ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊

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第105話 ちょっとした付加価値を

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 三日目の朝を迎えます。
 一番不思議なのは私です。
 あれだけ遅くまで働いていながら、なぜきちんと朝に起きれるのでしょうか。
 眠い目をこすりながらも、私はとにかく起きて支度を始めます。
 外はまだ真っ暗です。私が厨房に姿を見せても、まだ誰も起きてきていません。

「ふわぁ……。みなさん、まだ夢心地でしょうか。仕方ありませんね、今日も私が頑張りますか」

 私はしっかりと顔を洗って目を覚ましますと、早速朝の仕込みを始めます。
 昨夜、寝る前に三百仕込みましたが、焼きながらまたパンを作り始めます。
 しばらくすると、イリスが最初に起きてきました。

「レチェ様? もう起きられていたのですか?」

 厨房で活動している私の姿を見て、思わずぎょっとした顔をしています。まるでお化けでも見たような顔をしないでくれませんかね。
 私はちょっと怒りたい気持ちを堪え、イリスににっこりと笑顔を向けます。

「はい、起きておりました。さあ、イリス。他のみなさんも起こして一緒にパンの仕込みから始めますよ」

「はい、承知致しました」

 言うだけ言って再びパンを作り始めた姿を見て、イリスは二階へカリナさんたちを起こしに行きました。
 戻ってくるまでの間に、五十個分のパンの種が完成します。
 パンの種を作り、そこからパンを形成して、最終的に焼き上げる。この作業を延々と繰り返します。
 開店時間を前に、今日は七百個のパンが用意できました。頑張ったかいがあるというものです。

「レチェ様、本日の販売制限はいかが致しますか?」

 みなさんが作業を始める前の朝食を食べている中、イリスが私に確認をしてきます。
 そういえばそうでした。昨日は数が少なかった上にお客様の数が多すぎたので、一人五個という上限を設定したのでした。
 今日は昨日みたいなことはないでしょうけれど、やはり買い占めを警戒してしまいます。

「今日は十個にしましょう」

 今日は多く用意できますから、上限を倍にしてみます。イリスたちもこれを了承してくれました。

「お持ち帰り用のかごを用意して、対応しますよ」

「えっ、かごですか?」

 続けて出てきた私の言葉に、イリスたちが驚きます。みなさんの動きが止まる中、私は魔法を使います。

「ア・ギア・ルド」

 土の初級魔法でかごを作り出します。
 昨日見ていて思ったのですが、手ぶらで来てパンを買って帰る方が多かったのです。さすがに両手で抱えて持って帰るのは大変ですから、このくらいはこちらで用意していいと思ったのです。
 初級魔法ですから、百個くらいは余裕でしょう。

「だ、大丈夫でございますかね、レチェ様」

「ええ、平気ですよ。さあ、さっさと食べて準備ですよ」

「は、はい。承知致しました」

 朝食をどうにかして平らげているイリスたちをしり目に、私はぽんぽんとリズムに乗るようにかごを作り出していきました。

 護衛の冒険者の方たちが見えられて、食堂開業三日目、二回目の朝営業の時間を迎えます。
 すでに外にはたくさんのお客様が今か今かと待っていらっしゃいます。お客様たちも早起きですね。

「さあ、食堂三日目の朝です。今日も頑張りましょう」

「はい!」

 元気のいい返事とともに、二回目の朝営業がスタートします。
 かなり急いていたようには見えたのですが、お客様たちは落ち着いていらっしゃいます。

「今日は制限はあるのか?」

「はい」

 制限の有無を確認してきたのは冒険者の方ですね。
 あると答えますと、がっかりしたような顔をしています。落ち着いて続きを聞いて下さい。

「ただし、今日はお一人様十個までです。お買い上げいただくと、こちらの特製のかごに入れてお渡しいたしますね」

 私はにこやかにラッシュバードのマークの入った、土魔法で作って浄化の魔法もかけたかごを取り出します。
 ところが、この選択はどうやら間違っていたようですね。ええ、みなさんの目の色が変わりましたよ。

「よし、ならば十個だ。かごの代金もいるのか?」

「かごはサービスです。代金はパンの分だけで結構ですよ」

「そうか。そちらがそういうのであれば仕方ないな」

 冒険者の男性はパン十個分の代金を支払い、かご一杯に入ったパンを持って機嫌がよさそうに鼻歌を歌いながら出ていかれました。
 それ以降のお客様も、制限いっぱいの十個のパンを買い、嬉しそうにかごを受け取って帰っていきます。
 これがしばらく続くと、どういうことなのか首を傾げたくなってきます。

「昨日のラッシュバードの踊りがかなり好評だったみたいでしてね。それでラッシュバードのマークが入ったかごがもらえると聞いてみなさん嬉しくなっているですよ」

 途中で声をかけてきたのは、発注書を受け取りに来た商業ギルドの男性でした。
 なるほど、昨日のお昼の営業との間に踊っていたスピードとスターのことが、かなり評価されていたようです。

「確かに発注書は受け取りました。もうしばらくすると副マスターが来店される予定となっていますので、お伝えしておきます」

「ありがとうございます」

 私は商業ギルドの職員にお礼を伝えておきます。
 個数制限が倍に増えたことに加え、それをかごに入れて提供するという状況であったにもかかわらず、二回目の朝の販売は特に混乱もなく完売で終わることができたのでした。
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