ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊

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第9話 ノームの祝福

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 全部で五体のノームと契約した私は、早速畑の作業を始めます。
 とはいえ、前世で憧れていたとはいえ、初めて行う農作業。小屋にしまってある農機具を見てみても、どれをどのように使っていいのかまったく分かりませんね。
 誰ですか、農園をやってみたいといっていたおバカさんは。

 ……はい、私です。

 ここはおとなしく、イリスとギルバートに聞きましょう。
 そこで教えてくれたのはギルバートでした。

「レチェ様、知らないくせによく農園をやりたいなんて言いましたね」

「……まったく、お恥ずかしい話です」

 ギルバートの指摘に、私は何も言い返せませんでした。
 ひとまず私は、くわを持って畑を掘り返します。地面を掘り返すことで、土の硬さを程よい柔らかさにしていきます。
 周りを見てみると、ノームたちは地面に潜って土を掘り返しています。さすがはもぐらといったところでしょうか。

『程よく耕した。次は種をまく』

 ひょこひょこと私のところに駆け寄ってきたノームは、私に種を渡すようにせがんできます。

「どの種をお渡しすればいいのかしら」

『全部、あるだけ。僕らに任せる』

 ノームが種をすべて欲しいといいますので、種類ごとに種を渡します。
 ちょうど商業ギルドで購入してきた種が五種類ですので、問題なく一体一体に一種類ずつ行き渡りました。
 主食である小麦、おかずとなる豆、彩を添える葉物と根菜、あとはお茶ですね。
 お茶は買ってもいいのですけれど、農園を営むのであるなら、できる限り自前で揃えたいのですよ。
 種を受け取ったノームが、一体ずつ畑一面ずつに散っていきます。
 見た目はもぐらであるのに、二足歩行で走っていく姿は、シュールで可愛らしいですね。
 ノームたちは袋から魔法で一斉に種を取り出すと、地面へと埋めていっています。
 種まきを終えたノームは、じっと私の方を見てきます。

『水、適度な水頂戴』

 またずいぶんと曖昧な指示ですね。
 とりあえずどのくらいか分かりませんから、前世のイメージから適切な量を思い浮かべます。
 そして、それを実現するべく、私は両手を目の前に差し出します。

「ア・ズミ・レイン」

 水属性の一番弱い魔法を発動させて、畑に雨を降らせました。
 どうやら適切な水の量だったらしく、ノームたちの表情は一様に満足そうでした。

「それじゃ、俺は肉でも取ってきますよ」

 畑仕事が一段落すると、ギルバートがそんなことを言い出します。

「あら、まだ持ってきた食料は十分ではないのですか?」

「いや、レチェ様がノームと契約されたことで、仕事がなくなったものですからね。体を動かしていないと気が済まないんですよ」

「あっ、そうなのですね。では、気を付けて行ってらっしゃいませ」

「はい。夕方には戻ります」

 ギルバートはそんなことを言いながら、小屋から出ていってしまいました。
 私たちの護衛をされるとはいっても、元々血の気の多い方ですからね。戦いたくて仕方がないのでしょう。
 私やイリスはそのように解釈しておきました。

『主、種まきが終わった』

「あら、お疲れ様ですね。休んでいただいて結構ですわよ」

『わあい』

 ノームは喜ぶと、そのまま地面の中に植わってしまいました。
 まるでもぐらたたきのようなあまりにもシュールな光景に、私はつい笑ってしまいます。

「レチェ様、どうなされたのですか?」

「いえ、目の前でノームたちが地面に埋まってしまったので、どうしたものかと思いまして……」

「目の前に? 私にはさっぱり見えないのですが」

 どうやらイリスたちにはノームの姿は見えないようですね。
 さて、この光景をどう告げたらよいのでしょうか……。自分にしか見えないというのは、実に面倒ですね。
 ですが、ノームたちのおかげで、畑仕事が思った以上に早く終わってしまいました。慣れない環境で疲れやすい現状ですからね、ノームたちの登場は本当に心強いものです。
 私たちは小屋に戻ると、狩りに行きたいといって出かけていったギルバートが戻ってくるのをゆっくりと待つことにしました。

 日が傾き始めた頃、ようやくギルバートが戻ってきます。

「レチェ様、ただいま戻りました」

「お帰りなさい、ギルバート。成果はどうでしたか?」

「はい、この通りでございます」

 ギルバートに案内されて外へと案内された私たちは、その成果に驚かされます。

「また、ずいぶんと狩りましたね」

「レチェ様のためを思い、頑張らせて頂きました」

 ギルバートはとても誇らしげに笑っています。

「気持ちはよく分かりますが、狩りすぎはよくありません。保存がよくありませんと、腐ってしまって意味がありませんし、魔物も数を減らしてしまって絶滅してしまうかもしれません。これだけあれば十日はもつでしょうから、その間の狩りは禁止します」

「これは失念しておりました。心にしっかりと留めておきます」

 ギルバートは反省しているようでした。
 しかし、これだけの魔物、一体どうしたものでしょうか。

『主、お困り?』

 そこへ、ひょっこりとノームが顔を出します。さっきまで植わっていたと思ったのですが、騒がしくて出てきてしまったようです。

「ええ、ギルバートが魔物を狩りすぎてしまいましてね。このままでは傷んでしまって食べられないでしょうし、どうにか保存できないかと思いまして」

『それなら、僕たちに任せるー』

 ノームがぴょんと飛び跳ねると、地面からなにやら箱のようなものがせり出してきました。なんですかね、これは。

『地精霊の祝福っていって、この中に入れておけば、いろんなものの状態を維持することができるよ』

「なんですって? ということは、物が腐らないということなのでしょうか」

『正解~』

 なんていうことなんでしょうか。俗にいうアイテムボックスのようなものがこの世界にも存在しているなんて。
 いや、ご都合主義にもほどがあるというものではありませんかね?
 ですが、これでギルバートの努力を無駄にせずに済みそうです。なので、ありがたく使わせて頂きましょう。
 必要な分以外をノームの出してくれた箱にしまい込んで、食べたいと思ったものを持ってイリスとギルバートを見ます。

「どうやらノームのおかげで食べ物の心配はなさそうです。今日はこれを捌いていただきましょう」

「承知致しました。それでは、早速解体致します」

 ギルバートは小屋の中へと入って、狩ってきた魔物の解体を始めます。

 いろいろとあった新生活二日目でしたけれど、驚きと同時に安心も手に入って、とても幸先がよいようです。
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