ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊

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第1話 世紀の大失態

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 突然の話ですが、私、大失敗をしてしまいました。

 私の手には、一枚の通知書が握られています。
 そこにはこう書いてあるのです。

『レイチェル・ウィルソン公爵令嬢。貴殿は此度の入学試験で不合格となった旨を伝える』

 はい、私は王国随一の魔法学園に入学することができませんでした。
 え、私ってヒロインの一人ですよね?
 なんで、学園に入学できないなんてことがあるのですか。
 通知書を握りしめて、私はその場に崩れ落ちてしまいました。

 ここは、ウィズタリア王国。
 私は王国に存在する公爵家のひとつであるウィルソン公爵家の長女で、レイチェルと申します。
 勘のいい方ならもうお分かりかと思います。
 ここは、恋愛シミュレーションゲームの世界で、私はその攻略対象であるヒロインの一人です。
 そこ、ギャルゲーとか言わないで下さいませ。
 私は、来年から通う予定である魔法学園の入学試験を受けたのですが、結果は先程の通り不合格でした。
 ああ、ヒロインの一人だからって怠けていたのが悪かったですね。試験が思ったよりも難しくて、この通りですよ。泣きたい。
 あっ、丁寧語なのは公爵令嬢ですから当然ですわよね。そう、私は公爵令嬢なのですよ、おほほほ……、はあ……。

「お姉様、どうなさったのですか?」

 部屋の扉がノックされて、可愛らしい少女が一人、部屋の中に入ってきました。
 彼女はルーチェ・ウィルソン。私の可愛らしいひとつ下の妹です。ちなみに、彼女も攻略対象のヒロインですわよ。

「ルーチェ。急に入ってくるなんてどういうつもりかしら」

「ごめんなさい、お姉様。悲鳴が聞こえたものでつい……」

 私が問い質すと、ルーチェは言い訳をしながら縮こまってしまいました。
 ああ、そうでした。不合格の通知を見て思いきり叫んでしまったのでしたわ。
 不安そうに私を見てくる妹を見て、私は決意をします。すべてを話そうと。

「ルーチェ、お話があります。お父様とお母様のところに参りましょう。イリス、お父様とお母様にお伝えして」

「畏まりました、レイチェルお嬢様」

 私は侍女であるイリスに伝言を頼むと、ルーチェと一緒に両親のところに向かうことにします。
 学園の入学試験に落ちた以上、私がこの家を追い出されるのは確実でしょう。
 となれば、前世からの夢、それを叶えたいと思います。
 両親に直談判をして認められるとは思いませんが、ダメで元々です。
 私はぐっと拳を握りしめると、ルーチェと一緒に部屋を出たのです。

 目の前には両親が揃っています。
 この状況で対面すると、普段は優しい両親がとても怖くてたまりません。
 さて、この結果をどう切り出したものでしょうか。

「レイチェル、話とはこれのことかな?」

「へ?」

 私がどうしようかと迷っていると、お父様の方から切り出してきました。
 その手には私が持っているものと同じ通知書が。
 そうでした。本人と親に宛てて、二通送られてくるんでしたわ。どちらかが処分しても必ず伝わるようにという、学園側の要らない配慮ですわ。

「まさか、長い公爵家の歴史始まって以来の汚点、酷く驚きましたわ」

 お母様も厳しい顔をしています。
 あちゃー、言う前に全部バレていましたわよ。

「お姉様。まさか学園の入学試験に、落ちられたのですか?」

 ルーチェにまで心細い顔をされてしまっている。
 うう、これでは姉失格ですね。こんな可愛い妹にこんな顔をさせてしまうなんて。

「はい、その通りでございます。大変申し訳ございません」

 こうなったら誠心誠意謝っておきましょう。
 公爵家の歴史に汚点を残したのですから、きっとこのまま公爵家を追い出されるはずです。そうなったら田舎で細々と暮らしましょう。
 怒鳴られる覚悟を決めて、私はぐっと力を込めてまっすぐ前を見る。

「そうか。お前には長女としていろいろと背負わせてしまったようだな。試験に落ちてしまう程につらかったとは、私は親として失格だな」

「ええ、淑女教育も厳しくし過ぎてしまいましたかね」

 はれ?
 なんだか両親の様子がおかしいですね。

「それほどまでに嫌だったのなら、早く言ってくれればよかったのにな。そうなれば、そもそも受験させないという選択肢も取れたものを……」

 え、ええ……。
 お父様たち、本気で仰っているのかしら。

「あ、あの。私、家を追い出されるんじゃないんですか?」

「何をいう。可愛い娘を無慈悲に放り出す親だと思ったのかい?」

 予想外にも両親は私を追い出すつもりがないらしいです。

「でも、さすがにこの結果にはショックを受けているでしょうから、公爵領に住まわせてはどうかしら」

「うむ、そうだな。ルーチェには寂しい思いをさせるかもしれないが、まさかの事態に傷心になったとでも言えばごまかせる。うむ、そうしよう」

 私を置いてきぼりにしながら、両親の間で話が進んでいきます。
 どうやら、王都から少し離れた自然豊かなウィルソン公爵領に私を向かわせるみたいですね。
 うん? 待って下さい。
 自然が豊かということは、私の前世の夢を叶えられるのではないでしょうか。
 これはチャンスと、私は心の中でガッツポーズをします。

「お父様、お母様、療養の件、お受け致します」

「おお、そうか。ならばさっそく荷造りを始めよう。おい、向こうの管理を任せている弟に連絡を取ってくれ」

「畏まりました、公爵様」

 お父様の指示を受けた使用人が、慌ただしく部屋を出ていきます。
 
「お姉様……」

「心配要らないですよ、ルーチェ。離れ離れになっても私はあなたのことを思っていますからね。私の代わりを押し付けることになってごめんなさいね」

「いいえ、お姉様。私は頑張ります。ですので、お姉様は田舎暮らしの夢でも叶えて下さい」

「はへ?」

 ルーチェから飛び出した言葉に、私は間抜けな顔をさらしてしまいましたわ。

「お姉様とご一緒に眠らせて頂いた時に、寝言を聞きました。だから、私はこの結果がかえって良かったと思っています」

「もう、ルーチェってば」

 思わずルーチェを抱きしめてしまいました。

 この日、私はその住処を王都にある公爵邸から、ウィルソン公爵領へと引っ越すことになったのです。
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