ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊

文字の大きさ
77 / 200

第77話 シスコンというのも困ります

しおりを挟む
 翌日、おじさまのところに向かったはずのアマリス様とルーチェが、再び農園を訪れました。何をしにいらしたのでしょうか。

「避暑といえばやはり湖は避けられませんね」

「この近くには湖がありますので、ここでお世話になりますよ、お姉様」

 なんてことでしょう。
 夏休みの休暇を私の農園で過ごすつもりのようです。
 待って下さい。今は家に余裕がありませんよ。

「どうなさるおつもりですか、レチェ様」

「どうするもこうするも……。あの二人、居座るつもりですよ。どうにかしないといけません」

 アマリス様もルーチェも、まったく帰るような気配がありません。この分では学園の夏休み中、ここにいることは確定です。
 まったく、困ったものですね。
 ひとまず、私は二人に確認をします。ええ、お父様たちの許可があるのかどうかですよ。
 警備はたくさんいますけれど、どう見たって二人しかいませんからね。

「アマリス様、ルーチェ」

「なんでしょうか、お姉様」

 私が声をかけると、畑を眺めていた二人が揃って振り返ってきます。
 声をかけられた二人の顔が、にこにことした期待の顔をしています。なんなんですか、この表情は……。

「あなたたち、国王陛下やお父様たちの許可は得ていますかしら」

「はい、もちろんですよ」

 即答でしたわ。

「お兄様の説得が難しいのは分かっています。なので、最初からお兄様には内緒でやってきました」

「アマリス様……」

 にこにこと笑顔でいうことですか、それは。
 ルーチェまでこちらに来てしまって、アンドリュー殿下ってば可哀想ですわね。
 二人とも、私のことを慕っていますものね。
 でも、今年はよくても来年からは厳しいと思います。王族の婚約者というものが、そんなに自由に動けるわけがないのです。なので、今年のところは私はもう目をつぶることにしました。

「ラ・ギア・ルド!」

 農園の近くの空き地に、私は魔法で家を建てます。ないのなら作ってしまえというやつです。
 私が一瞬で家を建ててしまったので、アマリス様もルーチェもびっくり仰天です。

「はあ……。付与魔法についてちゃんと勉強していればよかったですのに……」

「お姉様の魔法、こんなことができましたのね」

 二人はしばらく呆然として、私の建てた家を眺めていました。

「来客用の家なので設備は質素ですけれど、これで我慢して下さいね」

「お姉様ご用意して下さったのでしたら、文句のひとつもありませんわよ」

 私が断りを入れると、即座にアマリス様から言葉が返ってきました。早すぎません?
 まあそれでいいのでしたら、これ以上のことはしませんけれど。
 いろいろと思いながら、二人を建てた家の中に案内します。
 最低限の家具くらいが同時に作ってあります。ただし、土魔法ですから、硬いんですよ、これが。

「土魔法で同時に作ったので、とても落ち着けるものではないと思いますが、そこはまあ我慢して下さい」

「確かに、落ち着ける気はしませんね」

 ベッドやテーブルなどを叩きながら、アマリス様は苦笑いをしています。なにせこつこつという音がするのですからね。

「ベッドが固いのは想定内ですから、布団は自分たちで用意してありますよ。ね、ルーチェ」

「はい、アマリス様」

 首を傾げていると、扉が開いて使用人たちがぞろぞろと入ってきます。
 そして、無機質なベッドやテーブルに、すぐさま装飾を施していきます。
 なんてことでしょう。硬い土魔法のベッドやテーブルが、あっという間におしゃれなものに変わってしまったではないですか。

「……用意、されていたのですか」

「お姉様、私には去年の経験がありますのよ?」

「あ……」

 そうでした。アマリス様は去年も半年くらいご一緒にいらっしゃったのでしたね。
 なるほど、その経験から自分で用意していたというわけですか。抜け目がないといいますか、なんといいましょうか。
 それ以外も含めて、あっという間に殺風景だった家の中がきれいに飾り付けられました。すっかり客人用の家になってしまいましたね。

「さて、一通り終わりましたから、フォレとラニをスピードやスターたちと会わせてやってくださいませ、お姉様」

 両手を合わせながら、満面の笑みで頼み込んでくるアマリス様。やめて下さい、その笑顔に弱いんです。
 というわけでして、私はアマリス様とルーチェが乗ってきたフォレとラニを連れて、鳥小屋へと移動します。

「ブェーッ!」

「ブフェーッ!」

 鳥小屋に入るなり、フォレとラニはダッシュでスピードとスターに近付いていきます。互いに分かるらしく、スピードとスターの方も翼を広げて二羽を受け入れていました。

「ずいぶん増えましたね、こちらも」

「四回目まで生みましたからね。今月中にも、おそらく産卵はあると思われます」

「そうですか。では、こちらも気をつけないといけませんね。こちらも四回目の産卵が終わってふ化するところですから」

 どうやら、ラッシュバードの産卵のペースはほぼ同じように行われているようですね。
 これだけ環境が違うというのに、同じように過ごせるとはすごい話です。頭が悪いだけなのか、それとも環境に左右されない強さがあるのか、それは私たちには分からないですけれどもね。

 というわけでして、アマリス様とルーチェは、半月ほど私たちと生活を共にすることになります。基本的にはお手伝いはしませんが、この近くを散策して過ごすそうです。
 そういえば、私自身は近くの街との往復ばかりで、あまりこのご近所を見ておりませんでしたね。狩りに行くギルバートの情報頼りです。
 まあ、ミサエラさんやおじさまが普通に来られるような場所です。きっと大丈夫でしょう。
 私は、二人との生活を楽しみにすることにしたのでした。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

転生幼女は追放先で総愛され生活を満喫中。前世で私を虐げていた姉が異世界から召喚されたので、聖女見習いは不要のようです。

桜城恋詠
ファンタジー
 聖女見習いのロルティ(6)は、五月雨瑠衣としての前世の記憶を思い出す。  異世界から召喚された聖女が、自身を虐げてきた前世の姉だと気づいたからだ。  彼女は神官に聖女は2人もいらないと教会から追放。  迷いの森に捨てられるが――そこで重傷のアンゴラウサギと生き別れた実父に出会う。 「絶対、誰にも渡さない」 「君を深く愛している」 「あなたは私の、最愛の娘よ」  公爵家の娘になった幼子は腹違いの兄と血の繋がった父と母、2匹のもふもふにたくさんの愛を注がれて暮らす。  そんな中、養父や前世の姉から命を奪われそうになって……?  命乞いをしたって、もう遅い。  あなたたちは絶対に、許さないんだから! ☆ ☆ ☆ ★ベリーズカフェ(別タイトル)・小説家になろう(同タイトル)掲載した作品を加筆修正したものになります。 こちらはトゥルーエンドとなり、内容が異なります。 ※9/28 誤字修正

美味しい料理で村を再建!アリシャ宿屋はじめます

今野綾
ファンタジー
住んでいた村が襲われ家族も住む場所も失ったアリシャ。助けてくれた村に住むことに決めた。 アリシャはいつの間にか宿っていた力に次第に気づいて…… 表紙 チルヲさん 出てくる料理は架空のものです 造語もあります11/9 参考にしている本 中世ヨーロッパの農村の生活 中世ヨーロッパを生きる 中世ヨーロッパの都市の生活 中世ヨーロッパの暮らし 中世ヨーロッパのレシピ wikipediaなど

『追放令嬢は薬草(ハーブ)に夢中 ~前世の知識でポーションを作っていたら、聖女様より崇められ、私を捨てた王太子が泣きついてきました~』

とびぃ
ファンタジー
追放悪役令嬢の薬学スローライフ ~断罪されたら、そこは未知の薬草宝庫(ランクS)でした。知識チートでポーション作ってたら、王都のパンデミックを救う羽目に~ -第二部(11章~20章)追加しました- 【あらすじ】 「貴様を追放する! 魔物の巣窟『霧深き森』で、朽ち果てるがいい!」 王太子の婚約者ソフィアは、卒業パーティーで断罪された。 しかし、その顔に絶望はなかった。なぜなら、その「断罪劇」こそが、彼女の完璧な計画だったからだ。 彼女の魂は、前世で薬学研究に没頭し過労死した、日本の研究者。 王妃の座も権力闘争も、彼女には退屈な枷でしかない。 彼女が求めたのはただ一つ——誰にも邪魔されず、未知の植物を研究できる「アトリエ」だった。 追放先『霧深き森』は「死の土地」。 だが、チート能力【植物図鑑インターフェイス】を持つソフィアにとって、そこは未知の薬草が群生する、最高の「研究フィールド(ランクS)」だった! 石造りの廃屋を「アトリエ」に改造し、ガラクタから蒸留器を自作。村人を救い、薬師様と慕われ、理想のスローライフ(研究生活)が始まる。 だが、その平穏は長く続かない。 王都では、王宮薬師長の陰謀により、聖女の奇跡すら効かないパンデミック『紫死病』が発生していた。 ソフィアが開発した『特製回復ポーション』の噂が王都に届くとき、彼女の「研究成果」を巡る、新たな戦いが幕を開ける——。 【主な登場人物】 ソフィア・フォン・クライネルト 本作の主人公。元・侯爵令嬢。魂は日本の薬学研究者。 合理的かつ冷徹な思考で、スローライフ(研究)を妨げる障害を「薬学」で排除する。未知の薬草の解析が至上の喜び。 ギルバート・ヴァイス 王宮魔術師団・研究室所属の魔術師。 ソフィアの「科学(薬学)」に魅了され、助手(兼・共同研究者)としてアトリエに入り浸る知的な理解者。 アルベルト王太子 ソフィアの元婚約者。愚かな「正義」でソフィアを追放した張本人。王都の危機に際し、薬を強奪しに来るが……。 リリア 無力な「聖女」。アルベルトに庇護されるが、本物の災厄の前では無力な「駒」。 ロイド・バルトロメウス 『天秤と剣(スケイル&ソード)商会』の会頭。ソフィアに命を救われ、彼女の「薬学」の価値を見抜くビジネスパートナー。 【読みどころ】 「悪役令嬢追放」から始まる、痛快な「ざまぁ」展開! そして、知識チートを駆使した本格的な「薬学(ものづくり)」と、理想の「アトリエ」開拓。 科学と魔法が融合し、パンデミックというシリアスな災厄に立ち向かう、読み応え抜群の薬学ファンタジーをお楽しみください。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

悪役令嬢、休職致します

碧井 汐桜香
ファンタジー
そのキツい目つきと高飛車な言動から悪役令嬢として中傷されるサーシャ・ツンドール公爵令嬢。王太子殿下の婚約者候補として、他の婚約者候補の妨害をするように父に言われて、実行しているのも一因だろう。 しかし、ある日突然身体が動かなくなり、母のいる領地で療養することに。 作中、主人公が精神を病む描写があります。ご注意ください。 作品内に登場する医療行為や病気、治療などは創作です。作者は医療従事者ではありません。実際の症状や治療に関する判断は、必ず医師など専門家にご相談ください。

余命半年のはずが?異世界生活始めます

ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明… 不運が重なり、途方に暮れていると… 確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

処理中です...