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第17話 王女様は居候
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それからというもの、十日くらい経った日のことです。
「お手紙ですか?」
「はい、公爵様からですね。リキシル様へ行った報告が、早馬で王都まで伝わったようです。往復を考えますと、めいっぱい飛ばしたのでしょう」
確かにそうです。
公爵領のお屋敷から王都まで片道が八日間かかります。私のいるところから公爵邸までもかなり距離がありますし……。
その距離を往復十日ちょっとです。これは、伝令に走ってくれた人馬に労いをしなければなりませんね。
「ギルバート、私たちの食事用のお野菜を詰めて、伝令の方と馬に渡して下さらないかしら」
「よろしいのですか、レチェ様」
「アマリス様のことで必死になって下さったのです。そのくらいの労いはあってもよろしいと思います」
「承知致しました」
私の提案に驚いていたギルバートですけれど、結局は渋々ながらも指示に従って下さいました。
ノームがいるのです。私たちの食事分くらいはすぐにまた生産できますよ。そう思いながら、私は笑顔で見送りました。
さて、お手紙を読みませんとね。
短時間で認められるとは、よほど心配になっていますのね、国王陛下は。可愛い娘さんですもの、当たり前ですかしらね。思い出してみれば、目に入れても痛くないと仰られていたの様子が印象的でしたね。
私は手紙を開封しながら、つい昔のことを思い出して笑ってしまいました。
それで、国王陛下からのお手紙にはこのように書いてありました。
『わがままな娘ですまない。半年間経ったら、入学試験のために迎えに行くので、それまでは気の済むように過ごさせてやってくれ』
あらあら、私に丸投げされてしまいましたね。
私にべったりでしたから、引き離すことを諦められたようです。
私は手紙を読みながら、外へと目を向けます。
アマリス様は今日もノームとお戯れのようです。精霊が見えるというのも困ったものですね。
「イリス、使いの方はまだいらっしゃいますよね?」
「はい、お返事をいただくまで戻れないと仰って、まだ外で待機されていらっしゃいます。王女殿下の様子を見て、すごく複雑な顔をなさっていらっしゃいました」
イリスの答えを聞いて、私はすぐさまおじさまへのお手紙を認めることにしました。
このままでは使いの方の気持ちがもちませんでしょうからね。
「イリス、これを使いの方にお渡し下さい」
「承知致しました」
私から手紙を受け取って、イリスはすぐに外へと向かっていきました。
手紙を読み終えて了承の返事を書きましたから、ここでは私が責任を持ってアマリス様の面倒を見ませんと。
本当なら自由に農業を楽しむつもりでしたのに、最初からややこしいことになりましたね。
ですが、引き受けたからにはちゃんと責任を果たしませんと。
私は畑の世話をするために小屋を出ていきました。
「アマリス様、ノームたちを放して下さいませんでしょうか。畑を耕せませんよ?」
すっかり庶民の服になじんだアマリス様に声をかけます。
私に声をかけられて驚いたのか、アマリス様は思わずノームをその手から落としてしまいました。
「あっ!」
『平気だよ』
地面に落としてしまうと思われたようですが、ノームは器用に宙返りをして着地を決めていました。これは満点ですね。
『僕たちは精霊なんだ。普通のもぐらと同じにしないでくれよ』
なんともかっこいいことを言っていますね。
『さて、今日は二人で畑の手入れをしてみようか。素手じゃ危ないから、手袋を着けておくれ』
「そうですね。確か倉庫にあったと思いますので、取ってまいりますね」
ノームに言われて、私は倉庫へと向かいます。中にはいろいろと農作業のための道具がありますが、手袋は……。あっ、ありました。
前世で見た軍手によく似た感じの手袋です。手編みでこの縫製技術ですから、職人の方々はなかなかに器用ですよね。
感想はそのくらいにしておいて、私はアマリス様の分と合わせて、二双の手袋を持って畑へ戻っていきます。
『よし、始めようか。邪魔な草が多いと、植物の生育の妨げになるからね。抜いた草は畑の脇に積んでおくんだよ』
「承知しました。それではアマリス様、始めましょうか」
「はい、お姉様」
アマリス様は元気に返事をされます。
きれいな髪と顔立ち、そして凝った髪型はいい家のお嬢様だということを思わせるものでしょうが、まさか王女殿下が畑仕事をしているなんて誰が思うでしょうね。
かくいう私も公爵令嬢なんですけれどね。
ですけれど、アマリス様は実にてきぱきとノームに教えられた雑草を引き抜いていらっしゃいます。本当に教わったことはすぐに覚えてしまいますね。
これでしたら、直前に勉強を詰め込んだとしても、入学試験には無事合格してしまうでしょうね。
結局、アマリス様は連れ戻されることなく、半年間の期限で私と一緒に過ごされることになりました。
アマリス様にも精霊が好むような魔力があるらしいですし、その間に精霊とうっかり契約してしまう可能性もあるでしょう。
何が起こるか分かりませんから、なんとしてもここは私がアマリス様をお守りしませんとね。
元気いっぱいに雑草を摘み取るアマリス様を眺めながら、私は決意を固めたのでした。
「お手紙ですか?」
「はい、公爵様からですね。リキシル様へ行った報告が、早馬で王都まで伝わったようです。往復を考えますと、めいっぱい飛ばしたのでしょう」
確かにそうです。
公爵領のお屋敷から王都まで片道が八日間かかります。私のいるところから公爵邸までもかなり距離がありますし……。
その距離を往復十日ちょっとです。これは、伝令に走ってくれた人馬に労いをしなければなりませんね。
「ギルバート、私たちの食事用のお野菜を詰めて、伝令の方と馬に渡して下さらないかしら」
「よろしいのですか、レチェ様」
「アマリス様のことで必死になって下さったのです。そのくらいの労いはあってもよろしいと思います」
「承知致しました」
私の提案に驚いていたギルバートですけれど、結局は渋々ながらも指示に従って下さいました。
ノームがいるのです。私たちの食事分くらいはすぐにまた生産できますよ。そう思いながら、私は笑顔で見送りました。
さて、お手紙を読みませんとね。
短時間で認められるとは、よほど心配になっていますのね、国王陛下は。可愛い娘さんですもの、当たり前ですかしらね。思い出してみれば、目に入れても痛くないと仰られていたの様子が印象的でしたね。
私は手紙を開封しながら、つい昔のことを思い出して笑ってしまいました。
それで、国王陛下からのお手紙にはこのように書いてありました。
『わがままな娘ですまない。半年間経ったら、入学試験のために迎えに行くので、それまでは気の済むように過ごさせてやってくれ』
あらあら、私に丸投げされてしまいましたね。
私にべったりでしたから、引き離すことを諦められたようです。
私は手紙を読みながら、外へと目を向けます。
アマリス様は今日もノームとお戯れのようです。精霊が見えるというのも困ったものですね。
「イリス、使いの方はまだいらっしゃいますよね?」
「はい、お返事をいただくまで戻れないと仰って、まだ外で待機されていらっしゃいます。王女殿下の様子を見て、すごく複雑な顔をなさっていらっしゃいました」
イリスの答えを聞いて、私はすぐさまおじさまへのお手紙を認めることにしました。
このままでは使いの方の気持ちがもちませんでしょうからね。
「イリス、これを使いの方にお渡し下さい」
「承知致しました」
私から手紙を受け取って、イリスはすぐに外へと向かっていきました。
手紙を読み終えて了承の返事を書きましたから、ここでは私が責任を持ってアマリス様の面倒を見ませんと。
本当なら自由に農業を楽しむつもりでしたのに、最初からややこしいことになりましたね。
ですが、引き受けたからにはちゃんと責任を果たしませんと。
私は畑の世話をするために小屋を出ていきました。
「アマリス様、ノームたちを放して下さいませんでしょうか。畑を耕せませんよ?」
すっかり庶民の服になじんだアマリス様に声をかけます。
私に声をかけられて驚いたのか、アマリス様は思わずノームをその手から落としてしまいました。
「あっ!」
『平気だよ』
地面に落としてしまうと思われたようですが、ノームは器用に宙返りをして着地を決めていました。これは満点ですね。
『僕たちは精霊なんだ。普通のもぐらと同じにしないでくれよ』
なんともかっこいいことを言っていますね。
『さて、今日は二人で畑の手入れをしてみようか。素手じゃ危ないから、手袋を着けておくれ』
「そうですね。確か倉庫にあったと思いますので、取ってまいりますね」
ノームに言われて、私は倉庫へと向かいます。中にはいろいろと農作業のための道具がありますが、手袋は……。あっ、ありました。
前世で見た軍手によく似た感じの手袋です。手編みでこの縫製技術ですから、職人の方々はなかなかに器用ですよね。
感想はそのくらいにしておいて、私はアマリス様の分と合わせて、二双の手袋を持って畑へ戻っていきます。
『よし、始めようか。邪魔な草が多いと、植物の生育の妨げになるからね。抜いた草は畑の脇に積んでおくんだよ』
「承知しました。それではアマリス様、始めましょうか」
「はい、お姉様」
アマリス様は元気に返事をされます。
きれいな髪と顔立ち、そして凝った髪型はいい家のお嬢様だということを思わせるものでしょうが、まさか王女殿下が畑仕事をしているなんて誰が思うでしょうね。
かくいう私も公爵令嬢なんですけれどね。
ですけれど、アマリス様は実にてきぱきとノームに教えられた雑草を引き抜いていらっしゃいます。本当に教わったことはすぐに覚えてしまいますね。
これでしたら、直前に勉強を詰め込んだとしても、入学試験には無事合格してしまうでしょうね。
結局、アマリス様は連れ戻されることなく、半年間の期限で私と一緒に過ごされることになりました。
アマリス様にも精霊が好むような魔力があるらしいですし、その間に精霊とうっかり契約してしまう可能性もあるでしょう。
何が起こるか分かりませんから、なんとしてもここは私がアマリス様をお守りしませんとね。
元気いっぱいに雑草を摘み取るアマリス様を眺めながら、私は決意を固めたのでした。
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