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第六章 2年目後半
第326話 エスカの圧力
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翌朝、目覚めはすっきりだった。
エスカの言う通りに、アロマキャンドルは枕に近い場所で使ったのだけれど、火をつけるとほんのりと柑橘の香りが広がったのが印象深かった。
正直なところ、効果については半信半疑どころか、毛ほどにも信じていなかった。それでも、今回の結果だけでもなんともよさげな感じだったのだ。
「どうだったかしら」
朝食の後、エスカの部屋に集まった私とモモが質問を受けている。ちなみにテールとタミールは後で聞く予定らしい。
「なんていうのかしらね、今までの中ではすっきり眠れた方かしら」
「はい、よく眠れました」
「ふむふむ……」
私とモモの答えを聞いて、メモを取り始めるエスカ。その後も寝付くまでの時間とか、目覚めた時の状態とかを聞かれた。
「そういう情報は必要なの?」
私が疑問をぶつけると、さも当然という顔をしてくるエスカ。
「アロマをリラックスアイテムとして売り出すのなら、使用時の感触を事細かくチェックするのは当然でしょう? これでも営業経験あるんだから」
しれっと飛び出るエスカの前世情報。どうやらエスカも社会人経験者だったようだ。どのくらいまで生きてたのかしらね。
それはさておいて、エスカの質問には仕方なく全部答えておいた。
「ふむふむ、二人はいい感じだったのね。これなら量産化のめどをつけられればいい感じに売れそうだわ。他のアロマも作って確かめてみなきゃね」
私たちから感想を貰ったエスカは、ものすごくご機嫌なようだった。
「それじゃ、テールとタミールにも話を聞いてみるわ。それじゃ、姉妹で仲良くしててちょうだい」
エスカはそう言って部屋を出て行った。いや、ここエスカに割り当てられた部屋なんだけど?!
部屋に残された私とモモは、お互いの顔を見合わせながら困惑している。部屋を勝手に出て行ってもいいのかも判断できず、仕方なく部屋の中で話をして過ごす事にした。
しばらくすると、エスカが戻ってきた。部屋の中には私とモモが座っていたので、それに対してかなり驚いていたようだった。
「なんで二人が居るのよ」
まさかまだ部屋に居座っているとは思っていなかったようだ。
「だって、部屋に戻ってもいいとも言われなかったもの。判断できなかったから、ずっと待ってたっていうわけ」
私の言い訳に、エスカは額を押さえて首を振っていた。そんな反応するんだったら、言ってから行けばよかったのにね。
「仕方ないわね。言わなかった私が悪かったわ……」
指摘を受けたエスカはやむなく受け入れていた。そして、私の真向かいに腰掛けて、じっと私を見てきた。
「一応テールとタミールにも聞いていたわ。二人も同じような答えが返ってきたわね。柑橘に囲まれた生活をしていたはずのタミールも同じような感想だったから、これはかなり効果があると言えるわね」
エスカは肘をついて手を組みながら私たちに話している。
「これは、本格的に製造する価値がありそうだわ」
エスカが気合いの入った顔をするので、私たちもつられて意気込んでしまう。
「ただ、問題は皮から油を搾り取る装置ね。手で搾るのは不可能だし、魔法もよろしくない。となると、搾油装置を作るしかないけど、頼んだ分はいつできるか分からないときたものよ」
肘を解いたかと思うと、今度は椅子にもたれながら天井を見上げるエスカ。まったく忙しいわね。
「道具の専門家が居るから、図面は理解できるでしょうけれどね。搾るために圧力をかける部分が、どこまで理解できるかというのが問題ね。あと、その動力をどう確保するかもだけど」
エスカは思った以上にしっかりと考えているようだった。私たちが口を挟む間もなく、次々と喋っていた。ドン引きするくらいに喋りまくっていた。
「年明けにはファッティ伯爵領を尋ねて、アンマリアのおば様とお話しませんとね。……って、あら?」
ようやくエスカの話が止まる。
それもそうだろう。私とモモが話について行けずに飽きてきていたのだ。ふと私たちに視線を向けてその状態に気が付いたので、エスカは喋るのをやめたというわけだった。
「もう、まったく二人揃って……」
エスカが怒りだした。
「いい? アンマリアは王子の婚約者だからといっても、それが必ずしも領地にプラスに働くとは限らないの。領地にもそれなりに力を持たせないといけないのよ、分かる?」
語気を強めて話すエスカ。
その言わんとする意味はなんとなく分からなくはない。
このままだとファッティ家は、王子の婚約者という威光だけでのし上がったとする連中が出てくるだろうというのがエスカの見解だ。
そもそも父親が国の大臣を務めているというのに、それを無視して言い掛かりをつける危険性は確かにある。
私はうーんと腕を組んで唸り始める。
「分かったでしょう? だからこそ、領地の影響力は強める必要があるのよ」
人差し指を立てて顔を近付けてくるエスカ。
「分かった。分かったから、それ以上顔を近付けないでちょうだい」
最終的にエスカの圧力に屈した私。エスカの提案に沿って、モモを巻き込みながらいろいろと策を練る事になったのだった。
エスカの言う通りに、アロマキャンドルは枕に近い場所で使ったのだけれど、火をつけるとほんのりと柑橘の香りが広がったのが印象深かった。
正直なところ、効果については半信半疑どころか、毛ほどにも信じていなかった。それでも、今回の結果だけでもなんともよさげな感じだったのだ。
「どうだったかしら」
朝食の後、エスカの部屋に集まった私とモモが質問を受けている。ちなみにテールとタミールは後で聞く予定らしい。
「なんていうのかしらね、今までの中ではすっきり眠れた方かしら」
「はい、よく眠れました」
「ふむふむ……」
私とモモの答えを聞いて、メモを取り始めるエスカ。その後も寝付くまでの時間とか、目覚めた時の状態とかを聞かれた。
「そういう情報は必要なの?」
私が疑問をぶつけると、さも当然という顔をしてくるエスカ。
「アロマをリラックスアイテムとして売り出すのなら、使用時の感触を事細かくチェックするのは当然でしょう? これでも営業経験あるんだから」
しれっと飛び出るエスカの前世情報。どうやらエスカも社会人経験者だったようだ。どのくらいまで生きてたのかしらね。
それはさておいて、エスカの質問には仕方なく全部答えておいた。
「ふむふむ、二人はいい感じだったのね。これなら量産化のめどをつけられればいい感じに売れそうだわ。他のアロマも作って確かめてみなきゃね」
私たちから感想を貰ったエスカは、ものすごくご機嫌なようだった。
「それじゃ、テールとタミールにも話を聞いてみるわ。それじゃ、姉妹で仲良くしててちょうだい」
エスカはそう言って部屋を出て行った。いや、ここエスカに割り当てられた部屋なんだけど?!
部屋に残された私とモモは、お互いの顔を見合わせながら困惑している。部屋を勝手に出て行ってもいいのかも判断できず、仕方なく部屋の中で話をして過ごす事にした。
しばらくすると、エスカが戻ってきた。部屋の中には私とモモが座っていたので、それに対してかなり驚いていたようだった。
「なんで二人が居るのよ」
まさかまだ部屋に居座っているとは思っていなかったようだ。
「だって、部屋に戻ってもいいとも言われなかったもの。判断できなかったから、ずっと待ってたっていうわけ」
私の言い訳に、エスカは額を押さえて首を振っていた。そんな反応するんだったら、言ってから行けばよかったのにね。
「仕方ないわね。言わなかった私が悪かったわ……」
指摘を受けたエスカはやむなく受け入れていた。そして、私の真向かいに腰掛けて、じっと私を見てきた。
「一応テールとタミールにも聞いていたわ。二人も同じような答えが返ってきたわね。柑橘に囲まれた生活をしていたはずのタミールも同じような感想だったから、これはかなり効果があると言えるわね」
エスカは肘をついて手を組みながら私たちに話している。
「これは、本格的に製造する価値がありそうだわ」
エスカが気合いの入った顔をするので、私たちもつられて意気込んでしまう。
「ただ、問題は皮から油を搾り取る装置ね。手で搾るのは不可能だし、魔法もよろしくない。となると、搾油装置を作るしかないけど、頼んだ分はいつできるか分からないときたものよ」
肘を解いたかと思うと、今度は椅子にもたれながら天井を見上げるエスカ。まったく忙しいわね。
「道具の専門家が居るから、図面は理解できるでしょうけれどね。搾るために圧力をかける部分が、どこまで理解できるかというのが問題ね。あと、その動力をどう確保するかもだけど」
エスカは思った以上にしっかりと考えているようだった。私たちが口を挟む間もなく、次々と喋っていた。ドン引きするくらいに喋りまくっていた。
「年明けにはファッティ伯爵領を尋ねて、アンマリアのおば様とお話しませんとね。……って、あら?」
ようやくエスカの話が止まる。
それもそうだろう。私とモモが話について行けずに飽きてきていたのだ。ふと私たちに視線を向けてその状態に気が付いたので、エスカは喋るのをやめたというわけだった。
「もう、まったく二人揃って……」
エスカが怒りだした。
「いい? アンマリアは王子の婚約者だからといっても、それが必ずしも領地にプラスに働くとは限らないの。領地にもそれなりに力を持たせないといけないのよ、分かる?」
語気を強めて話すエスカ。
その言わんとする意味はなんとなく分からなくはない。
このままだとファッティ家は、王子の婚約者という威光だけでのし上がったとする連中が出てくるだろうというのがエスカの見解だ。
そもそも父親が国の大臣を務めているというのに、それを無視して言い掛かりをつける危険性は確かにある。
私はうーんと腕を組んで唸り始める。
「分かったでしょう? だからこそ、領地の影響力は強める必要があるのよ」
人差し指を立てて顔を近付けてくるエスカ。
「分かった。分かったから、それ以上顔を近付けないでちょうだい」
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