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第131話 視察に備えて
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翌朝、パンの販売に私は久しぶりに顔を出します。たまには自分で現場をしっかり見ておきませんとね。
最初期に比べれば特に混乱もなく、みなさん落ち着いて来客に対応しています。
それにしても、最近はラッシュバードのマークが入ったかごを持ってこられる方が増えましたね。最初は嬉しそうに持って帰られる方ばかりでしたのに。
でも、それだけ普段使いしてくれる方が増えたということなんでしょうね。ありがたいことです。数があってもかさばるだけですものね。
この朝のパンの販売を見送った私は、パンに関係した物品の消耗を確認するとイリスに声をかけます。
「イリス、私はこれから農園へと向かいます」
「承知致しました。こちらのことは私に任せて下さい」
イリスが普段通りの様子で申しますので、私は安心して食堂から農園へと移動します。
今日は鳥小屋に寄りまして、イチと出かけます。
「ブェ?」
私が背中に乗りますと、どうしたのといった感じの反応を見せています。
「ふふっ、今日は新しいところへ行きますよ。私が案内しますので、それに従って走って下さいね」
「ブェーッ!」
私が撫でながら話し掛けますと、イチは初めてスピードやスターと移動してきた時のように元気な鳴き声を響かせています。
スピードたちの世話をウィルくんとジルくんに任せまして、私はイチと農園を目指して移動を始めます。
街の中にいる間は、とにかくゆっくりとです。まだ冒険者の方々がたくさんおりますのでね。下手に走りますと彼らとぶつかりかねません。
今回はイチを外の世界に慣れされることも目的です。
「今度はウノも連れてきませんとね」
私はゆっくりと街の外へと向かいました。
門番の方とお話を済ませますと、いよいよ街の外です。ここからは速度を出して走ることができます。
まずは道に沿っては進むように指示をします。
私の眷属ということもあって、素直に言うことを聞いてくれます。走れと言いますとは知りますし、止まれと言うと止まります。
街道をある程度進みますと、看板が出ています。ここで分岐になっていまして、公爵邸方面へと進むことになります。
公爵邸方面へと続く左方向に曲がりましてしばらく進みます。今度は看板のない分岐になっていまして、ここでも左に曲がります。その道を進んでいけば、私の営むレチェ商会の農園に到着します。
最初ですから、まずは街道沿いに進んで道を覚えさせるのです。
「さあ、到着ですよ。ここが私のスタートの地です」
「ブフェーッ!」
私が誇らしげに話しかけますと、イチは大きな声で鳴いています。
「レチェ様、どうしていらしたんですか?!」
外でお父様たちを迎える準備をしていたギルバートが驚いた顔をしています。
私は農園の入口でイチから降りますと、ギルバートと向かい合います。
「……逃げるのをやめました。お父様たちと向き合いたいと思うんです」
私がこういえば、ギルバートは何も言えないのか黙り込んでしまいました。
そうかと思えば、私の前に跪きます。
「分かりました。レチェ様がそう仰られるのでしたら反対は致しません。俺はレチェ様の護衛として、もしもの時は体を張ってでも守らせて頂きます。たとえ旦那様たちに逆らうことになったとしてもです」
私を見上げて話すギルバートの表情は、決意に満ちたものでした。
そこまで私のことを主として認めてもらえているのかと思うと、なんだか泣きたくなってきますね。
ですが、まだお父様たちはいらっしゃっておりません。ここで泣くわけにはいきません。
「ギルバート、お父様たちを迎える準備をしますよ」
「はい、レチェ様」
私は気持ちを切り替えて、この農園を視察に訪れるお父様、お母様、リキシルおじさまの三人を受け入れる状態を整えることにします。
まずはイチをキサラさんに預けまして、小屋の中をきれいに整えます。
サリナさんとマリナさんの二人がきれいにしてくれていらっしゃいますが、さすがに公爵を迎えるのです。これでは足りません。
私はこっそりと食堂にいる間に作っておいたテーブルクロスなどを引っ張り出して、なけなしの飾りつけを行います。
普段の食事をする食堂が、迎え入れるスペースになります。とにかく、普段以上の整理整頓をしておきます。
「レチェ様、ものすごく頑張ってる」
「でも、どうしてここまでするのかな」
サリナさんとマリナさんは、私の必死な姿を見て理解できずに立ち尽くしていました。
ある程度準備が整いますと、外から馬の鳴き声が聞こえてきます。
お父様たちを乗せた馬車が到着しましたね。
ラッシュバードなら体感一時間かかるかどうかの距離ですが、馬車なら三時間はかかります。これだけあれば十分整いますね。
私はサリナさんとマリナさんにお茶の用意をするようにお願いして、ギルバートと外へと出ていきます。
小屋の外に出ますと、マックスさんとハーベイさんが立派な馬車に驚いて棒立ちになっています。お二人なら見たことがあるでしょうね、馬車に入っている紋章を。
そう、あれこそがウィルソン公爵家の紋章です。
いよいよお父様たちとの対面です。
私は思わず緊張してしまいます。はたしてこの再会、うまく乗り切れるのでしょうか。
最初期に比べれば特に混乱もなく、みなさん落ち着いて来客に対応しています。
それにしても、最近はラッシュバードのマークが入ったかごを持ってこられる方が増えましたね。最初は嬉しそうに持って帰られる方ばかりでしたのに。
でも、それだけ普段使いしてくれる方が増えたということなんでしょうね。ありがたいことです。数があってもかさばるだけですものね。
この朝のパンの販売を見送った私は、パンに関係した物品の消耗を確認するとイリスに声をかけます。
「イリス、私はこれから農園へと向かいます」
「承知致しました。こちらのことは私に任せて下さい」
イリスが普段通りの様子で申しますので、私は安心して食堂から農園へと移動します。
今日は鳥小屋に寄りまして、イチと出かけます。
「ブェ?」
私が背中に乗りますと、どうしたのといった感じの反応を見せています。
「ふふっ、今日は新しいところへ行きますよ。私が案内しますので、それに従って走って下さいね」
「ブェーッ!」
私が撫でながら話し掛けますと、イチは初めてスピードやスターと移動してきた時のように元気な鳴き声を響かせています。
スピードたちの世話をウィルくんとジルくんに任せまして、私はイチと農園を目指して移動を始めます。
街の中にいる間は、とにかくゆっくりとです。まだ冒険者の方々がたくさんおりますのでね。下手に走りますと彼らとぶつかりかねません。
今回はイチを外の世界に慣れされることも目的です。
「今度はウノも連れてきませんとね」
私はゆっくりと街の外へと向かいました。
門番の方とお話を済ませますと、いよいよ街の外です。ここからは速度を出して走ることができます。
まずは道に沿っては進むように指示をします。
私の眷属ということもあって、素直に言うことを聞いてくれます。走れと言いますとは知りますし、止まれと言うと止まります。
街道をある程度進みますと、看板が出ています。ここで分岐になっていまして、公爵邸方面へと進むことになります。
公爵邸方面へと続く左方向に曲がりましてしばらく進みます。今度は看板のない分岐になっていまして、ここでも左に曲がります。その道を進んでいけば、私の営むレチェ商会の農園に到着します。
最初ですから、まずは街道沿いに進んで道を覚えさせるのです。
「さあ、到着ですよ。ここが私のスタートの地です」
「ブフェーッ!」
私が誇らしげに話しかけますと、イチは大きな声で鳴いています。
「レチェ様、どうしていらしたんですか?!」
外でお父様たちを迎える準備をしていたギルバートが驚いた顔をしています。
私は農園の入口でイチから降りますと、ギルバートと向かい合います。
「……逃げるのをやめました。お父様たちと向き合いたいと思うんです」
私がこういえば、ギルバートは何も言えないのか黙り込んでしまいました。
そうかと思えば、私の前に跪きます。
「分かりました。レチェ様がそう仰られるのでしたら反対は致しません。俺はレチェ様の護衛として、もしもの時は体を張ってでも守らせて頂きます。たとえ旦那様たちに逆らうことになったとしてもです」
私を見上げて話すギルバートの表情は、決意に満ちたものでした。
そこまで私のことを主として認めてもらえているのかと思うと、なんだか泣きたくなってきますね。
ですが、まだお父様たちはいらっしゃっておりません。ここで泣くわけにはいきません。
「ギルバート、お父様たちを迎える準備をしますよ」
「はい、レチェ様」
私は気持ちを切り替えて、この農園を視察に訪れるお父様、お母様、リキシルおじさまの三人を受け入れる状態を整えることにします。
まずはイチをキサラさんに預けまして、小屋の中をきれいに整えます。
サリナさんとマリナさんの二人がきれいにしてくれていらっしゃいますが、さすがに公爵を迎えるのです。これでは足りません。
私はこっそりと食堂にいる間に作っておいたテーブルクロスなどを引っ張り出して、なけなしの飾りつけを行います。
普段の食事をする食堂が、迎え入れるスペースになります。とにかく、普段以上の整理整頓をしておきます。
「レチェ様、ものすごく頑張ってる」
「でも、どうしてここまでするのかな」
サリナさんとマリナさんは、私の必死な姿を見て理解できずに立ち尽くしていました。
ある程度準備が整いますと、外から馬の鳴き声が聞こえてきます。
お父様たちを乗せた馬車が到着しましたね。
ラッシュバードなら体感一時間かかるかどうかの距離ですが、馬車なら三時間はかかります。これだけあれば十分整いますね。
私はサリナさんとマリナさんにお茶の用意をするようにお願いして、ギルバートと外へと出ていきます。
小屋の外に出ますと、マックスさんとハーベイさんが立派な馬車に驚いて棒立ちになっています。お二人なら見たことがあるでしょうね、馬車に入っている紋章を。
そう、あれこそがウィルソン公爵家の紋章です。
いよいよお父様たちとの対面です。
私は思わず緊張してしまいます。はたしてこの再会、うまく乗り切れるのでしょうか。
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