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第197話 王都のレストラン
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卒業パーティーと婚約式が終わりまして、私はキンソンに戻れる……はずでした。
婚約式の翌々日のお昼前ですが、お城に移り住んだはずのルーチェが尋ねてきました。アンドリュー殿下とアマリス様を伴いまして。
「お姉様、お出かけしましょう」
「え?」
ルーチェからのお誘いで、私は思わず固まりました。どこへ向かおうというのでしょうか。
「レイチェル。君のところからわざわざ料理人を引き取っただろう。代わりに新しい人物を送り込んだが」
「はい、そのようなことがございましたね。それがどうかなさいましたでしょうか」
「はい、お姉様。その方たちを厨房責任者としたレストランを開業させていただいているのです。お姉様のところで学んだあらゆる技術を用いたレストランをです」
アンドリュー殿下から切り出された話に、アマリス様が追加で説明をなさって下さっています。なるほどミシオさんたちがレストランを開かれたのですね。それはおめでたいことです。
「そこで、考案者であるレイチェルに確認をしてもらいたいのだ。忙しそうでなかなかタイミングがなかったのでな、今がちょうどいいというわけなのだよ。そのために、ご両親に引き留めてもらっていたのだ」
「そういうことでしたか。それでしたら、訪ねさせて頂きましょう」
「もちろん、レイチェルのところで新たにお世話になることになるルリ嬢も同席する。ルート的に、先にウィルソン公爵邸を訪ねさせてもらったというわけだ」
そういうわけでしたか。
服はお出かけ用ではないので、着替えのために少しお待ちいただきましょう。
そうして、私たちは王都に開業したレストランへと向かっていったのです。
そのレストランは、平民の方々にも味わっていだたこうということで、区域の境目に建設されていました。貴族街と平民街、両方から入ることはできますが、通り抜けはできません。
私たちがレストランに入りますと、入口にはミシオさんミサンさんミアマさんの三人がそろって待ち構えていました。厨房はいいのですか。
「本日はようこそお越し下さいました、レイチェル様」
なんということでしょうか。王族二人と殿下の婚約者であるルーチェがいるといいますのに、三人そろって私に頭を下げてきました。こんなことが許されるのでしょうか。
ですが、殿下方は特に咎めるような様子はありません。なるほど、了承済みということですか。
「では、頼んでおいたものを用意してくれ。私たちは席で待たせてもらうよ」
「はっ、かしこまりました」
アンドリュー殿下の声で、お三方はそろって厨房へと移動していきます。他に来客のある感じがありませんので、おそらく貸し切りにしているのでしょう。
私たちは席に移動しまして、料理が運ばれてくるのをじっくりと待ちます。
しかし、庶民向けの料理が大半を占める私の料理が、どうやったら貴族向けになるのでしょうか。期待と不安たっぷりに、私は料理が運ばれてくるのを待つことにします。
貴族向けの料理は、こういう場だとコース料理になります。最初は前菜から始まり、スープ、メイン、デザートで運ばれてくることになります。
最初のサラダはまあ、何の変哲もないものですね。スープもよくあるものです。ここまでは特にいうことはありません。
となると、メインディッシュが目玉といったところでしょう。どんなものが出てきますか、見極めてみますか。
そうやって運ばれてきたのは、シチューと唐揚げにパンでした。
「唐揚げ、こちらでも作れるようになったのですね」
「ああ、レイチェルが教えてくれた油の製造法があるからな。さすがに量産ができるわけではないが、どうにかこのレストランで消費するくらいは生産できるめどがついた」
「古くなった油の処理は、どうなさっていますか?」
「魔法で冷やし固めて、肥料として商業ギルドに卸している。これも、レイチェルからの入れ知恵のおかげだ」
「そうでございますか。きちんとなされているようでよかったです」
私はほっとしていた。
話もひと通り終わりますと、実食ですね。
うん、からっとした衣とジューシーなお肉、この組み合わせはたまりませんね。
シチューも私が作ったソースをベースにしたものでしょうね。おそらくはリキシルおじ様のところから伝わったのでしょう。王家が相手であるのなら、私も止めることはできません。しょうがないことです。
「ええ、実においしかったです。きちんとものにされているようで、私はとても安心しました」
「そうか。それで、最後にもうひとつあるんだ。デザートを持ってきてくれ」
なんでしょうかね。アンドリュー殿下の合図で、デザートが早くも運ばれてきました。
何かと思えば、プリンではないですか。
そうです。ラッシュバードの卵の活用方法として、プリンは伝えていましたね。ラッシュバードたちは意外と頭がよくて、子の生まれない無精卵を私たちによく渡してくれますからね。王都にもラッシュバードはいますから、プリンが作れるくらいの卵はありますね。
しっかりと味わい終わりまして、私はにこやかに笑ってみせます。
「まったく、きちんとものにできているようで、大満足ですよ」
私の笑顔を見て、アマリス様とルーチェはやっと安心したようでした。
さすがは料理人です。私よりもしっかりとした料理が作れています。このままでは負けてしまいそうですよ。
最後に私はミシオさんたちをしっかりと労いまして、レストランを後にします。
ルリ様には明日の朝、お迎えに行くということを約束して、この日は解散となりました。
婚約式の翌々日のお昼前ですが、お城に移り住んだはずのルーチェが尋ねてきました。アンドリュー殿下とアマリス様を伴いまして。
「お姉様、お出かけしましょう」
「え?」
ルーチェからのお誘いで、私は思わず固まりました。どこへ向かおうというのでしょうか。
「レイチェル。君のところからわざわざ料理人を引き取っただろう。代わりに新しい人物を送り込んだが」
「はい、そのようなことがございましたね。それがどうかなさいましたでしょうか」
「はい、お姉様。その方たちを厨房責任者としたレストランを開業させていただいているのです。お姉様のところで学んだあらゆる技術を用いたレストランをです」
アンドリュー殿下から切り出された話に、アマリス様が追加で説明をなさって下さっています。なるほどミシオさんたちがレストランを開かれたのですね。それはおめでたいことです。
「そこで、考案者であるレイチェルに確認をしてもらいたいのだ。忙しそうでなかなかタイミングがなかったのでな、今がちょうどいいというわけなのだよ。そのために、ご両親に引き留めてもらっていたのだ」
「そういうことでしたか。それでしたら、訪ねさせて頂きましょう」
「もちろん、レイチェルのところで新たにお世話になることになるルリ嬢も同席する。ルート的に、先にウィルソン公爵邸を訪ねさせてもらったというわけだ」
そういうわけでしたか。
服はお出かけ用ではないので、着替えのために少しお待ちいただきましょう。
そうして、私たちは王都に開業したレストランへと向かっていったのです。
そのレストランは、平民の方々にも味わっていだたこうということで、区域の境目に建設されていました。貴族街と平民街、両方から入ることはできますが、通り抜けはできません。
私たちがレストランに入りますと、入口にはミシオさんミサンさんミアマさんの三人がそろって待ち構えていました。厨房はいいのですか。
「本日はようこそお越し下さいました、レイチェル様」
なんということでしょうか。王族二人と殿下の婚約者であるルーチェがいるといいますのに、三人そろって私に頭を下げてきました。こんなことが許されるのでしょうか。
ですが、殿下方は特に咎めるような様子はありません。なるほど、了承済みということですか。
「では、頼んでおいたものを用意してくれ。私たちは席で待たせてもらうよ」
「はっ、かしこまりました」
アンドリュー殿下の声で、お三方はそろって厨房へと移動していきます。他に来客のある感じがありませんので、おそらく貸し切りにしているのでしょう。
私たちは席に移動しまして、料理が運ばれてくるのをじっくりと待ちます。
しかし、庶民向けの料理が大半を占める私の料理が、どうやったら貴族向けになるのでしょうか。期待と不安たっぷりに、私は料理が運ばれてくるのを待つことにします。
貴族向けの料理は、こういう場だとコース料理になります。最初は前菜から始まり、スープ、メイン、デザートで運ばれてくることになります。
最初のサラダはまあ、何の変哲もないものですね。スープもよくあるものです。ここまでは特にいうことはありません。
となると、メインディッシュが目玉といったところでしょう。どんなものが出てきますか、見極めてみますか。
そうやって運ばれてきたのは、シチューと唐揚げにパンでした。
「唐揚げ、こちらでも作れるようになったのですね」
「ああ、レイチェルが教えてくれた油の製造法があるからな。さすがに量産ができるわけではないが、どうにかこのレストランで消費するくらいは生産できるめどがついた」
「古くなった油の処理は、どうなさっていますか?」
「魔法で冷やし固めて、肥料として商業ギルドに卸している。これも、レイチェルからの入れ知恵のおかげだ」
「そうでございますか。きちんとなされているようでよかったです」
私はほっとしていた。
話もひと通り終わりますと、実食ですね。
うん、からっとした衣とジューシーなお肉、この組み合わせはたまりませんね。
シチューも私が作ったソースをベースにしたものでしょうね。おそらくはリキシルおじ様のところから伝わったのでしょう。王家が相手であるのなら、私も止めることはできません。しょうがないことです。
「ええ、実においしかったです。きちんとものにされているようで、私はとても安心しました」
「そうか。それで、最後にもうひとつあるんだ。デザートを持ってきてくれ」
なんでしょうかね。アンドリュー殿下の合図で、デザートが早くも運ばれてきました。
何かと思えば、プリンではないですか。
そうです。ラッシュバードの卵の活用方法として、プリンは伝えていましたね。ラッシュバードたちは意外と頭がよくて、子の生まれない無精卵を私たちによく渡してくれますからね。王都にもラッシュバードはいますから、プリンが作れるくらいの卵はありますね。
しっかりと味わい終わりまして、私はにこやかに笑ってみせます。
「まったく、きちんとものにできているようで、大満足ですよ」
私の笑顔を見て、アマリス様とルーチェはやっと安心したようでした。
さすがは料理人です。私よりもしっかりとした料理が作れています。このままでは負けてしまいそうですよ。
最後に私はミシオさんたちをしっかりと労いまして、レストランを後にします。
ルリ様には明日の朝、お迎えに行くということを約束して、この日は解散となりました。
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