は細り始めている。アンマリアとの差は筋トレの分だろうし、おそらくここ最近の痩せ方の原因は、フィレン王子の誕生日パーティーやミール王国の建国祭で魔法を使ったからだと思われる。自国ではなくても、他人のために魔法を使えば、それだけ体に溜まった恩恵の魔力が消費されるのである。
だけど、この時撒き散らかされた恩恵は、やはり使われた場所を中心に恩恵が与えられるようになっている。そのために、ベジタリウス王国としてはまったく面白くないものである。もしかしたら、その辺りも今回の騒動と関連があるのかも知れない。ミズーナ王女は少なくともそう睨んでいるようだった。
とはいえ、今は学園の前期末試験の真っ只中なので、ミズーナ王女もそちらに全力を投じている。さすがに一国の王女として、他国の学園とはいえ落第の烙印を押されるわけにはいかないのだ。
座学の試験が終わったために、翌日に行われる実技試験のために、学生たちは徐々に帰宅の途に就いていた。
そんな中でも、エスカとミズーナ王女はしばらく学園に残り続けていた。
「はあ、明日の実技試験でやらかしたらどうしよう……」
「なんでやらかす事前提なんですかね、エスカは……」
エスカの悩みを聞いて、呆れ返るミズーナ王女である。
「もっと自信を持った方がいいと思いますよ。私やアンマリアみたいにヒロインではないですが、素晴らしい魔法の素質の持ち主なんですからね」
ミズーナ王女はエスカを励ましている。
「それは分かってるんだけどね。いざとなったらやらかすのが過去の自分だけに、正直言って怖いところがあるのよ」
「意外ですわね。いつも自信たっぷりでおられる割に、そんな小心者なところがあるだなんて」
さすがにエスカの言葉には驚いていた。どこにそんな要素があるのか疑いたくなる、これまでのエスカの実績があるからだった。
「でも、普段通りやっていれば大丈夫ですわよ。やらかしなんて気にしていたら何もできなくなります」
ミズーナ王女は落ち着き払って、エスカにアドバイスをしていた。
「ミズーナ、ここに居たのか。門にやって来ない事をお迎えの御者たちが心配していたぞ」
「あら、お兄様。分かりましたわ、すぐ参ります」
突然現れたレッタス王子に驚きながらも、ミズーナ王女は冷静に返事をしておいた。
「それでは、私たちも帰りましょう。うだうだ考えていても仕方ありませんよ」
「うーん、分かりました。家に帰ったらアンマリアとモモにも相談してみようっと」
「その方がいいでしょうね。特にモモの話は参考になるかも知れませんものね」
そういうわけで、エスカとミズーナ王女は校門まで移動する事にしたのだった。
「そういえば、エスカはどうやって家まで帰りますの?」
その最中、気になったミズーナ王女がエスカに尋ねる。
「瞬間移動魔法で飛ぶのよ。タイミング合わなくて馬車に乗れなかった時には重宝するわ。それに、アンマリアも使うせいでファッティ家では驚かれないしね」
「そうなんですね。……頑張って私も覚えませんとね」
「うん?」
相槌を打った後の言葉が聞き取れなかったエスカは、首を傾げながらミズーナ王女に視線を向ける。
「なんでもありませんよ。ささっ、とりあえず明日の事を考えましょう」
「うう、そうね……」
試験の事となると、がっくりと肩を落とすエスカであった。その様子がおかしくて、ミズーナ王女はつい笑ってしまうのだった。
王女同士、転生者同士、実に仲のいい二人なのである。
「だあっ! よその国の事なんか、分かるか!」
エスカが荒れていた。その暴走っぷりに、周りの学生たちがドン引きである。
「エスカ、少しはおとなしくしなさい。他国を理解するのは外交上、有効な事なんですからね」
エスカを窘めるのはミズーナ王女である。
さすが前世では教育ママゴンの下で育てられてきたせいか、勉強に対するスタンスはものすごく真摯である。両親への反発は、前世の大学卒業後に爆発したので、今ではむしろすっかり落ち着いているのだ。まるで一周してきたかのように、今のミズーナ王女は勉強熱心なのである。
この二人にはそれなりに友人は居るのだが、この時ばかりはエスカの荒れ具合のせいで誰も近付いて来なかった。とてもじゃないけれど、近寄れる雰囲気になかったのである。アンマリアにあれだけ勉強を見てもらっていたくせに、どうやらあまり頭に入っていないようだった。
「はあ、このままでは赤点確定ですね。ご存じです? 赤点を取ると長期休暇中は補習を受けなければならないんですよ? 夏休みが無くなりますからね」
「……それは困る。くぅ、筆記がめちゃくちゃだったから、残る実技で盛り返すしかないってわけか」
現実を思い知らされたエスカは、今さら状況を知ったようである。もう遅いような気もするが、爪を噛むような仕草をしながら、何かをぶつぶつと言っている。その様子を見ながら、ミズーナ王女はやれやれといった感じで首を振っていた。
エスカとミズーナ王女は魔法型のクラスに所属しているので、実技の試験は魔法の実演である。つまり、アンマリアたちと同じなのである。
それにしても、ミズーナ王女は徐々に痩せてきていた。去年のアンマリアほどではないものの、じわじわと体は細り始めている。アンマリアとの差は筋トレの分だろうし、おそらくここ最近の痩せ方の原因は、フィレン王子の誕生日パーティーやミール王国の建国祭で魔法を使ったからだと思われる。自国ではなくても、他人のために魔法を使えば、それだけ体に溜まった恩恵の魔力が消費されるのである。
だけど、この時撒き散らかされた恩恵は、やはり使われた場所を中心に恩恵が与えられるようになっている。そのために、ベジタリウス王国としてはまったく面白くないものである。もしかしたら、その辺りも今回の騒動と関連があるのかも知れない。ミズーナ王女は少なくともそう睨んでいるようだった。
とはいえ、今は学園の前期末試験の真っ只中なので、ミズーナ王女もそちらに全力を投じている。さすがに一国の王女として、他国の学園とはいえ落第の烙印を押されるわけにはいかないのだ。
座学の試験が終わったために、翌日に行われる実技試験のために、学生たちは徐々に帰宅の途に就いていた。
そんな中でも、エスカとミズーナ王女はしばらく学園に残り続けていた。
「はあ、明日の実技試験でやらかしたらどうしよう……」
「なんでやらかす事前提なんですかね、エスカは……」
エスカの悩みを聞いて、呆れ返るミズーナ王女である。
「もっと自信を持った方がいいと思いますよ。私やアンマリアみたいにヒロインではないですが、素晴らしい魔法の素質の持ち主なんですからね」
ミズーナ王女はエスカを励ましている。
「それは分かってるんだけどね。いざとなったらやらかすのが過去の自分だけに、正直言って怖いところがあるのよ」
「意外ですわね。いつも自信たっぷりでおられる割に、そんな小心者なところがあるだなんて」
さすがにエスカの言葉には驚いていた。どこにそんな要素があるのか疑いたくなる、これまでのエスカの実績があるからだった。
「でも、普段通りやっていれば大丈夫ですわよ。やらかしなんて気にしていたら何もできなくなります」
ミズーナ王女は落ち着き払って、エスカにアドバイスをしていた。
「ミズーナ、ここに居たのか。門にやって来ない事をお迎えの御者たちが心配していたぞ」
「あら、お兄様。分かりましたわ、すぐ参ります」
突然現れたレッタス王子に驚きながらも、ミズーナ王女は冷静に返事をしておいた。
「それでは、私たちも帰りましょう。うだうだ考えていても仕方ありませんよ」
「うーん、分かりました。家に帰ったらアンマリアとモモにも相談してみようっと」
「その方がいいでしょうね。特にモモの話は参考になるかも知れませんものね」
そういうわけで、エスカとミズーナ王女は校門まで移動する事にしたのだった。
「そういえば、エスカはどうやって家まで帰りますの?」
その最中、気になったミズーナ王女がエスカに尋ねる。
「瞬間移動魔法で飛ぶのよ。タイミング合わなくて馬車に乗れなかった時には重宝するわ。それに、アンマリアも使うせいでファッティ家では驚かれないしね」
「そうなんですね。……頑張って私も覚えませんとね」
「うん?」
相槌を打った後の言葉が聞き取れなかったエスカは、首を傾げながらミズーナ王女に視線を向ける。
「なんでもありませんよ。ささっ、とりあえず明日の事を考えましょう」
「うう、そうね……」
試験の事となると、がっくりと肩を落とすエスカであった。その様子がおかしくて、ミズーナ王女はつい笑ってしまうのだった。
王女同士、転生者同士、実に仲のいい二人なのである。
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