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第188話 困った王子の大きな置き土産
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アンドリュー殿下と商業ギルドに赴いた翌日、食堂の隣では工事がもう始まっていました。
とはいいましても、別に両隣の土地を買ったわけではありません。そもそも食堂用に購入した土地は広かったのです。
いろんな理由があって、鳥小屋の拡張の際には別の土地を買いましたけれどね。
第一、広い場所がなければ、店頭販売なんてできるわけがないんですよ。
「あんまり大きな建物にはできそうにはないが、それでも十分だろう」
「もう工事が始まるなんて、いくらなんでも早すぎませんかね」
「それだけ、副マスターも気にかけていたということだろう。愛されているな、レイチェルは」
「え、ええ」
アンドリュー殿下がにっこりと微笑んできますが、私としては引いてしまいます。
私とアンドリュー殿下の間には、すでに何の関係もありませんからね。婚約者は妹のルーチェに渡したのです。距離を取って下さいませ。
「どうして、そんなに逃げようとするんだい、レイチェル」
距離を置こうとしても、アンドリュー殿下が私に迫ってきます。なんでこうも諦めが悪いんですか、この方は。
「やめて下さい。アマリス様がものすごい形相で睨んでいらっしゃいますよ」
「おっと。アマリスに怒られるのは勘弁だな」
私がアマリス様の名前を出しますと、アンドリュー殿下はやっと離れて下さいました。
まったく、こんなところを他の方に見られたらどうするのですか。婚約者を変更した後なのですから醜聞ですよ、こんなこと。
私の隣を離れようとしないアンドリュー殿下ですが、見かねたアマリス様によって、私から無理やり引き離されていました。ご迷惑をおかけします、アマリス様。
さて、食堂の状況ですけれど、商会の建物を建てるにあたって、オープンテラスの大部分は閉鎖となりました。
それと食堂の二階にある居住スペースからも出入りできるように、商会の二階へと通路が追加されます。
私の魔法を使えばすべてが一瞬で建つんですけれど、商会の建物自体はミサエラさんからのどうしてもという希望があり、キンソンの職人たちによって建設されています。その代わり、追加の難しい渡り廊下は私の魔法で建設してもいいと言われました。
建設が始まって二日目。許可が下りたことで早速渡り廊下を作ってみました。廊下は二階部分だけでして、一階部分は商会の建設によって削減されたオープンテラスにしました。
商会は三階建てで、一階が商業スペース、二階が居住スペースと事務室、三階が工房と資料室となる予定です。
「タ・ギア・ルド!」
はい、一瞬で渡り廊下の完成です。
「お姉様の魔法って、本当にすごすぎますわね」
私の魔法を目の当たりにして、アマリス様が手を合わせて感動していらっしゃいます。
無理もありませんよね。巨大な建造物を一緒んで建ててしまうのですから。大工たちの方を見てもみても、ぽかーんとした顔をしていらっしゃいます。立場がありませんものね。
ですが、私のところで仕事をするというのは、メリットもあります。
「うん、いつ食べてもここの飯はうめえ!」
「これがあるなら頑張れる」
「仕事だからといっても、これをただで食えるのはありがてえ」
そう、食堂で出している食事をただで食べられるんです。
私の魔法を見せたあとでも仕事をしてもらうには、やはりこのくらいの特典がありませんとね。
やはり、この街で暮らしていくからには、街の方々とは仲良くしておきませんといけませんね。
そうして、建設が始まってから四日後のことでした。
「殿下、お迎えに上がりました」
「もう来てしまったか。一週間はあっという間だったな」
はい、お城からの馬車が食堂の前に到着いたしました。はなはだしいほどの営業妨害ですよ。
アマリス様はお店を手伝って下さいましたのに、アンドリュー殿下ときたら、私にうざ絡みをしてくるだけでしたからね。ようやく帰って下さるのかと思いますとホッとします。
ですが、こうなったということは、ミシオさんたちともこれでお別れになるということです。今年の頭あたりから約十か月ほどの間、食堂で働いてくれていましたのに、お別れかと思うと寂しくなりますね。
「レイチェル様、とてもお世話になりました」
「料理に携わる者として、とても良い経験になりました。本当にありがとうございます」
「姉のこともよろしくお願い致します」
アマリス様と一緒に王都に戻られるミシオさん、ミサンさん、マミアさんから深々と頭を下げられてしまいました。
「いえ、私の方もみなさまには大変助けていただきました。こちらこそありがとうございます。王都に戻られても、料理に励まれてください」
「ありがとうございます」
私が言葉を返しますと、再び三人からお礼の言葉が出てきました。なんだか、照れてきてしまいますね。
「お兄様、そろそろ出発致しましょう。時間的に、お姉様の商売の邪魔になってしまいますわ」
ラニに乗ったアマリス様が殿下に声をかけられます。
「ああ、そうだな。これ以上の邪魔をしてしまっては、さらにレイチェルに邪険にされてしまう。さすがにこれ以上嫌われるのは勘弁だ」
はい、よく分かっておいでですね。
アマリス様に言われ、アンドリュー殿下はフォレにまたがります。
「それでは、レイチェル。私たちはこれで失礼するよ」
「はい。無事にお戻りくださいませ、アンドリュー殿下、アマリス様」
王族を送り出しますから、私はにこやかな笑顔を向けておきます。後ろに控えるイリスは無表情ですけれどね。
「お姉様。わたくしは、お姉様の成功を信じておりますわ」
「ありがとう存じます、アマリス様」
挨拶を終えますと、殿下たちは食堂の前から出発していきました。
まったく、最後に大きな借りを作られてしまいましたね。殿下ってば、建設の費用を全部持って下さいましたもの。
しっかりと殿下たちの隊列を見送った私は、建設の進む商会の建物を見上げたのでした。
とはいいましても、別に両隣の土地を買ったわけではありません。そもそも食堂用に購入した土地は広かったのです。
いろんな理由があって、鳥小屋の拡張の際には別の土地を買いましたけれどね。
第一、広い場所がなければ、店頭販売なんてできるわけがないんですよ。
「あんまり大きな建物にはできそうにはないが、それでも十分だろう」
「もう工事が始まるなんて、いくらなんでも早すぎませんかね」
「それだけ、副マスターも気にかけていたということだろう。愛されているな、レイチェルは」
「え、ええ」
アンドリュー殿下がにっこりと微笑んできますが、私としては引いてしまいます。
私とアンドリュー殿下の間には、すでに何の関係もありませんからね。婚約者は妹のルーチェに渡したのです。距離を取って下さいませ。
「どうして、そんなに逃げようとするんだい、レイチェル」
距離を置こうとしても、アンドリュー殿下が私に迫ってきます。なんでこうも諦めが悪いんですか、この方は。
「やめて下さい。アマリス様がものすごい形相で睨んでいらっしゃいますよ」
「おっと。アマリスに怒られるのは勘弁だな」
私がアマリス様の名前を出しますと、アンドリュー殿下はやっと離れて下さいました。
まったく、こんなところを他の方に見られたらどうするのですか。婚約者を変更した後なのですから醜聞ですよ、こんなこと。
私の隣を離れようとしないアンドリュー殿下ですが、見かねたアマリス様によって、私から無理やり引き離されていました。ご迷惑をおかけします、アマリス様。
さて、食堂の状況ですけれど、商会の建物を建てるにあたって、オープンテラスの大部分は閉鎖となりました。
それと食堂の二階にある居住スペースからも出入りできるように、商会の二階へと通路が追加されます。
私の魔法を使えばすべてが一瞬で建つんですけれど、商会の建物自体はミサエラさんからのどうしてもという希望があり、キンソンの職人たちによって建設されています。その代わり、追加の難しい渡り廊下は私の魔法で建設してもいいと言われました。
建設が始まって二日目。許可が下りたことで早速渡り廊下を作ってみました。廊下は二階部分だけでして、一階部分は商会の建設によって削減されたオープンテラスにしました。
商会は三階建てで、一階が商業スペース、二階が居住スペースと事務室、三階が工房と資料室となる予定です。
「タ・ギア・ルド!」
はい、一瞬で渡り廊下の完成です。
「お姉様の魔法って、本当にすごすぎますわね」
私の魔法を目の当たりにして、アマリス様が手を合わせて感動していらっしゃいます。
無理もありませんよね。巨大な建造物を一緒んで建ててしまうのですから。大工たちの方を見てもみても、ぽかーんとした顔をしていらっしゃいます。立場がありませんものね。
ですが、私のところで仕事をするというのは、メリットもあります。
「うん、いつ食べてもここの飯はうめえ!」
「これがあるなら頑張れる」
「仕事だからといっても、これをただで食えるのはありがてえ」
そう、食堂で出している食事をただで食べられるんです。
私の魔法を見せたあとでも仕事をしてもらうには、やはりこのくらいの特典がありませんとね。
やはり、この街で暮らしていくからには、街の方々とは仲良くしておきませんといけませんね。
そうして、建設が始まってから四日後のことでした。
「殿下、お迎えに上がりました」
「もう来てしまったか。一週間はあっという間だったな」
はい、お城からの馬車が食堂の前に到着いたしました。はなはだしいほどの営業妨害ですよ。
アマリス様はお店を手伝って下さいましたのに、アンドリュー殿下ときたら、私にうざ絡みをしてくるだけでしたからね。ようやく帰って下さるのかと思いますとホッとします。
ですが、こうなったということは、ミシオさんたちともこれでお別れになるということです。今年の頭あたりから約十か月ほどの間、食堂で働いてくれていましたのに、お別れかと思うと寂しくなりますね。
「レイチェル様、とてもお世話になりました」
「料理に携わる者として、とても良い経験になりました。本当にありがとうございます」
「姉のこともよろしくお願い致します」
アマリス様と一緒に王都に戻られるミシオさん、ミサンさん、マミアさんから深々と頭を下げられてしまいました。
「いえ、私の方もみなさまには大変助けていただきました。こちらこそありがとうございます。王都に戻られても、料理に励まれてください」
「ありがとうございます」
私が言葉を返しますと、再び三人からお礼の言葉が出てきました。なんだか、照れてきてしまいますね。
「お兄様、そろそろ出発致しましょう。時間的に、お姉様の商売の邪魔になってしまいますわ」
ラニに乗ったアマリス様が殿下に声をかけられます。
「ああ、そうだな。これ以上の邪魔をしてしまっては、さらにレイチェルに邪険にされてしまう。さすがにこれ以上嫌われるのは勘弁だ」
はい、よく分かっておいでですね。
アマリス様に言われ、アンドリュー殿下はフォレにまたがります。
「それでは、レイチェル。私たちはこれで失礼するよ」
「はい。無事にお戻りくださいませ、アンドリュー殿下、アマリス様」
王族を送り出しますから、私はにこやかな笑顔を向けておきます。後ろに控えるイリスは無表情ですけれどね。
「お姉様。わたくしは、お姉様の成功を信じておりますわ」
「ありがとう存じます、アマリス様」
挨拶を終えますと、殿下たちは食堂の前から出発していきました。
まったく、最後に大きな借りを作られてしまいましたね。殿下ってば、建設の費用を全部持って下さいましたもの。
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