497 / 500
第九章 拡張版ミズーナ編
第497話 ベジタリウス王国の年末
しおりを挟む
ベジタリウス王国の年末パーティーはいつもよりも実に賑やかだった。
サーロイン王国に留学していたレッタス王子とミズーナ王女が戻ってきたために、王国の貴族たちが勢ぞろいで出迎えているのである。会場の中は貴族たちであふれ返り、その熱気に雪降る年末である事を忘れてしまいそうだった。
「すごい人数ね」
エスカもこの反応である。
「仕方ないわ。私たち王族が久しぶりに勢ぞろいなんですもの。貴族たちも力が入ってるってことよね。お父様お母様の話では、私たちの婚約者を探しているという話も噂として広まっているみたいだもの」
「なるほどね……」
ミズーナ王女の話を聞いて、納得がいってしまうエスカである。
王子様の婚約者探しともなれば、貴族たちはこぞって玉の輿を狙いに来るというわけだった。それがこの騒ぎとなっているのである。なにせ、さっきからレッタス王子には人が群がっているのだから。
ところが、それとは対照的に、ミズーナ王女の周りにはほとんど人がいなかった。大体はこの人のせいだ。
「まったく、なぜ我までがこんな席に出ねばならんのだ」
そう、魔王である。
今や魔王もベジタリウス王国の臣下の人に過ぎない。そのために、パーティーに参加せざるを得ないのである。
初めは魔王はパーティーへの参加を断るつもりだったらしい。だが、エスカの度重なる説得で渋々応じたらしい。ミズーナ王女は、エスカが何をやったのかうっすらとながら想像できてしまった。まったく、どっちが魔王なのやら。
ちなみに魔王の近くには、メチルの両親であるコール子爵夫妻もやって来ていた。久しぶりの王城でのパーティーで非常に緊張した面持ちで臨んでいるようである。
だが、すぐに夫妻は何かに気が付いたようで、ミズーナ王女におそるおそる声を掛けてきた。
「あの、娘はどこに?」
「メチルでしたら、今頃はミール王国ですよ」
子爵の質問にミズーナ王女はさらりと答える。
「そうそう、私のお兄様の婚約者として、ミール王国に滞在していますよ」
「え、エスカ王女殿下?! ということは、王太子の婚約者ですか?!」
エスカが口を挟むと、子爵夫妻はものすごく混乱していた。
知らない間に娘が王族の婚約者になっていた件。
寝耳に水である。
だがしかし、子爵夫人がまごまごしながらエスカに質問を投げかける。
「よ、よろしいのでしょうか。うちの娘は今魔族となっているのです。そのような者を妻として迎えるのであれば、ミール王国の威信に関わったりは……」
「ないわね」
きっぱりと答えるエスカである。
「だって、私の相手は魔王様だもの。両親もメチルのことは気に入ってくれてたみたいなので、気にしなくていいですよ」
「お、おい。くっつくな」
エスカの行動にたじたじの魔王である。この光景と合わさって、コール子爵夫妻は完全に沈黙してしまった。なんて反応していいのか分からないのである。
黙り込むメチルの両親に、エスカはにこにことした笑顔を向けている。その様子を見ながら、呆れた表情を見せるミズーナ王女なのであった。
ある程度歓談が進むと、エスカが魔王に対して話し掛ける。
「そろそろ一曲踊りましょうか。それとも、魔王様はダンスが苦手かしら?」
エスカが煽るように言うものだから魔王はカチンときたらしく、お返しにとばかりにエスカを睨み付ける。
「バカを言うな。我にできぬ事などあってたまることか。いいだろう、我がダンスの前にひれ伏すがよいぞ、異国の王女よ」
強がる魔王と一緒にエスカは会場の真ん中へと出ていく。その際、後ろを振り返ってミズーナ王女に手をひらひらと振っていた。
エスカの行動にしょうがないなという表情を見せるミズーナ王女。しかし、メチルの両親と残された状況では、はたしてどうしたものかと困った様子である。
手持無沙汰になってしまったミズーナ王女は、とりあえず適当に料理に手を付けておく。多少食べたところで以前みたいに太ることがないせいか、少々遠慮はなかった。
そんなもりもりと料理を頬張るミズーナ王女に、ゆっくりと近付く影があった。
「ミズーナ王女殿下」
「ひゃい?!」
突然声を掛けられて、食事に夢中だったミズーナ王女は声を上げて驚く。
おそるおそる振り返った視線の先には、ここにいるはずのない人物の姿があった。
「あ、アンマリア? どうしてここに」
そう、アンマリアである。
「ええ、ちょっと野暮用ができたので、瞬間移動魔法でここまで跳んできたのよ。まったく、この魔法の消耗は激しいわ。少し休ませてもらうから、その間この子の相手を頼むわね」
「この子?」
アンマリアの言葉を聞いて、ふとその後ろに見えた影を覗き込むミズーナ王女。そこにいたのは予想外の人物だった。
「ちょっと、タミールじゃないの?!」
ゆっくりと姿を見せたのは、アンマリアのいとこであるタミール・ファッティだった。
「ほら、タミール」
「わわっ。お、押さないでくれよ、姉上」
急に背中を押されて、転びそうになるタミール。よく見ると服装はぴっちりと整えられて礼装だった。
しばらく動きのなかったタミールだが、小さく「よし」と呟くと、ミズーナ王女の前に跪いてこう告げる。
「ミズーナ王女殿下、僕と踊って頂けませんか?」
サーロイン王国に留学していたレッタス王子とミズーナ王女が戻ってきたために、王国の貴族たちが勢ぞろいで出迎えているのである。会場の中は貴族たちであふれ返り、その熱気に雪降る年末である事を忘れてしまいそうだった。
「すごい人数ね」
エスカもこの反応である。
「仕方ないわ。私たち王族が久しぶりに勢ぞろいなんですもの。貴族たちも力が入ってるってことよね。お父様お母様の話では、私たちの婚約者を探しているという話も噂として広まっているみたいだもの」
「なるほどね……」
ミズーナ王女の話を聞いて、納得がいってしまうエスカである。
王子様の婚約者探しともなれば、貴族たちはこぞって玉の輿を狙いに来るというわけだった。それがこの騒ぎとなっているのである。なにせ、さっきからレッタス王子には人が群がっているのだから。
ところが、それとは対照的に、ミズーナ王女の周りにはほとんど人がいなかった。大体はこの人のせいだ。
「まったく、なぜ我までがこんな席に出ねばならんのだ」
そう、魔王である。
今や魔王もベジタリウス王国の臣下の人に過ぎない。そのために、パーティーに参加せざるを得ないのである。
初めは魔王はパーティーへの参加を断るつもりだったらしい。だが、エスカの度重なる説得で渋々応じたらしい。ミズーナ王女は、エスカが何をやったのかうっすらとながら想像できてしまった。まったく、どっちが魔王なのやら。
ちなみに魔王の近くには、メチルの両親であるコール子爵夫妻もやって来ていた。久しぶりの王城でのパーティーで非常に緊張した面持ちで臨んでいるようである。
だが、すぐに夫妻は何かに気が付いたようで、ミズーナ王女におそるおそる声を掛けてきた。
「あの、娘はどこに?」
「メチルでしたら、今頃はミール王国ですよ」
子爵の質問にミズーナ王女はさらりと答える。
「そうそう、私のお兄様の婚約者として、ミール王国に滞在していますよ」
「え、エスカ王女殿下?! ということは、王太子の婚約者ですか?!」
エスカが口を挟むと、子爵夫妻はものすごく混乱していた。
知らない間に娘が王族の婚約者になっていた件。
寝耳に水である。
だがしかし、子爵夫人がまごまごしながらエスカに質問を投げかける。
「よ、よろしいのでしょうか。うちの娘は今魔族となっているのです。そのような者を妻として迎えるのであれば、ミール王国の威信に関わったりは……」
「ないわね」
きっぱりと答えるエスカである。
「だって、私の相手は魔王様だもの。両親もメチルのことは気に入ってくれてたみたいなので、気にしなくていいですよ」
「お、おい。くっつくな」
エスカの行動にたじたじの魔王である。この光景と合わさって、コール子爵夫妻は完全に沈黙してしまった。なんて反応していいのか分からないのである。
黙り込むメチルの両親に、エスカはにこにことした笑顔を向けている。その様子を見ながら、呆れた表情を見せるミズーナ王女なのであった。
ある程度歓談が進むと、エスカが魔王に対して話し掛ける。
「そろそろ一曲踊りましょうか。それとも、魔王様はダンスが苦手かしら?」
エスカが煽るように言うものだから魔王はカチンときたらしく、お返しにとばかりにエスカを睨み付ける。
「バカを言うな。我にできぬ事などあってたまることか。いいだろう、我がダンスの前にひれ伏すがよいぞ、異国の王女よ」
強がる魔王と一緒にエスカは会場の真ん中へと出ていく。その際、後ろを振り返ってミズーナ王女に手をひらひらと振っていた。
エスカの行動にしょうがないなという表情を見せるミズーナ王女。しかし、メチルの両親と残された状況では、はたしてどうしたものかと困った様子である。
手持無沙汰になってしまったミズーナ王女は、とりあえず適当に料理に手を付けておく。多少食べたところで以前みたいに太ることがないせいか、少々遠慮はなかった。
そんなもりもりと料理を頬張るミズーナ王女に、ゆっくりと近付く影があった。
「ミズーナ王女殿下」
「ひゃい?!」
突然声を掛けられて、食事に夢中だったミズーナ王女は声を上げて驚く。
おそるおそる振り返った視線の先には、ここにいるはずのない人物の姿があった。
「あ、アンマリア? どうしてここに」
そう、アンマリアである。
「ええ、ちょっと野暮用ができたので、瞬間移動魔法でここまで跳んできたのよ。まったく、この魔法の消耗は激しいわ。少し休ませてもらうから、その間この子の相手を頼むわね」
「この子?」
アンマリアの言葉を聞いて、ふとその後ろに見えた影を覗き込むミズーナ王女。そこにいたのは予想外の人物だった。
「ちょっと、タミールじゃないの?!」
ゆっくりと姿を見せたのは、アンマリアのいとこであるタミール・ファッティだった。
「ほら、タミール」
「わわっ。お、押さないでくれよ、姉上」
急に背中を押されて、転びそうになるタミール。よく見ると服装はぴっちりと整えられて礼装だった。
しばらく動きのなかったタミールだが、小さく「よし」と呟くと、ミズーナ王女の前に跪いてこう告げる。
「ミズーナ王女殿下、僕と踊って頂けませんか?」
20
あなたにおすすめの小説
生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
【連載版】ヒロインは元皇后様!?〜あら?生まれ変わりましたわ?〜
naturalsoft
恋愛
その日、国民から愛された皇后様が病気で60歳の年で亡くなった。すでに現役を若き皇王と皇后に譲りながらも、国内の貴族のバランスを取りながら暮らしていた皇后が亡くなった事で、王国は荒れると予想された。
しかし、誰も予想していなかった事があった。
「あら?わたくし生まれ変わりましたわ?」
すぐに辺境の男爵令嬢として生まれ変わっていました。
「まぁ、今世はのんびり過ごしましょうか〜」
──と、思っていた時期がありましたわ。
orz
これは何かとヤラカシて有名になっていく転生お皇后様のお話しです。
おばあちゃんの知恵袋で乗り切りますわ!
【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。
なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。
本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!
幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない
しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる