ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊

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第173話 納品、そして……

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 依頼を受けてから一週間、ようやく迎えました提出の日。
 私は依頼の品を詰め込んだ魔法かばんを提げて、城へと向かいます。
 ルーチェは私と同じように余裕の表情を見せていますが、お父様とお母様はとても心配そうにしています。
 大丈夫ですから、お父様、お母様。娘を信じて下さいませ。

 私たちは、謁見の間へと通されます。
 正面には国王陛下たちが座られています。外出禁止令の出てしまったアマリス様は、私のことを心配そうに見ていらっしゃいます。

「さて、レイチェルよ」

「はい、国王陛下」

 呼び掛けについ反応してしまいます。

「一週間前に注文しておいた品はできたのかな?」

「はい、こちらに」

 私は肩から提げている魔法かばんを取り出して正面に突き出します。私のものと分かるように、かばんにラッシュバードの刺繍が大きく入っています。
 私の返事を聞きますと、国王陛下は合図を出して、謁見の間にテーブルを運び込ませています。どうやら、そこに納品する魔法かばんや水着を出せということなのでしょうね。

「どちらからお出ししましょうか」

「魔法かばんからだな。そこにいるメーガスの前に並べていってくれ」

 メーガス?
 誰かと思いましたが、テーブルの前に立っているおじいちゃんがそうみたいですね。実に分かりやすいくらい魔法使いという格好をされていますね。
 私は陛下の言葉を承諾して、魔法かばんから納品用の魔法かばんを取り出します。
 茶色い革のかばんですけれど、私のものだということを示すラッシュバードの刺繍が入っています。まあ、分かりにくい程度ですから、きっと気付かれないでしょうね。
 ひとつひとつ、私は丁寧に並べていきます。長いテーブルに三列に並べいきます。当然ながら、五十では最後にひとつ欠けができますけれどね。

「横十七個が三列で、ひとつ不足。合計五十個の魔法かばん、確かに並べました。どうぞ、ご確認ください」

 私の言葉を受けて、国王陛下がメーガスさんに確認を指示されます。
 メーガスさんは魔法を使うために詠唱を始めています。詠唱破棄というのはできないようですね。そのくらいに大規模な魔法なのでしょうか。

「マ・ルイ・アプ!」

 知らない魔法ですね。しかも、マという最上級の魔法です。
 その魔法が発動された瞬間、とんでもない光景が目の前に展開されました。

「な、なんですか、これは!」

 思わず声に出てしまいましたね。
 なにせ、かばんの上になんか妙な文字が浮かんでるんですから。読めますけど、なんなんですか、これは。

「久しぶりに見させてもらったな。メーガスの一斉鑑定を」

「い、一斉鑑定?」

 とんでもない単語が出てきたので、私はぎょっとしています。
 つまり、ここに並ぶ五十の魔法かばんをすべて一度で鑑定したということですか。さすがは王宮抱えの方ですね。とんでもないことをさらっとやってのけます。

「どれ、ちょっと見させてもらおう」

 国王陛下と王妃殿下が椅子から立ち上がり、私の作った魔法かばんを覗きにいらっしゃいます。
 ですが、かばんそのものをご覧になるわけではなく、その上に浮かぶ鑑定結果を眺めていらっしゃるようですね。

「ふむふむ、なるほど。すべて馬車二台分の容量を持つかばんか。だが、途中から少しずつ容量が増えているようだな」

 全部わかるのですね。
 実はその通りです。私の魔法の熟練度が上がったせいか、最初は二台分きっかりだったのが、最後あたりだと二台分ちょっとまで増えていました。

「耐久性も申し分なさそうだし、魔法かばん五十、確かに受け取った」

「ありがとう存じます」

 ひとまず魔法かばんはクリアです。
 続けては水着ですね。先に男性用を並べていきます。男性用は装備のことも考えて、腕も足も三分丈ほどの袖や股下があるようにしました。女性用は私たち用に作ったものと同じタイプのものです。
 こちらも同じようにメーガスさんの一斉鑑定を受けた上で、国王陛下や王妃殿下の評価を受けました。
 結果としては、すべて無事に受け取っていただくことができました。よかったです。

「まったく、この数を本当に一週間で仕上げてしまうとはな。ウィルソン公爵、お前の娘はとんでもない逸材だな」

「もったいないお言葉でございます」

「これで魔法学園に通っていないというのだから、困ったものだ。レイチェルよ」

「はい、国王陛下」

 お父様と話をされていたかと思いましたら、突然私に話が振られます。

「まったく、お前ほどの人物を自由にさせておくというのは、国としての損失が大きい。今からでも、王家お抱えの魔法使いにでもならないか?」

「えっ……?」

 国王陛下から、とんでもない言葉が出てきました。
 王家のお抱えの魔法使いといったら、普通ならばそれは名誉なことなのでしょう。
 ですが、私はこの話を受け入れるわけには参りません。

「いえ、国王陛下からのお言葉ではございますが、謹んでお断りさせていただきます」

「なにゆえだ?」

 私が断わりますと、国王陛下から理由を尋ねられます。そんなもの、分かり切ったことではないですか。

「今の私は、レイチェル・ウィルソンではなく、レチェ商会の商会長レチェなのです。農園に食堂と事業を手掛けているといいますのに、それを今さらながらに放棄できるわけがないのです」

 私は熱く理由を語り始めます。
 事業はこれからも拡大予定ですし、私の手以外に渡すなど、どうして考えらえるというのでしょうか。

「ですので、この場で宣言させていただきます」

 跪いた状態から立ち上がり、私は周りを見渡した後、国王陛下と向かい合います。
 そして、はっきりと宣言します。

「私は、公爵家から独立して、商人として生きていきます」
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