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第23話 心配の雨
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ルーチェの一件はすぐに私の耳にも届きました。
まだ雨が降り続く中だというのに、ご苦労さまです。
「どうかなさったのですか、レチェ様」
イリスが私に声をかけてきます。
最初の頃は戸惑ったりもしていたのですが、すっかりレチェ呼びに慣れていますね。
さて、私に声をかけた理由ですが、私がため息をついていたからです。
理由としては、お父様から届いた手紙です。
「公爵様からのお手紙ですか、それは」
「はい。殿下の婚約者について、いろいろとごたごたが起きているようです」
私はイリスに手紙を読ませようとします。
ところが、そこへアマリス様がやって来て割り込んできました。
「はいはい、お邪魔しますわよ」
私の手に握られていた手紙を奪い取って、自身の目を通しています。
一体どうしたというのでしょうか。らしからぬ粗暴な行動ですよ。
「はあ、私自身もわがままだとは思っていますが、お兄様も大概ですわね」
手紙を読み終えたアマリス様は呆れた表情を見せています。
「な、何が書いてあったのでしょうか」
イリスはもちろんのこと、アマリス様を追いかけていらしたハンナも気になっているようですね。
「お兄様なんですけれど、レイチェルお姉様がいなくなられてからというもの、わがままで周囲を引っ掻き回しているみたいですわ。学園では普通に振る舞っているようですけれど」
「まあ、王子殿下がですか?!」
殿下のことをよく知るハンナが驚いています。
もちろん私もです。
アンドリュー殿下とは、幼い頃からの付き合いですが、癇癪を起こされるような方ではございませんでした。
それは実直で、次期国王としてふさわしい方だと感じておりました。
「まったく、お姉様のことを本気で愛してらしたようですわね。それゆえに、ずいぶんと苛立ちを見せているようですわ」
「ええ、私のせいなのですか?!」
アマリス様の言葉に、私は本気で驚いてしまいました。
王家と公爵家の間で結ばれた政略的なものだと思っていましたが、殿下ってばそんなに本気でしたの?!
「お姉様はいろいろと鈍くて困りますね。……それで、手紙を持ってらした方はどちらに?」
「もう、公爵領のお屋敷に向かわれたかと。私に手紙を渡してそのまま走っていかれましたから」
「う~ん、この雨の中追いかけるのはよろしくないですね……」
悩んでいらしたアマリス様は、何かを思いついてギルバートを呼ぶように伝えてきます。
私はイリスに頼んで、ギルバートを連れてきてもらうことにしました。
どうせ、今日も雨が降っていますから何もできませんしね。今は部屋で鍛錬中のはずです。
しばらくすると、ギルバートがイリスに耳をつかまれて戻ってきました。
「いたたたた、引っ張るんじゃねえよ」
「筋トレだか知りませんが、レチェ様がお呼びなのです。すぐにやって来るのが護衛というものではありませんか」
「そ、そうだがよ。部屋に入るなり、いきなり耳を引っ張るのはどうかと思う、いててててっ!」
まったく、何をしてるんですかね。私は呆れて言葉も出ませんでした。
とはいえ、いつまでも呆然としているわけには参りませんね。
「ギルバート、今はとにかくアマリス様のお話を聞いて下さい」
「へっ? わ……承知致しました」
何がなんだか分からないといった顔をしていますが、今はそれどころじゃありません。
ひとまず、アマリス様の考えを聞くことにします。
「私がお兄様を説得しに行きます。公爵家も丸く収めようとして、婚約者をお姉様から妹であるルーチェ様に変更なさるようですからね」
アマリス様が事情を説明している。
私は家を出てくる際に、ルーチェに家のことを頼むようには伝えてきました、まさかこのような動きになるとは思いませんでしたね。
しかし、おそらく殿下は首を縦に振らないだろう。それを心配して、アマリス様も一時的に城へと向かうことにしたようです。
ちなみにですが、私も王妃にするなら私よりもルーチェの方がいいと思っています。
魔力量以外の能力はルーチェの方が上ですし、気遣いもできるいい子です。
それでも婚約者が私になったのは、私が長女だからです。
今回、私の至らなさでこのような事態になってしまいましたが、起こるべくして起こったと思います。
アマリス様がギルバートに説明をしている間、私はイリスに頼んで紙とペンを用意してもらいます。私も何かお手伝いした方がいいと思いましたから。
「アクエリアス、あなたも来てくれますか?」
『もちろんよ。主に何かあっちゃ困るもの』
どうやら、アマリス様は水の精霊アクエリアスも連れていくようですね。
「よし、書けました」
話がまとまりそうになった頃、私も託す手紙が書き終わりました。
アマリス様にそっと手渡します。
「お姉様……」
「原因としてなにもしないわけにはいきませんからね。これで話が少しでもうまくまとまればと存じます」
「……分かりました。お兄様にお渡しすれば?」
「はい、よろしくお願いします」
アマリス様が改めて確認してきますので、私は首を縦に振っておきます。
準備が整うと、アマリス様はギルバートとアクエリアスを伴って小屋を飛び出していきました。
道中は雨が降りしきるぬかるんだ道です。
二人が馬にまたがって走り去っていく様子を、私は心配そうに見送ったのでした。
まだ雨が降り続く中だというのに、ご苦労さまです。
「どうかなさったのですか、レチェ様」
イリスが私に声をかけてきます。
最初の頃は戸惑ったりもしていたのですが、すっかりレチェ呼びに慣れていますね。
さて、私に声をかけた理由ですが、私がため息をついていたからです。
理由としては、お父様から届いた手紙です。
「公爵様からのお手紙ですか、それは」
「はい。殿下の婚約者について、いろいろとごたごたが起きているようです」
私はイリスに手紙を読ませようとします。
ところが、そこへアマリス様がやって来て割り込んできました。
「はいはい、お邪魔しますわよ」
私の手に握られていた手紙を奪い取って、自身の目を通しています。
一体どうしたというのでしょうか。らしからぬ粗暴な行動ですよ。
「はあ、私自身もわがままだとは思っていますが、お兄様も大概ですわね」
手紙を読み終えたアマリス様は呆れた表情を見せています。
「な、何が書いてあったのでしょうか」
イリスはもちろんのこと、アマリス様を追いかけていらしたハンナも気になっているようですね。
「お兄様なんですけれど、レイチェルお姉様がいなくなられてからというもの、わがままで周囲を引っ掻き回しているみたいですわ。学園では普通に振る舞っているようですけれど」
「まあ、王子殿下がですか?!」
殿下のことをよく知るハンナが驚いています。
もちろん私もです。
アンドリュー殿下とは、幼い頃からの付き合いですが、癇癪を起こされるような方ではございませんでした。
それは実直で、次期国王としてふさわしい方だと感じておりました。
「まったく、お姉様のことを本気で愛してらしたようですわね。それゆえに、ずいぶんと苛立ちを見せているようですわ」
「ええ、私のせいなのですか?!」
アマリス様の言葉に、私は本気で驚いてしまいました。
王家と公爵家の間で結ばれた政略的なものだと思っていましたが、殿下ってばそんなに本気でしたの?!
「お姉様はいろいろと鈍くて困りますね。……それで、手紙を持ってらした方はどちらに?」
「もう、公爵領のお屋敷に向かわれたかと。私に手紙を渡してそのまま走っていかれましたから」
「う~ん、この雨の中追いかけるのはよろしくないですね……」
悩んでいらしたアマリス様は、何かを思いついてギルバートを呼ぶように伝えてきます。
私はイリスに頼んで、ギルバートを連れてきてもらうことにしました。
どうせ、今日も雨が降っていますから何もできませんしね。今は部屋で鍛錬中のはずです。
しばらくすると、ギルバートがイリスに耳をつかまれて戻ってきました。
「いたたたた、引っ張るんじゃねえよ」
「筋トレだか知りませんが、レチェ様がお呼びなのです。すぐにやって来るのが護衛というものではありませんか」
「そ、そうだがよ。部屋に入るなり、いきなり耳を引っ張るのはどうかと思う、いててててっ!」
まったく、何をしてるんですかね。私は呆れて言葉も出ませんでした。
とはいえ、いつまでも呆然としているわけには参りませんね。
「ギルバート、今はとにかくアマリス様のお話を聞いて下さい」
「へっ? わ……承知致しました」
何がなんだか分からないといった顔をしていますが、今はそれどころじゃありません。
ひとまず、アマリス様の考えを聞くことにします。
「私がお兄様を説得しに行きます。公爵家も丸く収めようとして、婚約者をお姉様から妹であるルーチェ様に変更なさるようですからね」
アマリス様が事情を説明している。
私は家を出てくる際に、ルーチェに家のことを頼むようには伝えてきました、まさかこのような動きになるとは思いませんでしたね。
しかし、おそらく殿下は首を縦に振らないだろう。それを心配して、アマリス様も一時的に城へと向かうことにしたようです。
ちなみにですが、私も王妃にするなら私よりもルーチェの方がいいと思っています。
魔力量以外の能力はルーチェの方が上ですし、気遣いもできるいい子です。
それでも婚約者が私になったのは、私が長女だからです。
今回、私の至らなさでこのような事態になってしまいましたが、起こるべくして起こったと思います。
アマリス様がギルバートに説明をしている間、私はイリスに頼んで紙とペンを用意してもらいます。私も何かお手伝いした方がいいと思いましたから。
「アクエリアス、あなたも来てくれますか?」
『もちろんよ。主に何かあっちゃ困るもの』
どうやら、アマリス様は水の精霊アクエリアスも連れていくようですね。
「よし、書けました」
話がまとまりそうになった頃、私も託す手紙が書き終わりました。
アマリス様にそっと手渡します。
「お姉様……」
「原因としてなにもしないわけにはいきませんからね。これで話が少しでもうまくまとまればと存じます」
「……分かりました。お兄様にお渡しすれば?」
「はい、よろしくお願いします」
アマリス様が改めて確認してきますので、私は首を縦に振っておきます。
準備が整うと、アマリス様はギルバートとアクエリアスを伴って小屋を飛び出していきました。
道中は雨が降りしきるぬかるんだ道です。
二人が馬にまたがって走り去っていく様子を、私は心配そうに見送ったのでした。
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