ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊

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第149話 家族の絆、仲間の絆

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 気を取り直して、私たちは農園へと移動してきます。
 キララもやっと戻ってこれた農園に嬉しそうにしていますよ。

「ブフェーッ!!」

 農園に着くなり、キララが突然大声で鳴き始めます。さすがにびっくりしましたけれど、これは今戻ったということを知らせているのでしょう。おそらく、私たちのやっていることを見て覚えたんですね。ラッシュバードって頭悪いって言われてませんでしたっけかね?
 まあ、それはさておきまして、キララの鳴き声に気が付いて、ギルバートとサリナさん、それとキサラさんの三人がぞろぞろとやって来ました。

「レチェ様」

 ギルバートとキサラさんがこうあいさつする中、サリナさんだけが違う反応をしていました。

「お、お父……さん?」

 そう、私たちと一緒に現れたマサさんに反応しているんです。

「ああ、そうだよ、サリナ。お父さんだよ」

「お父さーーーんっ!」

 サリナさんが、マサさんに飛びついています。一年近く会えなかったですからね。感動の再会ですよ。
 ギルバートは仕事に戻ってもらい、キサラさんにはラッシュバードを任せて、私たちは小屋へと入っていきます。ひとまずサリナさんにも事情を説明しませんとね。

「……というわけなんです。マサさんは死んだのではなく、異常事態に対処するために精霊界に移動されていたのですよ」

「そうだったんですね。お父さんは私たちを守るために、ずっと戦っていたんですね」

 私が説明しますと、サリナさんもすぐさま事情を理解して下さったみたいです。純粋なのはいいのですけれど、悪いのに引っかからなければいいですよね。

「それでなんだけどね。マリナが精霊を見たり触れたりできるというのは、どうも私の力を強く受け継いでいるからみたいなんだ」

 マサさんの言葉に、サリナさんが首をこてんと傾げてしまいます。
 普通はそうなるでしょうね。私だって、最初は理解しがたい話でしたよ。

「私は、精霊王様の側近である精霊の護衛騎士なんだ。いろんな事故が重なって精霊界を離れていたんだが、さすがに去年に発生したひずみを放っておくことはできなくてね。帰れなくなっては心配をかけさせてしまうだろうということで、冒険者を同行させて私が消えたことを確認させて、死んだことにしてもらったんだ」

 行方不明では希望を持たせてしまいますが、死んだことにすればすっぱりと諦めがつくだろうと、そういう気遣いのようですね。
 それが発生したところで、ちょうど私の農園の手伝いの話を耳にして、それで従業員に名乗りを上げたんですよね。
 マサさんを失った悲しみを紛らわせるために。

 ですが、それが結果として余計に面倒なことになってしまいました。
 発生したひずみを放置した上で、魔王の器であるウィルを助けてしまったわけですが、どうも私の魔法を見たウィルくんを通じて、ひずみに影響を与えていたようです。なんですか、風が吹けば桶屋が儲かるみたいな現象は……。

 とまあ、いろいろありましたが、こうやって家族が一緒にいるというのはいいものですね。

「ねえ、お父さん」

「なんだい、マリナ」

「私ってどんな魔法が使えたりするの?」

 マリナさんは自分の能力を気にしているようですね。
 精霊王様の手によって能力が開花したのはいいですけれど、その能力はよく分かっていません。それに、マリナさんは人間であり精霊でもあるという複雑な立場です。

「そうだなぁ、精霊の騎士である私の能力を受け継いでいるなら、基本的には攻防両方の魔法が使えるはずだよ。ただ、詳しくは私にも分からない。そっちのノームたちに聞いた方が早いんじゃないのかな」

「ノーム……」

『うん、任せてよ。立派な精霊に育ってみせるから』

 マリナさんがノームを見ますと、十分なやる気を見せているようですね。

「私は、どうなのかな」

「サリナは無理だな。でも、魔法は使えると思うよ」

「本当?!」

 喜ぶサリナさんは、じっと私を見てきます。
 あれ、これってまさか……。

「レチェ様、魔法を教えて下さい!」

 やっぱりそうなりますか。
 みんなの前で魔法をバンバン使いましたからね。サリナさんたちにとって、私が一番身近な魔法の先生になるのでしょうね。
 そうしたら、マリナさんも一緒に教えてもらいと言ってきました。
 こうなったら一人みるのも二人見るのも一緒だと、私は腹を括ることしました。

「分かりました。食堂の業務に影響しない範囲でなら、教えて差し上げてもいいですよ」

「やったぁ!」

 私が返しますと、二人は両手を合わせて喜んでいるようです。
 その様子を見たマサさんですが、突然頭を下げてきます。

「私は精霊界から出られなくなるだろう。私の代わりにこの子たちのことをよろしくお願いします」

 子を思う親というのは、世界や種族が変わっても変わらないんですね。前世の両親もこちらの世界の私の両親も、私のことはよく気にかけてくれていましたからね。
 その気持ちは痛いほど理解させて頂きました。

「分かりました。サリナさん、マリナさんはもちろんですが、妻であるカリナさんのことも私たちにお任せ下さい」

 私はドンと胸を叩いて、マサさんに答えておきます。
 なんといっても私は、農園と食堂の経営者です。雇い主が従業員を守るのは当たり前ですからね。

 そんなわけでして、もう一日、家族でご一緒に過ごして頂きましょうか。
 翌日にお迎えに来ることを約束して、私は一人で食堂へと戻っていったのでした。
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