ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊

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第183話 卒業祝いのパーティー

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「さあ、参りますよ、お姉様」

 ルーチェに声をかけられています。
 そう、いよいよ本日、アンドリュー殿下の魔法学園卒業のお祝いパーティーの開催当日となったのです。
 私は、家族が用意して下さったドレスに身を包みまして、家族と一緒の馬車でお城へと向かいます。

 道中はルーチェがあれこれと話す中、私たちはものすごく押し黙った感じで城までやってきました。
 馬車を降りますと、きれいに着飾ったアマリス様が出迎えに来て下さいました。

「お姉様、ルーチェ、ようこそおいで下さいました。ウィルソン公爵夫妻も」

 私とルーチェに挨拶をしていらっしゃいます。ですが、さすがにお父様とお母様がおまけ扱いはどうかと思いますよ、アマリス様。

「アマリス様、わざわざお出迎えありがとうございます。ルーチェから聞きましたよ。私のドレス選びに一役買われたようですね」

「ええ。お姉様にはきれいでいていただかないと困りますから。ルーチェと学園で顔を合わせるたびに、デザインについてお話しておりました」

 アマリス様がこう証言なさいますと、ルーチェは照れたようにもじもじとしています。まったく、可愛い妹たちですね。
 私はそんな話を聞かされますと、つい二人の頭を撫でてしまいます。この辺りも昔からの癖でなかなか抜けませんね。困ったものです。
 妹たちの思いやりがたっぷり詰まったドレスをまとって、私は家族とアマリス様と一緒にパーティー会場へと向かいます。

 私たちの到着が遅かったというわけではないはずなのですが、パーティー会場にはすでにたくさんの貴族があふれていました。
 と思いましたら、予想外な人物から声をかけられます。

「おっ、レイチェルじゃん。お久しぶり」

 この場でこんな軽い声で私に声をかけてくるのは一人しかいません。

「ワイルズ様、どうしてここにいらっしゃるのですか」

 私は嫌な顔を見せずにワイルズに質問をぶつけます。

「そりゃまあ、俺は殿下の友だちだからな」

「……アマリス様」

「はい、事実ではありません」

 ワイルズの言葉を確かめるために、私はアマリス様に問いかけます。予想通りの答えが返ってきました。
 まったく、特例で入った平民でありながら、よくもここまで振る舞えるものですね。とはいえ、私には彼を批判すだけの資格はありませんけれど。

「友人だと仰られるのでしたら……」

 私はワイルズにすっと近づいていきます。ワイルズはまったく怯む様子もなく、私にずっと視線を向けています。

「せめて、殿下を支えられるだけの人材となりなさい。邪魔をするようではいけません。殿下の右腕をお考えでしたら、考え方から立ち振る舞いまで、貴族の中に入ることを覚悟なさい」

 私が強く言いますが、ワイルズは頭の後ろで手に腕を組んだまま笑っています。どこから来るんですか、この余裕は。

「言われなくてもやってやるよ。殿下とは一緒にいるといろいろ楽しいしな」

 まったく、白い歯を見せて笑っていますよ、この方。平民にしては、いくらなんでも余裕すぎませんかね。
 相手にするのも疲れました。
 私はワイルズと適当に話を打ち切りまして、アマリス様と一度お別れします。いつまでもこちらにいらっしゃるわけには参りませんからね、王族ですから。
 アンドリュー殿下と友人だと言い張るワイルズに託したのは心配ですが、近くにいたのが彼ですから仕方ありませんね。

 アマリス様とお別れしてからしばらくしますと、いよいよパーティーが始まります。
 殿下とお会いするのは、夏休み中のお呼び出しの時以来ですね。婚約者も解消しまして緊張する必要はないはずなのですが、私はどういうわけかドキドキとしてしまいます。
 ……私の中にも、どこかアンドリュー殿下に対しての未練があるのかもしれませんね。
 ですが、魔法学園に入れなかったことで、私はすっぱりと縁を切る覚悟をしたはずです。今さらながらに、こんな気持ちを抱くわけがないのです。
 アンドリュー殿下の婚約者は、私の妹のルーチェなのですから。

 会場の前方に、王族が揃って姿を見せます。
 国王陛下、王妃殿下、アンドリュー殿下、アマリス様。
 いつ見ても、王族の方々はとても絵になりますね。ああ、前世のスマホがあれば、ここで写真を撮りますのに……。なんでないんでしょうか。

 ……そうです。ないのなら作ってしまえばいいのですよ。
 魔法かばんを平然と作れる私の魔法なら、きっとカメラを作ることも可能ではないのでしょうか。
 私に、思わず野望が沸き立ちます。

「お姉様、姿勢が崩れています」

 ルーチェから小声で注意を受けてしまいました。
 いけませんね。今はパーティーの始まりの王族の挨拶の最中です。カーテシーを崩すわけには参りませんね。

「ありがとう、ルーチェ」

「どういたしまして」

 私はルーチェにお礼を言うと、崩れかかっていたカーテシーをきちんと整えます。
 学園の学生たちもいらしていますし、これって実質は卒業式ですわね。
 学園にも入れなかった私がこのような形で学園の式典に参加することになるとは……。
 ちょっとむず痒いような感覚がしましたが、この場に呼んでいただけたことに感謝しながら、アンドリュー殿下の挨拶を待つのでした。
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