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第93話 設備は整いました
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さて、食堂の厨房にようやく冷蔵庫を作ることができました。
一番の問題だった魔石がようやく手に入ったのです。食材のことを考えればもっと早くすべきだったのですが、ごたごたしていて忘れていたのですよね。私ってば本当におっちょこちょいです。
「これが冷蔵庫と冷凍庫ですね」
「冷蔵庫?」
「冷凍庫?」
イリスが説明にあたってくれているのですが、どちらも初めてなティルさんは仕方ないとしても、冷凍庫は初めて聞くカリナさんも首を捻っています。
「はい、冷蔵庫と冷凍庫です」
カリナさんとティルさんは分からないといった様子で顔を見合わせていますね。
論より証拠です。とりあえず見せてみることにしましょう。
作業を中断して、私は二人に防寒着を渡します。こうしないと寒すぎますからね、中は。
冷蔵庫ですが、これは魔石に『ラ・ズミ・コル』の魔法を閉じ込めています。まあ魔法の詠唱なんて適当でいいんですけれど、等級と属性さえ間違っていなければどうとでもなるんですよ、これが。
中に入るとかなりひんやりしています。温度としては大体五度といったところですね。今の季節は冬ですから、だいたい外と同じ感じです。
「ひんやりしていますね」
「はい、こうやって庫内を冷やすことで、物が傷みにくい環境を作り出しているんです。ミルクや肉は傷みやすいですからね。小麦粉なども冷やしておくと長持ちします」
「ふむふむ、そうなのですね」
今は常温の倉庫からものを移している最中ですので、最低限しか置かれていません。ええ、自分たちのご飯用の食材だけですね。
この状況が、食堂が開業する前から一変するんですよ。今は広い冷蔵庫の中がぎっちり一杯になるんですよね。きっと驚きますよ、状況の違いに。
その時のことを想像すると、思わず顔がほころんでしまいますね。ええ、いけません。今は説明中ですからしっかりしませんと。気持ちをしっかりと切り替えます。
横ではイリスがどういうわけか顔をにやつかせています。私の気の緩みを感じ取っているんでしょうね。さすが長年の付き合いのある侍女ですよ、まったく。
続いて、冷凍庫へと案内します。
こちらは『タ・ズミ・コル』という魔法を使っています。はい、冷蔵庫とは魔法の等級の違いですね。
中級の『ラ』だと凍る手前までの冷却効果となり、上級の『タ』であれば凍り付かせてしまいます。ならば、最上級の『マ』であればどうなるか。
ええ、想像したくありませんので使いませんよ。おそらく液体窒素に放り込んだ時のようになるでしょうからね。うう、想像するだけで寒気がします。
っと、そんな余計なことを考えている場合じゃありません。説明を続けませんと。
「うう、寒すぎます……」
「こんなところ、何に使うのですか」
みんな震えていますね。吐く息が白くなっています。
「こちらはものを凍らせる部屋です。凍らせることで完成する料理もございましてね。今のところは材料不足で作れませんが、いずれは提供したいと考えております。現状では水を凍らせて氷を作るくらいでしょうかね」
「氷ですか? また希少なものを」
あれ、氷ってそんなに希少なのですかね。思わず疑問に思ってしまいました。
そういえば、今までも見た覚えは……あまりないような気がしますね。
「そうですか。でも、これからはここで氷は作りたい放題ですよ」
私は土魔法で製氷皿を作り出し、水魔法で満たします。
これだけほいほいといろんな属性の魔法を使いこなすのも、転生者ならではなのでしょうかね。
はあ、ちゃんと補助魔法のことも勉強して学園に通うべきでしたかね……。今さら後の祭りなんですけれど。
一瞬気持ちが落ち込みかけましたけれど、みなさんがいらっしゃる状況で心配させてはいけません。私はすぐに気を引き締めて、説明を続けます。
「これでしばらく待てば水が凍り付いて氷が完成します。とりあえず待つ必要がありますので、今は一度外に出ましょう」
「わ、分かりました……」
もうみんな限界みたいで震えています。
外へと出ると、みなさん安心したような表情を見せていますね。それだけ冷凍庫の中が寒かったということです。マイナス二十度なんて、この辺りではまず経験しませんからね。
コンロよし、オーブンよし、シンクよし、倉庫よし、冷蔵庫よし、冷凍庫よし。
これで食堂を開業するにあたっての設備はほぼ整いましたかね。
ホールの方に移動しますと、円形のテーブルと木の椅子がたくさん並んでいます。ミサエラさんのご協力でどうにか五十席ほど用意することができました。
カウンター席に二人用の席、装備などを置いておくためのスペースなど、これもミサエラさんと冒険者ギルドの方のご協力で配置することができました。みなさんに感謝あるのみです。
「レチェ様、お酒はどうなさいますか?」
「当面はなしでいきましょう。冒険者の方なら飲みたがるでしょうが、女性ばかりのこの場所で暴れられては、対処がしにくいですからね」
「承知致しました。では、食材の手配をして参ります」
「はい、頼みましたよ、イリス」
設備が整ったことで、ようやく食材の仕入れが始まります。開業前にプレオープンを設けて、予行演習をしませんとね。そのための仕入れです。
「さあ、みなさん。開業の日まで残りわずかになりました。成功を収めるためにも気合いを入れて頑張りましょう」
「はいっ!」
ホール担当の三人と厨房担当のカリナさんとティルさん、みなさんの元気な返事が食堂の中に響き渡ります。
さて、残る問題は食堂の名前ですね。私のネーミングセンスでどうにかなるのか分かりませんが、開業までにはきちんと決めておきましょう。
一番の問題だった魔石がようやく手に入ったのです。食材のことを考えればもっと早くすべきだったのですが、ごたごたしていて忘れていたのですよね。私ってば本当におっちょこちょいです。
「これが冷蔵庫と冷凍庫ですね」
「冷蔵庫?」
「冷凍庫?」
イリスが説明にあたってくれているのですが、どちらも初めてなティルさんは仕方ないとしても、冷凍庫は初めて聞くカリナさんも首を捻っています。
「はい、冷蔵庫と冷凍庫です」
カリナさんとティルさんは分からないといった様子で顔を見合わせていますね。
論より証拠です。とりあえず見せてみることにしましょう。
作業を中断して、私は二人に防寒着を渡します。こうしないと寒すぎますからね、中は。
冷蔵庫ですが、これは魔石に『ラ・ズミ・コル』の魔法を閉じ込めています。まあ魔法の詠唱なんて適当でいいんですけれど、等級と属性さえ間違っていなければどうとでもなるんですよ、これが。
中に入るとかなりひんやりしています。温度としては大体五度といったところですね。今の季節は冬ですから、だいたい外と同じ感じです。
「ひんやりしていますね」
「はい、こうやって庫内を冷やすことで、物が傷みにくい環境を作り出しているんです。ミルクや肉は傷みやすいですからね。小麦粉なども冷やしておくと長持ちします」
「ふむふむ、そうなのですね」
今は常温の倉庫からものを移している最中ですので、最低限しか置かれていません。ええ、自分たちのご飯用の食材だけですね。
この状況が、食堂が開業する前から一変するんですよ。今は広い冷蔵庫の中がぎっちり一杯になるんですよね。きっと驚きますよ、状況の違いに。
その時のことを想像すると、思わず顔がほころんでしまいますね。ええ、いけません。今は説明中ですからしっかりしませんと。気持ちをしっかりと切り替えます。
横ではイリスがどういうわけか顔をにやつかせています。私の気の緩みを感じ取っているんでしょうね。さすが長年の付き合いのある侍女ですよ、まったく。
続いて、冷凍庫へと案内します。
こちらは『タ・ズミ・コル』という魔法を使っています。はい、冷蔵庫とは魔法の等級の違いですね。
中級の『ラ』だと凍る手前までの冷却効果となり、上級の『タ』であれば凍り付かせてしまいます。ならば、最上級の『マ』であればどうなるか。
ええ、想像したくありませんので使いませんよ。おそらく液体窒素に放り込んだ時のようになるでしょうからね。うう、想像するだけで寒気がします。
っと、そんな余計なことを考えている場合じゃありません。説明を続けませんと。
「うう、寒すぎます……」
「こんなところ、何に使うのですか」
みんな震えていますね。吐く息が白くなっています。
「こちらはものを凍らせる部屋です。凍らせることで完成する料理もございましてね。今のところは材料不足で作れませんが、いずれは提供したいと考えております。現状では水を凍らせて氷を作るくらいでしょうかね」
「氷ですか? また希少なものを」
あれ、氷ってそんなに希少なのですかね。思わず疑問に思ってしまいました。
そういえば、今までも見た覚えは……あまりないような気がしますね。
「そうですか。でも、これからはここで氷は作りたい放題ですよ」
私は土魔法で製氷皿を作り出し、水魔法で満たします。
これだけほいほいといろんな属性の魔法を使いこなすのも、転生者ならではなのでしょうかね。
はあ、ちゃんと補助魔法のことも勉強して学園に通うべきでしたかね……。今さら後の祭りなんですけれど。
一瞬気持ちが落ち込みかけましたけれど、みなさんがいらっしゃる状況で心配させてはいけません。私はすぐに気を引き締めて、説明を続けます。
「これでしばらく待てば水が凍り付いて氷が完成します。とりあえず待つ必要がありますので、今は一度外に出ましょう」
「わ、分かりました……」
もうみんな限界みたいで震えています。
外へと出ると、みなさん安心したような表情を見せていますね。それだけ冷凍庫の中が寒かったということです。マイナス二十度なんて、この辺りではまず経験しませんからね。
コンロよし、オーブンよし、シンクよし、倉庫よし、冷蔵庫よし、冷凍庫よし。
これで食堂を開業するにあたっての設備はほぼ整いましたかね。
ホールの方に移動しますと、円形のテーブルと木の椅子がたくさん並んでいます。ミサエラさんのご協力でどうにか五十席ほど用意することができました。
カウンター席に二人用の席、装備などを置いておくためのスペースなど、これもミサエラさんと冒険者ギルドの方のご協力で配置することができました。みなさんに感謝あるのみです。
「レチェ様、お酒はどうなさいますか?」
「当面はなしでいきましょう。冒険者の方なら飲みたがるでしょうが、女性ばかりのこの場所で暴れられては、対処がしにくいですからね」
「承知致しました。では、食材の手配をして参ります」
「はい、頼みましたよ、イリス」
設備が整ったことで、ようやく食材の仕入れが始まります。開業前にプレオープンを設けて、予行演習をしませんとね。そのための仕入れです。
「さあ、みなさん。開業の日まで残りわずかになりました。成功を収めるためにも気合いを入れて頑張りましょう」
「はいっ!」
ホール担当の三人と厨房担当のカリナさんとティルさん、みなさんの元気な返事が食堂の中に響き渡ります。
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