ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊

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第136話 忘れ去られたイベント

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 イベント『精霊に愛されし少女』……。

 これが本来起きるのは二年生の夏休みです。場所はいわずもがな、このウィルソン公爵領内ですね。
 このウィルソン公爵領には、国や領地の境となっている森が広まっています。事件はここで起きるのです。

 ゲーム内のイベントでは、確かアンドリュー殿下の提案でウィルソン公爵領の保養地、つまり、私たちが農園をしている近くにやって来ることになるんです。
 ええ、去年はどういうわけかアマリス様とルーチェがやって来ましたけれどね。イベントが狂ったせいで、ここまで狂っていたんですね。
 それで、本来はどのような話かと申しますと、アンドリュー殿下の誘いで、アマリス様、主人公のワイルズ、それと狙ったヒロインと好感度一位のヒロインでやって来ることになるんです。
 アマリス様が狙ったヒロインで好感度一位なら、なんと三人になってしまうんですね。
 重要なイベントですが、その分難易度も高く、パーティー構成によっては難易度が変化するという、ゲーム屈指の苦労ポイントです。

 このイベントの依頼人が、ノームと話のできるマリナさんなんですよ。
 お父さんが行方不明だから一緒に探して下さいという、実に健気な話ですね。
 それで引き受けますと、イベントが進行します。はい、実はスルー可能なんですよ、このイベント。
 でも、苦労してクリアした分、ステータスの大幅上昇は狙えます。ヒロインとの好感度は上がりますし、精霊と契約することも可能になります。スルーは縛りプレイ用のネタですね。

(ああ、このイベントを思い出したおかげで、私やアマリス様が精霊を見られる理由がよく分かりましたよ。そりゃ、攻略対象のヒロインですものね……)

 私は机に突っ伏して泣きたくなってきました。
 なんでこんな重要なイベントを忘れていたのかということを。
 それに、このイベントを起こせば、カリナさんの夫であるマサさんとマリナさんの正体も同時に分かります。まぁ、ここまで言えば、たいていの人は想像がつくでしょうね。

 さて、ここまで思い出せば、私はずいぶんと悩んでしまいます。
 時期的には今は学園の前期の真っ只中ですからね。もうちょっと待っていても大丈夫だとは思いますが、こういうのは早い方がいいでしょうし、さてどうしたものでしょうか。
 なんでこんな中途半端な時期に思い出したのでしょうね。私ってばやっぱりダメダメですね……。

「はあ……」

 私が落ち込んでいますと、扉が叩かれます。

「あの、レチェ様。公爵様たちがお呼びです」

 誰かと思えば、カリナさんですね。どうやら話が終わったので、私を呼びに来たようです。
 そうですね。視察の真っ最中ですから、このまま放っておくわけにも参りません。私は体を起こして一階の事務所に向かうことにしました。

 戻れば当然お説教から始まります。
 お父様たちを目の前にして逃げたんですもの、これは当然と言えますね。
 ひとまずはしっかりと反省の弁を口にしておきます。形でも謝罪をしておけば、お父様たちは一応満足するでしょうからね。
 なんとかお説教タイムが終わりましたが、これで解放されるわけではありませんでした。

「レイチェル、さっきはどうしたのかしら」

 お母様が、先程の私の行動を気にしているようでした。そうなりますよね。

「いえ、ちょっと……」

 とても本当のことを言えるわけがありません。私が前世で知っているゲームのイベントのことを思い出したなんて。
 ですけれど、気になることですのでお話をしておくことにしましょう。

「なにゆえ、そんな場所を捜索するのだ?」

 お父様が当然尋ねてきますよね。
 指定した場所は何かあるというわけではありませんからね。ただの森の中ですもの。
 ところがですね、これには根拠があるんです。
 カリナさんたちは無くなった夫のことを見たわけではありません。カリナさんの夫が逃がした仲間の証言から、死んだと勝手に結論付けられただけなんですからね。これは裏が取れています。
 そこで私は、アンドリュー殿下を指揮官として捜索隊を出してもらい、そこにマリナさんとノームの一体を同行させてほしいと提案したのです。
 お父様はもちろんですが、お母様もリキシルおじ様も首を捻っています。
 亡くなったとされる時から、もう十か月は経ちますからね。しかも、マリナさんという子どもまで連れていくのですから、当然そういう反応になるんですよ。
 ですが、アンドリュー殿下とマリナさんという二人は必須だと考えられます。こればかりは譲れません。
 いろいろ考えた末、お父様は了承して下さいました。
 誰にしてもわけの分からない話と思われる提案ですが、聞き入れてもらえたようで安心します。

 さて、話も終わりましたし、私は事務仕事に取り掛かりましょう。
 挨拶をして立ち上がろうとした時でした。

「レイチェルよ」

「なんでしょうか、お父様」

「先程の話、お前も同行するように。言い出したのはお前だ。その場所をよく知っているのだろう?」

「え?」

 なんということでしょうか。
 全部アンドリュー殿下たちに丸投げできると思いましたのに、お父様から私に対して命令が下されました。
 えっと、どうしてこういうことになるのでしょうかね。
 すべての話が終わって出ていかれるお父様たちを、私は引きつった表情で見送ることしかできませんでした。
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