ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊

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第137話 王子の決断

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 やあ、久しぶりだな。
 私はアンドリュー。このウィズタリア王国の王子だ。
 本日は、領地の視察から戻ってきたウィルソン公爵と会うことになっている。
 領地に赴かれたということは、おそらくレイチェルとも会ってきているのだろう。どのような話が聞けるのか、私はとても落ち着いてはいられなかった。

「お兄様、落ち着いて下さい」

「ああ、すまないな。だが、どうしても落ち着かなくてな……」

 妹のアマリスに怒られてしまった。
 だが、レイチェルの話が聞けるとあって、どうして落ち着いていられようか。
 確かに、今の婚約者はレイチェルの妹のルーチェだ。だが、やはり私はレイチェルのことが諦めきれないようだよ。

 しばらくすると、部屋の外が騒がしくなる。どうやらウィルソン公爵が到着したようだね。
 私たちは王族ゆえ、座ったまま彼を迎え入れる。

「アンドリュー殿下、アマリス王女殿下に申し上げます」

「申せ」

「ウィルソン公爵、並びに公爵夫人をお連れしました」

「分かった、通せ」

「はっ!」

 予想通りだった。

「アンドリュー殿下にご挨拶申し上げます」

「堅苦しい挨拶は抜きで構わない。早速話を始めてくれ」

 レイチェルの話だと確信している私は、面倒なものをすべて飛ばして本題に入ってもらうことにした。
 露骨なまでの言動に、隣でアマリスから痛い視線を浴びせられてしまっているよ。まったく、我が妹ながら勘の良すぎるというものだ。

「承知致しました。アンドリュー殿下は、私どもが領地の視察を行ったことはご存じでいらっしゃいますよね?」

「うむ。アマリスを通してルーチェから聞いている」

 公爵の問い掛けに、私は素直に答える。
 実際、アマリスとルーチェはかなり仲が良い。そのせいで、お互いの間の秘密なども二人の間では駄々洩れなのだ。関係者以外に広めていないので咎めていないが、正直言ってやめてもらいたいことではある。
 だが、こういう感じで役に立つこともあるのでな。なかなかやめさせられないというものだ。

 最初の間は公爵領についてのあれこれだったのだが、話もある程度続いたところで、公爵の顔色が変わったのだ。

「実は、レイチェルと会った時に、このような頼みごとをされたのです」

「頼みごと?」

 思わぬ単語に、私はぴくりと反応する。

「実は、公爵領のとある場所を調査してもらいたいとのことでして、その調査にアンドリュー殿下とアマリス王女にご参加いただきたいのです」

「私はいいとして、なぜアマリスまで」

「レイチェルが言うことですので、私には分かりません。ただ、レイチェルは絶対に殿下には来てほしいと言われました」

「ふむ……」

 正直得体の知れない以来だが、レイチェルが必死に頼むのだ、きっと重要なことなのだろう。

「分かった、引き受けよう」

「ありがとうございます、殿下」

 私が了承の返事をすると、公爵はこれでもかというくらいに頭を必死に下げてきていた。
 レイチェルからの依頼ということで引き受けはしたのだが、ひとまずは内容を聞いてみないといけない。
 ところが、公爵からは意外なことに、詳細な情報が出てこなかった。

「レイチェルはあまり話さなかったのか」

「はい、思い詰めたような顔をしていましたのでね。ですが、必ず調査には同行するようにと言い聞かせておきましたので、詳細は本人からお聞きになるといいでしょう」

「分かった。そうさせてもらおう」

 なんにしても、レイチェルと再び接触できる機会だ。内容は分からなくても利用させてもらおう。

「ああ、そうです。もうひとつ大事なことを忘れておりました」

「うん、なんだ?」

「ワイルズという学生はご在学でしょうか」

「ああ、私の側近になりたがっている平民の男子学生だが、それがどうかしたのかな?」

 質問には答えたので、どうしてそんなことを聞いてきたのか質問を返させてもらった。
 公爵は最初返答に困っていたが、改めて聞いてみると、レイチェルの口から出てきたらしい。
 いや待て、なぜ一度も会ったことのない奴の名前を知っているのだ?
 私は、妙な焦りを感じてしまった。

「ワイルズ様でしたら、私がお会いした時に名前をお伝えしております。お兄様に付きまとっている平民だとも紹介しております」

 お前だったか、アマリス。
 まったく、頭が痛くなってくるではないか。

「それで、いつくらいに向かえばいいのだろうか」

「できれば早く、とのことです。なんだか焦ったような感じを受けましたのでね」

「分かった。数日中には出発できるように調査団を組織しよう」

「ありがとうございます」

 話が終わると、公爵たちは私の部屋から出ていった。
 完全に二人が離れたと感じた瞬間、私は思わず大きなため息をついていた。

「……アマリス、出られそうか?」

「はい。事情を説明すれば試験は調整してもらえると思いますから、大丈夫だと思います」

「そうか……。まったく、レイチェルは何を考えているのだ。ろくに情報も話さずに、私たちを呼び寄せるなど」

「確かに、お姉様らしくありませんね。ですが、なんでしょうか、行かなくてはいけない気がします」

 アマリスの態度を見て、私ははっとする。
 何かと勘がいいアマリスがこう感じるのだ。ならば、これは必ずやらねばならぬことだと確信する。

「よし、調査とはいってもあまり目立つのもよくないだろう。すぐにでも行動を起こそうではないか」

「はい、お兄様」

 私たちはレイチェルからの依頼を遂行するための準備をすぐさま始めた。
 待っていてくれ、レイチェル。必ずや、華麗に君からの依頼を成し遂げてみせようではないか。
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